鬼畜魔王ランス伝


   第133話 「それぞれの進路」

 ラング・バウ城の一角にあるゲストルームに備え付けられた広めのベッドの上で、2人の男女がまったりと横になっていた。
「ねえ兄ぃ。兄ぃはどうしてリーザスを出てったの?」
 一糸纏わぬあられもない姿のまま男の二の腕に頭を乗せている女が、問う。
 問われた男……ランスは、女……ソウルの質問に直ぐさま答える。
「俺様が魔王になったからだ。あのまま王座に居座っても反乱が起こりそうだったし、それなら出て行ってから力で取り戻した方が上手くいく。……事実そうなっただろ?」
 出奔した当時ならともかく、今ならば充分な説得力がある答えを。
 だが、ソウルの質問には続きがあった。
「でも、それならどうして……」
 どうして自分は連れていってくれなかったのか。
 その言葉は口から出なかったが、ランスにはソウルの表情から解った。
 しかし、リーザス側の戦力を余り引き抜くのもどうかと思ったと言う当時の考えを正直に告げても上手く納得して貰えるとは思えない。
「(さて、どう言おうか……そうだ! こう言おう。)あの時、お前を連れてったらお前の部下どもはどうなった? 全員何かしらの理由でブタ箱行きだったと思うぞ。」
 ランスは口を噤んで若干考え、割りと直ぐに思い付いた答えを口にする。
「あ!?」
 ソウルの部下は正規兵ではなく、元々盗賊だった連中をソウルが集めて来たのである。
 つまり当局が目こぼしをする必要が無くなる何かしらのキッカケがあれば、ほとんど全員が牢屋行きになってしまう危険があったのだ。
 しかしソウルが居残り組に回った事で、リアやマリスも後でランスの怒りを買う危険を冒してまで強硬な処置を取らなかったのだろう。
「もっとも俺様はリーザスがお前を放り出すのまでは読めてなかったがな。俺様の私兵に近い部隊だから、中から引っ掻き回されるのを警戒したのかもな。」
 ソウルはリーザスという国家の臣下ではなく、ランス個人の配下である。
 他にもソウルと同様の立場の配下はいたのだが、魔軍と戦うべき理由を持たないと判断された者はソウルと同じように解雇されていた。
 ここで詳しく同時期に解雇された連中の名前を列挙するような事はしないが。
「兄ぃの私兵? ……うん、確かにそうだね。」
 と、そこでランスはようやく気が付いた。
「そういや、お前と一緒に放り出された連中って今どうしてる?」
 ソウルが解雇された以上、彼女の部下がリーザス軍に残っているとは考え難い事を。
「結構バラバラになったけど、半分くらいは兄貴のとこにいるよ。」
 回答は、案の定と言うか予想しておいて然るべき範疇内の内容だった。
 とは言え、聞いておいた方が良さそうな単語も混じっている。
「……兄貴……ああ、バウンドの事か。バウンドの方は元気でやってるか?」
 ソウルの兄貴、ソウルと同じく盗賊時代のランスの部下、バウンド・レスの消息を。
「元気は元気だけど、最近取り締まりがきつくて本業が上がったりだってボヤいてる。」
 ランスがリーザス軍を率いてボルゴZを陥落させたドサクサに紛れて脱出した後、以前のアジトに戻ったバウンドは、仲間と一緒に慎ましく山賊生活を送っていた。
 が、腐敗した政府のせいで末端まで目が届かなかったステッセル時代や予算と人材の不足で対応が何かと後手後手に回っていたパットン時代のヘルマン帝国とは違う、強力な中央政府と有能な地方行政組織、あまつさえ小回りの利く強力な軍隊を持つ魔王軍が周辺地域を制してしまい、本業の略奪行為を手控えなくてはならなくなっていたのだ。
 軍隊に目をつけられて、討伐されてしまう危険を排する為に。
「う〜む。幾ら俺様の馴染みだからって手心を加えるのも何だしなぁ……」
 かと言って、以前の部下だから盗賊を討伐しないなんて訳にもいかない。
 そんな事をすれば、勝手な理由をでっち上げて盗賊を目こぼしする輩が出るようになるかもしれないし、男の為にそこまでする気なんてランスには全く無い。
「がはははは、そうだ! ソウル、お前バウンドの野郎に俺様の部下になるよう言って来てくれ。俺様は当分ここから動けないからな。」
 正確には『動けない』と言うより『動く気が無い』なのだが。
「うん、良いけど……」
「バウンドの野郎は今どこにいる?」
「前のアジトのとこにいるけど……」
「がはははは。じゃあ、バウンドと合流したらゴーラクでもシベリアでも好きな方の街の役所に顔を出せ。話はしといてやるから。」
「うん、分かった。」
 無事に話が大方まとまった所で、ランスは改めて表情を引き締める。
「ところで、ソウル。」
 そして、ランスは問う。
「なに、ランス兄ぃ?」
「お前、俺様の使徒になる気はあるか?(……まあ、正確にはシィルの使徒なんだが、コイツは俺様のモノだから“俺様の使徒”でも間違いじゃないよな、うん。)」
 ランスにとって公私共に重要な意味を持つ存在に、人を止め魔王の眷属となってまでなる気があるかどうか、その覚悟の有無を。
「兄ぃの使徒!?」
 振って湧いた予想外の幸運に驚くソウルに、ランスは重ねて尋ねる。
「がはははは、そうだ。……嫌か?」
「でもでも……本当にあたしで良いの?」
「何言ってやがる。ソウルだから良いんじゃねえか。」
 ランスと再会する前には自信を喪失してたせいか戸惑いを隠せないソウルに、ランスは力強く保証する。
「あ…あたし、頑張るよランス兄ぃ!」
「がははははは、じゃあ早速もう一戦……と言いたいとこだが、さっき血を吸ったし使徒化の儀式は結構疲れるからな。やるのはバウンドを連れて来てからだな。」
「うん、分かった。」
 この翌日、使徒となったソウルは兄達が隠れ住む盗賊団のアジトへと出発した。
 今回のオーディションに参加した目的を完璧なまでに達成した、晴れやかな笑顔で。



 今回の魔王主催人材募集オーディションの第2次選考に先立って行なわれたメディカルチェックに引っ掛かって撥ねられた者達のうち、性別詐称者以外が集められた一角。
 伝染病にかかっていたり、厄介な持病を抱えていたり、重傷を負ってしまったりなどして審査の継続が難しくなった女性達に治療を施す為の場所。
 誰言うとも無く“隔離病棟”と呼ばれている部屋の一つから、けたたましい抗議の声が上がっていた。
「なんでソルニアちゃんが別枠扱いなの、プン!」
 その童顔の可愛い娘は、おっとりとした和装の女の子モンスターの襟首に今にも掴みかからんばかりの勢いで詰め寄る。
 だが、大きな行李を脇に置いたその女の子モンスターは慌てず騒がず理由を答える。
「それは、そなたが妊娠してると判明したからじゃ。」
「な、なんで!? 3日以内なら検査に引っ掛からないはず。」
 語るに落ちるとは、まさにこの事。
「医療技術も日々進歩するのじゃ。」
 こうしてランスの子供を産んだと偽ってハーレム内での発言力を高めようと企んだソルニアの浅知恵は、ランスが揃えさせた優秀な医療スタッフの力によって木っ端微塵に粉砕されてしまったのだった。



「がははは、さて次は誰を味見しようか。」
 ソウルに使徒化儀式を施し、後の面倒をちょうど巡回で通りかかった警邏隊に任せたランスは、オーディション会場と化したラング・バウ城の一角を我が物顔でのし歩く。
 陰鬱だが広さだけは立派な廊下を慣れない手付きで掃除してる新人メイドの群れ……いや、オーディション参加者をやらしい目で値踏みしながら。
「う〜ん、どの娘も美人だから迷うな。いっそ手当たり次第やっちまうかな?」
 思いつきを実行に移そうと口を開きかけたところで、ランスの聴覚は甲高い抗議の声を拾い上げた。
「なんで私がそんな事をしなきゃいけませんの!? 冗談じゃありませんわ!」
「あれは……誰だったっけ?」
 何処と無く聞き覚えがありそうな声に興味を覚えたランスは、目の前のごちそうを取り敢えず放り出して声のした方に行ってみる事にした。
「がはははは、どうした?」
 其処でランスが見たものは……
 キツイ視線でメイドさん…今回のオーディションでは魔王御側役志望の女の子達の指導教官の役目をしている女の子モンスター…を脅しているお嬢様風の美女の姿だった。
「ん、どっかで見覚えが……」
「え……」
 見詰め合うランスとウェーブのかかった茶色の長い髪を持つお嬢様。
「ほほう、これはこれは。」
「あーーー!」
 互いが相手の事に気付いたのは、ほぼ同時だった。
「がはははは、久しぶりだなアナセルちゃん。」
「あの時の盗賊! 何でこんなとこに……」
「そうか、そんなに俺様が恋しかったか。がはははは。」
「何であんたなんかを恋しがらなきゃならないのよ!」
「何故って、俺様が主催したオーディションに来たって事はそういう事じゃないのか?」
 全然噛み合わない会話に首を捻るランス。
「『俺様が主催』って……ここは魔王主催の美人コンテストの会場でしょう?」
 同じく戸惑うアナセル・カスポーラ。
「まあ、そうとも言えるが……」
 その認識の差は如何なる所からもたらされるのか。
「まさか……魔物どもを手引きした褒美に、魔王から美女を貰う約束でもしてるんじゃないでしょうね!? 薄汚い盗賊らしい所業だわ!」
 立て板に水で並べ立てられる罵倒のおかげで、ランスはようやく理解した。
「がははははは、相変わらず顔は良いが口と頭は悪いみたいだな。」
 何がどう誤解されているのかを。
「何ですって!?」
 思いっきり馬鹿にされて反射的にいきり立つアナセルだったが、馬鹿にされてしまうのも無理は無かった。
「魔王は俺様だ。……知らなかったのか?」
 ランスが魔王だと言う事は魔法ビジョンで大陸全土に放送されてるし、少しでも情報を集める気がある者ならば知ってて当然の事だったからだ。
「え? 嘘……」
 このオーディションに参加してる者ならば、尚の事。
「って事は、まさか……このオーディションが俺様の為に働いてくれる可愛い娘を選ぶ為のもんだってのも知らなかったってのか? お前って良いとこのお嬢さんに見えて、実は字も読めないとか?」
 募集要項をちゃんと読めば一目瞭然の事項を全く把握せずにやってくる娘が紛れ込んでいるとは流石のランスでも予想外であった。
 しかも飛び入りじゃなくて、れっきとした正式参加者で。
「字ぐらい読めますわよ!」
「まあ、それは今はどうでも良いとして。おい、これから『特別な審査』をするから、コイツを借りてくぞ。」
「はい、魔王様。御存分に。」
 アナセルの尻を手荒く揉みしだきつつ、試験官のメイドさんに断りを入れるランス。
「ちょ、やだ! 離しなさいよ!」
 甘やかな衝撃が下腹からじんわり広がってゆくアナセルの両足は、それを本気で嫌がる当人の意志に逆らってランスの手の導きに従順に歩を進めてしまうのだった。
 他の者の手でベッドメイクが済んだばかりの小奇麗な部屋の奥へと。

 アナセルの抵抗は口と心だけだった。
 彼女の肉体は彼女の意志にあっさり逆らい、彼女にとって最初の男から久々にもたらされる巧みな愛撫を嬉々として受け入れてしまっていた。
 ベッドに押し倒す時も、下着を剥ぎ取る時も、ハイパー兵器で突き刺した時も、罵詈雑言は並び立てるものの実力での抵抗そのものは申し訳程度。
「がははは、なかなか嫌がるフリが上手いじゃないか。」
 そんな形だけの抵抗にしか見えない抵抗でランスが止まるはずもない。
「フリなんかじゃないわ! いっ…いいかげんっ……離れ…くっ…なさいよっ!」
「なら、俺様のハイパー兵器を咥えて離さないコレは何だ?」
「それは、ああっ! やあっ!」
 卑猥な反論に抗議しようとしたアナセルの発言は、ランスが腰の動きを激しくした為に意味の無い音へと千々に途切れて霧散する。
 精神的には一方的な蹂躙、肉体的には親密極まりない睦み合いは、ランスがどっぷり気持ち良くアナセルの胎内へと俺様皇帝液を注入するまで続いたのであった。

 そんなこんなの熱戦が終了し、快感で少し朦朧としているアナセルにランスが訊ねる。
「で、何でモメてたんだ?」
「事もあろうに、この私に掃除なんて下女がやる事をさせようとしたからですわ。」
 事情が解った今でも呆れ返りそうになるほど馬鹿らしい返答に、ランスの口から思わず溜息が漏れる。
「……そんなに家事労働が嫌なのか? しかし、どう見ても戦闘向きじゃないしな。」
「当然ですわ。そんな野蛮なこと!」
 寧ろ胸を張って言い放つアナセルの姿に、ランスはいっそ清々しさすら覚えた。
 無論、錯覚だが。
「ふむ。じゃあ、俺様の女になってリーザス城に住まないか?」
「いやですわ。誰があんたなんかに。」
 即答で断ったアナセルを、ランスは寧ろ憐憫の視線で舐め回す。
「……可哀想に。」
「どこがですの!?」
「このままお前が帰っちまったら、この先の一生『魔王様のお眼鏡に適わなかった女』と影で指差されて笑われるようになるぞ。」
 アナセルの自尊心に致命傷を負わせかねない見方だが、実に有り得そうな未来像だ。
 常日頃から自分の美貌を鼻にかけて自慢している彼女が自発的にオーディションに参加したにも関らず、採用されずに実家へ戻ってしまったならば。
「な!?」
 驚きで二の句が告げない彼女に、更に畳みかけるランス。
「ああ、惜しい。この美貌でもうちょい素直さと可愛らしさがあれば、メルシィにも余裕で勝てただろうに。」
 かつて美少女コンテストで後塵を拝した縁で怨恨を溜め込んでる相手の名前が出されてアナセルから更に冷静さが失われる。
「俺様に可愛がられたいんだろ? 少なくともココはそう言ってるぞ。」
 淫戯の余韻に浸る秘裂にランスが指を2本挿してクリッと捻ると、白濁した粘つく液体が身体の奥からこんこんと湧き出して来る。
「俺様のモノになればイカせてやるし、たまには使ってやるぞ。」
「だ…誰がアンタなんかに!」
 快感で溶けてしまいそうな意識で、それでも拒絶の言葉を紡いだアナセル。
「そうか。」
 ランスは、その言葉に従って手を止める。
「え、何で止めるのよ!」
「止めろって言ったのはそっちだろうが。」
 揶揄するように言い放ち、太股の内側をやんわり触って淫熱が冷めないように、されど決して絶頂に達しないように刺激するランス。
「じゃあ、何で触ってるのよ。」
「がははは、俺様が触りたいからに決まってるだろ。」
「痛っ! あ……」
 あまつさえ首筋に噛みついて鮮血を吸い上げられ、身体の感度を数段アップさせられたアナセルの瞳から焦点が消える。
「がはははは! どうだ、俺様のエッチなオモチャになるか!?」
 更に数分ばかり極まる寸前で弄りまくってから放たれたランスの問い。
「いいわよ、どうでも! それよりイカせて!」
 既に絶頂の味を覚えさせられた年頃の健康な肉体の欲求に抵抗し切れず、遂に陥落してしまうお嬢様。
 ランス以外の男を知らない均整の取れた肢体は、こうして目先の欲望に敗北させられてランス所有の性玩具へと零落してしまったのだった。
 まだまだ屈服していない…あるいは外面的には屈服していないように見えるだけかもしれない…魂を宿したままで。
 その肉体と精神とのギャップこそが、自分自身をランスお気に入りの性玩具にしているのだと全く自覚せぬままに。


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 原作ではお馴染みですが、キチクマでは初登場な方々が並んでます。さてさて、次は誰を出そうかな。
 それより何より、今度は筆が進めば良いんだけど……

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