鬼畜魔王ランス伝

   第78話 「舞台裏の事情」

「ちっ、エレベーターが動かなくなってるとはな。面倒臭い。」
 ランスはカオスを探し出した後、エレベーターのある場所まで戻っていたが、そこにある地上直通のエレベーターが壊れて作動不能になっているのを見て閉口した。恐らくはランスと健太郎との戦いの影響であろう。
 こういう状況の時に頼りになる帰り木は、薬類を入れてあったポーチごと消え失せていた。どうやら、健太郎との戦いの最中にどこかに落としてしまったらしい。
 あまり芳しくない状況を再確認したところで、ランスは思わず呟いた。
「腹減ったな。」
 それもまた戦闘の影響であろう。ニアを“食べた”とはいえ、その後の探索で少々小腹が空いてきたらしい。……まあ、戦闘と食事に費やした運動量や放出したエネルギーの総量を考えれば無理も無いところかもしれない。
「がははははは。何だ、いいものがあったじゃないか!」
 そのランスが笑って見る先には……
 左手に持っていた一切れの肉片があった。
 その直後、ガングの残骸だった肉片は、魔血魂を残してランスの胃の腑に納まった。
「ん……意外と美味いな。ちっ、もう少し残しとくんだったな。」
 空腹という調味料のおかげもあってか、血の滴るドラゴンの生肉はそれなりに美味しかった。もっとも、ちゃんとした料理とは比べるべくも無いが。
「さて、何にしてもさっさと地上に出ないとな。美樹ちゃんもホーネットも日光さんも待ってるだろうし。」
 ぶつくさと文句を言っていると、ポケットの中に移動させたガングの魔血魂が、
「私が通って来た道であれば御案内できますが、魔王様。」
 と、言って来た。
「がははは。気が利くなガング。良し、褒美に復活させる方法を何か考えてやろう。」
 ガングの道案内によって、飛行魔法で高速に迷宮を脱出しながら機嫌良く口に出したランスの提案は、
「いえ、私は他の者の身体を奪ってまで復活したくはありません。」
 ガング自身によって一蹴されてしまった。ガングに適合する肉体といえば、やはりドラゴンとなるのだが、それを奪うのは良心が許さない。ドラゴンナイトやドラゴン女では元々の格が違い過ぎてかなり厳しい事が予想されるという事もある。
「がはははは。俺様は天才だから何とかしてやる。それとも、俺様が信用できないか?」
 魔想志津香などであれば即座に『信用できる訳ないでしょ!』と怒鳴るような台詞であったが、ガングは
「承知致しました。お任せします。」
 とだけ答え、その後は道案内に徹したのだった。


「……失敗したな。」
 苦々しいものが混じった独白を聞きとがめたソレが、
「え、何が? 面白かったじゃないか。」
 無邪気で無責任な感想を述べる。
「現魔王の消去に失敗した。強化した第7級神ではなく、もっと上位の神を送るか、大規模な介入を行うべきだったな(せっかく、アレと戦う時に合わせて戦争が起きるように人間の軍の指揮官の思考を誘導したというのにな)。」
 苦々しげに返す存在は、黄色い卵の両側に6本の長い突起物が伸びた姿をしていた。
 その卵型の胴体から申し訳程度にちょこんと生えた頭が、それと対面しているモノ…巨大なクジラの姿をしたモノ…に向けられる。
「そんなのは問題じゃないよ。ところで、魔王がアレを捕まえてどうするつもりだか分かる、プランナー?」
 黄色い物体は、3超神が一柱プランナーであった。今回は、最近使う機会が多かった天使を模した格好では無く、こういう形態で主が居る地下の大空洞に現れたのだ。
「いや、分からん。」
「そっか……。くすくす。プランナーにも分からないんだ。」
「直接介入の許可が得られるなら、すぐにでも探って来るが?」
「いや、いいよ。くすくす。ボクはねえ、あの魔王に寿命が来るまであのままでも別にいいんだ。」
「どういう事だ、ルドラサウム。」
「だって、その方が楽しそうなんだもん。あの魔王がいるおかげで、地上がどうなるか分からない混乱に陥っているんだよ。無理に直接介入する必要なんてないでしょ?」
「あの魔王は危険過ぎる。早急に手を打った方が良い。」
「え、何で? プランナーでも充分あしらえるレベルでしょ?」
「だが……」
「それに、思い上がって神にケンカを売ってきたとしても……それはそれで面白いじゃないか。そうは思わない、プランナー?」
 その返事に取り付く島がないのを嫌と言うほど悟らされ、プランナーは引き下がった。
『まあ、第一段階の作戦は失敗したが、ヤツはまだ罠にまでは気付いていないようだ。その結果を待つとしようか。』
 内心で、裏工作の状況を確認しながら、
「あ、でも、人間の王国が征服されたら戦争が起きなくなるな〜。どうしよっかな〜。」
 太平楽を並べる主…自らを創造した存在…の呟きを後にして、プランナーは地下空洞からそそくさと退出した。


 カミーラの城を壊滅させたゼス軍分遣隊は、夕暮れが近い事もあって野営の準備を整えた。幾ら楽な戦いだったとは言え、強行軍であった事には違いがないのだ。
 現時点で西部戦線へ即座に用意できる限りの戦力を電撃的に投入し、予想される魔物の攻撃を先んじて挫くというゼス側の作戦は、現在のところ成功しているように思える。
 しかし、それもこれも魔人が本格的に迎撃に出ていないがゆえの事であると気付いているのは上層部だけであった。


「がはははは。待たせたな美樹ちゃん、ホーネット、日光さん。」
 レックスの迷宮の出入り口から出て来たランスに待ち構えていた美樹が飛びついた。
「王様……良かった……無事で……。」
 ポロポロと涙をこぼす美樹に困り果てながら周りを見回すランスであったが、
「魔王様、お怪我はございませんか?」
「ご無事で何よりです、ランス殿。」
 と言いながら、寝せられていた毛布から身を起こしたホーネットや日光の姿を見ては助け舟を求めるのもためらわれる。片腕で支えるように抱いただけで泣き止むのをじっと待っていると、美樹がおずおずと尋ねてきた。
「あ、あの王様……健太郎君は……」
 素朴なまでの疑問に、
「ああ、アレなら捕まえて水晶に封印したぞ。」
 あっさりキッパリと答えるランス。
「え……」
「凄い……」
「さすが魔王、というべきなのでしょうか。」
 三者三様な感嘆を聞いて、
「がはははは。俺様にかかればあんなやつ、ちょろいちょろい。」
 胸を反らせて良い気分で笑うランスの姿に3人の目も丸くなった。
「それで、えっと……健太郎君はどこに封印されているんですか?」
「がはははは。健太郎を封印した水晶はフェリスに持たせてある。元の世界に送還する用意ができるまでは魔王城のどこかに保管しておく予定なんだが、美樹ちゃんがどうしても今見たいって言うならフェリスのヤツを呼んでも良いぞ。」
「いえ、いいんです。ありがとうございます王様。健太郎君を殺さないでいてくれて。」
 名残惜しげにランスと密着するほどの距離から離れ、ペコリと頭を下げる美樹。
『美樹ちゃんを元の世界に帰すのに必要ってだけだったんだがな。ま、美樹ちゃんが喜んでくれたならいいか。』
 内心そう思っているのは顔には出さず、
「がはははは。あんなヤツでも殺しちまったら美樹ちゃんが泣くからな。」
 何てほざいているのだから、確かに大物である。
「ただ、あいつが本当に美樹ちゃんの事を考えていてくれたのか良く考えた方が良いと思うぞ。状況から考えると、美樹ちゃんの説得もまるで効かなかったんだろ?」
「うん……」
 しょんぼりした声が応える。流石に結構堪えているらしい。
「と言う事は、あいつは美樹ちゃん本人じゃなくて、自分の中の美樹ちゃんのイメージ通りに動く人形を欲しがっていたんじゃないか?」
「え、そんな……」
 ある意味肯ける所もあるので、日光は口を挟むタイミングが掴めなかった。健太郎の事を良く知らないホーネットに至っては尚更である。
「あいつは自分と決定的に意見が違う美樹ちゃんを力尽くで否定しようとした。本当の美樹ちゃんは、こんなに心を痛めているのにな。」
 乾かない涙に新たな涙を加えて顔を大洪水にしてしまった美樹の耳にそっと吹き込むように囁く。
「俺様は美樹ちゃんが欲しい。美樹ちゃんが側にいてくれると嬉しいぞ。」
 ビクンと震えた美樹の反応に『ああ、口説かれたんだな。』と女の勘で悟った二人であったが、敢えてツッコミを入れるのは控える事にした。ここでランスにまで疑いを抱かせてしまっては美樹の心が壊れてしまうかもしれないし、ランスが本心から美樹を心配しているというのも口調や今までの態度などから分かっている。たとえ身体が目当てだとしても、身体だけが目当てではない事は良く知っているのだ。
 それに……
「がはははは。このままでいたいのも山々だが、そろそろホーネットと日光さんを医者に見せにいかないとな。」
 自分達の事も、本気で心配してくれているのも承知しているからだ。少々割り切れない気持ちも確かに感じてはいるのだが……。幸か不幸か、ある意味仕方が無い事情があるというのを分かってしまっていると言う事もある。
 ランスは、ホーネット達がここまで来るのに使ったチューリップ4号ヴィントの座席に3人を手ずから運び、そのまま魔王城へと向けて飛び立ったのだった。


 カイトの率いる8万ものモンスター軍を敗退させたゼス軍と闘神都市3基は、戦場となった骨の森で負傷者の救護と残敵掃討を行っていた。
 残敵掃討などともっともらしく銘打ってはいるものの、それは行動不能になるまで酷い手傷を負った敵に対する屠殺に他ならなかった。
 味方の重傷者…7000人ぐらい…の半分近くは、闘神都市が味方ごと撃った魔導砲によって何らかの負傷を受けていた。6000人程の兵士に至っては、その魔導砲の攻撃で止めを刺されてしまったぐらいだ。
 これでゼス側が負けていれば……
 闘神都市が空中に浮かんでさえいなければ……
 ガンジー王が闘神都市の指揮権を握っていれば……
 ただでは済まない状況であろうが、幸いにして戦闘には勝利している。
 ガンジーは簡単な手当てで本復できる軽傷者と無傷な兵を手元に残して、重傷者などの戦闘継続が困難な負傷者8200を闘神都市の一つに依頼して後送の手筈を整えると、残された戦力4200人の再編成を開始した。そのだいたいの内訳は、ガンジー直属の魔法戦士部隊が400人、魔法使い部隊1200人、魔法機部隊1500機、傭兵部隊1100人というところである。
 これだけでは戦力的に心もとないので、上空に残った2基の闘神都市から降下兵団の半数近い闘将1000体と魔法機2000機を派遣してもらった結果、ゼス本軍の地上部隊は戦闘能力をかなりの水準にまで回復した。
 しかし、航空戦力の補充の目処は立っていなかった。
 前回の戦いで3000体いた闘神都市防空用のエンジェルナイト隊は67体にまで討ち減らされてしまっていた。次も同規模な航空戦力を持ってこられては、とてもじゃないが支え切れないに違いない。だが、飛行モンスターは通常のモンスターに比べて数も種類も多くない。既に2万もの損害を出した敵の飛行モンスターに多数の予備部隊がいるとは考え難く、闘神都市に残った守備部隊で要所を固めれば大丈夫。
 ゼス側の方では、そう思われていた。


 フリークの駆る闘神都市Ω(オメガ)とマリアが指揮するチューリップ5号は、夕闇に紛れながらカイトの城(旧ケッセルリンクの城)へと到着した。
 また、魔王城に急行したアールコート、キサラ、メナド、クリームも転送機を使って闘神都市Ωへと到着している。
 カイトの城に残された守備兵は2万。そのうち5000を選び出してカイトを含む5人の部隊として夜のうちに再編成した。
 次なる戦いも出戦になる事は決まっている。
 闘神都市と戦う場合、拠点防衛を行うのは困難であるからだ。いくら対抗できる兵器があるとはいえ、強力な対地爆撃を行える闘神都市が相手では戦い難いのは間違い無い。
 それに、敵は問答無用の殲滅戦を行って来ており、迎撃場所が近くになるという事は、それだけ不毛の荒野に変えられる居住地が増えると云う事を意味する。
 とてもじゃないが容認できる事ではない。

 しかし、明け方近くなって、9割方整っていた出撃準備を変更せざるを得ない事態がカイトの城へとやってきたのであった。


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 ううう、難航するのが常態化してきているな〜。何とかしないと、話が終わらなくなってしまいそうだ(苦笑)。
 何はともあれ、78話です。現在、あと何話かかるかも分からない状態で話数だけが増えていくという嫌な状態ですが、それでも物語は何とか一歩一歩進んで行っています。
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