鬼畜魔王ランス伝

   第8話 「見当かなみの魔王追跡レポート」

 シャングリラへ向かう前にミルとメナドを魔人にしたランスは、更にサイゼルを除いたそれ以外の魔人5名を相手に労をねぎらっていた。自らのハイパー兵器で以って。
「う…あいつ……やっぱりそんな事しか……しないんじゃない。」
 砂漠の外縁部にある小さなオアシスで、18歳未満の人は見ちゃいけない運動に勤しむランスたちを見て、かなみは今日何度目になるか判らない溜息を漏らした。その溜息には暢気そうに水遊びなんかやってるランス達を、砂漠迷彩を施したカモフラージュネットを
被って砂山の上に伏せて監視していなければならない我が身の不幸も手伝っているのだろう。ちなみに、ミルとメナドは木陰で休まされており、サイゼルは別の木陰でお昼寝中である。

 ……3時間が経過した。ランスの馬鹿騒ぎにミルとメナドも加わった。どうやら交代で休憩してるようだ。
「そりゃそうよねぇ。でも、あの馬鹿3時間ぶっ続け? はぁ…」
 かなみには交代要員がいない、困った事に。炎天下でカモフラージュネットは暑いので交代無しは勘弁して欲しいが、他にあのランスが追跡を目溢しする忍者はリーザスにはいない。
「……はぁ、ランスの馬鹿…」
 普通人ならとっくに日射病か熱射病になって倒れる状況の中、かなみはひたすら耐え続けた。

 夕方になってランスたち魔王一行は砂漠の只中へ向かって出発した。
『ちょ、ちょっと。もう砂漠の道も消えたってのに。』
 かなみの悲痛な心の声は届かない。ガーディアンを荷運びのラクダ代わりにどんどん奥地へと進んで行く。溜息ひとつを吐いて付いて行く。距離を置いて。身を隠して。

 真夜中、やっと追い付く。身を切るような寒さが痛い。 
「ふぅ。なんてペース。忍者の足で追い付くのがやっとなんて。」
 実際には女の子たちは疲れたらガーディアンやランスに運んでもらっているからこそのペースなのだが。当然だが、夜営しているランスは真っ最中である。
「また……はぁ……」
 かなみには寝る暇がない。相手がいつ出発するか判らないからだ。

 明け方、魔王一行はようやく出発した。
「一晩中頑張ってたけど……あいつの体力って底無し?」
 戦慄を覚えながらも何とか付いて行く。姿を隠す必要(こだわり?)があるので足跡だけが頼りだ。疲れた身体に鞭打って歩く。

 昼時、何とか追い付いた。奴は寝てる。こっちの気を知らんと暢気にまあ。それにしても暑い。カモフラージュネットの下で仮眠を取る事にする。

 夕方、奴らは出発した。こっちも追いかけようとしたら、竜巻が行く手を遮った。時間的には奴らが通過した後に進路を塞いでる計算になる。
「冗談じゃないわよ!」
 だが、竜巻に通じる訳もない。できるだけ身を低くしてやり過そうとするが……案の定飛ばされてしまった……らしい。

 気がついた時には満天の星空を見上げて大の字になってた。身体のあちこちが痛いが、幸い致命的な怪我はないらしい。砂漠に住む生物の餌は勘弁なので、さっさと起きる。
「う〜、どこだろ、ここ。」
 砂漠地帯を出てないのは間違い無い。シャングリラどころか帰る道さえ分らない。
「は〜、あたしって不幸。」
 とにかく、星空なのは不幸中の幸いだ。今のうちに天測で現在位置を……と、観測を始めると雲が出て来る。つくづく不幸だ。
 不幸には際限がないのだろうか……かなみはそう思う。にわかに掻き曇った空は、ほどなく激しい雨を降らせ始めたのである。砂漠には珍しい豪雨。今いるのは砂漠の低地…低地?!……比較的歩き易い道のようになった低地…って……まさか?……まずっ!
 だが、自然、あるいは運命は彼女にとって非情であった。その低地…涸れ河を伝って濁流が押し寄せてくる事態から避難し遅れたのだ。

「あ〜死ぬかと思った。」
 ようやく流れの比較的緩やかな場所を探して岸に上がったかなみは運命の皮肉を感じていた。捨てる神あれば拾う神あり。…ただし、拾った神が親切であるとは限らないが。
 かなみはずぶ濡れでいた。こともあろうに、明け方間近の1日でも最も寒い時刻に。向こうではランスたちが焚き火を囲んで暖かいお茶を飲んでいる。テントもある。雨でも文句を言わず働く従僕もいる。寒さに震える自分とは別世界の光景にかなみは一人涙した。幸か不幸か忍者としての本能で隠れて監視するのに最適な個所に陣取っているため、容易には見つからない自信はある。しかし…
『なんで、こういう時だけ見つけないのよ!』
 などと、心の中で八当たりしていたのだった。

 ……その頃……
「で、アレどうする?」
「えーっ、かわいそうだよ王様。呼んであげようよ。」
「まあ、そうだな。がはははは。行き倒れられても困るしな。」
「よし。」

 どこか遠い所で誰かが話してる……あれは誰……既に朦朧としている意識が暖かい腕を感じた瞬間、かなみの意識は闇に堕ちていった……。


「おはよう。かなみちゃん。」
「メナド…どうして……」
「うん、王様が面倒見てやれって。」
 既にかなみの衣服は剥ぎ取られ、物干し竿で干されている。物干し台代わりに2体のガーディアンが立っているのは何かマヌケだが。衣服の代わりにかけられていた薄い毛布が滑り落ちて慌てているかなみをメナドは微笑ましく見ている。
「元気になったら一緒に来るか、立ち去るか、かなみちゃんが選んでいいんだって。いい人だよね、王様。」
「う……(全く、メナドの前では格好つけたがるんだから…)」
「普通できないよ、そんなこと。ぼく、ますます尊敬しちゃうな。」
「あはは…」

 結局、翌日のシャングリラ到着まであたしの結論が出せなかった事を付記しておく。


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 今回はかなみ視点です。そのせいか、いつにもまして不幸です(おいっ)。腕利き忍者の彼女が気絶するぐらいですから、そうとう過酷な任務だったんでしょう。まだ、他の方のSSに比べれば不幸度は低い方でしょうか。
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