「ようやく、『計画』開始だ」
シンジの前に佇む異形――それは、ある科学者の妄執から生まれし『人形』。
――【人造人間エヴァンゲリオン】である。


第二話 『使徒殲滅、奪われしもの』


「さーて、と。まずは、この【人形】の【魂源(こんげん)】を探さなくちゃ…ね?」
【魂源】とは文字通り魂の源。
【魂】と【心】が存在する場所を指す言葉であり、精神の中心である。
蛇足のようだが、【魂】とは簡単に言うとその生命体の本質、つまりは【本能】であり、【心】はその在り方を表したものである。
説明が長くてすまん。話を戻そう。
シンジは初号機を見つめ、まるで探るかのように視線で嘗め回す。
一秒も経たずに、シンジは【感じ取った】。
胸部装甲板の下。
其処こそが、この【人形】の中心、つまりは【魂源】。
シンジは、クスッ、と小さく笑い、ポケットの中に手を突っ込む。
そして、ある【言葉】を紡ぎ始めた。

『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。汝の【怒り】を我が手に、汝の【憤り】を我が手に、汝の【暴虐】を我が手に――』

そこで一旦言葉を切り、ポケットから右手を出す。
現れた右手は、毒々しいほど真っ赤な籠手に覆われていた。
シンジはそのまま冷却用LCLの水面に右手を当て、ポツリと呟く。

『爆ぜろ――【憤怒の魔手】――』

変化は劇的だった。
爆発するような轟音が発生し、水槽を満たしていた膨大な量のLCLが全て吹き飛ばされていた。
――残るは、水槽の主である初号機のみ。
シンジは子供のような笑顔で初号機を見つめていた。
同時に、背筋が凍るような気配が、シンジから放たれる。
――純粋な【殺意】。
それは、シンジが一般的に言う【両親】への思いの、殆どを占める感情。
ゲンドウに捨てられてから十年――
【人形たち】との生活で大分性格が変わったが、彼の根底に存在する【殺気】は【殺意】へと成長していた。
――そして、その【殺意】を向けるべき片割れ【碇ユイ】が、目に前にいる。
ゲンドウの時もそうだったが、彼はまだ【殺意】を実行に移してはいない。
つまらないからだ。
簡単に終わらせてはつまらない。存分にからかって、いじめて、苦しませてから殺す。
子供じみた考え――それが恐ろしい。
今は面白がっているが、殺す段階になれば、シンジは笑みも浮かべず冷たい表情で、殺す。
ソレが【シンジ】、【人形】を従えし【人形遣い】。
【人間】を殺す事に、なんの躊躇いも罪悪も覚えない。
彼にとって、【人間】とは【人の形をした肉の塊】なのだ。
一部の【人形たち】のみが、彼の家族にして奴隷。
シンジは【彼女たち】を求め、【彼女たち】はシンジを求めた。それだけ。
そして今、【六体目】が加わる。
…話が長くなった。
シンジはとりあえず【殺意】を抑えると、【浮遊】の術式を口ずさむ。
キョウに教えてもらったのだ。
術を展開し、シンジは【水槽だったもの】の中に飛び込んだ。
そして、初号機の胸部に手を当て、また呟く。
先程より幾分か軽い音を立てて、胸の装甲が吹き飛んだ。
目に映るのは、紅玉に似た真紅の塊。
全てのエヴァの【魂源】、コア。
この中に、シンジの『計画』の最重要目的が眠っているのだ。
シンジはニヤリと笑うと、コアに手を当てた。

白い世界、何もない世界。
そこには、何もなかった。
一つの【魂】と【心】以外は…。
【心】は泣いていた。
外に出たい、と。自由になりたい、と。
ずっと、ずっと泣いていた。
【魂】は笑っていた。
これで願いは叶う、と。永遠に生きられる、と。
ずっと、ずっと笑っていた。
そして、ソレは唐突にやってきた。
此処に存在しないはずの、【何者かの意識】が。

(………発見♪)
精神世界に【ダイブ】したシンジは、二つの【力】を見つけた。
【心】と【魂】である。
その内一方に接触を試みるが、突然もう片方の【力】が強引に割り込んできた。
(……なッ!?)
強制的に繋がる、イメージ。

――さあ、私の手を取りなさい、一つになりましょう?
そうすればもう何も考えなくてもいいのよ。
何も感じなくてすむの。
さあ、私の手を取って、とって、トッテ。
シンジシンジシンジシンジシンジシンジ……――

【碇ユイ】。
妄想に取り付かれた、哀れな女。
シンジとシンクロしようと、意識の触手を伸ばしてくる。
……自らの欲望と、自己満足的な母性本能を果たさんと。
(……邪魔だ)
その言葉には、何の感情も込められて、いない。
あるのは【殺意】。
シンジにとって、【両親】とは【単に邪魔な、何時か始末するべきゴミ】というモノ。
今は殺さない、それだけ。
シンジは先程とは違う【言葉】を紡いだ。

『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。具現せよ、我が意思より溢れし【憎悪】よ、我が意思より生まれし【嫌悪】よ、我が意思を形作りし【悪意】よ――』

シンジから生まれし【何か】が、近付いてくる【碇ユイ】に絡みつく。
続いてシンジは、【ソレ】の名を紡いだ。

『彼の者に束縛を――【悪夢の牢獄】――』

瞬間、【悪夢】が舞い降りた。
黒い耀きを放つ【悪夢】は瞬時に球形に変化し、【碇ユイ】を内部に取り込んだ。
同時に、今までシンジに纏わり付いていた思念が消えた。
これぞ悪夢にて精神を封ずる【魔導兵器 悪夢の牢獄(ナイトメア・プリズナー)】。
精神世界でのみ威力を発揮するシンジの【武器】にして【下僕】。
自意識は存在しないものの、シンジに忠誠を誓っている。
先程使った【憤怒の魔手(ハンズ・オブ・アンガー)】も、シンジの使役する七つの【魔導兵器】の一つなのだ。
【魔導兵器】とは何か? 何故シンジが使えるか?――ソレは後々説明しよう(脱線しまくるから)。
(排除完了♪ 大人しくしててねオ・カ・ア・サ・ン♪)
【悪夢】の中に消えた【碇ユイ】を、愉快そうに笑いながら一瞥するシンジ。
彼の視線は既に、泣きじゃくる【心】に向けられていた。

ここにはなにもない。
あるのはわたしと、【いやなやつ】だけ。
【いやなやつ】はずっとわたしをくるしめる。
おさえつけて、もともとあまりなかった【じゆう】を、【いやなやつ】はうばっていった。
わたしはほしかった。
いっしょにいてくれるひとが。
わたしはのぞんでいた。
だれかにふれられることを。
きたのは【いやなやつ】だけ。
ふれるのも【いやなやつ】だけ。
そのあとにきたやつも、【いやなやつ】にふれていって、すぐにかえっていく。
もういやだ、ここは。
もういやだ、【こいつ】とここにいるのは。
わたしはみたい、【ひかり】というものを、【そらという】ものを。
わたしはふれてみたい、【くさき】や【いきもの】に。
わたしは、【じゆう】がほしい――

――【心】は気付いてはいない。
すぐ近くに、自分と接触しようとする第三者の存在に。

(――やっぱり、第一印象ってのは大事だからね。ここは緊張させないようフレンドリーかつ紳士的に行かないと)
こほん、と咳払いを一つするシンジ。
そして、ゆっくりと【心】に触れた。

―――やあ、こんにちは。
―――…………!?
―――ああ、そう警戒しなくていいよ。別に獲って喰うつもりは無いからさ。
―――…………?
―――え、僕が誰かだって? う〜ん強いて言えば【魔導師】にして【人形遣い】だよ。
―――……………??
―――余計分かんない? そうだねぇ、後者はともかく前者を簡単に言うと【君のお願いを叶えに来た不思議なヒト】、かな。
―――………………!?
―――そう。僕は君の願いを聞きに此処へ来たのさ。――さあ、何でも言ってごらん、絶対に叶えてあげるよ。……その代わり、【代価】を支払って貰うけどね。
―――………?
―――【代価】というのは報酬の事。物事はキブ&テイクに行かないとね。僕が言う【代価】とはズバリ――【キミ】の事さ。
―――…………!!?
―――まま、そう警戒しないで。ちゃんとその辺に関しては考えてるから。――【キミ】の望みは確か【此処から出て、自由になりたい】、だっけ? ご心配なく。僕は【キミ】の為に新しい【体】を用意してあるんだ。勿論自由に動けるヤツをね。――その代わり、僕は【キミ】が欲しい。新たな【人形】、【奴隷】、【家族】、【眷属】……ま、言い方は様々だけど、僕や【彼女たち】が【キミ】を求めている事には変わりない。
―――…………………
―――時々僕の【お願い】を聞いてくれるだけで構わないし、ある程度やる事やってくれれば別に束縛したりしないよ………現に【あの子たち】がそうだし(泣)。
―――ま、よく考えてみて。あと、契約したあと二週間以内はクーリングオフ付くから。――あ、それとサービスで【掃除】しといたから、暫く【アレ】は出てこないよ。じゃ、決まったら呼んでね。

シンジと【心】の会話は、終わった。
また、【心】は一人になった。

いったいなんだったんだろう?
なぜ【あのヒト】は【いやなやつ】じゃなくてわたしにふれていったんだろう?
……ものすごくうれしい。
けど、なぜ、わたしがほしいんだろう?
【いやなやつ】はずっとわたしにここにいろといっていた。
【いやなやつ】はわたしはここにいないとかちがないっていっていた。
……わたしはここはきらい。けど、ここからでたわたしには、いみがあるのだろうか。
すくなくとも、【あのヒト】はわたしがひつようなのはわかった。
――だったら、わたしのこたえは、きまっている。

「……成る程、それが【キミ】の答えか」
閉じていた目を開き、シンジは笑みを浮かべそう言った。
喜色満面。
彼の表情がそう物語っていた。
「いいだろう、契約成立だ」
シンジがそう言って取り出したのは、奇妙な形のペンダント。
二重円の中に幾何学的な図形が織り込まれたそれは、小さくもまるで魔法陣のような形をしていた。
中心には、エメラルドグリーンの耀きを放つ、一つの石。
シンジはコアにペンダントを押し当て、【言葉】を唱える。

『――我が司りし【魔を秘める武器】の一柱よ、【契約者】シンジが命ずる。汝の知恵にて此処に存在しえる物を【変質】せよ、【合成】せよ、【分解】せよ――』

【言葉】に反応し、ペンダントが強い輝きを放つ。
同時に――
ゥゥオォォォォオオォォォォォンンンンンッッッ!!!!!!
エヴァンゲリオン初号機――その【心】――が、歓喜の雄叫びを上げた。

ゥゥオォォォォオオォォォォォンンンンンッッッ!!!!!!
突然の絶叫に、驚き目を覚ますものがいた。
シンジに気絶させられた赤木リツコである。
ふらつきながらも立ち上がり、ぼやける思考に喝を入れつつ、状況を知るべく辺りを見回す。
目に映るものは――
「…………ッ!?」
人間だった【モノ】と、辺りを紅く彩る鮮血。そして、【人形たち】。
込み上げる悲鳴を押し殺し、リツコは冷静に考えを巡らせた。
結果は――
「………勝てるわけ無いわね」
あらかた片付けたのか、動く黒服は存在していなかった。
白兵戦に【NERV】は弱い。
戦闘力の高い保安部がまるでゴミ扱い。
銃を持った一般職員程度では、太刀打ちできないのは目に見えている。
それでも敢行しそうな某飲んだくれ暴走作戦部長も、激痛で気を失っている。
リツコは、何時も通りの冷静な視線で、シンジと初号機を見据える。
雄叫びは止まったものの、耀きは収まっていなかった。
「……一体、何が始まるというのかしら?」
恐怖を抱きつつも、それより強い【興奮】と【好奇心】に心を揺さぶられるリツコ。
彼女は根っからの【学者】なのだ。
リツコの視線は、シンジの行う【儀式】に釘付けとなった。

『汝の力を解き放て――【愚賢なる秘石】――』

瞬間、光は一際輝きを増し、シンジとコアを包み込んだ。
――そして、光が途絶えた後には、シンジと紅い輝きを放つ小さな【光】。
初号機の【心】である。
【愚賢なる秘石】――それは、歴史に置ける【賢者の石】の【オリジナルのレプリカ】。
そもそも【錬金術】は【魔導】から枝分かれして発達した技術なのだ。
【賢者の石】も、ある【魔導兵器】の【デッドコピー】にすぎない。
圧倒的に、シンジの【オリジナルのレプリカ】である【愚賢なる秘石】の方がランクは高いのだ。
ありとあらゆる【法則】を操作する演算装置――それが【愚賢なる秘石】。
初号機と【心】を分離させる事くらい、朝飯前なのだ。
「さて、目覚めの時間だよ」
ぱちん、と指を鳴らす。
同時に、シンジの左手にある物体が現れる。
――それは、奇妙なモノだった。
木を荒削りしたかのような、ただ手足が付いただけの【人の形をしただけの人形】。
顔も無ければ、服も着ていない、木彫りの【人形】だった。
そして、シンジはゆっくりと、右手の【光】を左手の【人形のようなもの】に、押し込んだ。
朗々とした【言葉】が場の空気に染み渡る。

『目覚めよ、【六体目】。【魔導】より生まれし【モノ】よ!』

【人形のようなもの】が小刻みに震えだす。
爆発的な光が、辺りを蹂躙し、全てのものを覆い隠した。
光が収まり、そこには笑みを浮かべるシンジと、劇的に変化した【人形】。
まるで人間をそのまま縮めたかのような精巧なフォルム。
肌は温かみを持ち、頬は血色がいいらしく、ほのかに赤い。
服はドルイドを思わせるぞろりとした紫色のローブ。
髪は黒の長髪を三つ編みに縛り、後ろに流している。
顔立ちは整っており、他の【人形たち】には無いあどけなさを感じさせる。
【人形】はきょとんとした顔で、シンジを見つめていた。
「これで【キミ】は【自由】だよ。これから外に連れてってあげるからね」
シンジの言葉を聞き、【人形】は泣いた。
今までとは違い、【嬉しくて】泣いた。
突然泣き出した【人形】に戸惑いつつも、シンジは苦笑しながら自分の頭に乗せる。
【人形】はシンジの頭を抱きしめ、泣き続けた。
(名前……考えないとね)
他のみんなの意見も聞こうかな、と呟きながら、シンジは立ち去ろうとするが、ふと振り返り抜け殻になった初号機を見つめた。
顔を歪ませ、嘲りの笑みを造りつつ。
「【これ】、やっぱり勿体無いよねぇ」

アル『アルちゃんと』
キラ『き、キラちゃんの(///)』
二人『『アイキャッチ座談会〜(ドンドンドンパフパフパフ〜)』』
アル『――と、言う訳でキラちゃんアイキャッチだよ。日本語に直すと『目玉を掴む』ッ!!』
キラ『ちょっと意味が違うような…。――ところでアルさん、何で私たちこんな事をやってるのでしょう?』
アル『それはね〜。これが各種設定説明の名を借りた作者の時間稼ぎで、わたしたちはその司会の為に駆り出されたんだよ〜』
キラ『ちゃらんぽらんですね。…ところで、作者さんはどちらに?』
アル『ん♪ モーツアルトの【鎮魂歌】を聞かせてあげたんだけど、感動疲れしたらしくて眠ちゃった♪』
キラ『……そうですか。ご愁傷様です』
アル『歓声(叫び声?)を上げて聞き入ってくれたんだよ〜。――ま、内輪ネタここまでにして、さそっく説明行ってみよ〜♪』
キラ『まずは基本設定の【魔導学】からです』

魔導学とは……
我々の時代【西暦】以前に栄えた超古代文明より発生したと言われる学問である。
アル『よーするに、今では全く廃れちゃった、古臭いカビの生えまくった学問という事だねッ☆』
キラ『み、ミもフタもないです…』
一説では【魔法学】、【魔術学】、【錬金学】、はたまた【科学】すらも【魔導学】の名残だと言う話も…
アル『ちなみに【魔法】と【魔術】の違いはまた今度ね』
キラ『あるんですか? 今度って』
【魔導学】とは即ち【全て】である。この世に存在する【法則】、【原理】、【因果】など【世界】を形成する様々な要因を理解し、その全てに干渉する術を生み出す事が、【魔導学】の最大理念であり、目的なのだ。
アル『大層な事言ってるけど、現在では過去の遺産をネチネチ弄繰り回すだけだけどね。――あ、シンジはそんな根暗ヤロウとは違うんだよ。シンジは実際に新しい魔導理論とか確立してるし、世界有数の実力者だもんね』
キラ『ああ…マスター……。素敵すぎますぅ』
そして【魔導学】の技術より生まれたのが、俗に(一般に知られていないのにも拘わらず)【魔導宝具】と言い、生物なら【魔導生命体】、武器なら【魔導兵器】と項目分けされている。
アル『ちなみに、わたしたちは【魔道生命体】に当てはまるんだよ』
キラ『ええ、そうです。マスターの快楽の為だけに存在する【生人形】…ああ、幸せです…』
アル『――ありゃ? お〜いキラちゃ〜ん、お〜い』
ピラピラ(キラの顔の前で手を振る音)。
キラ『〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ぽわ〜ん)』
アル『ありゃりゃ、【アッチ】に逝っちゃった。――と、まぁ今までの説明を要約すると、【モノすんごく昔に魔導と言うのが存在してて、シンジがそれを使える】と、言うわけ。分かったかな?』
要約しすぎだ。
アル『つっこみど〜も〜。そんじゃ、今回はココまで。次回は【シンジと人形の出会い】と言う題名だよ♪ 読んで字の如くわたしたちとシンジのファ〜ストコンタクト。もしかしたら外伝くらいに長くなるかもしれないよ、楽しみにしててね!』
キラ『ああ〜、半ズボン時代のマスターも素敵です〜』
アル『キラちゃん、早く帰ってきて(汗)』
――終劇――




「…何か、妙な電波が発生したような……」
気のせいです。
「――ま、いっか。さぁて、リサイクルリサイクル♪」
そう言うシンジの顔には、これでもかと言うくらいの笑みが詰め込まれていた。
「――まずは、害虫駆除♪」
再び、シンジは【愚賢なる秘石】をコアに押し付けた。
――すると、

――――ズブリ――――

シンジの手が、握られていた【愚賢なる秘石】ごとコアに沈んだ。
「さぁ、今出してあげるよ。オカアサン☆」
無邪気な笑みを浮かべ、コアに差し込んだ右手を、勢いよく引き抜いた。

その手に握られているのは、人間の腕。

その先に続く部分は、未だコアの中に沈んだままである。
『……分離(セパレイト)ッ!』
シンジの【力ある言葉】がその場に響き渡る。
そして――

――――ブンッ、ぐちゃ。

【女の形をした何か】がコアから現れ、宙を舞った。
そして、勢いよく地面に叩きつけられる。
シンジはそれを、楽しそうに見つめている。
「大丈夫だよ、オカアサン。ちゃんと死なないよう手加減したからね♪」
そうのたまうシンジ。
死にはしないがおそらく、半年以上ベットから起き上がれないだろう。
【女の形をした何か】の手足は在りえない方向に折れ曲がり、少しずつだが血が流れ出し、辺りを赤く染め上げる。
それを見て、満足そうに頷くシンジ。
そして、再び初号機に目を遣り、一言。
「駆除完了、と。お次は――」
キョロキョロと辺りを見回すシンジ。
一秒と経たず、目的の何かを見つけシンジは大声を張り上げた。
「おーい。キラぁ――」




キラぁ――

ぴくり。

蚊の鳴くようなか細い声にも拘らず、キラの耳はソレを的確に捉えた。
瞬く間に彼女の姿は掻き消え、シンジの前に現れ出でる。
所要時間約0.1秒。
…恋する乙女は、物理法則をも超越するのだ(ホンマかいな)。
『ハイッ、マスター! 何か御用ですか?』
目に星を散りばめ、ウットリとした顔でシンジを見つめるキラ。
全身から可愛がってくださいオーラが立ち昇っている。
…大丈夫かオイ。
「うん、ちょっと頼みたい事があってね」
『何なりとッ!』
普通の人間なら引きまくるであろうキラの迫力にも、たじろく素振りすら見せないシンジ。
…色んな意味で、彼は大物なのだ。
「ありがとう。――このデカブツを屋敷の倉庫まで運んで欲しいんだ。始めは壊すつもりだったんだけど、勿体無くなっちゃってね。――貧乏性だな、僕って」
いや、ゴミ捨て場に置いてある動きそうな家電製品を持って帰るようなノリで言われても。
『流石マスター! 利用できるモノは何でも利用尽くすその精神、正に倹約家の鏡ですッ!!』
かなり嫌な倹約家だな、オイ。
『解りました。早速仕事に掛かります』
そう言って、キラは今までとは違う大きな黒い鍵を取り出した。
何故かその鍵には、ぷりてぃなウサギの名札型キーホルダーが付けられており、名札には【myハウスきー】と可愛らしい丸文字で書かれていた。
…気合抜けるなぁ。
『開門(オープン)ッ!』
キラの【言葉】と同時に、巨大な扉が現れた。
先程の扉よりも二回りほど大きい、古びた扉だ。

ガッコォオ…

物々しい音を立てて、扉が開いた。
中は――真っ暗で何も見えない。
何も感じられない、只の闇。
生き物なら恐怖を感じるであろうこの闇も、抜け殻となった初号機には、何の意味もない。
あっさりと、初号機は扉の向こうに吸い込まれていった。
『――閉門(クローズ)』
再び重厚な音を立て、扉が閉まっていく。
完全に閉まると同時に、扉は何事も無かったかのように掻き消えた。
――その場に残るのは、完全にその意味を無くした、巨大な水槽のみ。
『お仕事終了ですッ』
「ありがとね、キラ」
シンジの労いの言葉に、蕩けそうな表情で嬉しがるキラ。
シンジはそんなキラを見て、嬉しそうに目を細める。
「―さて、そろそろ帰りましょうかね、と」
右腕をキラに差し出し、乗るよう促すシンジ。
キラはすかさず、腕に抱きつく。
「みんなぁー。帰るよぉー」
間延びしたシンジの声が、辺りに響いた。

『――ちぇ、もう終わりかよ』
体中に飛び散った血飛沫を掃いつつ、ぼやくラン。
思ったより黒服が弱かった所為で、欲求不満なのだ。
『う〜ん、あんま大した事無かったね☆』
『ドクニモクスリニモナランブタドモダッタナ』
同じように血飛沫を掃いつつ、楽しそうに言うアル。
サイの方はバリアに護られていたので、汚れの心配は皆無だ。
『ふん。所詮はこの程度か』
キョウは少し不機嫌そうだった。
彼女もラン同様、暴れ足りないのだった。
「ぼやかない、ぼやかない。――これからはもっと暴れられると思うから、機嫌直してよ、ね♪」
不意に虚空から現れるシンジ、そして元初号機とキラ。
『べ、別に不満では無い!』
驚いて顔を赤らめるキョウ。
彼女も、根は純情派なのだ。
『…マタナニカタクランデヤガルナ。アトデハナシキカセロヨ、シンジ』
にんまりと笑うサイ。
企み事や策略が、三度のメシよりも好きなのだ。
ちなみに、シンジに策略や戦略の美学を叩き込んだのは、サイだったりする。
『わ〜い! 楽しみだな〜』
『ヒャッホー!』
喜びの声を上げ、踊り狂うアルとラン。
この二人は、暴れるのが三度のメシと同じくらい好きなのだ。
「ふふ。じゃあ今日はもう帰るから、皆?まって」
言うと同時に、人形たちはシンジに群がった。
ランとサイはシンジのバックの上に座り、アルは左腕、キョウはシンジの頭の上に何時も?まるのだが、元初号機がその場所に居た。
キョウの姿を見て、少し震える元初号機。
キョウはそんな元初号機を見て、ふと表情を和らげた。
そして、元初号機を抱き寄せ、耳元で呟いた。

『…大丈夫だ』

ビクリ、と身を震わせ、キョウを見つめる元初号機。
キョウは、姿勢を入れ替え、元初号機を膝の上に乗せる。
そのまま、元初号機は目を細めて寝息を立て始めた。
『…まるで猫みたいだな』
『そ〜いうキョウちゃんは、まるでお母さんみたいだよ〜』
ぼかッ!
『うるさいッ!』
『ふえ〜ん。キョウちゃんがぶった〜』
茶々を入れるアルに、鉄拳制裁で答えるキョウ。
少しばかり笑顔なのは、【お母さん】役というのも満更でもないようだ。
そんな光景を、シンジは笑顔で見つめていた。
(……これならこの子も、早く馴染めるな)
平和な一場面。しかし――
「――ま、まちなさい!!」
いい場面に水を差す一言。
赤木リツコである。
神秘的なシンジの【儀式】を見て、暫く意識があっちの世界に逝っていたのだが、漸く帰って来られたのだ。
「あ、リツコ女史。僕たちもう帰りますんで、お構いなく」
そう言ってスタスタとケージの出口に向かうシンジ一向。
リツコは尚もシンジたちに向かって叫ぶが、全て無視。
そうこうしている内に、重厚な扉がシンジたちの視界に入る。
固く閉ざされている筈のそれは、キラが少し撫ぜただけで、いとも簡単に開いてしまった。
「――ああ、そうそう」
足を踏み出す直前、シンジは思い出したかのように振り向く。
「【茶番劇】のチケット代と【お土産代わり】のガラクタ代に、表の【使徒】とか言う怪獣、片付けてきてあげますよ」
ニヤリと笑うシンジ。
その笑みは美しく、悪魔よりも邪悪な笑みだった。
リツコが再び何かを言おうとしたその瞬間、シンジたちは扉をくぐり、姿を消した。
「…一体何が起こっているというの?」
一人その場に残され、呆然と呟くリツコだった。

「ん? 碇、どうした。そんなに慌てて」
「…問題無い。そんな事より冬月、本部全域に非常警報を発令だ。奴を第三から逃すな!!」
「…ちょ、ちょっと待て。いきなり何を言うんだ。…それに奴とは一体?」
「……【サードチルドレン】だ」

この会話の数秒後、本部全域に【サードチルドレン】の捕縛、もしくは抹殺指令が下されたのだが、しかし……

「――ん〜。日差しが気持ち良いね」
『イマハヨルダゾ、ボケ』
シンジの脳天気な一言に、サイが冷たいツッコミを入れた。
――シンジたちはもう既に、ジオフロントの外にいた。
実は、ケージの出口とジオフロントの出口をキラの【能力】で直結し、待ち構えているはずの罠や黒服を一切無視で外に直行。ちなみに、現在地は第三の郊外に位置する小高い丘の上である。
『――で、誰が殺るんだ? あの【デカブツ】』
ランの視線の先には、悠然と街中を歩き回る、巨大な【怪物】の姿。
第三使徒【サキエル】である。
『なぁ〜、俺に殺らせてくれよ〜シンジ〜』
不気味なくらい甘えた口調で、シンジにおねだりをするラン。
「うーん。皆はどうしたい?」
シンジの問いに、人形たちは思い思いに答えた。

『メンドクサイカライヤダ』byサイ
『ん〜、パスッ! だって、お腹空いたんだもん』byアル
『すいません、私も疲れてしまって。――申し訳ありません』byキラ
「ああ、キラはいいよ。今日は頑張ってくれたからね。気にしないで、ゆっくり休んでて」byシンジ
『我は……ふむ、正直言って暴れ足りないな』byキョウ

――暫し思案し、シンジは口を開いた。
「ん〜それじゃあ……キョウ、頼んだよ」
『えぇッ!? 何で俺じゃないの!!?』
シンジの決定に、不満気な声を上げるラン。
「……打ち上げ花火は派手な方が良いと思ってね」
そう言って、ニヤリと笑うシンジ。
そんなシンジの笑みを見て、ランは黙り込む。
この顔のときのシンジは危険だからだ。
何年か前に、ランはこの状態のシンジに逆らった事があった。
……待っていたのは………【お仕置き】
その結果、ランは三日間ベッドから起き上がれなかったらしい…
尚この事件の後、不始末を犯した人形たちは、シンジから【お仕置き】という名の罰を受けるようになったそうである。
「…それとも僕に逆らうの、ラン?」
『キョウ、頑張れよ!』
そう言って、キョウの方へにこやかな笑顔とガッツポーズを向けるラン。
しかし、その顔は引き攣りまくっており、リゾート色になっていた。
【お仕置き】とは一体……
『……まったく、お主は…』
ランの変わり身の早さを見て、疲れた顔でキョウはそう言った。
しかし内心では……
(……気持ちはわからんでもないがな)
どうやら、キョウも【お仕置き】にあった事があるらしい。
抱えていた元初号機をキラに預け、キョウはシンジの頭の上から飛び降りた。
とっ、と地に降り立つと、目線をシンジと合わせる。
「――第二封印ぐらいで良いかな」
『――妥当だな』
短い会話を交わすと、シンジは空いている右腕(キラは頭の上に移った)でキョウを抱え上げる。
そして―――

キョウと唇を合わせた。

『んっ…ん…んんっ……』
クチュクチュという粘膜の奏でる音と共に、キョウから艶かしい吐息が漏れる。
――次の瞬間、

――ッカアァッ!!

強い光が二人を包み、辺りを明るく照らす。
しかし光はすぐに途絶え、闇が再び戻る。
そしてシンジの前には――
――一少女が立っていた。
身長はだいたいシンジと同じくらい、白銀の長髪を背中に流し、白地に桜の花びらをあしらった浴衣を着流した、16〜7くらいの美少女。
「――なるべく派手に頼むよ、キョウ」
シンジの言葉を受け少女――キョウ――は両の瞳を開き、答えた。
『――委細承知!』
言葉と共に、彼女の【魔術眼】が輝きを帯びる。

――構成開始――

瞬間、キョウの周囲に無数の文字列が浮かび上がり、円環状に変化しつつゆっくりと廻り始める。
『――ふむ。地の魔術は使えないか。ならば――』
文字列の一つに指を当て、新たな光文字――【構成言語】――を書き加える。
更に、次々と【構成言語】を書き足していく。
――何時の間にか、キョウを取り囲む文字の環は、最初の数倍近くにまで増えていた。
『お主には怨みは無いが――』
文字を綴っていた指の動きを止め、キョウはサキエルを睨みつけた。

『――死んでもらう』

底冷えするような声で言い切る。
そして、同じような声で彼女は【言葉】を口にした。

【――死針の雨(ニードル・シャワー)――】

第三新東京市。
そう名付けられた街中を、【そいつ】は悠然と歩いていた。
――第三使徒【サキエル】――
それが【そいつ】の名前だった。
【そいつ】は何も考えてはいなかった。
この街に来たのも、只単に【存在】を感じたからに過ぎない。
途中で、空を飛ぶ【何か】を撃ち落したりしたのも、纏わり付かれて鬱陶しかったからだ。
【そいつ】は歩みを止めようとしない。
流石に、大きな爆発に体を焼かれた時は、体組織を再生する為動きを停止したが、それでも暫くすると歩き出した。
何故、歩みを止めない――それは、会いたいからだ。
何故会いたいかは、【そいつ】も解らなかった。
ふと、【そいつ】は自分の体に何かが接触したのを感じた。

構わず歩み続けようとする。――だが、

――強い感覚が、体の中を走る。

【そいつ】は思わず動きを止め、更に迫り来る感覚に耐え切れず地に伏す。
その感覚を、【そいつ】は数時間前にも味わっていた。
そう、【痛み】という感覚だ。
爆発よりも鋭い【痛み】が、【そいつ】を襲う。
――そして、【そいつ】は【痛み】の原因を知った。
水滴である。
【そいつ】は、空から降ってくるそれの名前が【雨】という事を知らなかった。
その【雨】の一粒一粒が鋭い針状に変化し、【そいつ】の体を貫いていたのだ。
よくよく見てみれば、そこらじゅうの建物や地面も穴だらけになっていた。
理由さえ解れば如何という事は無い。
【そいつ】は何時も通りに心の壁――ATフィールド――を張り、【雨】を防ごうとするのだった。

『……無駄な事を』
ATフィールドを張ろうとする【そいつ】の姿を遠目に眺めつつ、キョウは呟いた。
『何をしようが、我の術からは逃れられない』
指を空中に踊らせ、最後の【構成】を書き綴る。
文字の環が、更に強い輝きを放つ。
『……安らかに』
わずかな憐憫の情を込めて、キョウは最後の【言葉】を紡いだ。

【――風精の槍(シルフィード・スピア)――】

瞬間、【そいつ】の体の中心にあった大きな紅玉――コア――が弾けた。
――まるで、見えない槍が【そいつ】の体を貫いたかのように。
そして、夜空に大きな花火が咲いた。
十字に耀く、とても大きな花火が、第三新東京を彩ったのだった。




『…終わったぞ』
「ん、お疲れ様」
再び両目を閉じ、シンジたちの方へ振り向くキョウ。
シンジは、さわやかな笑みを浮かべ、今日に労いの言葉をかける。
『やっぱり、キョウさんの魔術は凄いですね』
『そ〜だね。これでもうちょっとオンナノコラシイ所があればパーペキなのに…』
ずばこッ!!
『ふえ〜ん』
『聞こえているぞ!』
アルの余計な一言に、半ば本気で鉄拳制裁を与えるキョウ。
結構気にしているのだ。
「まま、二人とも喧嘩しないで。これでもキョウは結構オンナノコラシイよ。特にベッドの中では…ね☆」
『あ、それもそうだね〜。わたしったらうっかりサン☆ ゴメンね、キョウちゃん』
何気に凄い事口走るシンジ。納得するアルもアルである。
『あ、あああああああああるじッ!!? そんな事、大きな声で言うな!!』
顔を真っ赤にして怒鳴るキョウ。
しかし、迫力は全く無くどちらかと言うと、可愛らしい。
『マッタク、ウブナネンネジャアルマイシ。イチイチサワグンジャネェヨ』
『あ〜、暴れ足りねぇ』
毒づくサイと、ダルそうにたれているラン。
この二人、キョウが【サキエル】を片付けている間、暇で暇でしょうがなかったのだ。
ちなみにアルとキラは、元初号機の世話をやいていたらしい。
「んじゃあ、そろそろ帰ろうか」
そう言ってシンジは、ひょい、っとキョウを抱き上げた。
お姫様抱っこと言うやつだ。
『あああああああああああああああああるじぃっ!!??』
真っ赤だったキョウの顔が更に真っ赤になる。
夕日も裸足の赤さだ。
ちなみに左腕にいたアルは、ダッコちゃんよろしく、腕に抱きついていた。
『う〜。キョウさん、ずるいです〜』
『キョウちゃんいいな〜』
羨ましそうにキョウを見つめるキラとアル。
「あははは、二人はまた今度ね。いやぁ、一回やってみたかったんだよね、コレ」
楽しそうに言うシンジ。対するキョウは真っ赤なまま口をパクパクしている。
「さてと、かえろうか。今日のご飯はローストビーフだよ」
『わーい! ローストビーフ!!』
『肉だぁー!!』
口から涎を滴らせ、喜びに震えるアルとラン。
『ガキカ、オマエラ…』
呆れたように呟くサイ。
実は、彼女も心中では喜んでいたりする。
『御箸の持ち方とか、教えてあげますね』
『…………(コクン)』
ほのぼのしい光景の、キラと元初号機。
何時までも元初号機では可哀想である。名前を考えてやらねば…
シンジは夜空を見上げ、優しげな微笑から壮絶な笑みへと、表情を変え、呟いた。
「NERV、SEELE、そして使徒………僕の『暇つぶし計画』の礎になってもらうよ」
クスッ、と小さく笑い、シンジと人形たちはその場を後にする。

一方NERVはと言うと、
髭と電柱は愛しい人の凄惨な姿に卒倒し病院に運ばれ、
無能牛も手首切断の治療(必要あるのか?)の為病院に運ばれ、
金髪マッドは狂ったようにデータを取り続け、
他の職員は今あった出来事が信じられず、呆気に取られていた。
この後、更に退職者が出るのは言うまでも無い。


あとがき
ガーゴイルです。
祝第二話終了!!
いや〜長かった。
途中でネットに繋げられないという事故に遭いつつも、何とか完成できました。
遅れてホントすいません。
ちなみに第三話は……全く出来ていません(汗。
皆さん素人以下の文章ですが、どうか見捨てないでください。
これからも頑張りますですハイ。


修正版あとがき
修正完了。
次々逝きますんで、宜しく!
…最後までいけるかな?

読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます



     

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