警告!!
 
 
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・学問等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい。
 
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
 
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます
 
作品中に 読者に不快感を与える要素が含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご注意ください。
 
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様  きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
 
 

 
 
 
 
                 『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その4』
 
 
 
 
 
俺の名は与渡大輔。17歳。
ごく最近彼女ができた、ごく普通の高校二年生だ。
 
 
俺の朝は地獄のように熱く濃い、一杯の珈琲から始まる  
‥わけではない。
とゆうか多分、朝から珈琲飲むのは初めてだ。
 
なんでまた起き掛けにベッドの上で、大して好きでもない珈琲なんぞ飲んでいるかと言えば‥
ねぼすけの俺を起こすために、妹が煎れてきてくれたものだからだ。
 
毎日俺より1時間以上早く起きて弁当作ってくれるだけでもありがたいのに、目覚めの一杯まで持ってきてくれたのでは、喜んで飲むしかないではないか。
まぁ、飲んでみればなかなか美味いしな。インスタントじゃないし。
 
 
 
飲み干したマグカップをスチール机の上に置く。
ふぅ ご馳走さま。
 
 
「どふぉひぃひゃひまひて」
 
こらこら、口にモノ入れたまま喋るでない妹よ。
 
「どういたしまして。お返しに、由香にお兄ちゃんのミルクを飲ませてね」
 
俺の分身から口を離した妹は、俺の顔を見上げて嬉しそうに言って、そして再び俺の‥実の兄の股間へと顔を埋めるのだった。
 
 
 
はい。俺と俺の妹、由香はこうゆう関係なんです。
未だに最後の一線は越えてないけど、それ以外のことは大抵済ませてます。
 
 
 
由香はくちゅくちゅと音を立てながら、俺のものを咥えて、吸って、唇で扱いて、にじみ出てきた液を自分の唾と混ぜて飲んでくれる。
苦くて塩っぱくて仄かに甘いその混合液が、由香にとってのモーニングコーヒーなのだそうだ。
 
生命力に満ち溢れた、温かくて瑞々しい粘膜に覆われた肉の穴が俺を包み込み、小さな舌が敏感な部分を撫で回し、突付き、擦ってくれる。
 
寝起きでランニングとトランクス姿の兄に、夏用の女子中学生制服‥白い半袖セーラー服を着た実の妹がお口で奉仕しているとゆう倒錯的な状況に‥
なによりも小さな口を精一杯大きく開けて、歯が当たらないように気を配りながら健気に奉仕してくれる妹の姿に、俺はもう辛抱堪らなくなってしまう。
 
な、なあ‥ 由香。
 
「なぁにお兄ちゃん。もう我慢できないの?」
 
小生意気可愛いとゆうか、俺から口を離して余裕たっぷりに笑う妹の、歳に合わぬ艶っぽい表情に、俺は思わず「うん」と言いそうになってしまう。
 
このまま口に出してしまっても、由香は喜んで飲んでくれるだろう。しかも一滴も残さずに。
何故かは分からんが、我が妹はこの不味いだけのものを飲むのが好きなのだ。
 
無論 俺の中身が空になってしまうんじゃないかと思う程に、妹の口に勢いよく流し込んだものを飲んでもらうのも、その後で尿道に残った分を吸い出して貰うのも、それはもう気持ち良いんじゃが‥
 
やはり兄として、男として、一方的に気持ち良くしてもらってばかりとゆうのは気がひける。
 
 
 
由香。お口はこれくらいで良いから、久しぶりに俺の腰の上で踊ってくれまいか。
お前とのえっちな遊びを再開してから‥ いや、今は遊びじゃなくて本気なんだが‥まだ一度も踊ってもらってないからのう。
 
「‥本当にあれが好きなんだね」
 
うむ。あれは好きな体位三本指に入るな。
 
 
由香は飲めないことが多少不満そうだったが、「二人で気持ち良くなろう」と誘うと昔を思い出したのか乗ってくれることになった。
夏用制服のスカートを脱いで俺のベッドに上がろうとする妹に、俺はショーツも脱いでもらうように頼む。
 
「‥え?」
 
と、驚きと戸惑いと僅かな期待で固まる妹に、俺は机の引き出しからちょっとした小道具を取り出して、見せる。
 
人類の英知、新素材を使ったスキン系避妊具じゃっ!
 
いわゆるコンド○ムの類じゃが、これまでのゴム製品とは薄さも強度も熱伝導率も桁違いの代物 ‥なんじゃそうな。
俺は普通のコ○ドームすら使ったこと無いから比べ様もないけどな!
 
‥何の自慢にもならんわい、畜生。
 
 
二ヶ月程前に、試供品として一枚だけ貰ったんだが‥ついさっきまでコロリと忘れてた。
まぁ、当時の俺には使う相手も居なかったからなぁ。
 
 
と、ゆうわけで 下半身素っ裸な俺がベッドに仰向けで寝そべり、同じく腰から下は何も身に付けていない‥ あ、靴下は履いたままか‥由香が俺を跨いで、熱く潤んだ肉の谷間でそそり立つ俺の肉柱を挟み込み、そのまま俺の下腹に押し当てるように肉柱を倒してくれる。
 
さあ、妹よ。俺の為に、俺の為だけにベリーダンスを踊っておくれ。
ハーレムの女が、主人を喜ばせる為に踊る淫らな舞を。
 
 
 
 
 
「お兄ちゃんのが、ひくひくしてるよぅ‥」
 
うむ。とても気持ちよいぞ妹よ。
俺が再び動くように促すと、由香は俺を半ば挟みこんだまま、俺の上で腰をくねらせ始めた。
 
 
由香は喘ぎながら、俺の肉棒を自分の肉で挟み、押さえ、擦りつける。
まだまだ小さくて細くて軽いけど、妹の腰使いは立派に女を感じさせてくれる。
 
四年前とは違い、俺と由香の下半身は素っ裸だ。
互いの肌と肌の間にあるのは、俺の肉棒を覆う合成樹脂の極薄皮膜一枚っきり。
しかも画期的新素材と看板を掲げるだけあって、感触は素肌と殆ど変わらない。互いの血の熱さも脈拍もしっかりくっきりと感じ取れる。
 
見ての通り、離れて見ると挿入してそうだが、実際に妹の中に入っているわけではない。いわゆる素股とゆうヤツだ。
妹の入り口‥玄関先ぐらいの位置には触れているけどな。
 
 
 
俺はこのベリーダンス‥女騎乗位とゆう体位が大好きなんじゃが、この体位のどこが良いのかと訊かれれば‥最大の長所は表情なんじゃよ。
 
俺に跨った妹は、俺を気持ち良くさせる為に懸命に腰をくねらせてくれる。
しかし、互いをこすり合わせているわけじゃから、当然ながら由香の方も気持ち良くなってしまう。
俺も妹に気持ち良くなって欲しいから、下から腰を突き上げたり、由香の胸や下腹部を掌と指で刺激してやったりしているしな。
 
で、気持ち良くなってしまうと、由香の身体は快感を受け止めるので精一杯になってしまい、腰の動きが鈍くなってしまうんじゃよ。
動きが鈍くなると快感が薄れて、由香はまた動けるようになるんじゃが‥
ある程度動いてしまうと、またもや気持ち良すぎて動きがとまってしまう。
動いても動いても、気持ち良くはなれるけど、もの凄く気持ち良くはなれない。
このままだと由香が欲しがっている、溶けてしまいそうな快楽は、決して手に入らない。
 
欲しくて堪らないものが、あと少しなのにどうしても手に入らない。
そんなもどかしさと切なさでいっぱいになってしまった妹は
 
「お兄ちゃん! お願いっ」
 
と我慢しきれなくなって、俺に気持ち良くしてくれと懇願してしまう。
ここまで来るまでの表情、その全てが堪らなく可愛い。
 
俺はすぐさま体を入れ替えて、由香をベッドの上に組み伏せ、快楽に疼く妹の肉にはちきれんばかりの俺の肉棒を押し付けて、止めを刺すべく擦りたてる。
 
「お兄ちゃん。由香にお兄ちゃんをください。‥もう由香は」
 
妹はこのまま一気に貫いて欲しがっているが、生憎と俺にはその気がない。
‥今のところは、だけどな。
俺は ある程度腹が減ってから飯にする主義なのだ。
由香の懇願を無視して、腰の動きにラストスパートをかける。
 
 
「‥おにひ‥ちゃ‥」
 
入り口あたりを掻き回すだけとはいえ、敏感になっている妹の身体から湧き出る快楽は、もう妹の言語中枢をマヒさせつつある。
 
そして、俺と由香は言葉も出ない快楽のうちに その頂点まで一緒に上り詰めて、果てた。
 
 
 
 
「‥あつ‥のが‥どんどんでて‥ぁぅ‥」
 
まだ妹のなか‥とゆうか入り口に半ばめり込んでいる俺の肉棒から、出ている感触が薄い皮膜越しに分かるのだろう。
由香は呆然と陶然の中間ぐらいな表情で、俺のものが出尽くすまで じっとその感触を味わっていた。
 
 
 
 
 
互いに汗を拭いたり拭きあったり着替えたり、と情事の後始末をした俺と妹は母さんに呼ばれるままに一階に下り、朝食の席についた。
俺はその前に母さんに「ご飯の前に顔を洗ってきなさい」と怒られ、洗面所に行かされてしまったがな。
 
おっと、言うまでもないかもしれんが、俺は後始末のついでに身支度を済ませている。今は夏用学生服姿だ。
 
母さんに「貴方たち本当に仲がいいわねえ」などと呆れられながら朝食を済ませる。
 
 
 
そろそろ時間だな。学校に行くとしますかね。
 
俺と由香は並んで登校する。由香が通う中学は俺の高校の隣なのだ。しかもお互いの教室も歩いて3分かからないほどに近い。
校則では一応他校の訪問は、正門または裏門を通って相手校教員の許可を受けてから教室に向かうことになっているが、そんな規則は余程固い生徒以外は守ってないな。
 
ところで‥ 世の中には、周りの目も気にせず手を繋いだり腕を組んだりして登校する‥バカップルとか呼ばれる連中がいるよな?
つい一昨日までの俺は、恥知らずなバカップルどもを見ては私憤と公憤が混じった怨念とゆうか嫉妬の念をたぎらせていたわけじゃが‥
 
いざ自分に彼女ができると、由香とお手手繋いで歩きたい気持ちでいっぱいです。
世の中、体験してみないと分からないことだらけだなぁ。
 
まぁ、本当にイチャイチャベタベタしながら歩くわけにもいかんがな。
そんなことしたら、俺と由香は『ご近所でも評判の仲良し兄妹』から『ご近所で評判の仲が良すぎる兄妹』になりかねんからなー。
 
 
 
 
 
 
さて、あっとゆう間に放課後だ。なんせ今日は土曜日で授業は三時間だけじゃからのう。
ちなみに中学校の土曜日は四時間授業なのだ。かわりに中学は水曜日が五時間だけどな。
 
何が言いたいかとゆうと、俺がHRを済ませて学生鞄片手に校庭に出た時間だと、由香の通う中学校はまだ四時限目の最中。
そして我が妹の土曜日四時限目は体育なのじゃよ。
 
ふむ。今日の授業はソフトボールか。
初夏の日差しを浴びた女子中学生たちの体操服姿が、目に眩しい。
同じ学年の筈なのに、中学二年生はお子様体型から大人顔負けな娘さんまで実に様々だ。
 
ああ、かえすがえすも昨年ブルマが中高一斉に廃止されたのが痛い。
隣の高校なら中学に引き続いて沙希ねぇのブルマ姿が拝める‥ とゆうのが、俺が進学先を決めた理由の一つなのだ。
しかし、俺の高校入学の年にブルマは廃止されてしまった。
 
 
いやまあ、ブルマが廃止された理由も分かるんじゃよ。
女の子側からすれば、ブルマは身体の線が出るから恥ずかしいそうじゃし。
ただ、代わりに採用された短パンとゆうか半ズボンが色気の欠片も無いデザインでのう‥
 
見た目は悪いが通気性抜群で実用性は高いと聞くし、ブルマから半ズボンに切り替えてからは痴漢とか露出狂とか盗撮犯とかの変質者による被害が半減したそうじゃから、元に戻せとは言わん‥
 
 
うむ。悲しくはあるが、これも時代の流れなのだろう。
 
只のブルマ好きはともかく、ブルマ復活運動なんぞやっている男は女の子の都合なんて何も考えてない鬼畜なんじゃよ。そうに違いない。
そうに違いないんじゃよ。誰かそうだと言ってくれ。
 
 
さて、なぜか知らんが目から水が出てきたのでブルマ談義はここらで止めといて‥
 
 
 
俺が中学のグラウンドのバックネット裏に行くと、丁度由香が二塁打を決めたところだった。
我が妹は割と良い打者なのだ。長打力こそ無いが、球を選ぶ目と足の速さが群を抜いとるからのー。
 
続く数人の打者が打った安打に押し出されてホームに帰る由香に手を振ると、妹は俺に手を振りかえしてくれた。
 
授業の邪魔になってもいかん、とっとと帰るか。
 
 
 
そして俺が校門から出ようとすると‥
 
「おーい、与渡くーん」
 
とゆう声に振り向いた俺が見たものは‥ 駆け寄ってくるクラスメイトにして心の友である眼鏡っ娘、九条虎美(くじょうとらみ)さん。そしてその後ろからやってくる先輩にして沙希ねぇの親友である剣道娘、佳夜原くぬぎさんの姿だった。
 
 
 
 
 
さてと、くぬぎさんについては前に話したと思う。
ポニーテールがよく似合う、爽やかな美少女剣士だ。
 
 
で、九条さんこと虎美のことを一言で言い表すなら、ベストオブ眼鏡っ娘だ。
眼鏡っ娘とは眼鏡が似合う女の子‥ いや、眼鏡を掛けることで可愛さ(美しさ)が引き立つ女の子のことだ。俺的解釈ではな。
 
ごく普通の背丈にごく普通の体重とプロポーション。色は普通だが多毛気味なのでモサモサになってるショートヘア。
名前は虎だけど顔も動作も猫っぽい、可愛いけど色気ゼロなやんちゃ系の眼鏡っ娘。
俺が知る限り一番眼鏡が似合う女子高生。それが俺にとっての虎美なのだ。
 
もっとも虎美と呼んでいるのは俺の脳内だけだ。本人は名前で呼ばれるのが嫌いなので、リアルでは「九条さん」と呼んでいる。
虎美の方が「与渡くん」と呼んでいるのに、俺が呼び捨てにするわけにもいかんからな。
 
なんでまた虎美は自分の名前が嫌いなのかとゆうと‥
彼女の親父さんが、某西の大都市を本拠とする最近妙に勢いが良い某球団の熱烈な信者(ファン)で、彼女が産まれたときに母親初め周囲の反対を押し切って『虎美』と名付けたんじゃそうな。
 
虎美のお姉さん(虎美は三人姉弟の真ん中なのだ)のときは、親父さんの親(虎美の祖父母)が反対してくれたんじゃが‥
虎美のときには既に他界していて、嫁さん(虎美のお袋さん)では止めきれなかったらしい。
 
‥‥名前は一生ものじゃからのー。
恨むのも無理はないかもしれん。親父さんの虎狂いもあって、幼少時はイジメの原因にもなったらしいし。
俺と妹は普通に名付けられて良かったわい。まぁ「英輔の息子だから大輔/美香の娘だから由香」とネーミングは極めて安直なんじゃがの。
 
そんな訳で、虎美は下の名前を呼ばれるのが嫌いなのだ。野球と甲子園球児と某球団は、もっと嫌いだけどな。
 
 
 
‥ちと余談になるが、虎美がどんなやつなのか良く解ると思うので、話しておこう。
 
虎美が7歳のときに、弟が産まれたそうなんじゃよ。
待望の男の子に舞い上がった親父さんは『勝虎(かつとら)』と名付けようとしたそうなんじゃが‥虎美は絶対阻止を決意して「弟の名前に虎の字を付けたら店を焼く」と親父さんを脅したそうなんじゃ。
 
それでどうなったかって?
トラミの家‥一階が甘味所を営業している‥の裏の壁には、今でも焦げ跡が残っておるよ。
この目で見たから間違いない。ボヤで済んで良かったわい。
 
この話(エピソード)を聞いたとき、俺は思ったよ。こいつは俺の同類だ、とな。
前々から気が合うやつだとは思っていたが、その日から虎美は俺の「心の友」となったのだった。
一方的に だけどな!
 
結局、弟くんの名前に虎の字がつくことは避けられたそうな。
とゆうのも虎美は過激すぎる火遊びの罰として、お尻百叩きのうえ物置に閉じ込められたんじゃが‥
その翌日には虎美のお姉さんが、どこからか集めた数十匹に及ぶゴ○ブリを営業中の店内にばら撒こうとして直前で取り押さえられる ‥とゆう事件が起きたからなんじゃよ。
 
流石の親父さんも姉妹揃っての抵抗に妥協せざるを得なくなり‥ 弟くんは「北斗(ほくと)」と名付けられたんじゃ。
虎は十二支で東北を示す→東北=北東→北斗 とまあ、そうゆう政治的妥協の産物らしいがな。
 
なんにせよ、虎美とはこんなやつだ。
元気で、やんちゃで、サッカーからジャーマンメタルまで俺と熱く語りあえる貴重な人材なんじゃよ。
 
 
 
しかし、二人とも俺に何の用なのかのう?
 
 
 
 
 
くぬぎさんの用件は、俺に試合に出て欲しい とゆうことだった。
 
「来週、うちの男子剣道部が他校の剣道部と練習試合する予定なんだが‥ 一人故障者が出てな」
 
だからといって俺が出る理由がないでしょう。俺は剣道部員じゃないし、段も取れてない半端者ですよ。
 
「なら早く昇段試験を受けろ。お前ほどの才能がありながら、何故生かそうとしない」
 
一年のとき、俺はくぬぎさんから半分マグレで一本取ってしまったことがある。
で、くぬぎさんは俺について何か勘違いしてしまったらしく、それ以来剣道部に入るよう勧誘し続けているのだ。
くぬぎさんは、俺を男子剣道部に入れて選手層を強化したいらしいのだが‥
 
 
 
くぬぎさんは俺を買いかぶり過ぎなんですよ。
 
「そんなことはない。たとえ半分は偶然だとしても、三段の私から一本取ったのだ。大輔の実力は初段以上のはずだ」
 
 
ねえ、くぬぎさん。
一昨年と去年の連続で全国大会に出た女子剣道部に比べれば、今ひとつパッとせんかもしれんが‥
うちの男子剣道部だって、毎年地区予選の準決勝か準々決勝には必ず残っている強豪でしょうが。
 
次の試合で勝たないと潰れてしまう とゆうような弱小部活動のピンチなら、俺も及ばずながら力になりますよ。
でも剣道部の一年には、俺より使える新人が幾らでもいるでしょうが。
レギュラーが故障したのなら、新人を起用すべきです。
 
「大輔こそ今年の一年生を過大評価してないか? 向こうも強豪校だ。一年生では通じる訳がない。お前はうちの男子剣道部が負けても良いと言うのか?」
 
ええ。負けたって良いじゃありませんか。
試合の負けは負けに入りませんよ。だって、負けても死んだりしないし。
負けて悔しいなら もっと練習に励めば良いんですよ。
勝つも負けるも、剣道部の力だけで決めるべきです。
俺みたいな部外者を入れて試合したら、勝っても負けても悪い影響しか残りませんよ。
 
「分かった。そこまで言うのならこれ以上は誘うまい」
 
邪魔したな と、くぬぎさんは踵を返し、足早に去っていってしまった。
 
うむむむ。
 
いや、俺は間違っていないはずだ。
自分の腕ぐらいは分かっている。俺は素人ではないが、段持ちの連中と渡り合えるほどの腕はない。
 
 
 
はて? しかしくぬぎさんの最後の一言が気になるな。何を邪魔したとゆうのだろう。
 
「それはね、あたしの用事が残っているからだよ〜」
 
考えていると虎美が俺の頬を抓ってきた。
ちょっと痛いんですけど‥ 俺が何かしたか?
 
「昨日も一昨日も、手伝いに来なかった」
 
うを!?  そういえばそうだった。
昨日は妙に疲れてたから、演劇部を‥つまり虎美を手伝いに行かなかったんだよな。
 
演劇部は来る六月公演を目指して鋭意準備中なんじゃよ‥ 
虎美は劇の中では端役だけど、そのかわり大道具を担当している。毎日学校に残って、背景セットとかの大物を作っているのだ。
 
「おかげであたしゃ、夜遅くまで残って一人寂しくカナヅチを‥」
 
ううっ 済まんのう 虎‥いや九条さん。
俺は沙希ねぇに奢って貰った食事代の代わりに演劇部で働いているんだが、虎美と組むことが多いんだよな。
 
「悪いと思うなら、今日のお昼は与渡くんが奢るのだ」
 
喜んで。 と、言いたいところなんだが、いかんせん懐具合が‥
回る寿司ぐらいなら なんとかなるかな?
 
 
 
 
 
回る寿司にするぐらいならうどんの方が良い とゆうことで俺と虎美は学校の近くにあるうどん屋『釜七』に食いにいくことにした。
こうゆうところも、虎美とは意見が合うんだよな。
寿司だとそれなりのものしか食えない金額でも、うどんなら最高のものが食えるからな。
 
この『釜七』の主人は本場で10年修行したと言うだけあって、なかなかの腕前なのだ。たぶんこの街で一番美味いうどん屋がここだと思う。
 
 
ちなみに、本日土曜日は演劇部の部活動は休みになったのだそうな。
根をつめても能率は上がらん とゆうことらしい。
 
 
 
飯時だけあって店内は混んでいたが、奥のほうになんとか空きがあった。
 
虎美が月見うどんと稲荷寿司、俺が肉うどんの麺とワカメ増量を注文する。
ついでにおでんも何本か取ってくるか。
個人的には、うどん屋のおでんは夏場に食うべきだと思っている。商品の回転が遅いぶん、よく煮込まれて味が染みているからな。
 
虎美と二人で、はふはふとおでんを食い、食う合間に色々と話す。
家族のこと 学校のこと 街のこと 贔屓のサッカーチームのこと ‥色々だ。
 
 
取ってきたおでんを食い尽くしたあたりで、注文したものがやってくる。
眼鏡を曇らせつつ またもやはふはふとうどんを啜る虎美の笑顔に、俺は妙に嬉しくなってしまう。
本当に美味そうに飯を食うやつなんじゃよ、虎美は。
 
こいつを見ていると、世のミツグ君の気持ちが少しだけ解るわい。
新鮮な魚を咥えた猫のような虎美の表情を見ていると、幾らただ飯食われても許してしまいたくなる。
実に奢りがいのあるやつなのだ。
 
 
‥む、いかんな。
咥える などと考えていたら、昨夜由香に咥えてもらったときのことを思い出してしまった。
俺の妹、由香は俺の精液を本当に美味そうに飲んでくれるんだ。
 
 
 
虎美は恋人も付き合っている男もいないらしいが、やはりいつかは男を咥えたりするのかなあ?
どんな顔で咥えたりしゃぶったり舐めたり‥飲んだりするのだろう。
やはり不味いから嫌がるかなあ?
それとも、由香のように喜んで‥ いま半熟玉子入りスープと化したうどんの汁を飲んでいるように、美味そうに俺の精液を飲み干してくれるのかなあ。
 
 
「‥うどん、のびるよ?」
 
ふと気が付くと、月見うどんをすっかり平らげた虎美が、稲荷寿司片手に俺の顔を覗き込んでいた。
怪訝そうなその顔を見ると、俺は相当な間抜け面をしていたようじゃの。
 
いかんいかん。
なんちゅう不謹慎な‥とゆうか不埒な妄想なんじゃ。
虎美に俺のものを咥えて欲しいとか、その上で口の中に出したいとか、出したものを残さず飲んで欲しいとか‥
飲みきれずに吐き出してしまう虎美の顔に浴びせかけたいとか‥
次から次に湧いてくる妄想を消し去るべく、俺は伸び気味のうどんを勢いよく啜る。
 
駄目だ、ちっとも味が分からん。
 
 
 
 
 
 
飯時で混んでいる店に長居する気にもなれないので、俺と虎美は昼飯を食い終わると早々に出ることにした。
何故か勘定のときになって 偶にはあたしが奢るよ と虎美が言い出したが、俺が払うと言ったからには俺が払うと断ったので、少しばかり揉めた。
書き入れ時の飯屋で口論するわけにもいかんから、結局は双方が折れて高校生らしくワリカンでいくことになったがな。
 
 
「‥なんか今日の与渡くん、変だよ」
 
うん。今日の俺は変なんじゃよ。
なにせ、虎美相手に妄想をたぎらせているぐらいだしな。
 
「大丈夫? 何か悩みがあるなら、相談に乗るよ?」
 
いやそれには及ばん。俺個人の問題だしな。
とゆうか、「俺、さっきから頭の中で九条さんのこと犯しているんだ」とか言える訳がない。
 
しかし、今まで虎美のことを色気ゼロだと思っていたが、よくよく見れば高校生に相応しい健康な色気があるなあ。
 
 
虎美の予定は、夕方まで空いているそうだ。
普段ならカラオケかゲーセンかスポーツジムか‥遊ぶ金がないときは互いの家にでも遊びに行くのじゃが‥
今日は止めといた方が良いな。
 
このまま虎美の部屋で二人っきりにでもなろうものなら、押し倒してしまいかねん。
おかしいのう。
なんでまた、虎美相手にこんな気持ちになるんじゃろう?
確かに虎美は可愛いが、これまではこの女に対してそんな感情を‥ 
 
ん?
 
そうか、分かった。
俺は虎美のことを女だと思っているんだ。
この前会ったときはそうじゃなかった。虎美は俺にとって性欲の対象ではなかったからだ。
何故かは分からんが、今の俺は虎美を生身の女として見ているんだ。
 
 
 
 
 
「じゃ また来週、ね」
 
今日は体調が思わしくない‥とゆうことで虎美を駅まで送って、そこで別れることにした。
改札口まで見送ってから、駅前に降りる。
 
このところの俺はどうかしている。
会う女ことごとくに発情しているわけではないが、虎美や百合恵のように今まで興味の範囲外だった女子にどぎまぎしてしまうようになるとは‥ どうしたものかのう。
 
 
と、人に言えない悩みを抱える俺を、にやにや笑いながら見ている二人組みがいた。
昔懐かしの‥前世紀の遺物とでも言うしかない、ぶかぶかの学生ズボンを穿いてシャツの裾を放り出した時代遅れのヤンキー二人組みだ。
 
 
「オス! お久しぶりッス、大輔さん」
「お久しぶりっす」
 
 
なんじゃ、誰かと思えばジョーとヤスかい。
 
 
時代遅れの軍艦頭(リーゼント)に決めている、頭悪そうなのがジョー。
五分刈りに剃り込み入れている、これまた頭悪そうなのがヤス。
 
この二人は妹と同じ‥つまり俺が通っていた中学の三年生で、俺の後輩なんじゃよ。
本名は忘れた。ジョーとヤスで通じるから問題はないがな。
 
俺はヤンキーではないし喧嘩もそれほど強くはないんじゃが、喧嘩の場数はそれなりにこなしている。
あと、こいつらが中一の頃から色々面倒を見てやっているので、こいつらは俺を先輩と立ててくれているのだ。
 
まぁ、こいつらは 欲しいものができればバイトで金を稼ぎ、好きな女ができれば思い悩んだ末に正面から告白して振られる ‥とゆう、今時珍しい爽やかなやつらなんじゃ。
何故にヤンキーなんぞやっとるのか分からんぐらい善良なやつらなんじゃが、頭は悪い。
その悪さは俺と同等かそれ以上‥とゆうもの凄さなんじゃよ。
俺が面倒見てやりたくもなるのも分かるじゃろ? 本当に頭悪いからのう、こいつらは。
 
 
「さっきの人が今の彼女ッスか? 可愛い人ッスねー」
 
‥オイ。 ジョーよ、それはイヤミか?
『今の』とは何だ今のとは。それでは前にも彼女がいた様に聞こえるだろうが。
イヤミか? それはついこの間まで17年に及ぶ『彼女いない暦』を過ごしていた俺に対するイヤミなのか?!
 
「‥てことは、告白うまくいったんすね! よかったっすね!」
「おめでとうッス!」
 
お、おう。告白したとゆうかされたとゆうか‥両思いなことが分かってな。
 
 
こいつらは、俺と虎美が付き合っていると誤解しているらしい。
訂正するのも面倒なので、誤解させたままにしておこう。
 
 
 
俺に彼女ができたことを、我が事のように喜んでいる後輩二人に何か飲み物でも奢ってやろうとしたが、遠慮されてしまった。
様子がおかしいので問い詰めてみたら、この二人も『釜七』で昼飯を食おうとして、俺と虎美が勘定で揉めている所に出くわしたらしいな。
そして、飯も食わずに俺と虎美の後をつけていたらしい。暇な奴らだ。
 
 
彼女にうどんも奢れない、ふがいない先輩の懐具合を案じてくれたのか。
思いやりにあふれた後輩を持てた俺は幸せ者じゃのう。畜生。
 
分かった。そこの薬局の50円缶茶で妥協しようじゃないか。それなら良かろう?
ついでに何か買っておくかな。例の新素材スキンとか。
 
 
‥げ、普通の○ンドームの倍以上するのか、流石は新商品。
まあいいか、まとめて買っておこう。
 
「12×4で48個!? そんなに使うンスか?」
 
五月蝿い黙れ。つーか中学生が昼間っから酒を買うな馬鹿野郎。
 
 
 
 
後輩二人は遠慮してたくせに 結構買いやがってくれました。
流石に昼間から酒はヤバ過ぎるので、棚に戻させたけどな。
昼から酒飲んでいると駄目人間になるぞ。悪いことは言わんから茶とかカ○ピスにしとけ。
‥つまみは、まあ良いか。
 
 
俺がレジカウンターで清算していると、ジョーの携帯電話が鳴り出した。
一言断ってから、ジョーは店の外に出て電話を取る。こんなところまで一々律儀なやつなのだ。
 
 
支払いを済ませて店を出ると、ジョーのやつが妙に真剣な顔で話している。
何があったんじゃろうか?
 
「大変ッスよ大輔さん!」
 
電話を切って俺に向き直ると、ジョーは言った。
 
「昼高の奴らが、女の子攫って元倉庫の方に向かっているそうッス!」
 
なんじゃと!! 昼高生め、こんな所まで来やがったか!
こうしてはおれん! いくぞお前ら!
 
 
 
 
 
急がねば大変なことになってしまう。
 
俺と後輩二人は元倉庫‥ 駅から二百メートルほど離れた場所にある空き地へと急いでいた。
敷地自体は只の空き地じゃが、人が殆ど通りかからない場所なんじゃ。
倉庫が解体されて、その奥の道が潰されて袋小路になる前は地元のヤンキーが溜まり場にしていた場所なんじゃよ。
昼高の奴ら、よりにもよってそこにうちの高校の女の子を拉致って連れ込みやがったんじゃ。
 
 
 
さて、現場に着くのにあと一分はかかるから、その前にざっと説明しておこう。
昼高の奴らとは、ここから駅三つ離れたところにある『昼ヶ丘高校』の連中のことだ。
 
で『昼ヶ丘高校』とゆうのは‥ そうじゃのう、昔の少年漫画には全校生徒が皆ヤンキーや不良の類とゆう荒んだ学校が出てきたじゃろう。世間の認識はあれに近いな。
 
だがしかし、その認識は大間違いだ。
ヤンキーでいっぱいな不良校なんてものは、昼高に比べれば小動物と触れ合えるペット動物園『犬猫ランド』並に安全な場所なんじゃよ。
 
不良だヤンキーだDQNだといったところで、人間には変わりない。
無論、不良校には下らん奴も腐ったやつも大勢いる。割合で言えば普通の学校の何倍も何十倍もいるじゃろう。
しかし、不良の中には律儀なやつもいるし、親孝行なやつもいる。
親との折り合いが悪くても兄弟や後輩を大事にしていて、よく面倒をみているやつもいる。
人間嫌いでも、動物は好きなやつとかもいる。
 
ところが昼高には、そんなやつはおらん。
雨の日に、捨てられた子犬を拾う昼高生徒を見かけたら、実に嫌な気分になれるぞ。
昔の少女漫画と違って、昼高生に拾われた子犬は鍋にされるんじゃよ。
しかも連中は、動物はできるだけ痛めつけて殺した方が肉が美味くなると信じているから、散々に虐めてから殺すんじゃ。
 
いや、犬はまだ食われるだけマシかもしれん。一応食物連鎖には入っているわけだしな。
奴らときたら、食う気がなくても殺せる生き物は皆殺そうとするんじゃ。
 
 
連中の頭には義理とか信義とかゆう言葉がない。連中の心には慈悲とか思いやりとか約束とか平等とかゆう概念がない。
ついでに言うと努力とか誠意とか尊敬とか清潔とかの概念も無いな。
 
強者には媚び、弱者は踏みつけ、息を吸うように物を盗み、息を吐くように嘘をつく。
少しでも隙を見せれば言いがかりを付けてくる。女をみれば老婆だろうが幼稚園児だろうが構わず犯そうと襲ってくる。
そんな奴らなんじゃよ。一人の例外も無しにな。
 
いや、俺の先輩方によれば何年かに一人ぐらいは、まともな昼高生も出ることがあるそうなんじゃが‥
そういった、義理や信義や慈悲や思いやりや約束や平等や努力や誠意や尊敬といった概念が理解できる稀少な昼高生は、裏切り者として昼高関係者に始末されてしまうんじゃと。
幸か不幸か、俺は今まで一人もそんな希少種と出くわしたことはないがな。
 
 
 
生徒が全員ごろつき以下な奴らじゃから、卒業生も当然皆ごろつき以下。
卒業生の二割ほどはコネを通じて暴力団に入り、三割ほどは身内が経営する後ろ暗い企業に就職する。
一割ほどはなんとか大学受験資格を取って、大学に入って資格を取り、いわゆる『特定弁護士』などの知的なごろつきとして世間に迷惑を掛け倒す とゆうわけじゃ。
 
なんとか大学受験の資格を取る と言ったのは他でもない。昼高の卒業生には、そのままでは大学の入学試験を受ける資格がないんじゃよ。
 
そもそも昼ヶ丘高校とは、本当は高校ですらないからな。
終戦後の混乱期に外国人ギャングと組んだ暴力団が、空襲で焼かれた同じ名前の学校の敷地を乗っ取って、勝手に学校のようなものを造っただけなんじゃ。
 
その教室には『世界最悪の独裁者』として有名な某テロ国家の指導者の写真が掲げられていて、昼高の生徒は毎朝『偉大なる首領様の指導のもと世界革命に邁進する』ことを写真に誓い、テロ国家の国歌を歌ってから授業を始めるんじゃよ。
 
 
‥‥まぁ、信じてくれんでも良いよ。
実際に昼高生を見たことがない人に、信じろとはとても言えん。
俺の妄想だと思ってくれて結構だ。
俺だって、何でこんな奴らがのうのうと暮らしてられるのか解らんわい。
 
 
 
 
 
 
「大輔さん、こっちッス! その道は工事中で行き止まりッスよ」
 
おおそうか。最近このあたりを歩かないから、すっかり浦島太郎状態だな。
 
そろそろ倉庫跡に着くころだ。
俺はズボンのポケットからビーズ細工のような腕輪を取り出し、左腕に嵌める。
 
この腕輪は『怪力腕輪』とゆう魔界アイテムで、俺の筋力を二倍以上に上げてくれる優れものなのだ。
欠点は一度に1時間程度しか効果が続かないこと、筋肉や靭帯は強化されるが骨は強化されないので無茶すると骨折の危険があること、そして二倍の筋力を使えば二倍疲労することだ。
サタえもんから巻き上げたアイテムのなかでは、一番使い出がある代物だな。
 
サタえもんとゆうのは、俺に憑り付いてる‥とゆうか纏わり付いている悪魔だ。今は魔界に帰っているけど、そのうちまたやってくるだろう。
 
 
ヤス、ジョー、少し遅れて俺 の順番で倉庫跡に入る。
 
 
いた。
昼高の奴らだ。連中、必ず制服で出歩くから一目で分かる。
 
敵は全部で四人か、なら勝てる。
一人が奥で女の子‥うちの女子生徒だ‥を押さえつけようとしていて、残りの三人が通報してきたジョーとヤスの後輩らしい小柄な中学生二人を取り囲んで痛めつけている。
 
俺らが来るのを待ちきれずに止めに入ったか後輩たちよ。
よく時間を稼いでくれた。お前らは不良の鑑だ。後は任せろ。
 
ジョーとヤスは素手の二人を抑えろ。俺は木刀持っている奴を仕留める!
 
 
 
カンフー映画の主人公ならともかく、武器を持っている相手に素手で勝てるわけがない。
ましてや木刀は、真剣にほんの少ししか劣らないとゆう恐ろしい武器なのだ。
こちらも武器を使わないとな。
 
 
とりあえず木刀持っている奴に、学生鞄を投げつける。
このとき、あまり勢い良く投げつけないのがコツだ。思い切り当てても鞄では威力など知れたものじゃし、勢い良く投げたものが外れれば味方に当たるかもしれん。
要は牽制、フェイントじゃから ぽい とゆう感じで下腹部から腿のあたりに投げてやれば良い。
僅かでも注意が逸れればそれで良し。金的にでも当たれば大金星じゃよ。
‥あまりにも勢い良く投げつけると、鞄が痛むしな。
 
投げつけた鞄はあっさりと避けられた。だがそれで良い。
相手の突進は防げたし、次の手への繋ぎにはなる。
 
次の一手は、先ほど薬局で買った缶入り炭酸水だ。
ここに来るまで散々に振っておいたので、いい具合に発泡している。
缶の蓋を開け、噴出す炭酸水の泡を木刀男に浴びせ掛ける。液体の目つぶしとゆうのは避けにくいんじゃ。
 
そして、これも当てる必要はない。要は相手が2秒か3秒の間、木刀を振れないようにしてしまえばそれで良いんじゃよ。
怯んだ隙に組み付いて、武器を封じれるからな。
 
俺は柔道はあまり得意ではない。柔道部の黒帯連中には全く歯が立たない。
じゃが、色帯とならそこそこの勝負ができるんじゃよ。それに今の俺は筋力だけなら重量級の黒帯にすら優る。
多少強引な投げでも、素人相手になら充分通用するし、ここの地面はコンクリートだ。
畳の上なら大して効かない技でも、必殺の威力となるんじゃよ。
 
 
と、ゆうわけで木刀男は投げ一発でKO。
後輩どもの様子を見ると、一対一でまずまずの闘いを繰り広げている。一分かそこらは持つじゃろうて。
 
さて、肝心の四人目と被害者の女の子の様子は‥
女の子は制服のボタンが取れて、靴が片方脱げているが怪我らしい怪我はなし。犯されてもいない。
タイの色は一年生だな。
 
四人目は、既に下半身剥き出しになって女の子に襲い掛かっていたが、木刀男が倒されたので俺の方に向き直った。
 
俺は、思わず四人目の昼高生の股間に注目してしまった。
そして「うわっ小っせー」と正直な感想が口から漏れる。
俺の一物も自慢できる程のものではないが、四人目のそれは語るのも不憫なまでに貧弱な代物だった。俺の小指のほーがなんぼか立派、と言えばその貧相さが解ってもらえるだろう。
 
「たちとてぃとてしぃす!!」
 
どう聞いても日本語じゃない絶叫を上げて、四人目はナイフを振り回して俺に襲い掛かってくる。
昼高生にとっても、股間のものが必要以上に小さいのは男の沽券に関わるらしい。
 
良し、これで女の子を人質に取られることだけはなくなった。
 
 
 
俺は後ろにさがり、地面から木刀を拾った。
最初から拾って置かないのが味噌だ。素手のままなら相手を警戒させずに済むからな。
早い段階で木刀を拾うと、ナイフ男が女の子を人質に取る危険性がある。
ジョーとヤスが敵を食い止めていてくれるから‥敵に木刀を拾われる心配がないからこそ取れる作戦だがな。
 
いきなり不利になったことを悟ったナイフ男は慌ててさがろうとするが、もう遅い。
 
まず小手に一発。これでナイフ男は得物を落す。腕の骨にヒビぐらいは入ったじゃろう。
そしてすかさず眉間に跳ね上げ面打ち。眉間を外れても、鼻か頬か顎にでも入ればそれで良い。要は顔面に一発入れて動きを止められればそれでええんじゃ。
 
止めに上段から袈裟懸けの一撃。
人体を向かって左斜め上から右斜め下方向に木刀で振りぬけば、頭・首・肩・右腕と何処に当てても戦闘力を奪える。
 
一旦戦闘力を奪ってしまえば、後は油断しない限り確実に勝てる。
格闘ゲームと違って、喧嘩には体力回復も超必殺技も無いからな。一対一の状況だから邪魔も入らないし。
 
四人目の肩に命中。この感触からすると鎖骨が折れたようだ。
 
これは 小手→跳ね上げ面→袈裟懸け を一呼吸のうちに繰り出す俺の必殺技だが、道場では通じない技なんだ。
相手が素人ならともかく、段持ちには最初の小手がまず入らないし、跳ね上げ面打ちは防具で防がれてしまうし、袈裟懸けで肩に当てても一本取れないからな。
 
 
倒れた四人目の左腕に木刀で一撃入れて、こちらも折っておく。
酷いとか言わないように。片腕でも生かしておけば、こいつらは際限なく仲間を呼ぶからな。
 
倒れている元木刀男の両手も潰しておく。
昼高生相手の喧嘩に、情けは無用なんじゃよ。
 
 
さて‥ 後輩どもの戦況は と。
 
あ、ヤスが足を捕られて押し倒された。馬乗りになった昼高生が首を絞めようとしている。
すかさず近寄って、馬乗りになった昼高生の脇腹に木刀で一撃入れる。
これも感触から判断して、肋骨が何本か逝ったらしい。
ヤスも決して弱い方ではないので、この一発で形勢逆転だ。
 
さっきとは逆に昼高生の上に馬乗りになって殴りまくっているヤスから離れた俺は、今度はジョーの手助けに行く。
ジョーの相手は何か格闘技をやっているらしく、我が後輩は押され気味だ。
無駄に華麗で多彩な足技に翻弄されている。
 
ええい、ふがいない後輩どもだ。
いくら駅前から走ってきて体力を消耗しているとはいえ、派手なだけのへなちょこ蹴りに押されるとは‥恥を知れ恥を。
 
まぁ、所詮喧嘩は数じゃよ。
無駄に身軽な足技男も、俺が背後から木刀で殴ると動きが止まる。そこにジョーの左フックがまともに入り、以後は一方的な展開になった。
ジョーはボクシングを齧っとるからのー。ラッシュに捉えればまず負ける心配は無い。
 
先ほどから一方的な展開になっているが、これを可能にしているのが木刀とゆう武器であり、木刀を操る剣道とゆう技術なのだ。
木刀男への対処に失敗していたら、袋叩きにされているのは俺らの方だ。
 
初段にすら達していない俺の腕でも、これほどまでのことができる。
木刀とは、これほどに恐ろしい武器なんじゃよ。
なにせ、真剣(日本刀)は人類が発明した携行用白兵戦武器の中で最も優れた物の一つで、木刀は真剣にほんの僅かしか劣っていない代物じゃからのう。
 
 
ジョーとヤスが心ゆくまで殴り倒している間に、通報してくれた中学生たちの様子を見る。
大した怪我ではないな。鼻血は出てるが、頭は打ってないようだ。
 
 
後輩の後輩たちの怪我を確認して応急手当が終わるころには、ジョーとヤスの気も済んだらしい。
二人の相手をしていた昼高生は、ジョーとヤスの足元にボコボコに殴られた顔面を摺りつけて土下座していた。
何かよく解らんが二人に慈悲を乞うているようだ。
怪我そのものより、心が折れている感じだ。戦意を喪失している。
 
‥て、オイ お前ら土下座で済ませる気か後輩どもよ。
そこを退け。俺が手本を見せてやる。
 
 
俺は土下座している昼高生どもを木刀で打ち据える。滅多打ちだ。
悲鳴を上げて逃げようとするが、無論逃がしはしない。
重大な障害が残る可能性がある頭とか脊椎とか内臓は避けて手足を狙う。骨の二〜三本は確実に折っておかないとな。
 
 
「だ‥ 先輩、ちょっとやり過ぎじゃないッスか?」
 
うろたえるジョーに、俺は精一杯のドスを効かせて
 
馬鹿野郎。そんなこったからお前らは舐められるんだよ。いいか、昼高生を人と思うな!
 
と、怒鳴りつける。
こいつらはまだまだ甘すぎる。丁度いい機会だから、昼高生への対処法を教えておかないとな。
俺がヤンキーなら後輩連中を並ばせて往復ビンタでもくらわせている所だが‥
生憎と俺は一般生徒なので、先輩として説教はできてもヤンキーのこいつらに体罰を与えるわけにはいかないのだ。
 
 
俺は「よし、お前とお前はこいつらの身包み剥げ」とジョーとヤスに昼高生の持ち物を洗いざらい奪うように命じる。
一年生たちには「何か燃えるもの探してこい」と命じて、俺自身は敷地の隅に転がっていた大きな樽を転がして持って来る。
 
ちと余談気味だが、俺が卒業した中学校では 『昼高生の前では名前で呼び合わない』 とゆう慣習がある。だからこの場では「俺・お前・先輩」ぐらいしか使わない。
連中の報復を避けるための知恵なのだ。効果は小さいが、やらないよりはまだマシだ。
 
 
昼高生どもの財布から現金を集めると、二万ちょっとになった。
 
よし、これはお前らで分配しろ。俺の分はいらん。
 
 
そして、ズタボロになった四人の昼高生を樽に放り込み、一年生たちが集めてきた古雑誌やら木っ端やらをその上から放り込んで、ジョーが持っていたヘアトニックを発火剤がわりに振りかけてから、俺のライターで火をつける。
 
四年前の失踪事件以来、俺はライターを含むサバイバルセットを常に持ち歩くことにしているのだ。持っていると結構便利だしな。
 
 
放り込んだ可燃物が燃え上がり、樽の中から悲鳴の合唱が沸き起こる。
 
 
「せ‥先輩」
 
後輩連中は四人とも顔面蒼白。すっかり退いておるな。
よしよし、敵を騙すにはまず味方から。ここが演技のし所じゃわい。
俺は大きく息を吸い込み、後輩四人を怒鳴りつける。
 
 
馬鹿野郎!! こいつらは人間じゃねえ!
正真正銘の、ゴキ○リ呼ばわりしたら昆虫愛好協会から苦情が来るぐらいの屑なんだ!
 
 
俺は半分以上、演技でない激昂ぶりを見せながら樽を木刀で滅多打ちにする。
あ、木刀にヒビが入った‥ 安物はこれだからいかん。
 
 
こいつらは何だ! 言ってみろ!!
 
「「「「糞に集る蛆虫にも劣る害虫どもであります!!!!」」」」
 
お前らは何だ! 言ってみろ!!
 
「「「「害虫退治のボランティア(義勇兵)であります!!!!」」」」
 
 
よし、ではとっととこの場を離れるぞ。落し物や忘れ物はないな?
 
 
 
10
 
 
 
数分後。
俺と後輩どもと名前も知らない女の子は、一緒に駅の近くまでたどり着いていた。
角のタバコ屋の前に放り出しておいた薬局のビニール袋も無事だ。タバコ屋の婆さんに荷物を見張っててくれた礼を言っておく。
 
倉庫跡の方からパトカーのサイレン音が聞こえてくる。
俺が倉庫跡を立ち去るときに、警察に一報入れておいたからだ。
 
警察が犯人捜しに出ることはない。昼高生は完全に暴力団予備軍とみなされているからだ。
暴力団員が喧嘩でボコられて、警察に訴え出るわけがなかろう?
この事件も『学生同士の喧嘩』として処理されておしまいじゃよ。
 
 
よし、そこの二人。お前らは実によくやってくれた。
病院に行って治療して貰え。たいした怪我ではないと思うが念のためだ。町村医院の町村先生だ、知っとるよな。
もう話はつけてある、俺の名前を出せば料金も要らん。だが後で良いから保険証を持っていけ。
‥何? 保険証のコピーを常に持ち歩いているとな? 準備の良い奴だな。
気に入った。家に来たらお袋の飯を食わせてやろう。
行け。
 
‥あ、ジョーとヤスは残れ。ちょっと話がある。
 
 
なぁ ジョーにヤスよ。
お前らは、俺がやり過ぎとると思っておるじゃろう。
だがな、昼高生相手に普通の喧嘩をしてはいかんのじゃよ。どうもお前らはその辺りの理解が欠けておる気がするな。
 
昼高生相手の喧嘩は、ただ単に勝つだけではいかん。それでは逆襲される危険性がある。
絶対的な強さを見せ付けて勝たねばならん。それは解るな?
 
問題はそこなんじゃよ。
昼高生はお前らとは‥いや、日本人を含むどの人類とも発想が違うんじゃ。
比べてみろ。昼高生は日本の不良とは違う。
米軍基地の辺りにいる不良米人とも、たまに港に来るロシアの不良船員とも、中華街の跳ねっ返りどもとも、明らかに違うじゃろうが。
 
昼高生どもは空気が読めん!
洞察力とか論理構成力とかの類が無い! 
 
こと想像力とゆうものにおいて、奴らはミミズにも劣る。
昼高生に心理戦は通用せん。こちらが強いことを見せ付けるには、露骨でえげつない見せ付け方をせんと奴らは理解せんのじゃよ。
 
奴らにとって最も強いものは何だと思う?
そう。奴らの親玉、世界最悪の独裁者の悪名高きエロ映画好きのデブ野郎じゃ。
 
今頃奴等は‥俺とお前らとでぶちのめした四人は、警察に小突き回されとるじゃろうな。その上でゴミのように昼高に突き出されるじゃろう。
不法入国者で不法滞在者、暴力団予備軍でしかもクスリの密売や恐喝やら現在進行形で犯罪を繰り返しとる奴らじゃからな。
あまり警察を責めるなよ? 手ぬるい対応じゃとは思うが、あれだけでかい組織じゃと潰すに潰せん。
 
さて話を戻すが、奴らには日本の公権力もデブ野郎の権力も見分けがつかん。
俺ら善良な市民が警察に頼ることは、奴らにとっては奴らが党幹部の大物に頼るのと同じに見えるんじゃよ。
 
だから俺は精一杯、過激で残虐に振る舞い、後始末を警察に任せた。
奴らが俺に殺されても、昼高生の為には警察は動かん ‥と思わせるためにな。
今頃は奴らの頭の中では、俺は地元警察と癒着している有力者のドラ息子になっておるじゃろう。
‥まぁ、まるっきりの勘違いでもないがな。死んだ爺さんは街一番の名士じゃったからのう。
 
 
どうした? こんな話は嫌いか?
 
なぁ ジョーにヤスよ。
俺はお前らのそんな所が好きじゃよ。だが、他の事はともかく昼高生と揉めたときは迷わず他人を頼れ。
警察でも俺でも学校の連中でもいい。俺と連絡がつかなければ沙希ねぇか豊三郎伯父さんでも‥ なんなら手近の事務所に駆け込んでも良いぞ。
この街のヤクザ屋さんになら、爺さんのコネが利くからな。
 
奴等は必ず組織で動く。そして個人では組織には絶対に‥ あ、いや、若干名個人で組織に勝てそうな人も居ることは居るが‥ とにかく俺やお前らのような凡人は組織に頼らないと組織には勝てん。
個人で組織に勝つには、文字通り超人的な力がないとなあ。
 
 
 
さてと、説教はこれで仕舞いじゃ。
お前ら、今日は本当に良くやってくれた。おかげでこの街の治安も守られた。
 
 
「いやぁ〜俺らは当然のことをしたまでッスよ」
 
照れくさそうに頭を掻くジョー。
ヤスの方はとゆうと‥
 
「あの‥ 大輔さん。俺も大輔さんの家に飯食いに行ってイイっすか?」
 
と遠慮がちに言いだした。
 
そう言えばヤスの所は父子家庭で、しかも親父さんは身体壊して自宅療養中だったな。
ヤスは見た目は不良学生だが「おとっつあん御粥ができたわよ」の世界をリアルでやっている孝行息子でもあるのだ。
しかしヤスも中学三年生の男子、そんな生活をしていては家庭料理に餓えるのも無理はなかろう。
 
ヤスには「お前ならいつでも歓迎する」と言っておく。
嘘ではないよ。何故か俺の母さんも妹もヤスのことを気に入っているからな。毎日来たりしない限り大丈夫じゃろうて。
 
 
 
さて‥ 残る問題はこの女の子だな。 
 
見た目はなかなかの‥いや相当な美少女だ。容姿だけなら演劇部の皆さんに少しも見劣りしていない。
背丈や体格は普通だが、なんとも可憐な雰囲気がある。
温室の薔薇とゆうか座敷飼いの白ウサギとゆうか、誰かが守ってやらないと一日も持たずに死んでしまいそうな‥
そしてその姿を見たものに、なんとか守ってやりたい ‥と思わせてしまう、そんな女の子だ。
 
う、うーむ。今まで俺の周りには居なかったタイプだ。
由香はやたら元気だし、虎美はある意味俺よりもやんちゃだし、百合恵は俺を見るや否や言葉の機銃弾を浴びせてくるトーチカみたいな娘だからなあ。
 
 
君、名前は? 俺は与渡大輔、二年B組だ。
 
「知ってます。先輩は有名だから」
 
む。確かに俺は名が売れているからな。‥半分は『与渡沙希の従弟』としてだが。
 
「俺は鈴木丈ッス、三年一組」
「俺は本田康弘っす、同じく三年一組」
 
おお、思い出した。お前らそうゆう名前だったよな。
 
 
 
「ボクはわ‥ わわわ」
 
わが三つ?
 
「私、じゃなくてボクは萌っていいます。因幡萌です。萌と呼んでください」
 
因幡萌(いなばもえ)‥か、良い名前だなぁ。
では萌ちゃん。悪いが住所と電話番号教えてくれるかのう。‥ん、いや信じ難いかもしれんが下心あっての質問ではないぞ。
萌ちゃんの家を警察のパトロール範囲に入れてもらうためじゃよ。
さっきの奴らが萌ちゃんの顔を憶えているかもしれんから、万が一に備えてな。
俺やこいつらは慣れているから構わんがな。
 
ああ、大丈夫じゃよ。奴らは長い間一つの事に関われないからな。それが奴らの弱点なんじゃ。
なんせ奴らは稼ぐだけ稼いで、親玉の映画マニアの腐れデブに貢がねばならんからのう。
長時間一つの事件に関わって送金が途絶えようものなら『反革命的サボタージュ思想』の持ち主として強制収容所に送られかねん。
二週間も守り抜けば諦める。
それに奴らは常に組織で動くから、奴らから大掛かりな事を仕掛けるときは必ず分かるんじゃよ。
 
 
俺は萌ちゃんが教えてくれた住所と電話番号、クラスと出席番号をメモに取る。
 
 
 
「先輩。それに鈴木くんも本田くんも、本当にありがとうございました」
 
萌ちゃんは俺と後輩二人にペコリと頭を下げた。
 
「ボク、不良の人って悪い人ばかりだと思ってました。ごめんなさい」
 
まあ、こいつらはヤンキーとしては規格外じゃしのう。
 
 
「何言ってんだか‥ 良い人じゃないから不良なんスよ」
 
ジョーは照れくさそうにそっぽを向いてしまう。そしてヤスの方はとゆうと‥
 
「まあ、男として当然のことをしたまでだからよ〜 誉められたくてしたわけじゃねぇし。 でも感謝の気持ちを表したいっ てのなら‥ここに一発キスしてくれると‥ 嬉しいかなぁ〜」
 
と 萌ちゃんの前に拳あざのできた頬を突き出してみせる。
 
で、萌ちゃんはとゆうと、そんな馬鹿丸出しの中学三年生の不良の顔を優しく挟んで、目を閉じて、頬に軽く口付けした。
 
いや軽くじゃないかも。 ちゅっ とか音してるし。
 
 
「‥これで、いいですか?」
 
萌ちゃんはちょっぴり頬を染めて訊ねるが、された方は聞こえてないな、あれは。見事なまでに固まっておるわい。
むう。正直いって少し羨ましいな。ジョーよ、お前もそうだろう?
 
「べっつにぃ〜 俺は硬派ッスから」
 
そうか。それなら良いけどな。
 
 
 
しかし、不思議な‥とゆうか妙な娘さんじゃのう。
ヤンキーの二人が退くような仕置きを見ているのに、ちっとも俺を恐れていない。
普通、女の子とゆうものは暴力を嫌うものだからな。
 
俺の周りで暴力に免疫がある女子といえば、沙希ねぇとくぬぎさんだろうが‥
その二人にしても この世には必要な暴力もある と認めてはいるだけで、暴力自体を好んでいる訳ではない。
あ、虎美は例外な。あれは良くも悪くもフツーの女ではないから。
 
ところが萌ちゃんが俺らを見る目は、まるで憧れのロックバンドのメンバーに会えた追っかけさんのようにキラキラしている。
 
なぁ萌ちゃん。萌ちゃんは俺らのことが怖くないのか?
 
 
「え? だって先輩たちは良い不良なんでしょう?」
 
い、いやそうゆうわけでは‥ そんなに見詰めないでくれ。
 
「悪い人から、自分の大切なものや大切な人を守るために闘う、良い不良なんでしょう?」
 
うむむむむ‥  お、おいジョー、にやにやしとらんで助けろ!
 
「それはちょっと違うッスね〜 良い人だからでも、不良だからでもなくて、俺はこの街が好きだから、この街を無法がまかり通るような嫌な街にしたくないから昼高の奴らをぶちのめしたンスよ〜 アンタを助けたのはついでッス。 大体、大事なものを守るのは人として当然のことッスよ。不良だからじゃないッス」
 
「‥そうですね。不良かそうでないかは関係ないですね。ごめんなさい。ボク、やっぱり不良の人に偏見持っているみたいです」
 
おーい、萌ちゃん。偏見は持たないよりは持っていた方が安全じゃよ。
免疫全部なくなってカポジ肉腫で死ぬよりかは、免疫の過剰反応で花粉症になる方がまだマシじゃろ?
平均すれば一般生徒よりヤンキーの方が明らかに危険なんじゃし。こいつらのように爽やかなヤンキーはそうは居らん。
 
 
さてと、ヤスの石化も解けたようじゃし、警察署に行くか。
 
 
「え!? け、警察ですか?」
 
うん。パトロールの強化してもらうにも色々と打ち合わせんといかんしな。
例えば萌ちゃんの家族構成や生活サイクルが分からんと、効率的なパトロールはできんからの。
 
 
「そ、そうですね‥ あ、あのう先輩、少し待って貰えますか?」
 
ん? それはまぁ、少しなら構わんが。
俺がそう言うと、萌ちゃんは小走りで駅の手洗い場に行ってしまった。
 
ああなるほど、そうゆうことか。
警察署にもあるんじゃがな。待ちきれんかったのか。
 
そのまましばらく待つ。
 
 
おい、ヤスよ。血迷うなよ? 萌ちゃんはどうもズレた娘さんらしいから、アレは純粋に感謝の印だと思っておいた方が良いぞ。
 
何? もうこの頬は洗わない? 昔の漫画かお前は。
 
 
 
かなりの時間待ったが、萌ちゃんは降りて来なかった。
痺れをきらした俺は駅に上がって声を掛けてみるが、返事はなし。
通りすがりの婆さんに様子を見てもらうと、中には誰もいないと言う。
 
「何スかね、コレ?」
 
ジョーが手洗い場近くの床から拾ったものは、一枚のルーズリーフだった。
白い取り外し式のノート用紙には、ルージュか何かで大きく
 
『ごめんなさい −もえ』 
 
と書かれていた。
 
 
 
11
 
 
 
あれから1時間後。俺は警察署に来ている。
ジョーとヤスの二人は帰った。警察への用事は俺一人で済ませれるし、あいつらはヤンキーだからな。
親とか教師とか、『大人の世界』に反抗するのがヤンキーだ。
警察は『大人の世界』の代表みたいなものだから、ヤンキーとしては馴れ合いたくないのだろう。
 
 
「近隣の中学高校合わせて八校調べてみたけど、因幡萌とゆう生徒はいないわね」
 
むう。やはりそうでしたか。
 
 
 
いきなり消えてしまった不思議な少女、萌ちゃんに教えて貰った住所と電話番号はデタラメだった。
とゆうか‥ この電話番号どこかで見たことがあるなと思ってたが、この街で一番の老舗な畳屋の看板に載っている電話番号じゃねーか。もっと早く気付けよ、俺。
 
 
つまり俺の学校には、因幡萌とゆう一年生は居ないのだ。ほかの学校にも居ないのだ。
 
警察のデータバンクで調べて貰ったのだが、因幡とゆう姓の生徒や萌とゆう名の生徒は何名かいるが、因幡萌とゆう生徒はこの近辺には実在しない。
例えば隣高の三年に同じ名前の女子がいるが‥ こりゃ萌(もえ)とゆうよりは肥(こえ)だよなぁ。
 
昼高生や浪人生や専門学校や大学生、家事手伝いに入院患者まで当たってみたが該当者なし。
 
俺の記憶を元にモンタージュを作って調べてみたが、警察のデータに載っている約一千人分の顔写真‥この街と近辺の13〜18歳の女の子の中に萌ちゃんは居なかった。
骨格推定ソフトだけでなく、俺自身の目で見比べて確かめてみたから間違いない。
20人×50回は流石に目が疲れた。
 
似顔絵が似ていないとゆう可能性は低い。
ジョーとヤスの二人にも画像を送って、似ていることを確認してもらっているからな。
しかし、最近の技術は凄いものじゃのう。
10分もせんうちに、写真のよーにリアルな似顔絵が出来てしもうたわい。
 
 
 
さて、後輩どもの前では言わなかったが‥ 俺が地元警察と癒着している地方有力者のドラ息子ならぬドラ孫とゆう見方は、実はかなり正しい。
与渡一族はこの街の警察にかなりの影響力を持っているし、俺個人にも警察とのコネがない事もないからだ。
おおっぴらに悪用してはいないがな。
 
そのコネが、この部屋の主である犬塚麗子(いぬづかれいこ)警部補なのだ。
まぁ他にも警察関係のコネとゆうか知り合いは居るんじゃが、麗子さんが一番ヒマだからな。
 
‥いや、ヒマとゆうのは正しくない。
麗子さんも忙しいことには変わりないだろうが、他の人に比べれば俺の相手をしてくれるだけの余裕がある とゆうだけのことだ。
なんせ24歳で警部補、もうじき警部になるエリート警官じゃからのう。
 
麗子さんはここの警察署に研修とゆうことで預けられてはいるが‥ 
署員からすれば 下手に現場に出られて面倒なことになっても困るし、あまり邪険に扱って数年後には上司かその更に上司になる人の機嫌を損ねても困るしで、麗子さんには自制を求めたいところなんじゃよ。
 
とゆうわけで、近い将来この警察署の所長になることが内定している麗子さんは、今は研修中の幹部候補生として実地研修を受けつつ、地域に顔を売ったり署内の電子化に力を注いだりしているのだ。
で、暇を見ては俺の相手もしてくれている。
 
俺と麗子さんのコネは何かと言えば、単純に家がお隣さんだったからだ。
幼馴染とゆうには歳が離れすぎているが、俺にとっては物心つく前からの付き合いになる。
犬塚さんちは俺が10歳のときに、麗子さんの受験の都合で引っ越してしまったが、今でも付き合いは欠かしていない。
 
まぁ、犬塚家と与渡一族は爺さんの代から付き合いがあるそうなので、俺と麗子さんのコネとゆうよりは家同士のコネなんだろうけどな。
 
麗子さんは昔から聡明で優しいお姉さんじゃったが、大人になってからはクール&シャープさが加わって更に魅力的になったわい。
大人の落ち着きとゆうかなんとゆうか‥ いくら演劇部の皆さんが美人揃いとはいえ、この色香は十代の娘さんには出せんよなあ。
 
切れ長の目に見詰められると、俺はしてもいない悪事を白状してしまいたくなってくる。麗子さんになら、無実の罪で逮捕されても良い気がしてくるんじゃよ。
 
 
 
 
 
「書置きに使ったルージュは大手化粧品メーカーの一番売れている銘柄。この街だけでも扱っている店は50軒はあるわ。ノート用紙も同様。一応指紋も調べているけど‥ あの紙には大輔君と大輔君の後輩たちしか触っていないのね?」
 
発見してからは、俺とジョーしか触ってません。
 
「宜しい。でも妙に拘るのね。暴漢から助けた娘は偽学生だった ‥ではいけないの?」
 
助けたこと自体に、微塵も思うところはありません。
たとえ萌ちゃんが何者であろうと‥ 
名と姿を偽って援助交際やらなにやら、やましい事をしているふしだらさんであっても、昼高生の餌食にさせるわけにはいきませんから。
まぁ、俺は萌ちゃんはそんな娘じゃないと思っとりますがね。
 
その点は良いんですがね‥
今になって、妙な所に気付いたんですよ。
 
あの子、怖がってなかったんですよ。
俺や後輩どもを怖がってないのは、俺らを『正義の味方』と認識してしまったからとも思いましたが‥
萌ちゃんは、昼高生のことも全然怖がっていなかった。
 
普通、怖がるでしょう? 今日俺がぶちのめした奴は、ナイフの使い方からみて相当に人を刺し慣れてました。
激昂しているくせに、殺さずに戦闘力だけを奪う刺し方を狙ってましたからね。
殺す気で突っかかられてたら、俺は木刀拾う前に刺されてたかもしれません。
四人の中ではリーダー格だったようですし、かなりヤバイ奴でした。
 
そんなのに攫われて犯されかけたのに、萌ちゃんは全然恐れてなかったんですよ。
不可解でしょ?
言語を絶するような箱入りのもの知らずで、襲われたことの意味を知らないとか、自分の置かれた状況が理解できないぐらい頭の緩い娘だとも思えませんしね。
 
萌ちゃんは昼高生を「悪い人」と呼んでいました。嫌ってはいたけど、脅威とは見なしてないようでしたね。
俺の妹がダンゴムシを怖がるほどにも、昼高生どもを怖れてませんでしたよ。
あの娘は昼高生のことを、その気になれば指で摘んで捨てれる虫のように見てました。
 
 
「その娘、強そうに見えた?」
 
いえまったく。素人ですね。運動神経は良さそうでしたけど。
あれで強いとしたら、想像を絶するような達人ですよ。
 
 
「何にせよ、大輔君も気をつけた方がいいわね。大輔君の身体は大輔君だけのものではないのよ? 貴方に何かあったら、美香さんも由香ちゃんもどんなに悲しむことか」
 
ええ、親父が死んだときに思い知りましたよ。家族にあんな思いをさせるのはもうゴメンです。
 
 
「偽名を名乗る女の子と関りがあるかどうかは分からないけど、近いうちにこの街で何かが起こることは間違いないわ。一例を挙げれば、昼ヶ丘の学生ギャング団と中華街の愚連隊との間で緊張が高まっているの」
 
‥そりゃまた物騒ですな。妹にはしばらく港や中華街には近寄らないように言っときます。
 
「彼女には言わなくて良いの?」
 
え? 彼女? ‥って虎美のことですか? 
まぁ、大丈夫ですよ。アイツの家は丁度反対方向だし。
 
「あら、意外に冷たいのね」
 
 
冷たいと言われてもなあ‥ そりゃまあ虎美は可愛いし、よく見れば色気もそれなりにある。
気の合う友達でもあるから、何事かあれば‥とゆうか何か起きる前に助けてやりたい。
それだけの価値が、アイツの笑顔には有る。
 
しかし、麗子さんの所まで届くほど噂になっているのかな。俺と虎美の仲は。
付き合っているわけじゃなくて、俺が虫除けになっているだけなんだが。
虎美はあれで結構人気があるんじゃよ。
どうゆうわけか、特にストーカー気質の男に好かれる傾向があるがな。
 
色々と有ったんじゃが、虎美が演劇部に入り、遅くなった日は俺が駅まで送るようになってからはストーカーも出なくなった。
とゆうかそれでも無理矢理に言い寄ってくる奴は、俺と沙希ねぇとで叩き潰しただけのことだが。
 
 
 
‥‥はて? 考えてみれば俺と虎美は付き合っているように見えるかもしれんな。
一緒に飯食ったり、遊びに行ったりしているし‥ 
 
互いに生まれる前から付き合いがある従姉妹たちと妹を除けば、俺が女の子の部屋に入れて貰えたのは、虎美の部屋だけなんじゃないか?
俺の女友達とゆうか知り合いの女の子の中で、俺の家に来たことがあるのも虎美だけだし‥
 
母さんや由香や沙希ねぇや‥ 親族の女性方に贈るプレゼントを選ぶのに協力してもらったこともあるし、そのお礼に虎美が気に入った小物やら何やらを買って渡したこともあるし‥
 
でも2月14日のチョコレートは貰えなかったんだよな。義理でも良いから欲しかったんじゃがのう。
演劇部の皆さんと一緒にチョコフォンデパーティはやったけどな。
‥沙希ねぇやくぬぎさんは毎年ダース単位でチョコレートを貰っておるのじゃよ、主にファンの女の子達からな。
 
 
 
 
「可愛い娘らしいけど‥どこまで行ったの? もうキスは済ませたかしら?」
 
麗子さんは俺にのし掛かりながら、俺の学生鞄の蓋を開ける。
鞄の中から、駅前の薬局で買ったスキン系避妊具の箱が顔を覗かせた。
 
「こんなに買うぐらいだから、もう最後まで行ってしまったの?」
 
 
大輔君も大人になったのね〜 とか言いつつ、麗子さんは俺の首に手を回す。
ううっ‥ ずしりと重いが、嬉しい重さじゃのう。しかも沙希ねぇよりも柔らかい‥ これが大人の身体なんじゃろうか。
何とゆう香水かは知らないが、控えめな香りがまた俺の好みだな。
 
 
 
お武家様‥じゃなくて麗子さん。若い者をあまり虐めんで下さらんか。
 
「あら、虐めてなんかいないわよ?」
 
これが虐めじゃないなら何だと言うんですかいのー。セクハラですか?
つーか、仮にも警察官が警察署の一室で高校生の股間に手を当てて良いとでも‥ 
 
「ふふっ しばらく見ないうちにこんなに立派になっていたなんて‥」
 
止めてくださいお願いです気持ち良さ過ぎます。
 
 
むむむむ。悪戯にしては質が悪すぎる。一体麗子さんに何があったのだ? 
はっ まさかサタえもんのフライングか? おのれ腐れ悪魔め、独断専行は軍法会議じゃぞ!?
‥‥て、んなわきゃないよな。
サタえもんは俺に完全支配されているから、俺が嫌がることは何一つ出来ないはずなんだよ。
 
とかなんとか考えているうちに、麗子さんの手は俺のズボンのジッパーに‥
うはぁ お願いですから止めてください。て言うかもう勘弁してください俺の麗子さんへのイメージを粉砕しないで欲しいです。
 
 
「大人の女は嫌いじゃないでしょ? こんなに大きくなっているんだもの」
 
いやその確かに嫌いじゃありませんがとゆうか好きですが。
 
「なら、私で経験積んでおかない? 初めて同士だと焦って失敗してしまうかもしれないわ。私で練習しておけば、恥ずかしい思いをせずに済むわよ」
 
そう言って麗子さんは俺の前のデスクに浅く腰掛け、タイトスカートに押さえ込まれた長い脚を開いて、俺にガーダーで吊るしたストッキングとその奥の下着を見せ付けた。
 
「ね、大輔君。麗子お姉ちゃんと良いことしましょ?」
 
 
 
 
 
 
もう最終手段しかない。
俺は床に土下座して、麗子さんに謝ることにした。
これならもう誘惑されずに済む。
 
 
 
済みません麗子さん。
真に申しわけないですが、俺は麗子さんを抱かせてもらうわけにはいかんのです。
 
「‥彼女への義理立て?」
 
平たく言えばそのとおりです。あいつの処女は俺のもので、俺の童貞はあいつのものなんです。そう約束しているんです。
 
「黙っていれば、分かりはしないわよ」
 
ばれます。俺は女相手に通じるような嘘は言えません。
それに、俺は余程のことがない限りあいつ(由香)に嘘をつかないことにしています。
 
 
「初めて同士だと、色々失敗するわよ? 恥をかくかもしれないし、彼女を辛い目にあわせてしまうかもしれないし、それが原因で嫌われてしまうかもしれない」
 
そうかもしれません。
でも、あいつはたとえ俺が失敗しても、その失敗を一緒に受け入れてくれる女なんです。
 
「‥その娘のこと、そんなに好きなの?」
 
おれは土下座状態から顔を上げて答えた。
 
はい。なんせもう結婚どころか来世の再会まで誓ってしまいましたから。 ‥と。
 
 
 
 
12
 
 
 
そんな訳で30分後。
俺は我が家への帰り道を歩いているところなのだ。
 
結局、麗子さんは呆れながらも俺を赦してくれた。
彼女と上手くいったら、麗子さんの所へ報告に行くと約束させられてしまったがな。
 
どうも麗子さんは年下趣味らしいな。俺に前々から興味があったが、まだ子供だと思ってこれまでは手出ししなかったのだそうだ。
今は恋人もセフレも居ないから、一人身の寂しさを慰めに来てくれるのならいつでも歓迎する と言われてしまった。
 
 
なにやら惜しい気もするが、仕方がない。
浮気とゆうか、俺に女ができて由香が気付かないわけがないからな。
 
 
さて、誰でも子供のときは間抜けな勘違いをしていたことがあると思う。
例えば、歌の「ウサギ追いしかの山」を「ウサギ美味しかの山」とか「ウサギ追い鹿の山」と間違って憶えていたり とか。
あるいは、君が代の「細石の巌となりて」を「細石の岩、音鳴りて」と勘違いしていたり とか。そうゆう勘違いだ。
 
俺の幼少のみぎりの勘違いは、指きりの「指きり拳万、嘘ついたら針千本飲ます」の針千本を、魚のハリセンボンのことだと思い込んでいたことだ。
 
まあ、小学校中学年になる頃には間違いだと分かったのだが‥
俺と妹の間では、それからも指切りの「はりせんぼん」とは魚のハリセンボンのことだった。
実際に千本の針を買い集めるのは大変だが、フグ科魚類のハリセンボンなら魚市場に行けば直ぐに買えるからな。
 
 
 
何が言いたいかとゆうと、俺と由香は互いの純潔とゆーか初めてを交換すると『指きり』で約束してしもうたんじゃよ。
だから俺は由香以外で童貞を失えば、罰として生きてるハリセンボンを丸ごと一気呑みせねばならんのじゃよ。
 
言っておくが、由香は本気だ。
うちの妹は怒ると無敵モードに入ってしまうのだ。容赦がなくなるんだよ。
なんで与渡一族は怒ると怖い女しか居らんのかのう。
母さんによれば、母さんの姉さん‥死んだ美玖伯母さんも、それはもう怖い人だったと聞くし‥
 
前に一度、不本意ながら俺は妹との約束を破ってしまったことがある。
 
由香は俺の謝罪の言葉を全部聞き流して、魚市場でミノカサゴを買ってきた。‥あのトゲトゲで極彩色なヤツじゃよ。
その日は市場にハリセンボンがなかったから、代わりになるべく痛そうな魚を買って来たんだそうな。
 
小学生の妹に、生きてる毒刺魚‥鰓蓋ぱくぱくしているやつ‥を突きつけられて、丸呑みしろと迫られたときの恐怖は今も俺の大脳古皮質に刻み込まれている。
 
泣いて頼んで赦してもらったが、俺はもう二度と生の魚にはかぶりつきたくない。
あれ以来、俺は生け作りが苦手になってしまった。刺身もあまり好きではない。寿司は一年前ぐらいから普通に食えるようになった。
煮魚や焼き魚やフライは好きなんじゃがのー。
 
 
こんな怖い一面を持つ妹だが、それでも俺は妹の‥由香のことが大好きなのだ。
怒ると怖いが、怒らせさえしなければ、由香は素直で健気な妹でいてくれる。
やきもちには困ってしまうこともあるが‥ 由香の嫉妬は俺を独占したい、俺に独占されたいとゆう想いの表れだから、嬉しくもある。
 
 
 
 
考えてみると、俺の周りは美人さんだらけなんだよな。
 
 
妖艶とゆうか、大人の魅力な 麗子さん。
色々な意味で謎な、不思議美少女 萌ちゃん。
唯一の女友達で、友情以外のものも感じるようになってしまった 虎美。
喧しくて鬱陶しくて、でもしおらしい姿に少しときめいてしまった 百合恵。
穏やかで優雅な先輩、ちょっと大き過ぎる胸に悩んでいる 静香さん。
爽やかで快活な先輩、ちょっぴり頑固な くぬぎさん。
従姉であると同時に、俺の女神であらせられるハイスペック女子高生 沙希ねぇ。
 
 
でも一番好きなのは、由香なんだよな。
 
うん。
 
俺は由香のことが好きだ。
倫理とか善悪とか損得抜きで、由香のことが大好きなんだ。愛しているんだ。
 
間違った愛と言いたい奴は、言えば良い。
そんなものは、由香を妹に持ったことがない奴の戯言だ。由香を愛してしまったことがない奴の妄言だ。由香に愛して貰ったことがない奴の、世迷いごとなんだ。
少なくとも俺は認めん。認めてやらん。認めてやるもんか。
 
 
 
 
見慣れた街角、見慣れた住宅地を歩いて、俺は自分の家へ帰る。
歩きながら、携帯を使って妹に電話する。
 
 
「はい、由香でーす。どうしたの、お兄ちゃん」
 
 
おう。今帰るところなんだが‥
俺が帰ったら玄関で迎えてくれないかな?
 
そして、おかえりなさいのキスをして欲しいんだ。
我が愛しの妹よ。
 

 

読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます