トントントントン……
包丁の奏でる軽やかなステップ音が、朝日に照らされた厨房に響いている。
かなり本格的な、プロ顔負けの設備が完備された厨房である。
「〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪」
厨房の主は、そのほっそりとした裸身をエプロンだけで覆っていた。
所謂、裸エプロン!
そんな刺激的な格好をした厨房の主の正体は……
「ん〜〜♪ 良い出汁出てるねぇ、この味噌汁」
………シンジ・マリオネッターその人だった。
…書いてて気分悪くなった。


第三話  『後始末、三週間の過ごし方』


「よし、完成!」
大きなテーブルの上には、シンジと人形たちの分――合わせて七人分――が綺麗に並べられていた。
ちなみにメニューは、

目玉焼き
アジの開き
奈良漬
味噌汁
ほかほかご飯

――と極普通な朝餉のメニューだ。
しかし、なんで【裸エプロン】なんだ?
「いやね、昨日の夜ちょっと張り切りすぎちゃって、裸のまま寝ちゃったんだよ。まだ皆起きていないし、折角だから、この格好で驚かせようかと思ってね☆」
……さいですか。
ちなみに、シンジが【何を張り切っていたか】は、深く語らないで置こう。

『……うう〜。腰が抜けて立てません…』
ベッドの上でそう呟いたのは、一人の少女だった。
鴉の濡羽色の長い髪は微妙にほつれ、済んだ黒い瞳の周りには薄い隈が浮かび上がり、雪のように白い肌は何故か艶々していた。 ちなみに、一切衣服を身に着けていない。
ぶっちゃけ裸だ。
『流石に抜かずの十連発はきついです。…けど、この激しさもマスターの愛情表現。キラはとても嬉しいです…(にへらー)』
そう言って、少女は虚空に向かって緩みまくった笑みを浮かべた。
その幼い秘所から、大量の泡だった白濁液が、流れ落ちる。
……もうこの少女の正体はお分かりだろう。
シンジに仕える六体の魔導生人形内一体、【門番】キラ本人である。
何故、人形であるキラが人間になっているかというと、それが彼女たちの能力の一つであるからだ。
先日のキョウのように、粘膜接触による形態変化は、いわば戦闘用の姿である。
普段の人形形態を【第一封印】、人型を【第二封印】、そして真の姿が【第三封印】と呼ばれているのだ。
しかし、唯単に人の姿になるだけなら、そんなややこしい手順を踏まずに、簡単に変化できるのである。
まぁ、【第二封印】と比べて、力は大分落ちるが…
そんな訳で、人形たちは夜の情事や街中を目立たずに行動するときなどは、人型をとっているのだ(屋敷の中では面倒くさいのでやらないらしい)。
そんな訳で【夜のお楽しみ】の余韻に浸りつつ、キラはベットの上で眠り続けている仲間たちの様子を見る。
赤髪の少女、【決闘者】ランはベットから床に顔面ダイブ。
緑髪の少女、【審判者】サイはランから奪い取った毛布に包まり、その裸体を隠している。
金髪の少女、【指揮者】アルは裸のまままくらに抱きつき、涎を垂らして眠り込んでいる。
白髪の少女、【魔術師】キョウはその美しい体を少しも隠そうとせず、ベッドの上に横たわっている。
その隣で寝ているのは、先日仲間になった【称号未定】の六体目、【ルゥ】だ。
仲間になったその日に【家族会議】を開き、彼女につけた名前だ。
本人も気に入ってるらしい。
…しかし、シンジの奴早々にルゥの奴も毒牙にかけたらしい。
彼女も、勿論裸だった。
彼女の丁度股下に位置する部分のシーツには、赤い染みが残っていたのは余談である。

そこへ――

―――皆ぁ〜、ゴハン出来たよぉ〜―――

【人形遣い】シンジの呑気な声が、遠くから聞こえてきた。
――次の瞬間、

ガバッ!!×2

『飯だあぁぁぁぁぁぁッ!!』
『わ〜い、ご飯ご飯!!』

ズドドドドドドドドドド……

あっという間に、赤い影と金色の影は見えなくなった。
『フクグライキテカライケヨナ……』
眠そうなサイのツッコミが、場に残された。

『――オマエラシイ【ケイカク】ダナ』
テーブルの上に置かれた、書類の束に一通り目を通し、サイは呟いた。
書類の表紙に書かれた文字は――

【シンちゃんの暇つぶし計画 VOL32〜〜NERV&SEELE編〜〜】

『……イキアタリバッタリナ、ナイヨウダ』
「臨機応変と、言って欲しいね」
呆れたように呟くサイに、不敵な笑みを浮かべたシンジが答える。
サイは答えず、黙って目の前の紅茶――銘柄は忘れたが、セカンドフレッシュ(夏に摘んだ茶葉)の上物と記憶している――を飲んだ。
シンジは苦笑して、お茶請けの煎餅を一齧り。
ちなみに、先日の【計画内容】を述べると――

@NERVに出向き、適当に髭どもをからかう。
A逆上した髭とその手下どもを片付け(幹部らは、まだ楽しめそうなので除く)、その隙にEVA初号機内の【心】と接触し、契約を取り交わす。無理な場合は、諦める。
B初号機内の【お母さん】を強制的にサルベージし、死なない程度に痛めつける(髭どもへのあてつけ。コレで逆上してくれると尚良い)。
C【心】を【六体目】に移植。その後、NERVの戦力を減らす為、初号機を破壊。
DNERVのあてつけに、使徒を殲滅。

とまぁ、こんな感じだ。
実際初号機はシンジの貧乏性の所為で、シンジの屋敷内に回収されたが、まあ大きな問題は無い。
…しかし、これは計画と言えるのだろうか?
かなり大雑把な内容である。
『…コノケイカクデ、ヤツラヲメッサツデキルカクショウハアルノカ?』
「愚問だね。【どんなに矮小な相手でも、油断せず確実に陥れろ】。この言葉は君が僕に教えてくれたんだろう?――抜かりは無いさ。確実にあいつ等を、潰す」
そこで、にたりと哂うシンジ。
しかしその瞳は、極雹の如き冷たい輝きを放っていた。
そんなシンジの瞳を見て、サイは、にぃ、ッと笑った。
『……サスガハオレラノアルジダ。イイゼ、テッテイテキニヤロウ』
シンジと同じくらい残酷な笑み。
その瞳には、狂気めいた光と、冷徹な理性の光が、混在していた。
――【審判者】サイ。人形たちの中で尤も策略に長けた人形。
尤も、残酷な人形。
そんな恐ろしい彼女も、シンジにしてみたら可愛い人形でしかない。
色んな意味で、シンジこそが一番恐ろしいのだ。
……実際、サイは【夜のお楽しみ】で嬲られまくっているらしい。
詳しいことは言えないが、実は、サイは【S&M】だそうである。
…何書いてんだ俺。
『――シカシ、マイアサマイアサ、コリナイヤツラダ』
「何時もの事だよ…」
今まで描写していなかったが、シンジとサイがお茶会を開いているのは、大きなテーブルの左側である。
右側はというと……戦場跡だった。
食器の欠片が散らばり、飯粒はそこらじゅうにばら撒かれ、空になっためしびつが死体のように転がっており、その中心には事件の張本人――ランとアル――が横たわっていた。
両者とも右手に箸を握っており、一つのアジの開きを奪い合うように挟んでいた。
……この惨事の原因は、どうやら【おかずの奪い合い】がエスカレートしたものらしい。
ちなみに、残った人形――キラとキョウとルゥ――は巻き込まれたらしく飯粒まみれで目を回している。
……毎朝、一体何やってんだこいつ等。
『――デ、ドウスル? コノフタリ』
「何時もの通り、後片付けをしてもらうよ。……その後、ちょっと皆に話したい事があるんだけど…」
『? ナンダ?』
「新しい【嫌がらせ】についてちょっとね」
再び笑うシンジ。
サイもつられて、にやりと笑うのだった。



ジオフロント内――某所
『使徒再来か』
『余りに唐突だな』
『十五年前と同じだよ、災いは何の前触れもなく訪れるもの』
『左様、今や周知の事実となってしまった使徒の処置、情報操作、NERVの運用は全て適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ』
漆黒に閉ざされたその空間に、幾つもの薄ぼやけた映像が浮かび上がり、口々に好き勝手なことを言い始めた。
『――しかし、如何いう事だ、碇? 今回使徒を殲滅したのはエヴァではなく、不可解な現象であるというのは』
『あくまで君は、アレを自然現象と言い張るのかね?』
『此処での虚偽の報告は、死に繋がる発言だというのを、理解しているのかね?』
「…………………」
しかし、中央にいる人物――NERV司令【碇ゲンドウ】――は答えない。
いや、答えられないのだ。
待ち望んだ愛する人との再会――しかし、それは一人の人物によって打ち砕かれた。
【計画】は大幅に狂わされ、愛する人も意識不明の重体。
ゲンドウの思考力はその人物――シンジ・マリオネッター――の憎悪に費やされていた。
『しかも、噂では初号機を破壊されたようではないか!』
『失態に次ぐ失態――如何する気だね、碇?』
『このままでは、我々の投資した予算も無駄になるというものだよ』
老人たちの映像から、次々と罵声が発せられる。
『碇……我々を裏切る気か?』
正面の映像――議長【キール・ローレンツ】――から、疑惑の眼差しが放たれる。
…バイザーで、目見えないけど。
「……いえ、問題ありません。――全てはシナリオ通りです、キール議長」
漸く返事をするゲンドウ。しかし、その思考のベクトルは、まだシンジに向いている。
反射的に何時もの台詞を言っているに過ぎないのだ。
『この期に及んでまだ言うか貴様!!』
『大体貴様という奴は――』
此処から先はSEELEメンバーによるゲンドウの吊るし上げの場面が暫く続く為、少し早送りします。

〜〜五時間経過〜〜

『…ゼェ…ゼェ……いいか、今回は大目に見てやろう…』
『……ハァハァ…我々の期待を裏切らんでくれたまえよ』
荒い息を吐きながら消えていく立体映像たち。
言いたい事を言い切ってスッキリした所為か、どの顔も晴れ晴れとしていた。
そして、ゲンドウとキール・ローレンツだけが残った。
『………碇、後戻りはできんぞ』
 キールも最後にそう言って、消えていった。
暫し経ち、
「……当然だ。このまま奴をのさばらせてなるものか!!」
憎悪に狂い、ゲンドウはそう吐き捨てた。
その顔は、今まで以上に醜く歪んでいた。


一方―― 赤木リツコと葛城ミサトは、使徒の屍骸付近にあるテントの中で、テレビを見ていた。
チャンネルを変えるが、どのチャンネルも同じニュースしかやっていなかった。
「発表はシナリオB-22。――事実は闇の中、か」
「広報部は喜んでたわよ、やっと仕事ができたって」
ミサトの発言に、素っ気無く答えるリツコ。
彼女の視線は、前回の使徒戦の資料に向けられたままだ。
「ウチもお気楽なもんね〜」
「――それはそうと、もう手の方は大丈夫なの?」
――葛城ミサトの右手首から上は、不恰好な金属製の義手になっていた。
理由は簡単。先日、ランに斬り飛ばされたからだ。
流石に人間離れした葛城ミサトでも、手首を丸ごと再生するのは不可能だったらしい。
「……おかげさまで当分禁酒よ。――あの糞餓鬼、今度会ったら只じゃ置かないわ」
苦々しげに悪態を吐くミサト。
その顔はゲンドウ同様、醜く歪んでいた。
(……貴方程度でどうにかなる相手かしら?)
そう思ったものの、言わないでおくリツコ。
言ったってどうにもならないからである。
「――それはさて置き、弐号機とアスカの来日が決まったそうよ」
「――それ、ホント?」
「嘘言ってどうするの。――とにかく、貴方は自分の仕事に戻りなさい」
追加分の書類を渡し、ミサトを適当に追い払う。
ミサとはというと―――顔が愉悦に歪んでいた。
自分の手駒が増える事に、心から喜びを感じているのだ。
そのまま、ミサトは足どり軽く、向こうへ行った。
…あしらい易い奴だ。
「…単純で助かるわ」
はぁ、と軽く溜息を吐き、リツコは再び資料へと眼を戻す。
そこに書かれているのは――

【碇シンジに関する報告】

「…使徒戦の事後処理、SEELEへの情報操作、民間人への対応……どれも大変だけど、【彼】の事に比べればまだマシね」
報告内容は――全く問題無しとの事。
他組織との接点――無し。
人格を大きく変えるような事故――無し。
異常な交遊関係――無し。
不審な点――全く無し。
絵に描いたような、平凡な中学生。
それが、報告書の中の【シンジ】。
しかし現実は――
「――中身はまるで別人。MAGIによるあらゆる検査の結果、偽者の可能性0.000000001%以下。解らない事だらけだわ…」
再び溜息を吐き、リツコは机に突っ伏した。
「…不様よね、ホント」

……その頃、話題の人物【シンジ・マリオネッター】は、

「どうも。【シンジ・マリオネッター】と申します。ある事情で、第二から越してきました。――皆さん、お見知り置きを」
言葉を切り、そこでニヤリと笑うシンジ。
それを見た生徒たちの反応は…
『…何か怖ッ!』
…そう、本日シンジは第壱中に転校してきたのだ。
しかも、これ見よがしに候補者クラスの隣である2−Bに。
本人曰く、【嫌がらせ】。
『…アイツモセイカクワルイヨナ。ホント』
ちゃっかり付いてきたサイも、鞄の中で面白そうに呟いた。
――次の使徒襲来まで、あと一週間。




――シンジが転校してきて、一週間経った。
自己紹介の所為で引きまくっていたクラスメイトたちも、漸くシンジに慣れてきた。
実際、黙っていればそれなりに顔立ちも整っているし、礼節を弁えて接すればそれに合った対応をしてくれる(弁えなかった奴は…)ので、女子の人気が徐々に高くなり、男子の方もシンジによく勉強を教えてもらったり、宿題を教えてもらったり、転校早々あった小テストの山を格安で教えてもらったりしていたので、人気がそれなりにあったのだ。
結果、ニヤリ笑いと不可解な言動を除けば、シンジはかなりの人気者となっていた。
そして昼休み…。
その日も何時ものように、シンジはクラスの何人かの生徒と一緒に昼食をとっていた。
ちなみに手作り弁当(byキラ作)。
そこへ、いきなり教室のドアが乱暴に開き、ジャージ姿の少年が入って来た。
そして、一直線にシンジの前へと歩み寄り、一言、

「転校生――チョッと付き合って貰おうか……」


屋上――
「転校生! ワシは、お前を殴らんと気がすまんのじゃぁ!」
場所を移した途端、ジャージの少年はいきなり殴りかかってきた。
――しかし、

ぱし。

乾いた音と共に、少年の動きは止まっていた。
「危ないなぁ…」
呑気そうにそう言うシンジ。
もぐもぐという咀嚼音が、更に彼の呑気さを加速的にアップ。
…なんと彼は、少年の拳を【箸】で受け止めていたのだ。
…更に言うならば、左手で弁当箱を抱えている。
かなりシュールだ。
「――で、僕に何か用なの?」

そこで物陰に隠れていた眼鏡の連れ――ケンスケ――が登場し、少年――トウジ――が殴りかかってきた理由を話し出した。
何でも、前回の戦いでトウジの妹が負傷し、それをNERVの所為だと逆恨み。
そこへケンスケが――
「――隣のクラスの転校生、NERVの重要関係者らしいぞ」
と、入れ知恵。
そして、現在に至るというわけだ。

「――全く、くだらなさすぎて怒る気も失せるよ」
「何やとぉ!!」
空になった弁当箱を閉じ、本当に面白くなさそうにシンジはそう言った。
その言葉を聞き、トウジは更に怒りシンジに掴みかかる。
あっと言う間に吊り上げられるシンジ。
――しかしその顔には、いつもと同じ貼り付けたような笑みが浮かんでいた。
「何がだって? 全てだよ、全て。――まぁ、【ダイジナモノ】の為に行動するのは立派だけど、何から何までピントがズレまくってるよ、君。大体ね、僕はNERVとは関わっているけど、NERVではないんだよ。――それを踏まえて言うけど、僕と君の妹さんに何の因果関係が有ると言うんだい? 四百字詰め原稿五枚分きっちりで説明してもらおうか」
細かいなオイ。
トウジとケンスケはシンジの不気味な笑みを見て青ざめ、その場から少し後ずさった。
(…何かコイツ……おかしい…)
自分たちとは違う【何か】
歯車が幾つか欠けた様な、精巧な騙し絵の様な、確かな違和感。
不確かかつ明瞭な――矛盾しているが、そう思わざるを得ない――恐怖感の具現。
目の前に居る【シンジ】が、その明らかに違う【何か】にしか見えなかったのだ。
シンジは二人を見て、再びクスリと笑い、言った。
「…二人とも、もう時間が無いから【今は】見逃してあげるよ。僕は敵対したものには容赦しないけど、今回は特別サービスさ。拾った命は大事にしなよ。――でも、今後僕の邪魔になるような事をしたら―――」

“消すよ”

――その時、

『チャンチャチャチャチャチャチャ、チャンチャン♪』
脳天気な着メロ(某日曜日のお笑い番組のテーマソング)がシンジの胸ポケットから発せられた。
シンジは無言でソレ――魔導を組み込んだ超高性能携帯通信機(使徒が踏んでも壊れない)――を取り出し、画面を見る。
画面には――

『イカさんしゅーらい! シンジ〜、出番だよ〜♪ アルちゃんより愛を込めて(はぁと)』

予定通りだと小さく呟き、ニヤリ、と一笑い。
「……来たか、シャムシェル」



NERV発令所――
正面の大きなモニターには、【第四使徒シャムシェル】が映し出されていた。
「司令のいない間に第四の使徒襲来か……早かったわね」
モニターを見ながら呟くミサト。
「前は15年のブランク、そして今回はたったの3週間ですからね」
マコトもモニターから目を離さずに言う。
「こっちの都合はお構いなし。――女性に嫌われるタイプね」
(…貴方にだけは、言われたくないわね)
何だか最近、溜息を吐く事が多くなったリツコ。
…冬月、マコトの両名に並ぶ、NERV苦労人になりつつあった。
「委員会から、エヴァンゲリオンの出動要請が出ています」
シゲルがミサトに報告をする。
「五月蠅い奴等ね、言われなくったって出すわよ!」
そう怒鳴り、ミサトはある場所に通信を繋いだ。
「――頼むわよアスカ! 貴方の力、見せてやりなさい!!」
『―まっかせなさい!! エースパイロットと私の弐号機の実力を見せつけてやるわ!!』
通信機から勝気そうな少女――弐号機パイロット【惣流・アスカ・ラングレー】――の声が流れ出る。
――数秒後、烏賊のような外見をした使徒――シャムシェル――の前に、赤い影が立ちはだかった。
NERVの誇る(唯一の)戦力、【エヴァンゲリオン弐号機】である。
――今正に、戦いの火蓋は切って落とされた。
――しかし、



『――負けてますね』
『――ボロ負けだな』
『――やられてるね〜』
『――ブザマダナ』
『――ざまぁねえな』
『――……悲惨』

小高い丘の上で、六体の人形たちは目の前で起こっている戦闘を見て、口々に好き勝手な感想を言った。
ちなみに、上からキラ、キョウ、アル、サイ、ラン、ルゥである。
まあ、そう言われても仕方が無い。
はっきり言って見るも無残な戦いだったからな。
――弐号機と使徒との戦いをダイジェストで見てみると、

まず地上に出た弐号機がパレットライフルを使徒に向けて掃射。
結果、噴煙が辺りに蔓延し、使徒をロスト。
噴煙の中から使徒の鞭が弐号機を襲撃。
ギリギリでかわしたものの、二撃目に足を取られ山肌に叩きつけられダウン。
使徒は何が気にいったのか解らないが、そのまま弐号機を鞭で絡めとり、ぶんぶん振り回して遊び続けているのである。
……弐号機哀れすぎ。

「……プッ!……クスクス……ブフッ!!……フ…フ…フ…フッ!!」
…一方シンジは、お腹を抱えて蹲っている。
笑いを堪えるのに必死なのか、先程から体が小刻みに揺れている。
事実、シンジはこの時「笑い死ぬかも…」、と思う程ツボにヒットしたらしい。
――そんな時、
『……オイシンジ。サッソクダッソウシャダ』
戦いを見るのに飽きたのか、手持ちのノートPCを弄っていたサイがニヤニヤとした笑みを浮かべ、そう言った。
――サイの趣味の一つにPC弄りがある。
その腕前は半端ではなく、凄まじいの一言に尽きる。
事実彼女のお陰で、シンジはMAGIの掌握に成功しているのだ。
――そして今、彼女のノートPCにはMAGI経由で、シェルター前の映像が映し出されていた。
「…あ〜、お腹痛い。――ん? どれどれ」
シンジは笑いすぎて痛くなったお腹を押さえつつ、ノートPCを覗き込む。
――そこに映っていたのは、先程まで自分に絡んでいた二人。
トウジとケンスケである。
――それを見てシンジは、ヤレヤレと疲れた顔をし、肩を竦める。
「――只の一般人なら、邪魔しないよう拘束するだけで十分だったんだけどねぇ。……よっぽど死にたいらしい、あの二人は」
『……マスター。奴等を【始末】する許可を、私にください』
『我も志願する』
有無を言わせぬ口調で名乗りを上げるのは、キラとキョウ。
二人には珍しく目に攻撃的な光が宿り、酷く冷く、それでいて轟炎の如く燃え上がるような凄まじい殺気が発せられる。
……むっちゃ怖い。
『マスターに対する無礼の数々……生かして置く価値も在りません』
『あのカスどもの面を見ていると、ハラワタが煮えくり返る…』
『うん、そだね。実は、わたしもかなり頭にきてるんだよね〜…』
『オレハバカハキライダ。……ミノホドヲワキマエナイバカガキハトクニナ』
『ああ、俺も同意見だ。折角シンジが見逃してやったのに、馬鹿な奴らだ。……とっとと殺ッちまおうぜ』
『…………即、抹殺』
何時の間にか、六体全員の目に狂気じみた殺意の炎が燃え上がっていた。
当然だ。
人形達にとって、シンジとは【全て】を意味し、彼女らの【全て】はシンジのモノ。
身も、心も。
シンジは人形達のみを愛し、人形達はシンジのみを愛す。
――【人形遣いと人形】、【主人と愛奴隷】、【家主とその家族】、【互いに想い、想われる】――
――言葉は様々だが、意味は大差無い。
いや、意味などこの際どうでもいい。
シンジと人形達は【互い】が存在する事により、平静を保っている。
片方が貶されたり傷付けられたりすれば、もう片方が全力以って断罪を下す。
――故に、人形達は怒っている。
シンジへの無礼は、自分への無礼【以上】に値する事。
しかもわざわざ【一回】見逃してあげたにも拘らず、あの二人は制約を破った。

【邪魔をするな。その代わり見逃そう】

あの二人は理解していない。先程のやり取りにこのような意味が有った事を。
理解していない。【違反】とはどういう意味か。
【契約】の違反は、魔導師への宣戦布告。
最大の侮辱に値する行為。
――人形達の怒りは、頂点に達する寸前である。
愛しき人への侮辱は、――死を意味する。
あの二人は、身を以ってそれを知る事になるであろう。
――さて、シンジの反応は――
「――いや、僕が片付けてくるよ。やっぱりこういう事は、言いだしっぺがやらないとね」
笑顔で言った。
ニヤリと口の端を歪めた、最高の笑顔で。
「皆はここで待っててくれるかな? 直ぐに終わるからさ」

『…解りました。マスターがそう言うのなら……』
『……承知した』
『りょ〜かい』
『オウ』
『へいへい』
『………(こくん)』

人形達は、渋々承知した。
それを見てシンジはうむっ、と頷き、歩き始――姿を消した。
貼り付けたような笑みをして。



――二人の愚者はその頃、

「負けとるやないか…」
「もっと確りやれぇ〜!」

丘の上で弐号機と使徒の戦いを見物していた。
ケンスケはカメラで使徒を撮りながら野次を飛ばし、トウジはそれを呆れ混じりに見ていた。
自分らの運命も知らずに…。
「……あいつ…」
トウジは震えていた。
先程の転校生【シンジ・マリオネッター】への恐怖。
ヒトのようでヒトではないモノ、昆虫のような視線、ニヤリとした貼り付けた笑み、違和感を固めた存在……
思い出すだけで、冷汗が吹き出て来る。
アレに関わるな! と心の奥底で自分の生存本能が訴えているのが、トウジには解った。
しかし、怪我をした妹の事もある(まだ解って無いなこいつ)
故に、トウジは軽いジレンマに陥っていた。
一方ケンスケは――目の前の戦闘に興奮して、先ほどの事をすっかり忘れていたりする。
……呆れんばかりのアホ振りである。
そんな二人の前に――

…コツ、

――無情にも、

……コツコツ、

――裁きの時はやってきた。

……コツコツコツ、

背後から聞こえてきた足音は、轟音の響く戦場の中でも不気味なくらい自己主張していた。
何時の間にか、騒いでいた筈のケンスケまで凍りついたかのように動きを止めていた。
――場は一変した。

……コツコツコツコツコツ…。

足音が止まった。
そして、【ソイツ】は口を開く。

「――やあ。何をしているのかな、お二人さん?」

何時もと変わらない口調で、何時もと変わらない笑みで。
何時もと変わらない態度で――

「早速だけど、君たち殺してあげる♪」

――【人形遣い】は人を殺す。
何時もの事だ。
トウジとケンスケは、言い表せない絶対の恐怖に囚われた。
逃げようとしても足は動かない。
息をしようとしても喉が石の如く固まり、肺が縮こまって呼吸も満足に出来ない。
恐怖で瞼が固まり、瞬き一つすることも出来ない。
――明確な死が、迫っていた。
「それじゃぁ………先ずは君から」
そう言ってゆっくりと、シンジはトウジを指差した。
え? とトウジが目を見開いた――その瞬間、

トウジの背中から、真紅に染まった細い腕が生えていた。

その掌には脈動する赤黒い肉塊――トウジの心臓――が握られ、夥しい量の血液が地面に小さな池を造る。
――薄れ逝く意識の中、トウジが最後に見たものは、ニタリと笑ったシンジの顔だった。


「………バイバイ★」
グシャリ、と今だ鼓動し続ける肉塊を握り潰し、腕を動かなくなった骸からゆっくりと引き抜く。
うつ伏せに倒れたその骸からから更に鮮血が噴出し、池は小さな紅い海と成っていく。
――ケンスケはその一部始終を強制的に見届けた。
恐怖により全身が硬直し、視覚以外の全感覚が麻痺状態の彼の精神は追い詰められていた。
彼の思考を統べるのは只一つの単語――死にたくない。之のみである。
親友が殺された事に怒りも感じず、理不尽な彼の行動に憤りも感じず、只感じるのは恐怖による生存本能のみ。
――ケンスケは【人間】なのだ。
「さぁて、次は君だよ」
――そして、今目の前に居るのは【人間】ではなく【人形遣い】
ありとあらゆる意味で【人間】から外れしモノ。
彼の存在は、【人間】の価値観では計れない。
――彼の前ではどんな【人間】も意味は無い。
故に、ケンスケの運命は絶対に変えられない。
「――君たちが悪いんだよ。折角チャンスをあげたのに、僕の警告を無視して邪魔をしたからこういう事になったのさ。……自業自得だね」
平坦とした口調で、淡々と言葉を紡ぐシンジ。
白いシャツと貼り付けたようなその顔には、血液がべったりと塗りたくられていた。
――その姿は即ち、【悪夢】そのモノ。
「――そう言えば、君確か拳銃とかそういうのが好きだってクラスの連中から聞いた事があるよ。なら、君の好きなもので殺してあげるよ
そう言ってシンジはポケットの中に手を突っ込み、【言葉】を紡いだ。

『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。我が肉の器を糧とし、千に及ぶ鋼の獣を【解析】し、【構成】し、【複製】せよ――』

【言葉】と同時に、シンジの胸部が蠢き、肉を裂き肋骨を歪め、黒光りする鋼の獣達が肉を突き破り現れた。
それは――数十から百幾つにも及ぶ、多種多様な銃器の数々。
国、年代、種類を問わず、様々な銃口がケンスケを見据えていた。
何時ものケンスケなら狂喜するが、今はそんな状態ではない。
最早、彼の未来は死のみ。
そう、死のみである
彼の思考は、
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死で、固定された。

『吼えろ、――【千の銃口(ガン・オブ・ザ・サウザンド)】――』

無情なる鋼の咆哮は、哀れな愚者を挽肉へと変える。
音にならざりし絶叫が、無人の第三に響いた。
彼らの死を知るものは、【人形】と【人形遣い】のみ。
【人形遣い】たちとって、人の死など如何でも良いこと。
そう、如何でも良いことなのだ。

――数分経ち、シンジは大きくその場で背を伸ばし、体の中に魔導兵器【千の銃口(ガン・オブ・ザ・サウザンド)】をしまった。
【千の銃口(ガン・オブ・ザ・サウザンド)】――それは、一度見た銃器を契約者の肉体を介し、精確に複製する上級魔導兵器である。一度に千まで複製できる事から、この名がついた。
ある程度オートで発動する攻防一体の魔導兵器だ。
魔導兵器をしまい終わると、シンジは、ぱちん、と指を一つ鳴らした。
――すると如何だろう。今まで着ていた学生服は消え、代わりに手品師が着るようなタキシードに紅い裏地の黒マント、更に大きなシルクハットを頭に被った奇妙な姿へとなった。
更にもう一度、シンジは指を鳴らす。
今度は辺りの地面が泥濘へと変わり、大量の血液と二体の骸を飲み込んでいく。
全てが飲み込まれると、地面は再び乾いた土へと戻る。
――恐らくあの二人は、一生見つからず行方不明扱いとなるだろう。
それも、如何でも良いこと。
シンジは確かめるかのように地面を大きく踏み均し、満足がいくと徐に懐から例の通信機を取り出し、回線を繋げる。
「――ああ、キラかい? こっちはもう片付いたよ。――予定通り、【劇】を始めるからこっちに来てくれないかな? ――流石に光速は超えないでくれよ。それじゃあね」
通信を終え、再び懐に戻す。
顔を上げたシンジの目線の先には、弐号機を振り回すのにも飽きたのか、自慢の鞭で地面を掘り返しているシャムシェルの姿があった。
それを見て、シンジは道化のような笑いを浮かべ、一言――

「――It is an opening of the stage(舞台の始まりだ)――」 





アル『アルちゃんと!』
キラ『き、キラちゃんの!(///)』
二人『『アイキャッチ座談会パァ〜ト2〜(ドンドンドンパフパフパフ〜)』』
アル『つーわけで、座談会パート2が始まるよ〜。司会はわたしことアルちゃんと〜』
キラ『き、キラちゃんです!』
二人『『――そして、特別ゲストの【ルゥ】ちゃん〜!(ドンドンドンパフパフパフ〜)』』
ルゥ『…………(ぺこり)』
アル『さぁて、メンバーが揃ったところで――『あの、一寸良いですか?』――何? キラちゃん』
キラ『この前言っていた外伝の件なんですけど……』
アル『ああ、それ。本編進めるのに手が一杯だから、外伝は当分先になるらしいよ〜。最低でも、レギュラーキャラが出揃う第六使徒戦以降だって☆』
『(があぁぁぁぁッん!!)そんな………可愛らしい少年時代のマスターの登場が……あのヘボ作者、即刻滅殺してやります!』
アル『キラちゃんタンマぁ!! 少しは落ち着いてよ〜!』
ルゥ『……大丈夫。さっき、キョウと、サイと、ラン、作者、所、乗り込んだ…』

――惨ッ! グハァッ!!
――…燃えろ! …ウゴハァっ!!
――……クスクスクス… ――ギャァァァァァァァァァァッッッ!!!!
 
アル『……………うわぁ』
キラ『……やる事、無くなっちゃいました…』
ルゥ『………自業、自得…』
アル『……まぁ、肉塊になった作者は放っておいて、今回の設定解説始めよ〜〜♪(汗』
ルゥ『………今回、魔導兵器、解説…』
キラ『わ、私の台詞……』

魔導兵器とは……
戦闘を目的に作られた【魔導宝具】の一種である。
その能力の高さに応じて下から【下級】【中級】【上級】【神級】と呼ばれ、特に【神級】は別名【魔導神器】とも呼ばれている。
クラスが高くなるにつれ契約は困難となり、現存数が皆無とも言われている【神級】に至っては、成功確率は限りなく零に近い。
時によっては、魔導兵器に取り殺される事も多々あるのだ。
アル『シンジの魔導兵器は全部【上級】クラスなんだよね〜。し・か・も、七つも♪』
キラ『流石はマスター……そこらの有象無象とは桁が違いすぎますぅ…(うっとり)』
ルゥ『………キラ、鼻血、出てる…』
中には生きている魔導兵器も存在し、【魔導生命体】との線引きが検討し直されているとか…
『『『いい加減すぎ』』』
…すいません。
元々【魔導神器】は人の手で造られたものではなく人外――つまりは神や悪魔もしくは精霊――が造り出したものであり、その他の【魔導兵器】は模造品でしかない。
歴史上の神話の中に出てくる武器などが、主に該当する。
アル『――て事は、アレも【魔導神器】なのかな?【ロンギ――』
キラ『駄目ですアルさん!! ネタばれですッ!!!』
ルゥ『………つか、モロばれ』
ネタをばらすな!
三人『『『あ、生きてたの? 作者』』』
何とかな。流石にランの必殺技“風花(かざはな)”とキョウの“滅却炎(ヴァニシング・フレイム)”とサイの“原罪の十字架”のコンボはきつかった。咄嗟に心臓を抜き出して遠くに放り投げたから、何とか助かった。
キラ『死徒ですかあなたはッ!?』
ルゥ『……人間、やめてる…』
アル『あははは〜。ルゥちゃんきっつ〜』
お前ら……。――まぁともかく、【魔導兵器】の簡単な解説は此処までだ。因みに、劇中で出てきたシンジの七つの【魔導兵器】の内四つを、此処に載せておこう。

1【憤怒の魔手(ハンズ・オブ・アンガー)】
2【悪夢の牢獄(ナイトメア・プリズナー)】
3【愚賢なる秘石(ストーン・オブ・フーリッシュワイズ)】
4【千の銃口(ガン・オブ・ザ・サウザンド)】

後一つ第三話で登場するからお楽しみに!
キラ『――さて、お仕事も終わった事ですし、さっさと片を付けましょう
アル『うん! 私も手伝うよ、キラちゃん★
ルゥ『………極殺…』
え? あのちょっと皆さん目が怖いですよ。
――いや、流石にそれは洒落になんないから! 肉体再生ってかなり辛いんだよ!!
キラ『開門(オープン)ッ! 御出でませ、バジリスク!! 続いてヒュドラ!!』
アル『マーラーより交響曲第一番【巨人】ッ!』
ルゥ『………フィールド、収束、【烈紅破】……』

ギョエエエェェェェッェェェェェェェェェッェェッッッ!!!!

シュウウウウウウウ………
ルゥ『……悪、滅びた…』
キラ『ええ…。私たちの勝利です』
アル『けど、これで終わりじゃないと思うよ。第二第三のへっぽこが生まれるかも…』
……………

閑話休題

アル『――と言うわけで、次回も応援宜しく!』
キラ『あるんですか!?』
ルゥ『………望み、薄…』
――――終劇――――


――NERV発令所は大混乱に陥っていた。
何故なら唯一の戦力とも言えるエヴァ弐号機が、これ以上ないってくらいの大完敗を記録したからである。
パイロットは気絶し、使徒は悠々と地面を鞭で穿ちジオフロントに確実に近付きつつあった。
よって、現存兵器は全て効かない使徒の侵攻によって、抗う術の無い人類の滅亡も確実に近付いていた。
……ぶっちゃけ後がない。
影の薄い副司令は正しく電柱の如く硬直し、(肩書きだけの)作戦部長は気絶したパイロットと使徒にあらん限りの罵詈雑言をぶちまけ、出番の全く無いオペレータたちは諦めず必死に自らの役目を果たそうとする者、涙目で頭を抱える者、もう駄目だと言わんばかりに絶叫する者などなど、……はっきり言ってもう駄目だよこいつ等。
――いや、只一人冷静にこの状況を客観視している者がいた。
NERV幹部の一人、赤木リツコである。
(……脆いものね)
冷めた目で、リツコは一人心中で呟いた。
(特務機関NERV――その実体がこれ、か)
「………本当に不様ね、私たちは」
自嘲気味にそう言い、リツコは懐に手を入れ――
「――…煙草、切らしてたみたいね」
煙草の空箱を握り潰し、リツコはふと手元のコンソールに目をやる。
通信待ちのランプが、灯っていたからである。
「……この非常時に、一体何処の誰?」
等と愚痴りながら、リツコは回線を繋ぐ。
すると―――

『――やあ、NERVの皆さん。ご機嫌如何ですか?』

空々しい声と共に、正面の巨大なモニターにソレは映った。
何時も通りの貼り付けたような薄い笑みに、中性的な顔立ち。
前回の学生服から打って変わって、奇術師が着るようなタキシードにシルクハット。
そして現在に於いてNERVが血眼で捜しているはずの【最重要指名手配犯】――その名は、

『――さて、先ずは自己紹介と参りましょう。僕の名は【シンジ・マリオネッター】と申します。初めての方と、そうでない方もお見知りおきを』

そう言って、シンジは微笑んでその場にいる全員を見据えた。
――その笑みは、悪魔としか形容できない。
「……あの糞餓鬼ッ! のうのうと私たちの前に顔を出して……よくも人類の至宝であるこの私の手首を切り落としてくれたわね!! が死んだら使徒に勝てないのよ。――今負けてるのはアンタの所為よッ!! その命で詫び入れさせちゃる!」
悪鬼としか言い表せない形相で、壊れまくっている三段論法を用い、すべての責任をシンジに擦り付けるミサト。
……まあ確かに、初号機を盗んだシンジにも責任は在るだろうが、今負けている原因はへっぽこすぎるパイロット無能すぎる作戦部長が大きな割合を示しているのだが、本人は全く気付いていない。
責任転嫁と自己保身も此処までくれば、立派である。
「日向くん! あの糞餓鬼のいる所に武装ビルでありったけの攻撃をぶち込んで!! 骨一つ残すんじゃないわ―――グベェッ!?
「――少し黙ってて、ミサト」
トチ狂った命令を下すミサトに、リツコは何処から出したのか真っ赤に染まった釘バットを脳天に振り下ろし黙らせる。
一般人なら即死亡だが、無駄に丈夫なミサトなら問題無い。二時間もすればケロッとした顔で目を覚ますだろう。
「――さてと。シンジ君、一つ訊きたい事があるんだけど、良いかしら?」
『良いですよ、赤木リツコ女史』
努めて冷静を装い、リツコはシンジに問い掛けた。
内心、リツコは恐怖と興奮で失神寸前だった。
目の前の不可解な存在への【恐怖】と【好奇心】――【恐怖】が彼女の中の【人間】を刺激し、【好奇心】が彼女の中の【科学者】を刺激する。
どうしようもない自己の対立。
彼女の行動は、僅かに【科学者】が勝っていたからである。
もし【人間】が勝っていたら、彼女は逃げるか気絶するかのどちらかであっただろう。
話を戻そう。
リツコの不意の問いに、シンジはニヤリと笑い、応じた。
「なら、率直に訊くわ。――貴方は何者?
リツコの問いに、一瞬シンジは呆気に取られたかのように呆け、次の瞬間クスクスと小さく哂い始めた。
「何が――可笑しいのかしら?」
言いようも無い不気味さに囚われつつも、リツコは自己を見失わず、根気良くシンジと会話を続ける。
――事実、大半の職員はシンジの雰囲気に呑まれ、呼吸も侭ならず硬直している。
今この場で言葉を発しているのは、リツコとシンジのみ。
副司令を含む自我を保った一部の職員たちも、流石に言葉を発する事は出来ない。
――この異常な場に呑まれたから。
『――いえ、NERVと言う愚者の溜まり場に於いて、唯一賢人ともいえる貴方が未だに気付いてないとは――少々可笑しかったもので』
一息置いて、クククッと小さく哂うシンジ。
『何者かと訊かれても――僕はもう既に名乗りましたよ、赤木リツコ女史。【シンジ・マリオネッター】とね。……【マリオネッター】、貴方ならこの名の意味を知っているでしょう?』
シンジのこの言葉に、リツコは脳内情報の検索を始めた。
(マリオネッター……確か意味は【マリオネットを使う者】…【マリオネット】、日本語に訳すと【人形】確か保安部を虐殺したのは彼の人形達……【人形を遣うもの】……即ち【人形遣い】……?)
【人形遣い】の単語を思い浮かべた瞬間、リツコは何かが引っ掛かるのを感じた。
(……一寸待って、【人形遣い】……!?)
――そして、その【何か】を思い出した瞬間、彼女は愕然とした。
恐怖で体が震え、そして恐怖が体内を侵食していく。
「……あ、ああ……アアア………!!?」
『おや、如何しました赤木リツコ女史』
痙攣を起こしたかのように言葉にならない言葉を口走るリツコを見て、シンジはニヤリと哂い、そう言った。
「……ま、まさか、あの最悪のテロリスト【A marionetteer of silence】――沈黙の、人形遣い……!?」
震えた声で言うリツコ。
その声からは、【どうか違っていて欲しい】と言う心の声が織り交ぜられていた。
――しかし、セカイは残酷。
『――その、通り』
――僅かな希望をも、打ち砕くのだから。
目の前にいるのは【人形遣い】。
しかも最悪の名がつく【人形遣い】。
ソレの通った後は何も残らない。
在るのは沈黙のみ。
――だから、【沈黙の人形遣い】



【沈黙の人形遣い】とは、世界各国で破壊活動を行っているテロリストである。
――何故、単なるテロリストである【沈黙の人形遣い】が此処まで恐れられている訳は只一つ、

【生存者が零に等しい】からである。

主に【沈黙の人形遣い】は裏の施設や団体――非合法な軍の施設、実験場、秘密結社や闇組織など――を中心に狙い、完膚なきまでに破壊する。
いい例が、一番初めに被害を受けた日本戦略自衛隊――通称【戦自】――の非合法施設だろう。
当時其処では巨大兵器――名称【トライデント】――の製作を行っており、そのパイロットとして孤児を収集、教育していた。
酷い時には孤児ではなく、そこ等の子供を攫ってくる事も多々あったらしい。
子供たちは酷い扱いを受け、訓練の最中に死ぬ事も多く、数が足りなくなるからである。
そんな非合法施設の末路は――消滅であった。
比喩ではなく、文字通りの消滅である。
人も、建物も、全て塵一つ残さず消えた。
残されたのは、ネットに流れた機密情報と、戦自に受け渡された【トライデント】の試作機のみ。
――そして、一つの瓦礫。
施設が在った場所は巨大なクレーターと化し、その中心地に瓦礫は残されていた。
子供の背丈ほどの大きさのそれには、一つの単語が書き殴られていた。

【marionetteer】

今もその瓦礫はその場所に突き立っている。
――まるで、墓標の如く。
その後も、破壊活動は続いた。
中国、アメリカ、ロシア、中東、南米、アフリカ――場所を選ばず、暴れまくった。
共通するのは【生存者ほぼ零】と【marionetteer】の血文字。
奴が通った後は何も残らず、在るのは沈黙のみ。
故に、何時しか彼はこう呼ばれるようになった。

――最悪のテロリスト【A marionetteer of silence】――【沈黙の人形遣い】、と


『僕としてはその渾名、あんまり好きじゃないんですけどね(何時の間にか【魔導協会】もその名を称号扱いしてるし。…参っちゃうよなホント)』
アハハ、と朗らかに笑い、まるで世間話をするかのように言うシンジ。
一方、リツコを含めその場にいるNERV職員は完全に硬直していた。
当然だ。【沈黙の人形遣い】の名は一般には知られていないが、国連組織などの軍関係や裏の世界では知らないものはいないと言う程の忌まわしき字なのだ。
『――さて、お喋りはここまでにして本題に入ると致しましょう。――率直に申し上げると、あの使徒とか言う奴は僕が倒してあげましょう』
そう言って、シンジは慇懃無礼に会釈した。
「……何が、目的だね…?」
息も絶え絶えにそう言ったのは、NERV副司令【冬月コウゾウ】である。
僅かな気合を振り絞り、NERV副司令の役職を果たさん為である。
『――目的も何も、僕の望みは只一つ。それは―――暇つぶしです』
はぁ? と呆気にとられるNERV一同。
しかし、圧倒的なシンジへの恐怖は、未だ衰えない。
『あのような巨大怪獣、NERV如きに遊ばせるのは勿体無い。――面白い【見世物】も終わってしまいましたし、貴方たちとは長く遊びたいですし、それに先日頂戴したアレの実戦テストもやりたいので、あの怪獣は僕が貰います』
涼しい顔でいけしゃあしゃあと言うシンジ。
――ちなみに、台詞の中にNERVにとってかなり不吉なものが混じっていた事に、全員気付いていなかったりする。
……ご愁傷様。
「……本気で、言っているのかね?」
シンジの言葉に、正気の沙汰ではないと青ざめる冬月。
冬月の疑問も至極尤もだ。
個人の力で使徒に挑むなど正気ではない、自殺行為だと冬月は思った。
――如何に世界から恐れられているテロリストでも、現代兵器の全てを無効化させる特殊障壁――ATF――には敵わないと、冬月は考えていた。
――同時に、使徒にやられてくれればなぁ、とも。
『ええ、勿論。――さて、此方の言いたい事は全て言い終わりましたので回線を切らせてもらいます。――後はモニターで観賞でもしていてください。――では、これで』
あッ、とリツコと冬月が静止する間もなく、シンジとの通信は強制的に切られてしまった。
――そして、画面には再び地面を穿る使徒の姿が。
「――…マヤ。通信位置の特定、出来たかしら?」
かなり疲れた様子で、リツコは愛弟子であるオペレータ―の一人――伊吹マヤ――に問い掛けた。
「はい……何とか………」
そう言って真っ青な顔でデータを呼び出すマヤ。
シンジへの恐怖による後遺症である。
青ざめていないものなど、この場には誰一人存在していなかった。
――頭から血を流してぶっ倒れてる某作戦部長も、貧血で顔が真っ青である。
「――今度は何をやろうって言うの……」
リツコは少し興奮していた。
前回の【儀式】に次ぐ、何かを期待して。
今度は、【科学者】が【人間】を圧倒する番であった。



「――サイ、回線切っていいよ」
『ン、ワカッタ』
シンジの命令を受け、ノートPCに数個のキーを打ち込んで、サイはノートPCを閉じた。
実は今までの通信は、乗っ取ったMAGIを経由して通信していたのだ。
サイも凄いが、MAGIを簡単に乗っ取るこのノートPCもかなりの曲者だ。
『――ちぇ。今回も出番無しかよ』
『い〜じゃないの別に。シンジの雄姿が見れるんだから☆』
『そうです! マスターの凛々しいお姿をこの目でキッチリタップリ焼き付けるんです!』
『いい加減静かにしろ、このうつけども! あとキラ、その鼻血を何とかせい!』
『…………かしまし、娘……ぽりぽり(煎餅を食う音)』
――シンジの後ろでは、人形たちがビニールシートを敷いてちょこんと座っていた。
――はっきり言ってピクニック気分である。
何とかせいよ、オイ。
『……マッタク、オキラクナヤツラダゼ』
そう言うサイも、シートに寝そべって分厚い本を読み始めていた。
同類だコイツも。
「(……はぁ〜)……まぁ、別に良いけどね。――キラ、準備頼むよ」
深い溜息を吐きつつも、シンジは己が欲望の為前に進む。
暇つぶしと言う名の欲望のはけ口へと。
『はい、マスターッ!』
懐に手を突っ込み、キラは一つの鍵を取り出した。
鈍色に輝く、掌ぐらいの鍵。
『どうぞ、マスター』
とことことシンジに歩み寄り、キラは鍵を手渡した。
「ん、ありがとう」
キラから鍵を受け取り、シンジは鍵の持ち手の部分を指で軽くなぞった。
「…施術開始……登録者名【シンジ】……施術終了……登録終わり、と」
指でなぞった部分には、はっきりとシンジの名前が刻まれていた。
「さぁて、始めますかね」
鍵を握り、シンジは【詠う】

『――我が御志を受けし鋼鉄の輩よ。我が声を聞き、我が意思を受け、我が身と為らん。我の名はシンジ、汝の主にて汝と共にある者なり。――汝は魔の洗礼を受けし鋼鉄の騎士、汝は純粋なる破壊の僕、汝は揺るぎ無き力の具現――我は魔をこの身に宿す沈黙なる人形遣い、我は混沌なる破滅の使者、我は空ろぎ揺らめく心の具現――我汝を受け入れん、汝我を受け入れよ! 汝の名は魔導鬼士―――』

――そして、【彼】の名は、紡がれん。

『――【デュラハン】!!』

空が割れ、大地は唸る。
中空に突然表れた黒い歪みの中から、巨大な【何か】が迫り出してきた。
先ずは脚、次に胴体、腕、最後に頭。
それは、先日シンジが持っていた筈のエヴァ初号機だった。
――しかし、大幅な改造により雰囲気やフォルムが大きく変わっていた。
先ず色が紫から艶の無い灰色に変わり、猫背気味だった背が真直ぐになっていた。
装甲も大幅に改造され、武者と騎士の鎧を足して二で割り、更に少し鎧の部分を足したような形になっていた。
口の部分はフェイスガードで覆われ、角は一本ではなくデザインを重視した三本角に変更。
正に、【亡霊騎士】の名に相応しい機体である。
何時の間にか、シンジは【デュラハン】の胸部にあるコックピットに移動していた。
LCL方式はあまり好きになれそうに無いので、コックピットを脊髄から胸部に移したからである。
シンジは先程キラに貰った鍵を取り出し、手元のパネルに開いた奇妙な形の穴に鍵を収める。
すると、穴の中に鍵が吸い込まれ、周囲のパネル全てに光が灯り、【デュラハン】の瞳に光が宿る。
この鍵こそ、【デュラハン】を起動させる最重要パーツ。
この鍵にはキラの魔力が封じられており、キラがいなくても自由に召喚できる他、文字通り【デュラハン】の始動キーでもあるのだ。
「――さぁて、漸く初陣だよデュラハン。二人で暴れまくろうじゃないか!」
【心】と【魂】の無い【デュラハン】は只の物である。
しかし、シンジの言葉に答えたかのように【デュラハン】の瞳が更に強く輝いた。
シンジの肉体と【デュラハン】の肉体が完全にシンクロし、シンジの意思と呼応した【デュラハン】が大地を駆ける。
【デュラハン】の向かう先には――地面を穿り続けている第四使徒の姿が!
「……まずは、挨拶代わりだよッ!」
シンジの意思を受け、【デュラハン】は大地を蹴り、天高く飛び上がる。
――そして、使徒に向けてライダーばりの跳び蹴りをぶちかます!
モロに食らった使徒は一瞬宙に浮かび、次の瞬間傍の山肌に叩きつけられた。
――しかし、スグに起き上がり【デュラハン】に鞭を向けた。
鞭が軌跡を描き、【デュラハン】に襲い掛かるがしかし!
鞭を食らったにも拘らず、【デュラハン】には傷一つ無かった。
「……無駄だよ。そこ等の人間の作ったものなら兎も角、僕が開発したこの【情報蓄積型完全金属 ヒヒイロカネ】は君の力如きじゃ傷一つ付かない!」
襲い掛かる鞭を掴み、【デュラハン】は大きく拳を振り上げ渾身の一撃を加える――が、
甲高い金属音と共に、赤い壁が【デュラハン】の拳を遮っていた。
僅かに隙を見せた【デュラハン】に、畳み掛ける使徒。
【デュラハン】の強さを学習したのか、鞭の数は六本に増え、更にそれらの鋭さは増していたのか、今度は【デュラハン】の装甲に浅いながらも傷を負わせる。
「――成る程ね。この学習能力の高さと適応能力――そして【ATF】とか言う障壁。……軍隊が梃子摺るわけだ」
使徒の猛攻を受けているにも関わらず、シンジは余裕といった表情でそう呟いた。
「――けど、僕相手じゃあ力不足だね」
ニタリと、笑う。
「――僕の力の一片を、見せてあげるよ」
そう言ってシンジは目を瞑り、【言葉】を紡ぎ始めた

『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。我が手に宿れ、極寒を生きる老獪なる蜘蛛よ。汝の糸にて敵を【捕らえ】、敵を【凍結し】、敵を【貪れ】――』

【デュラハン】の手に、小さな棒が現れた。
薄い水色の水晶のようなもので出来た、剣の柄に似た棒。
【デュラハン】はソレを振りかぶり――

『極寒に眠れ――【氷蜘蛛の糸(ブリザード・スパイダー)】――』

――振り下ろす!
瞬間、空気が煌めき、周囲に微かな冷気が漂う。
使徒は構わず鞭を振り上げ【デュラハン】に一気に突っ込もうとする――が、しかし!

使徒はその場から一歩も動けない。

――何故なら、目に見えないぐらい細い糸の大群が、使徒に絡まっているからだ。
糸は全て、【デュラハン】の持つ【柄】に繋がっていた。
「【氷蜘蛛の糸(ブリザード・スパイダー)】……。冷気を帯びた鞭で敵を攻撃する【魔導兵器】だよ。鞭の数は際限なく増やせるんだけど、数に反比例して細くなっちゃうんだよね……まるで蜘蛛の糸みたいに。君も鞭を使うから、流儀に合わせてあげたんだよ」
淡々と言うシンジ。使徒はそんなシンジを無視し、もがく、もがく、もがく、もがく、もがく。
しかし、もがけばもがくほど糸は更に絡まり、束縛を強める。
「……そろそろサヨナラの時間だよ?」
もがく使徒を見据え、シンジは笑った。
本当に面白そうに、愉快そうに、楽しそうに、口の端を大きく吊り上げ、笑った。
血のように真っ赤な口内が、僅かに見えた。
シンジの意思を感じ、【デュラハン】は【柄】を強く握り締めた。
――瞬間、シンジの魔力が糸を流れ、糸に流れた魔力は強い【凍気】へと変換され、一秒も経たずに――

使徒を巨大な氷柱へと変えた。

南極に匹敵するほどの冷気が、常夏の第三を襲う。
「………バイバイ☆」
キィンッ、と言う甲高い音と共に、氷柱に何重もの線が走る。
数秒の後、線に沿って氷柱がずれ、重低音と共に地に落ちた時には、その体は数百のパーツに分解されていた。
「―――パターン青、消滅。って所かな?」



――役目を終えた【氷蜘蛛の糸(ブリザード・スパイダー)】を消し、シンジはハッチを開けて外に出てみた。
夕焼けの空に、冷たい風が流れる。
「……涼しくて、良い気持ちだ」
一時の休息を味わっていたその時、
『オワッタヨウダナ、シンジ』
本に乗って宙に浮いているサイが、シンジの元に現れた。
「…ああ。思ったより中々やるみたいだよ、使徒は。これなら、暫く退屈からは逃れられるよ」
シンジの言葉に、サイはソウカと返し、シンジの方に飛び移る。
『コンカイノオマエノユウシニケイイヲアラワシ、オレカラノゴホウビダ』
そして、シンジの唇に熱烈な口付け。
暫しの間互いの舌を絡め、濃厚な甘美に溺れる二人。
――唇を離したのは、それから数分後。
「――まったく、何時もいきなりだね、サイは」
『――ソウデモシナイト、オマエニサイショカラシュドウケンヲニギラレチマウカラナ。マ、サイゴハイツモオマエガオレヲセイフクシチマウカラ、ケッカハオナジカ』
「そうだね」
夕焼けを見上げ、言葉を交わす二人。
【デュラハン】は既に屋敷へ送還し、他の人形たちの所へと、二人は向かっていた。
「―――そうだ!」
『ン? ドウシタ?』
「これからどッかに食べに行かない? 時間的に丁度いいし」
シンジの突然の問いに、サイは暫し思案し、言った。
『……アンミツ、タベタイ』
サイはかなりの甘党なのだ。
「ん〜、他の皆にも訊かなくちゃね」
『…ワカッタ』
そう言って、サイはシンジの肩から飛び降り、目を瞑る。

――瞬間、サイの体が光に包まれる。

光が止むと、其処には一人の少女が立っていた。
肩で切り揃えた緑の髪に、黒いドレスと黒いリボン。
瞳は輝かんばかりの金色。
表情に乏しいその顔には、シンジに通じるニヤリとした笑いが浮かんでいた。
「……何でまたいきなり」
『ヒトマエニデルンナラ、コノスガタニナラナイトナ』
先にも言ったとおり、単に人型になるのならシンジとの契約無しでなることが出来る。
……力は従来より落ちるが。
サイはニコリと笑うと、シンジの右腕に自分の腕を絡めた。
よく仲の良い男女がやるアレだ。
『タマニハ、オレモアマエタイ』
「はいはい」
シンジは苦笑して、再び歩き始めた。
何時もより可愛らしいサイの姿を堪能しつつ(オイ)。
――なお、この二人の姿を見て対抗意識を燃やした他の五体が人間形態でシンジに迫り、地上に戻ってきた一般人の男性群から怒りを買ったのは全くの余談である。



一方、NERV発令所では――
「――はッ!? 此処は誰、私は何処!? ――そうだ、使徒! 使徒はどうなったの!? 私の指揮が無いと倒せないじゃないの! 誰か説明しなさいよ――って誰もいない!? 戦闘中になんて非常識な! 誰か来なさいよ、私は作戦部長なのよ、私の命令を聞かないと独房送りよ解ってん――グバベェ!?
「煩いわよ、ミサト…。……人が必死こいて仕事しているのにあなたって人は……私の部屋まで聞こえるぐらいの大声で喚き散らして……当分其処で寝ていなさい」
現れたのは、ユンケルを左手に、右手に真っ赤に染まった釘バットを装備したリツコ。
額には【寝るな!!】と紅い文字で書かれた猫印の鉢巻。
完全武装である。
血の海に伏したミサトを見届けると、リツコは幽鬼の如くゆらりとその姿を消した。
…NERV(主に三大苦労人)の受難はまだまだまだ続く……



おまけ
「あれ? アル、そのペンギン如何したの?」
『う〜んとね、ゴミ捨て場に倒れてたから、拾ってきたの♪ まだ生きてるよ』
「……………クェェ………」
『……かなり、危険、生命……』
「それじゃあこの子、うちで飼おうか」
満場一致で賛成だ。
――しかし、このペンギン――ペンペン――はこの後かなり数奇な運命を辿る事になるのだが、まだ誰も知らない事である。




あとがき


何とか第三話完成しました。
いや〜、長かった。
何か途中で収拾付かなくなってきたけど、その辺は勘弁してください(泣)。
戦闘シーンを入れてみましたが、……かなり下手ですね。
これから精進していくので、どうか見捨てないで下さいまし!
あと、感想でmarionetteerについて書き込んでくれた方、どうも有り難うございます。
どれが正しいか判明するまで、とり合えずmarionetteerの方を使っていきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
第四話も全く出来ていませんが、何とか完成させますんで宜しく!
……かなり時間開きそう。
では、また今度!


修正版あとがき
修正完了です!
まだ三話先はまだまだ長いです!
何とか生き残れるよう頑張ります!
さっさと四話完成させないと…


読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます



     



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