鬼畜魔王ランス伝

   第7話 「合流までの長き道のり」

 魔王軍100は、マウネス⇔リッチ間の街道をひた走る。パラパラ砦付近で待つ主、魔王ランスと合流するため。それを距離をおいて追撃するエクスの白軍2800。だが、その図式にも変化するべき時が近づいていた。
「大変っ。黒いかっこした人間が前からやってくるよ。」
「ええっ……そんな……」
「……すみませんが、どれくらいいますか?」
「ん〜……ざっと1000ぐらい。」
 自軍には、普通の方法では傷付かない魔人や見捨てても問題が無いガーディアンだけではなく、使徒や普通の人間もいる。魔人といえど大人数で取り押えられる事は充分考えられる。アールコートは知恵を振り絞った。
「えっ…と……前の敵とどのくらいで接触します?」
「このペースだと1時間くらいじゃないかな。」
「キサラさんの呪札って、いくつ同時に使えます?」
「あるだけ全部……いま100枚しかないけど。」
「……じゃあ、ここで迎え討ちます。非戦闘員とミルさんは塹壕を掘りますので、そこに隠れていて下さい。」
「え〜、私も戦えるよ〜」
「……え…えっ…と……皆さんの護衛を…頼みたいんですけど……だめですか?」
「うん、わかった。」
「…で、私たちは……」

 とりあえず急造の塹壕(蓋付き)に非戦闘員を隠し、簡単なカモフラージュを施す。それから急いで4名の魔人と100体のガーディアンが所期の配置についたが、その時にはもう正面の敵……名将バレス率いるリーザス黒軍1000が間近に迫っていた。
「ゆくぞ! 皆の者。日頃の訓練の成果を見せるのじゃ!」
 戦闘開始はその声で始まった。それに答え、突撃してくる黒軍兵士。セオリー通りに散開気味な陣形をとらせているのが、いかにもバレスらしい。
 その突撃を迎え討つのはアールコートとキサラだ。キサラは流れるような動きと重装甲の騎士でも一撃で沈黙させる事のできる蹴りで、アールコートは敵の指揮官がいるあたりに呪文を炸裂させる事で攻勢を凌いでいた。そして後衛からは…
「それ、凍れ!」
「えーい、チューリップ魔法弾!」
 サイゼルの魔法ライフルとマリアのチューリッップ1号からの砲撃で、黒軍兵士はみるみるうちに撃ち減らされた。ガーディアンの魔法攻撃も意外と馬鹿にできない。黒軍はまずガーディアンの殲滅を計ったが、魔法と砲撃が激しく中々近くに寄る事ができないでいた。瞬く間に3割の兵が戦闘不能になる。
 そうこうしているうちに本隊……エクスの白軍が到着し、無防備な後背から襲いかからんとする。それに気付いた魔王軍から散発的に魔法が飛んでくるが、それの損害は無視できるほどに小さい。エクス軍の後衛の魔法使い部隊の支援攻撃が飛ぶが、魔力の高い魔人の部隊にはさほどの効果は出せない。
「突撃! 逆賊どもを生かして帰すな!」
 勇ましい掛け声と共に先頭に立って突撃するのは副将のハウレーン。エクス自身も釈然としないモノを感じながらも攻撃命令を下した。
『おかしい…何か危険な気がする……』
 だが、エクスは自身の勘ではなく、目で見える状況に合せて兵を動かした。それには、アールコートの実戦での戦績がまだない事も関係してはいるのだが……。
 彼我の距離が50mを切った時、涼やかなる声音が全ての状況を一変させた。
「カードよ、我が命に従いその力を顕わせ!」
 突撃する白軍主力の中核2000余りが、突如足元から巻き起こった爆炎と雷撃にさらされる。全力疾走中に不意討ちを受けた白軍兵士のほとんどは、その一撃で戦闘不能にされてしまった。
「くっ…こんな罠がっ! ゼスの要塞でもないのに!」
 そう。キサラのカードの上に小石を乗せたものを敵軍の予想進路に効果的な間隔で伏せておいたのだ。既に魔法の応酬が始まっていた状況であるからカードが発する魔力の反応を掴めなかった……それゆえの失態である。
「……あ、あの……今です。マリアさん……サイゼルさん。」
 アールコートが戦場の喧騒に負けまいと声を上げる……が、まだ小さい。だが、同時に空に向かって放った合図の魔法弾がその意を伝える。
「えーーーい! 迫激水!!」
「おっけーっ! スノーレーザー乱れ撃ち!」
 マリアの水魔法が滝のような水を正面の黒軍に向けて浴びせかけ、そこにサイゼルが魔道ライフルから凍結光線を連射する。結果、黒軍のほとんどは氷漬けにされ行動の自由を封じられてしまったのである。
「塹壕のみんなを!」
 マリアの命令に従ってガーディアンが塹壕の蓋を開け、中にいる人員を回収する。
「全速前進!」
 キサラが先頭に立って進路を確保し、それにガーディアンと幻獣が続く。殿はアールコートとサイゼルが担当して、それでもなお追撃しようとする兵に魔法攻撃を浴びせながら去って行く。
『やられましたね。……これだけの混乱では、兵の統率を取り戻すまでに相当な時間がかかります。さりとて、混乱したまま戦えば兵の実力の半分も出せません。』
「残存兵力をまとめて下さい! バラバラに立ち向かっては勝ち目がありません。」
 エクスは敗残兵力をまとめ、負傷者の救護に専念せざるをえなくなり、これ以上の追撃を諦めた。なお、プロヴァンス親娘が仲良く野戦病院送りになった事を付記しておこう。

「ふう、これで一安心。」
「……ですけど……あと10体しか…」
「ああ、その石人形? 残ってるだけましじゃん。」
 実際、その通りである。まともにぶつかれば魔人以外は全滅する方が当然なほどの戦力差があったのだ。ガーディアン以外の損失がないだけ上出来である。
「では……リッチを迂回して…王様と合流します……」
 一行は更に歩みを早めた。まあ、実際に歩いてるのはガーディアンだが。


「お、来たか。」
「はい、マスター。」
 ランスとナギは志津香との決戦の場となった平原で野営をしていた。当然パラパラ砦に駐留していた守備部隊…青軍には気付かれていたが、手を出して来る気配はなかった。
「がははは。で、首尾は?」
「こちらです。」
 フェリスが差し出したのは3個の魔血魂である。
「どれどれ……バークスハムはすでに自我を放棄してる、レキシントンは俺様の躰を乗っ取ろうとした前歴があるから駄目、信長はJAPAN各地に封印されてる本来の躰を入手する必要があって面倒臭い。結局、全部初期化か。」
 ランスは3個の魔血魂を初期化し、その力を吸収した。
「おい、ナギ。約束の“力”をくれてやる。」
「本当か?」
「おう、欲しいか。」
「欲しい。」
「がははは。では、くれてやろう。」
 ナギはランスの牙から“血”を注ぎ込まれた。
「さて、俺様の女どもは無事かな?」
 だが、すでに魔人化のプロセスを開始しているナギを見捨てて移動する事はできない。
「まあいい。俺様の女だからなんとかするだろ。がははは。」
 と口では言うものの、目ではパラパラ砦の動きを注視している。
『さて、無事だといいんだが……俺様がここから動く訳にもいかんしな。』 


 リッチ⇔パラパラ砦間の街道を離れ、荒野を進む魔王軍一行。最愛の主、魔王ランスとの合流を目の前にして、最大の壁が行く手に立ちはだかった。すなわち、リーザスの青い壁コルドバ・バーンである。パラパラ砦方面から迫って来る体勢を取っている赤軍メナド部隊と協調して半包囲作戦を展開する青軍に対して、アールコートは打開策を思い付けなかった。あまりにも自軍の損耗が酷いのだ。
「……えっと……とにかく、時間を…稼いで……夜陰に紛れるしか…ないと…」
「もうちょっとシャキシャキ喋ってくれない。そんな自信無さそうな声で作戦話されるとこっちも不安になるんだけど。」
「ひぃん……ごめんなさい……」
「えっと……今まで作戦は上手くいってるからいいんじゃないかな、何たってランスの推薦だし。」
 アールコートに食って掛かるサイゼルをマリアがフォローする。
「そうだったな。魔王の言付けだもんな。」
「えっ……王様、そんなこと……」
「うん。アールコートは天才だから…って。私もそう思うけど。」
「で、私は何をすればいいの?」
「そーそー。」
「キサラさんとミルさんはみんなの護衛、私とマリアさんとサイゼルさんは敵の足止めをします。……多分、兵力比からいって押し切られると思いますので、包囲されないように徐々に後退、できれば夕方まで時間を稼いで……小人数の利を生かして敵軍を迂回する……なんてどうでしょう。」
「ふーん。いいんじゃない。」
『こんな作戦…手堅いけど……多分、伏兵がいる……私なら……でも、どうしよう……他に打つ手がないし……』
「じゃ、レッツゴー!」
 魔王軍は不本意ながら、リーザス軍との戦端を開いた。

 リーザス軍はじりじりと魔王軍を追い詰めていく。アールコートは巧みに敵の進撃速度を落とさせるが、それでも意図する方向へ誘導されるのを回避できなかった。何せ、それ以外の方向へ行った途端、あるいは踏み止まっても即時に壊滅が決定するほどの戦力差である。開戦から1時間以上も持たせているだけマシである。
 だが、それにも限界がやってきた。進行方向にキンケード隊1500が出現、コルドバ隊932とメナド隊1120と共に3方向からの包囲体勢を作られてしまったのだ。
『くっ……やっぱり……あと2時間あれば……』
「どーすんのよ?! 囲まれちゃったじゃない!」
「……くすん……ここまで…時間を稼げば……」
「稼げばどーなるっていうのよ!」
<ドオオォォンン!!>
 突如として起こった轟音が不毛な会話を断ち切った。見るとキンケード隊が一撃で壊滅している。
「がははは、またせたな。ナギ、やれ。」
「わかった。黒色破壊光線!」
 空中を飛行しているランスに抱き抱えられたナギがコルドバ隊に魔法を撃ち込む。その一撃は屈強な騎士726名を戦闘不能にし、その他の兵士にも深刻なダメージを与えた。
「よっと。まだやるかメナド。」
「……王様……何で、こんな酷い事……。」
「俺様の女に手を出そうとしたからだ。」
「そう……なんだ……。」
 明らかに消沈するメナド。
「がはははは、何ならお前も来るか?」
「えっ…ぼくは……そんな…」
「お前みたいなかわいこちゃんなら大歓迎だ、がはははは。」
「う…え…えっと…」
 メナドもメナド隊1120名も固まって動けない。最も、動けない理由は違うが。
「えいっ! メナド、惑わされちゃ駄目っ!」
 台詞と同時にかなみが投げた3本のクナイが背後からランスに突き刺さる……寸前で手で受け止められてしまう。
「あうっ……どこまで強くなってるのよ、あんた。」
「投げる時に声かけりゃ誰でも気付く。」
「うっ……」
「なんなら、かなみごと面倒みるぞ。がはははは。」
 そう言った時には既にかなみはランスに片腕で横抱きにされている。
「どうした? 返答なしは了承と受け取るぞ?」
「……かなみちゃんに酷い事しない?」
「おう、まかせとけ、がははは。」
「駄目よ、メナド!」
「メナド隊長!」
「みんなは負傷者の収容と救護を……いいよね、王様。」
「おう。」
「じゃあ……みんな……あとはよろしく。今までありがとう。」
「隊長!」
 こうして、メナドとかなみを加えた一行はシャングリラへと向かうのであった。
「どーして、あたしってこういう役ばっかりなのよ。今回も魔王にアブダクションされてるし。」
「どーしてって……俺様の行き先を調べるのがお前の任務だろ?」
「う……そりゃそうだけど……もうちょっと忍者らしいやり方ってのが…」
「何を今更。第一、クノイチの任務は色仕掛けじゃないのか?」
「はう。それを言われると…でもでも、あたしそんなの……」
<ドサッ>
 かなみの小柄な躰が地面に落ちる。
「えっ……」
「嫌なら、ここで帰れ。別にかまわんぞ。」
「ええっ」
「付いて来るか帰るか自分で決めろ。」
 言い捨ててみんなの方へ戻る。
「行くぞ! ……あんなもんでいいか、メナド。」
「うん、王様。……かなみちゃん大丈夫かな?」
「さあな。だが、あとはあいつが決める事だ。」
「……うん。」
 魔王一行が旅立った後、かなみはそれを追跡し始めた。距離を置いて。
「今は、これがあたしの仕事……仕事に私情ははさまない……そうじゃなくっちゃ……」


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 今回、魔人相手に兵を動かしてますが……これは捕獲狙いです。人質を取るのが目的なのでおかしくはないです…よね?
 なお、今回は将軍級の人間は全員生存しています。前々回のラファリアも部隊ごと“消えちゃえボム”食らった所で退却してますから、半殺しってほど酷くはないです。…噂って怖いですね(笑)。多分、独断専行の罰と不可触令の徹底のためにマリスあたりが情報操作したんでしょうが。
 マリアの魔法はランス2時代のものです。魔人化によって魔力が復活したと考えて下さい。
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読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


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