鬼畜魔王ランス伝

   第9話 「流転戦線」

「で、リーザス王。あたしは人間が嫌いだから来るなって言ったはずだけど。」
「がははは。俺様は人間じゃなくなったからいいのだ。」
「ふーーーん。ふんふん…なるほど。…魔王って訳ね。」
「おう。」
「で、その人間は?」
「俺様を付けてきたから捕まえた。」
「そう……で、何の用?」
「俺様のために働く気があるかどうか聞きに来た。」
「せっかくだけどお断りするわ。」
「そうか。」
「え……もっと、魔王の強制力で従わせるとか、力で屈服させるとかしないの?」
「しない。そんなものだけで従えた部下なんて面白くない。」
「くすっ……そういう考えは好感が持てるわね。」
「まあいい。仲間にならないなら、西の森まで“道”を作ってくれないか?」
「それくらいならお安い御用よ。」
 ハウセスナースはランスにそういうと自分の館の中へ入っていった。その名を「大地の館」という。この館はハウセスナースがシャングリラの王デスココからランスの手によって解放された後、その宮殿の跡地に建設したものである。……デスココ宮殿を破壊したのがハウセスナースである事は言うまでもない。
 ランスたち魔王軍が翔竜山を目指す傍ら、かなみはリーザスへの帰還を目指す事に決めた。行き以上の苦労を覚悟した彼女は、あっさりとリッチに着いた事を却っていぶかしんだのだった。
「かなみちゃん…無事だといいなあ。」
「まあ、大丈夫だろ。“道”を作るよう頼んであるし。」
「うん……そうだよね。」
 彼等の前には原始の森が行く手を阻んでいた。森の奥からは不気味な呻き声のような音も聞こえてくる。
「それより俺様たちだ。ここを進むのは骨が折れるぞ。」
「魔王。」
「何だ、ナギ。」
「この森はモンスターの巣窟。なればこそ我らの戦力補充を考えた方が良くはないか?」
「がっはっはっ、さすが俺様の女。じゃあ、あの山を目指すぞ。」


 ところ変わって、大陸地下にある大空洞。そこでは宙を漂う巨大な白クジラと羽根を持つ人間のような形態を擬似的にとっている何かが会話を行っていた。
「いいのか、ルドラサウム。あの個体……魔王を放置していて。」
「なかなか面白い展開じゃないか。それに、まだまだ勝負はどうなるか判らない……う〜んファンタスティック!」
「あなたはそういうかも知れませんが……あの個体は危険です。魔王となりながら我々の意図した仕掛け……制約を次々に無効化している。」 
「きみはそういうけど……彼だってまだ気付いてない仕掛けもある。それに何より、今度の魔王はスリリングでエキサイティングだ。」
「…………」
「いよいよって時は君達が何とかしてくれるよね、プランナー。」
「はっ」


 ……翔竜山の麓に着いた3日後には、魔王軍の総数は2124名に達していた(ミルの幻獣を除く)。そして、部下を山の麓に残し、ランスは一人で登山を開始したのだった。
「俺様に従え。」
「はにほー。」
「では、下山して待たせてある部下に合流しろ。」
「あいやー。」
「……何となく言ってる事が判るのがやだな。」
 軍曹ハニーが率いている部隊を何度服従させ、下へ送っただろう。
「ここを通せ。」
<シュボォォォォォ!!>
 ドラゴンの吐く炎がランスを焼こうと迫るが、それは一刀両断された。
<ガギィィィィン!!>
 ドラゴンの振り下ろす鉤爪がシィルで弾かれ、薙ぎ払う尻尾もまたシィルで払われる。
<ドゴォォォォン!!>
 ドラゴンの頭部にシィルの剣の平が叩き付けられ、その意識を奪う。
 それを何度繰り返したろう。やっとの事で頂上に着くと、KDが出迎えた。
「こんなとこに何の用だニャー。」
「お前がここのボスか?」
「そうだにゃー。」
「俺様の部下になれ。」
「それは無理だニャー。」
 かつて魔王登場以前、激しい生存競争を勝ち抜いた種族ドラゴン。その生き残りを束ねる王である彼は、立場上魔王の手下にはなれなかった。……むしろ、魔王と殺し合いをした方が神は喜ぶかもしれないが。ランスも相手の強さが“見え”るようになっていたので無理に戦闘を行う気にはなれなかった。
「そうか、では俺様に“ひまわり型黄金像”を寄越せ。」
「わかったニャー。」
「よし。後、俺様や俺様の女に手を出すなよ。そしたら、こっちもここに手を出さん。」
「わかったニャー。」
 黄金像を手に入れたランスは、下山の途中で気絶から復帰したばかりのブラックドラゴンに襲われた。が、起きたばかりではランスの敵ではなく、あっさり気絶させられた。
「おい! KD!!」
「なんニャー。」
 慌ててKDが出て来る。事の重大性から対応も早い。
「手を出さんと言っておきながら、こいつは何だ?」
「すまんニャー。」
「今回の事は大目に見る代わり、こいつは貰ってくぞ。」
 ランスが指差したのはブラックドラゴン。どうやら、それを狙っていたようだ。
「しょうがないニャー。」
 KDはブラックドラゴンを起こし、事態を説明した。……KDの説明を聞いて青くなるブラックドラゴン。自分が、KDと目の前の男……魔王ランスとの間に不可侵協定が締結された直後に襲撃してしまった事を聞いて、神妙な態度で服従を確約した。実際に魔王とKDが激突していれば、さぞかしルドラサウムを喜ばせる大惨事になっていただろう。
「がはははは、グッドだ。ところで、お前の名前は?」
「ガングだ。」
 こうして、黒竜のガングと黄金像を手に入れたランスは意気揚々と下山したのである。


 翔竜山で調達した戦力を加え4000まで戦力を増強した魔王軍は、ブラックドラゴンのガングの案内で下山した。目標は麓の街パリティオラン。
「がっはっはっ、どうせ行きがけの駄賃だ。やっちまえ。」
 実際には、戦力の贅肉部分である新規増員分の魔物に実戦経験を積ませる事と、魔人に魔物部隊を指揮する練習をさせる事が目的であるのだが……
「おい、お前ら。かわいこちゃんには手を出すなよ。俺様の楽しみなんだからな。」
 ……こっちの方が重要そうである。なんだかな。
「で、連中の戦力をどう見る。アールコート。」
「…え…えっと……ですね。」
「いいから、もうちょっと自信を持てアールコート。お前は俺様が選んだんだからな。」
「王様……はい。」
 ちょっと泣きそうな表情は僅かに晴れ、しっかりとした声で説明を再開した。
「魔物の方々はゼスの奴隷兵程度の実力ですので、あとは指揮官の采配しだいですね。街の防衛隊はウォールと少数の魔法使いのはずですので、充分勝負になります。」
「なるほど……魔法が使える魔物とそれ以外の魔物に分けての再編は終わってるな。」
「はい。」
「じゃ、俺様は高みの見物だ。前衛はメナドとアールコートが1250ずつ、後衛はキサラとナギが600ずつ持って攻めろ。幻獣とガングと残りは後詰だ。」
「えー、また留守番。」
「そういうなミル。新兵の調練が今回の目的なんだからな。お前が出てったら勝負がお前だけで決まってしまうじゃないか。」
「いいじゃない、別に。」
「後を考えると良くない。では、行け。」

 魔王軍は1日でパリティオランを陥落させた。だが、守備隊の反撃で、実に1100体にも及ぶ損害を受けてしまったのである。
「ちっ……弱っちい。だが、これで少しは弱い連中がふるい落とせたろ。」
「はい。部隊の再編は今夜中に終わる予定です。」
「よし、俺様は見回りに出て来る。後は頼んだ。」
「はい、王様。」
「市民に乱暴したものは容赦なく殺せ。俺様以外の奴がやるのは不愉快だ。」
「はい。」
 ランスは、フェリスの案内でAL教の教会に来ていた。
「ここか?」
「はい、マスター。逃げ遅れた女子供のほとんどはここに避難しているかと。」
「そうか。じゃ…GO!!」
 ランスは厳重に閉じられ、裏に荷物まで積んで補強していた扉をバリバリと爪で引き裂き、抉じ開けた。
「ああっ!」
 何かされる前に魔王の魔眼で場にいる全員に金縛りをかける。身動きもできず、声を出す事も目を逸らす事もできなくされた。だが、不幸にも一人だけ金縛りにならなかった者がいた。両手で耳を覆い、顔を伏せて厭々を繰り返していたため、ランスの目を見てなかったのだ。更に不幸な事に、その娘はそこそこ美しかった。
「そこのお前、俺様にサービスしてもらうぞ。」
 哀れにも腕を引っ張られ、祭壇へと運ばれる彼女。それを見ているしかできない皆。
「がはははは。お前のサービスが良ければ、ここにいるみんな助けてやるぞ。」
「ひ…ひぃ……助けて……」
 ランスにいたぶられる娘、見ている事しかできない皆。そんな時間がどれほどたったのだろうか。場の緊張感が最高潮に達した時、
「あ!……ああっ!…ひぃっ!」
 絶頂の嬌声か苦悶の悲鳴か判らぬ絶叫をあげ、娘は逝った。鮮血を滴らせるハイパー兵器からの白濁液を注ぎ込まれた瞬間に。
「ふん、使えない奴だ。」
 常人に、今のランスとの交わりは危険である。ランスが意識的に抑えなければ、大量に注ぎこまれる“気”に躰が付いていけず、死んでしまうのがほとんどなのである。……相手が死んだ場合は相手の気ごと回収するので、注ぎ込んだ“気”の方は無駄になる事はない、どころか一種の食事代わりになるのだが。
 という訳で、全ての精気を失った娘の躰は粉となって消えた。
「では、次はどうかな?」
 目に止まった娘をまた陵辱する。そして、また……の繰り返し。めぼしい娘が尽きるとランスのやる気は失せてきた。
「じゃあ、残りはまとめて片付けるぞ。恨むならサービスの足りなかったそいつらを恨めよ、がははははっ。」
 どこまでも勝手な言葉を吐くと、その場の全員の精気を奪った。エナジードレイン。魔王の能力のひとつである。
「さ…ってと……他に避難してる娘はいないかな。」
「こちらにいます、マスター。」
 魔王と悪魔が獲物を求めて徘徊するパリティオラン史上最悪の夜は、まだ終わらない。


 魔物に占領された街にも日は昇る。悪夢の一夜ですっかり蹂躙され、打ちひしがれたパリティオランにも、また。
「う〜ん、大漁、大漁。」
 ランスの手には3人の女の子の手首を縛ったロープが握られている。
「え…えと、王様。この方たちは?」
「おう、俺様の新しい玩具だ。」
「そ…そう…なんだ。」
 しくしく泣いてる者、呆然としている者、脅えている者と三者三様だが、積極的に喜んでいる者はいない。
「まあ、気にするな。こいつらにはじっくりと俺様の良さを分からせてやるからな。がははは。その証拠に……」
 ランスは手に持ったロープを放した。それでも逃げ出そうとする娘はいない。
「…………」
「それとも……やきもちか? メナド。」
 メナドを抱き寄せて唇を吸い上げる。そのまま首筋まで舌を這わせ、牙を突き立てる。傷口から何かが吸い上げられて行くのを感じ、メナドは激しい恍惚感と脱力感に襲われ、へたり込んだ。
「まあ、こういう事を毎晩してたら身が持たないだろ? よっと。」
「な…何するの王様……あんっ……駄目だよ…こんなとこで……」
 道端に座り込んでしまったメナドを抱き上げて物陰に連れ込み、手早くハイパー兵器を差し込む。前戯などしていないにもかかわらず、その秘洞は熱く潤んでランスのものを受け入れた。
「……あ…あ……やだぁ…ぼく……なんで……あ…ああっ……」
「うむ、ぬるぬるのグチャグチャでグッドだ。かわいいぞメナド。」
「かわいい…って……こ…んな…とき……に…ずるいよ王様…」
「ん…まだ出来るな。第二ラウンドだ。」
「王様っ!」
「すまんが、話は後だ。狂犬と俺様のハイパー兵器は止まらんのだ。」

「で、だが。今ので分かったと思うが……」
 何とか身繕いをしているメナドにランスが声をかける。酷い脱力感はあるものの、何とか動けるぐらいには回復していた。牙を立てられた時以来感じていた身体の火照りは治まっている。
「え……」
「魔王ってのは血を吸う必要があるみたいなんだが、俺様が血を吸うとこうなるらしいんでな。お前ら相手にあんまりやる訳にいかんだろ。いくら魔人でも身が持たん。」
「ああ……それで……なんですね。」
「おう。」
 戻ってみると3人とも其処から動いていなかった。よく見ると首筋に噛み跡まで残っている。
「全然知らなかったから、やたら空腹になってな。それで、昨晩は夢中で食べ漁っちまったからな。今度から、そういう事はなしにしたいという訳だ。」
 そう言えば、他の女の魔人や使徒たちの姿が見えない。どうしたのか聞くと。
「ああ、あいつらは昨日のうちに“食べた”。お前だけ街の外で見張りやってたから後にした。……仕事の邪魔すると拙いしな。」
「って……事は……。」
「まあ、おっつけ起きてくるだろ。みんな揃ったら出発するぞ。」


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 かなみちゃん、ようやくランスに優しくしてもらえたと思ったら……。忍者の立場と抵触して素直にランス側になれないんですよね。今現在の雇い主はマリス(リア)なんで。
 ようやく、鬼畜らしい(吸血鬼らしい)行動が出ました。3人ゲットするのに何人が犠牲になったんでしょうか……。もっとも、暴走しただけなんですが(苦笑)。
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