鬼畜魔王ランス伝

   第66話 「魔王様の夜」

 出席者がいなくなったせいで片付けにかかっていたパーティー会場に、
「がはははは、腹減ったぞ。何か食わせろ。」
 と言いつつやって来たランスは、残っていた料理の皿の幾つかと後片付けに携わっていた幾人かの少女、すずめ、シャリエラ、レベッカ、風華、照明係のパルッコ、作業中のメイドさん……を伴って自室へと消えていった。
 ……魔王ランス対魔人リックの仕合見物に集まった大群衆の中からほうほうのていで抜け出したリアが、ランスが既にパーティー会場から立ち去った事を聞いて地団駄踏んで悔しがったのは、その5分後の事であった。


 彼の願いが『天』に通じたのか、
 指先すら見えない大雪と疲労で遭難寸前に追い込まれていた健太郎は、晴れ上がって行く空を安堵の思いで見つめていた。
 これでようやく休める……と。
 実際にはランスとリックが仕合する際にフローズンたちが手を休めた結果である。が、しかし、健太郎にとっては、そんな事は関係がなかったのであった。


 一方、パルッコの明るい光が照らす魔王城の一室では……
「ランス王様、呼んでもらえて嬉しいです。」
 人形であった時から変わらぬ無邪気な瞳でランスの顔を覗き込んだシャリエラは、心底幸せそうな笑みを浮かべていた。
「でも、いいの? 王様。疲れてるんじゃないんですか?」
 心配そうな声をかけるのはレベッカであったが、その言葉の端々にはそこはかとない嬉しさが滲んでいた。
「がははは、問題無い。それよりそのへんでろぱを寄越せ。」
「これですか、ランス様。」
「おう、それだ。……ん、なかなかイケるな。」
 風華が匙にすくった料理を運ぶのをパクつきながら、右手でシャリエラを、左手でレベッカを撫でるランス。料理を噛み締めながら、こっそり『あいつの作ったのほどじゃないが……』何て思っているのはおくびにも出さない。
 さっきまで着ていたランスの鎧は既に脱ぎ捨てられており、床に散乱していた。
 その代わりと言う訳ではないが、3人の少女たちがランスの素肌に密着するような感じでまとわりついていた。羞恥の為か、身体の芯に染み付いた快楽の為か、はたまた愛情の為かほんのりと赤く上気した肌は着崩れて(正確には着崩れさせられて)顔を覗かせており、かなり色っぽい風情を醸し出していた。
 ランスのハイパー兵器がその凶悪そうな鎌首をもたげて獲物を虎視眈々と狙っているのがその証拠だ。もぐもぐと口で料理を食べながら、誰から食べようか迷うように左右に揺れている“それ”を、まずは手近なレベッカに突き入れようとした時、無粋な侵入者がその動作に『待った』をかけた。
「あ〜! ずるいれす、みんな〜〜!! あてなも仲間に入れて下さいれす!」
 それは……人造生命体のあてな2号であった。
 ランスは、自宅を引き払う際に留守番役を務めていたこの少女も一緒に連れ帰って来ていた。その後、彼女は魔王の身辺を警護するという名目で設立された魔王親衛隊の一員となっていた訳であるのだが……実際のところ、あんまり役に立ってはいなかった。
 ……いや、魔王親衛隊自体が、魔王城の魔王ランスの居室がある区画などの警備を行う以外の通常業務はなきに等しい部隊なだけに、戦闘力が自慢な彼女の出番が少なくなるのも当然であるのだが。
「がはははは、仕事の方は大丈夫か?」
「はいれす。今は『ひばん』だから大丈夫れす。」
「じゃあそこに……ん?」
<コンコン>
 ランスの台詞は遠慮がちなノックの音に遮られた。
「失礼します、王様…」
「おう、すずめちゃんか。入れ」
 新たな来訪者はすずめとメイドさんだった。
「部屋の準備は指示通りに整えてございます。他に御用はございますか?」
 部屋の状況を目の当たりにしては少々堅い表情にならざるをえないが、それでも礼儀正しく一礼するすずめ。……なお、メイドさんは今更気にしていないらしく、微笑みなんかを浮かべていたりする。
「おう、すずめちゃんもヤッていけ。」
 半裸の少女3人を両手で弄くって熱い吐息を出させながら悪びれもせずにそんな事をのたまうランス。
「いえ、片付けが残っていますので……」
 目を伏せ、踵を返そうとした彼女をランスの言葉が引き止めた。
「そんなのより俺様の用の方が先だ。」
「王様……もしかして?」
 疑問と言うより確認するかのような口調のすずめの質問に、きっぱりと答えるランス。
「おう。今回はすずめちゃんも必要だ(リックの野郎相手にちょっとばかり魔王の力使い過ぎたからなぁ。早いウチに手を打っておかんと、また寝込むかもしれんからな)。」
 その言葉に『どうせなら普通にしたい』というこだわりを捨て、すずめは自分も参加するべく服を脱ぎ出した。それを見てあてな2号も着ていたボディスーツを脱ぎ捨ててベッドに飛び乗ってランスに擦り寄って行く。
 ランスが魔王の力を振るう度に、そして、振るう力が強ければ強いほど魔王の力の封印は緩み、プランナーが仕掛けた精神干渉は強くなってしまう。ヒラミレモンは魔王の力自体を抑える事で魔王としての“真の”覚醒を防ぐ作用がある特効薬であるが、その性質上多用は危険である。
 そこで、彼女らの出番となる訳である。
 ヒラミレモンほどの効果や即効性は望めないものの、彼女ら使徒達が身に付けた“特殊な力”はランスが魔王の力を御するのを多少なりとも助ける事ができるのだ。
 勿論、使徒になれば誰でもがそういう能力を会得できる訳ではない。おそらくは個々人の資質が大きく作用するのであろう。使徒化によって戦闘関係の才能を伸ばした者もいれば、知識関係の才能を伸ばした者もいる。
 まさに千差万別。人それぞれというものだ。
 それはともかく、要するに今回みたいにランスが沢山の女の子をベッドに連れ込む理由には「そうしたい時」と「そうせざるを得ない時」の2種類の場合があり、すずめは後者の理由である事を確認して自分の好き嫌いを棚上げしたのだ。自分という存在に性の捌け口以外の価値をも認めてくれて助けてくれた優しい王様が、そうでないモノに変わってしまうかもしれない事に比べれば何程の事もないのだから。
 はっきりと聞いた事はないが、皆がそう思っているであろうとすずめは確信していた。
 そんな事を思ってる間に、とうとう最初の餌食が決まったようだ。
 充分にほぐされ潤んだ身体を割り開いて、当初の予定通りレベッカの中へとハイパー兵器が突き刺された。プルーペットの仕掛けたおかしな魔法を解いたせいで、いきなり挿入できるというものではなくなっているのだ。
「あっ……あ、王様……」
 ハイパー兵器を抜き差しされるたびにレベッカが漏らす控えめな甘い喘ぎ。それは、ランスのモノになった事で得られた『普通の女の子としての幸せ』の証明であった。
 そして、うかつに解除するとレベッカ自身の命が危なかった為に、その身に唯一残された“ふくマン”の効果も、ランスが自分を保つのに多少なりとも役に立つのを知った事で「なくならなくて良かった」と思えるようになっていた。
 脳髄を蕩かすような甘く淫らな香りの中、少女達は今確かに幸せを感じていた。


 寒風吹き荒ぶボルゴZの片隅では、ある一家とそこで働いていた人間のほとんどが処刑されようとしていた。
 その罪状は『可愛い女の子をいじめた』事である。
 そこで働いていた者のうち処刑を免れた人間は例外無く女の子で、ようやく訪れた解放の時を喜ぶ者もいたが、既に人格が破壊されてしまっていた者もいた。
 それを知ったランスは苦々しげな顔で即座に『全員捕まえて即刻死刑』を言い渡した。
 ……勿論、いじめられていた女の子はできる限り全員助けるよう指示していたが。
 その指示を受けたマリスの手配で一族の全員と使用人の全員が洗い出され、狩りたてられ、捕まえられた。
 そして、夜風が身を切るヘルマンの冬の夜に彼等の命運は尽きようとしているのだ。
 クリスマスイブの、それも深夜に処刑が執行されるのは、先程潜伏を続けていた最後の一人が捕まったからである。ランスの指示が杓子定規に適用された結果であるのだが、死刑執行人たちには全く情け容赦する気がなかった。深夜まで働かされたあげくに、明日の聖誕祭にまで労働する気なんてさらさらなかったからだ。
 囚人の列の先頭に座らされているのは細面で骨ばった老婦人と不健康な顔色をした痩せぎすで卑屈な目をした中年男であり、大きな鉄串が彼等を直接地面に縫い止めていた。彼等の関心は、彼等に先立って眼前で息の根を止められて行く召使いや友人や護衛や調教師にではなくて、あくまでどうすれば自分が助かるかという一点にのみ集中していた。
 だが、死刑執行人を引き受けたクリームには情も利もおだても通用しなかった。捕まえた連中を尋問して得られた情報の中に『前当主のビッチが自分を性奴隷にする計画で第4軍の士官に抜擢した』という裏面の事情があったと知った今では、彼等は自分の敵ですらある。敵に容赦するようなメンタリティは彼女には存在しない。
 身も世も無く上げられ続けた見苦しい悲鳴が途絶えた時、ゴルチ家の血統はこの世から絶えた。
 かつてランスがメリムに約束した通りに。


 2時間後、ヤリ疲れてすっかり暗くなってしまったパルッコを串刺し状態から解放したランスは自室を後にして城内を散策していた。
 まともにランスの相手をするだけでもけっこう大変なのに、ランスが自分を保つ為の補助までやったのでは、その負担は相当なものとなる。7人がかりであったにも関らず、2時間と持たずに一人残らず気絶させられたのが良い証拠だ。
 幸せにやつれた顔の少女達を部屋に残し、すっきり爽やかな表情になったものの物足りなさを感じているランスは、新たな生け贄……もとい、相手を探しに出ていたのだ。
「ランス王。」
 そんなランスに声をかける者がいた。理性によって完璧に統御されているかのような冷静な声は、その声が誰のモノかを雄弁に語っていた。
「ん、なんだマリスか。リアはどうした?」
「ここにおられます。」
 マリスがそっと指差した場所には、ソファーの上ですやすやと眠っているリアの姿があった。起こしてしまうのを恐れてか、ベッドに運ぶのではなく毛布がかけられているだけであるのが、かえって気配りを感じさせる。
「そうか。で、話なんだが……」
 その言葉を聞いたマリスの顔に一瞬、珍しく逡巡が浮かぶ。リアを起こしてしまうのではないかと心配したのだ。が、素早く損得計算を巡らせた結果、ここで話を続ける事を選ぶことにした。例え起こしてしまったとしても、ランスがここにいればリア様の機嫌は良くなるハズであるからだ。
「はい、なんでしょうランス王。」
 計算を終え、また元の微笑みを浮かべた鉄面皮に戻ったマリスの顔を残念げに見やりながら用件を切り出すランス。
「俺様はリーザス城で正月を過ごす事にしたぞ。リアも魔王城には馴染まないみたいだからな。」
「はい。」
 それは、マリスも感じていた事であった。今までお姫様として敬われていた身では、同格以下の扱いをされる事も多い魔王城の生活はストレスが溜まるのではないかと心配させられ通しであるのだ。
「そこで、俺様が気軽にリーザス城に行けるように転送器を城内に設置しろ。」
「転送器……ですか?」
「おう。詳しい事はフリークの爺さんに聞いてくれ。」
「わかりました。で、王はこれからどうなさいます?」
 ランスはニヤリと口を歪めると、ソファーに寝ているリアを両手で胸元に抱き上げた。いわゆる“お姫様抱っこ”の体勢だ。
「がはははは、リアの部屋はどこだ? 案内しろ。」
「はい、ただいま。」
 ランスのこの行動は、マリスにとっては満点に近い回答だった。
 勿論、マリスに否やはなかった。

 翌日、マリスと共に上機嫌でリーザス城へと帰って行くリアの姿が目撃されたが、恐らくはこの事とは無関係ではあるまい。
 ……と、ゴシップ好きの女の子モンスターたちの間で囁かれているのは内緒である。

 他にも、
 シーザーでも入れるほどの巨大な靴下を用意していたサテラが空っぽの中身を見て唸り声を上げた。
 とか、
 一人でパーティーの片付けを仕切ったせいで疲れて寝てしまっていたエレナが枕元に散策途中のランスが置いて行った一輪の白い花を見つけて赤面する。
 という場面とか、
 手当たり次第に夜這いをかけようとしたランスがハーレムのマスターキーを忘れたのに気付いて、面倒臭くなって今日のところは思い止まった。
 なんて小事件なんかもありはしたけれども……
 魔王城は概ね平和であった。


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 ランスがエレナの枕元に置いて行った花は白百合で、元は花瓶に生けて飾ってあったものを取ってきたって感じです。……お手軽ですね(笑)。
 実際のとこ、エレナって物を貰った事よりも気遣われた事の方を喜びそうな気がするので、何ですけどね。
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