「だから決めたのさドナルド! 僕が世界を平和にしてみせる、争いも、飢餓も、病気も、国境だって無くしてみせるってね!!」

「そいつは素敵だねジョージ!! だが其れは難題だよ、どうやる気だい?」

「簡単だよ、反対する奴は犯罪者に仕立て上げて打ち殺してやれば良いのさ」


今も何処かで演じられている喜劇。。。違うのは役者と小道具だけ



『Mission3:Wild Fang/Late battle』


「先ず、状況を整理しようぜ」

「異議無し、賛成。先ずは・・・あのデカイ犬がどうやって近付いてきたか、ってのは如何かな」

ベストの胸部分に装着していた爆裂スローイングナイフを確かめる、案の定、曲がっている物が二本ほど。衝撃では起爆しないようだから使用は不可能じゃない筈、ただ凹みのせいで軌道がずれそうだから少し振ってバランスを確かめる。

「見当はついてるんだろ」

「カルロスもだろ」

カルロスの手元に視線を向けつつ、自分と同じように胸にぶら下げている各種装備を点検している、手榴弾が起爆していたら今頃は

「ああ、奴は『木の上を渡って来た』・・・反論は?」

「ありません先生、木の幹の上の方、爪痕が残ってるしな。だから最初の方では高速で接近と言われていたのに近付くにつれ、移動速度が落ちたわけだ」

「言われていても人間って奴は頭上への警戒を怠りがちになるからな、リーチマンで学んだんだが・・・自然を弄りやがって、神様から天罰が下るってんだクソッ!」

地面を殴りつける、が、そんなものは鬱憤を晴らす代替に過ぎない

「この国のボス、自称神の代理人で世界の警察様が変わりに下してくれるんじゃなかったっけ? ンナ事は如何でも良いんだよ、イヌ科の動物って木に登ったっけ? 世界まる見えで特集組んだの、見たこと無いんだけど」

「キタノ監督が水撒いて大暴れする番組か? うちの隊長、なんか気に入ってるぞ」

「マジすか」

あの強面の・・・軽い驚きと共にBDに薙ぎ払われた場所を押さえ、顔をしかめる

「ああ、監督作品の映画も全部見たらしいぞ。ザトーイチだったか? エドにもタップダンスがあったのかとえらく感動してたっけ」

「そりゃあカルロス、未だにちょん髷サムライが東京を闊歩している級の勘違いだ。なんかあの隊長の評価を考える時が来た気がするよ」

「今、くしゃみしてるかもな。まあBDだがあの筋力、そして爪の強度からして無理矢理にでも登った・・・つぅか駆け登ったんじゃねえか? もしくは助走付きのジャンプで飛び乗ったとか」

「ひっ捕まえてドッグショーに出したら賞を総なめだな。司会進行の兄ちゃんが差し出した「お手」を粉砕するのが目に浮かぶぜ、ついでに」

「賞の前に毒殺用のガスを貰えそうな展開だな、死なねえだろうけど。そういや涼二、殴られた場所はどうだ」

問われて、さっき軽く触っただけの部分を恐る恐る触診してみる。大丈夫、引き攣る痛みはあるが致命的じゃあない、折れているなら呼吸すら間々ならないだろう・・・数年前のあの時のように

「肋骨に皹でも入ったかと思ったけどギリギリ大丈夫そうだな。呼吸しても痛まないし痣になった程度だ、湿布で十分だろ。カルロスの方は?」

問われた方は先程から使用していたライフルを差し出す、真ん中・・・マガジンを差し込む部分辺りが大きく凹み、折れ曲がっている

「ライフルおしゃかににされちまった、お陰で外傷は負わなかったけどな。チックショウ、長年愛用していた相棒だったんだがな・・・」

「やっぱ自分の銃には女性の名前をつけて、愛撫すんのか?」

「阿呆、フルメタルジャケットの見過ぎだそりゃ。泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ?」

「其れは勘弁願います軍曹殿。まあ代えの武器はワンサカ・・・とまでは言わないけど不足に泣くほどじゃないから、気にするなとかしか言えないや、悪ぃ」

冗談めかして敬礼もつけてみたが、矢張り気が重いものは重い

「そう気を使うなよ、俺を守ってくれたんだしな。にしても・・・なんで俺達は生きてるんだろうな」

「そうやって悩む事・・・其れが生きてるって事さ!」


「・・・ゴメン」

素直に頭を下げる、気まずい沈黙に対して。

「青春ドラマは良いんだよ」

「フルハウスとか好きだったんでつい」

「・・・俺はアルフだな。其れはおいといてだ、何故BDは俺達を見逃した?」

「其れはカルロスがハンドガン乱射している時にボンヤリと考えていたんだ、もしかしてこれはBDにとっての娯楽、狩りみたいな物じゃないのかって」

言いながら【GETSUEI】を漁る、装備についても少し考え直さないといけない。取り合えず、切り裂く刃が何の役にも立たない事は間違いないから打撃だろうか。

「成る程な・・・涼二、そいつはビンゴ臭いぜ。つまり俺等やさっき狩ったゾンビライオンを含めるBOWが獲物で、奴がハンター。捕らえた後は見ての通りのお食事タイム、つまり奴は遊んでるって訳か・・・クソッ」

「確かに舐められるのは屈辱モノだけどね、でもカルロス、逆に言えばこれはチャンスでもある訳だから気にするなよ。相手が此方をただのウサギ二匹と高をくくっている間に捕獲、採血と行こうぜ。遊びなんだから、飽きられたり空腹にでもなられたら It's dinner time! この街が灰に還る前に俺らは犬のクソになっちまう」

「ああ、そうなる前に短期決戦でケリをつける。トラップを仕掛けた地点へ奴を誘き出し、一定のダメージを与えてだな。銃弾も貫通が無理なら衝撃を与える弾丸に換えれば全くの無効、って事にはならないだろ。奴だって不死身の化け物って訳じゃないし・・・だよな?」

同じく漁りながらの相棒の台詞。

「不安にさせるような事を言うなよ! 確かに強敵だけども物を食うって事は必要だからだろ? つまり生命活動をしているんだから其れを停止させる事、理論上は可能の筈だよ。元は犬で、其れを弄っただけなんだからエネルギー、酸素循環のための血は流れているだろうし、だったら斬れば血を流すし内臓にダメージを与えれば血反吐も吐くさ。だから・・・いや、何とかなるさなんてこたぁ言わないよ、何とかするんだカルロス、足りなければ勇気で補えば良いってどっかの偉い人が言ってたぜ」

ライフルのような外見の銃にプラスチックか、硬質の紙で出来た弾丸を押し込む相方へと一気に喋る。弾丸の形状から見てどうやらショットガンらしいがリロードする時に上下させるパーツがない、オートマチックのショットガンなんてあったんだと少し感心。

「微妙に賛成し辛いが今回は首を縦に振っとくか。アジス、良さそうな場所は見付かったか」

苦笑しつつ作業を行なっていた手を一時止め、耳に装着しているインカムに手を添える。

『二人が戦えるスペースがあって、木で囲まれている空き地。出来ればその横に袋小路みたいなスペースがある所・・・だろ。真ん中に池があっても構わないかい?』

「池か・・・深さは?」

『そんなには無いね、直径3メートル一寸の円形で深さは1メートルあるかないかだ。駄目かい?』

「いや・・・却って良いかもしれねえ。其処の場所は?」

『今、君達がいる場所から南東へ4,5メートルといった所かな。水の反射とか見えない?』

「枝が邪魔でよく見えねえな。有り難うなアジス、何とかなりそうだぜ引き続き監視を頼む」

了解、と言って通信を切るのを自身のインカムで確認しながら、涼二は手元にあるトラップ用ツールを整理する。涼二には爆発物、クレイモアと言った類は扱えないので其れはカルロスに任せ、自身はワイヤーを中心とした道具を用意。先程、この地下庭園に降りて来た際に使用したエレベーター室。其処の隅に束になって置かれていた通常のワイヤーに鉄条網とペンチ、手を防護する皮手袋を元来た道を取って返して入手したのだ。

そのほかにも数点、使えそうな物を抱えての帰還。自分が立てた仮説と今はゾンビライオンで満足と言うか満腹だろうという予想、この二点から途中で襲われる事は無いだろうと踏んでのお買い物だったが、実際、襲われる事は無かった。

アジスが上から見張っているという点からもある程度の安全は確保されている、そう判断して良い筈だし。付け加えるならBOWも先程のゾンビライオンで打ち止めらしい、サーモグラフィに引っ掛かるのは涼二達と、端にいるBDのみだそうだ。

「良し・・・準備は出来たから設置法は移動しながら話そうぜ」

カルロスの呼びかけに頷き返した涼二は、持ってきた物を丈夫な布袋に押し込み、【GETSUEI】に乗せて自身は武器を構えて立ち上がった。BDの移動には警告は出るとは言え、油断は出来ないと辺りを警戒しつつ更に捕獲計画について詰める。

「方法はさっき大まかに話したとおりだが・・・確かなのか? BDは初めて見た物には異常な警戒を示す、この計画はこれが外れてたらちと苦しいぜ」

カルロスの質問に進むのに邪魔になる枝を払いながら答える涼二、同時に靴底にカチリと硬い物が当たるのを感じながら。

「有効だとなり得る血清が出来たと分かっていたんなら、捕獲する努力はした筈だろ? アジス」

『うん、残っていた警備員と職員・・・勿論僕も含めてね。最後の捕獲作戦を行なったんだけどまるで歯が立たなかったよ、遊ばれている間に大半はゾンビ化。僕もやっとの思いで脱出したって寸法さ』

「その時に使用した武器は当然、銃器だよな」

『君みたいにサムライマスターがいれば話は違ったかもしれないけどね』

苦笑交じりの回答に涼二も曖昧な笑みを浮かべる、また靴底にカチリと当たる、予想を立てて拾い上げて見るが思ったとおり薬莢だった。アジス達とBDの交戦の名残とも言うべき其れを投げ捨て、話を続ける。

「そう、だからBDは銃撃は既に経験済みだったんだ、カルロスから撃たれる前に。だからその攻撃は自分にとってあまり脅威ではない、そう思ったからさっき避けもしなかったんだと思う。でも俺が放った矢に対しては食い扶持・・・ゾンビライオンの頭を消費してまでも防御した、自分の防御力に自信があったり、本能だけで行動しているなら銃弾よりはダメージが小さい矢をあそこまで過剰に防御する理由は無いと思う」

「成る程な、初見の相手には必ず臆病に見える位に慎重な対応をしてくるってのか。其れは其れで厄介だがそれで動きは止められるからな、避けるって選択肢を取る可能性もあるが・・・あまり取らないかね」

さっき、涼二が除草剤合成の際に入手した水を飲み、口を拭いながら其れを投げてくるカルロスに頷きながら受け取り、涼二自身も水を貪る。多少は胸に引き攣りを感じたが、水は素直に腹に落ち着いた。

「取らないだろうな、あくまで避ける事よりも威力を見る事が優先って行動パターンだ。ああやってなんか投げて払うか、無ければダメージを食らっても致命傷じゃない部分にワザと受けるような気がする」

BDの持つ異常なまでの防御能力と回復能力だからこそ、出来る脅威の芸当だが逆に言えば其れを突く事も可能なのだ。

「つまり奴は初めて受ける、見る攻撃は何とかして自分の身で体感しようとする訳だ。何でそうなったかは分からないが其処に俺達が付け込む隙が出来る訳だ・・・感謝すべきかね」

「かもね・・・アジス、捕獲作戦に使った武器は銃器だけ? 他に使っていたいたら教えてよ、平然と避けられたら今回ばかりは不味いし」

『手榴弾、ナイフ・・・兎に角、通常の兵器だけだったと思うよ。他に装備品はなかった筈だし』

「サンキュー」と返し、涼二は今の所は目立った問題が無い事に満足し、一つ頷いた。今用意しているトラップはアジスの弁を信じるならば全て初めて見る事になる物ばかりだ。ならば相当動きを制限できるだろうし、うまくやればパニックを引き起こす事が出来るかもしれない、パニックは正常な判断を阻害する・・・そうなればまさに御の字だ。

「ッ!?」

ふと、ちくりとした痛みを手首に感じ、涼二は立ち止まって痛みを感じた箇所を見る。フルフィンガーの防刃繊維性の手袋・・・抜刀の際には邪魔になるだろうが、今回はこの技術は使わないだろうと思い、安全性を考慮したのだが・・・それとコートの隙間、とは言え手を動かした時だけに少し覗く程度の部分に小さな掠り傷が出来ていた。大した傷ではなく少し滲んだ血も既に固まりかけている。

辺りを見回すが枯れた木々だけが目に映る、引っかけそうな物は何もない。袋に詰め込んだ有刺鉄線か何かで引っかけたか? 軽く袋を触った後、振り向き如何したと目で問うカルロスに首を横に振り、何でもないと伝えて再び歩みを始めた、次なる戦闘の地へ。




「此処か・・・」

「な〜るほど、話通りの場所だな」

其々に感想を呟き、互いに抱えていた荷物を【GETSUEI】の横へと下ろしつつ辺りを見回す。元は真ん中に池を持つ、東屋のような場所だったのだろう。見上げると真ん中に明り取りであろう、円形の穴を開けたドーム上の屋根が見えた。コンクリート製の天蓋とそれを支える柱、どちらもギリシャ様式を真似た重厚な物でこの庭園にも良く合った物だったろう、此処が悪夢のジャングルと化す前は。

異常に発達した蔓が柱の間に張り巡らされ、おまけに天蓋の穴をも塞ぐ勢いで蔓延っている。枯葉剤散布の影響で細い枝や葉が落ちているとは言え、その絡み具合は未だ東屋の中を薄暗くしている、それが吉と出るか凶と出るかは分からないが。

(犬は視覚よりも嗅覚が発達しているよな・・・確かモノクロでしか見えないんだったっけ? とは言えあのパワーアップぶりだからな〜、リアルに見えてたり、挙句には暗視モードまで持ってたりするのか? いや、流石にそれは・・・)

否定出来ないのが恐ろしい所だ、とてもじゃないが笑えない。考えるのは止そうと相方のほうへ視線をめぐらす。カルロスは涼二等が入って来た入り口とも言える箇所の反対側に佇み調べていた。その間にと涼二は今いる空間、東屋を見渡す。東屋はかなり大きく涼二の目測では直径10メートル程、そのほぼ中心にアジスの言っていた池がある。

噴水などは無く、循環装置はあったであろうが今は止まり水面は揺れる事無く静かに水を湛えている。中にBOW化した金魚でも泳いでいるかと覗き込んでは見たが、最初から泳いでいなかったか他のBOWの餌食となったか、動く影はない。藻のような植物も生えておらず意外に水はある程度透明さを保っていた。

其処まで確認し、涼二はカルロスの方へ視線を戻す。涼二達の進入口、そして目の前にある池、更にその反対側にカルロスはいる。進入口から池の横を通り反対側へと抜けるのがこの庭園一周のルート、らしい。そう言われて見てみれば等間隔で立っている柱も進入口、その反対の箇所だけは他よりも感覚を広くとっているように見える。どうやら此処までの道、獣道かと思っていたが正規のルートだったようだ。職員達が生きていた頃はそうやって庭を散策し、英気を養っていたのだろう、研究内容は決して褒められた物ではないのだが。

そんなルートも汚染された植物によって断たれていた。カルロスの目前、出口である空間は蔓によって塞がれていた。とは言っても他の柱の間とは違い即座に蔓の壁が出来ている訳ではない、蔦がアーチ状に絡み合い、トンネルは幅1メートル一寸を保ったまま、高さが緩やかに低くなり3,4メートル先で地面と融合していた。見ると、その場所から太目の蔓が一本、地面から生えている。どうやら他の植物と違い、この東屋より少し離れた所に発芽し、成長したは良いが自重を支え切れずに東屋側へと倒れ、そのまま巻きついたのだろう。

偶然の産物、それがカルロスの望む袋小路を自然に形作っている訳だ。何故それを彼が求めるのか、涼二はまだ聞かされてはいなかったが無駄な事はしないだろう。そう納得した涼二は天蓋の一角へと顔を向け、何とはなしに手を振った。其処にあるのは一台の監視カメラ、場所的には進入口の真上にある。蔦に巻きつかれ、圧壊していてもおかしくない状況で奇跡的に生きている、お陰でこの場所が見つけられた訳だが。

手は振ってみたが、アジスからの返答は聞くことは出来ない。涼二が装着していたヘッドセットは先程のBDとの戦闘で破壊されてしまった、予備は戻ればあるだろうが時間が惜しい、カルロスの方は生きているので必要ないという結論に達したのだ。と、

「良し、大体の作戦は決まった。涼二、来てくれ」

声をかけられた涼二は即座に振り向きカルロスの元へと駆け寄る。そして二人、否、アジスを入れた三人は先ずは、と大まかにしか聞かされていなかったカルロスの作戦を聞く事から始めた。こうしている間もアジスは手元のサーモグラフィーでBDの様子を逐一観察している筈だ。そして数分後、カルロスの作戦の詳細を聞き終えた二人は感想を漏らす。

「そりゃまた・・・大胆だな」

『と、言うか無謀に近いよ?大丈夫かい?』

己の作戦を半ば否定された形のカルロスだが、予想はしていたのだろう。大して気分を害した様子もなく説明を開始する。

「確かにな、だがアジス、もう一度聞くことになるが・・・通常兵器もだが、単純なトラップを使用した捕獲作戦なら既にアジス達がやったと思うんだが、違うか?」

問われたアジスはウ〜ン、と唸りながら肯定する。因みにヘッドセットは現在、受信音を外部にも余り大きい音ではないにしろ、流すように設定しているので涼二は困る事はない。

『だね、通常兵器もだけどトラバサミとか毒を仕込んだ餌とか・・・他にも戦闘要員の皆が頑張ってくれていたようだけど。全部軽くかわされたね、本当に悪夢だったよ』

唸るような告白にカルロスはだろうな、と頷く。

「通る途中に汚染植物で見難くなっていたが落とし穴が掘られてた、他にもワイヤートラップやらクレイモアも設置されていたのが見えた。クレイモアの方は起爆してなかったから使用したかどうかはわかんねえな。此処の戦闘要員も考えられる手は尽くしたようだぜ」

此処に来る間、もしくはこの庭園に降り立った時から周囲を観察していたのだろう。涼二にも同じ時間と視界が与えられていた筈ではあるが、此方は全く気付いていなかった、先程に何回か踏んだ薬莢が精々だ。かくも経験の差とは大きいのか。またもその差を見せ付けられた涼二の葛藤を知ってか知らずか、カルロスは続ける。

「それでも奴はのうのうと狩りを楽しんでやがる、つまり通常の動物を捕獲する程度のトラップじゃ駄目な訳だ。安全圏から犬をけしかけたり、罠を仕掛ける貴族様のスポーツのやり方じゃな。だったら方法は一つ、こっちだって命を張らなきゃ駄目ってこった。涼二、チップは俺等の命って事になりそうだぜ、覚悟は良いか」

気を取り直し、涼二は頷く。

「今更だな、此処にいる時点で命はさっきからポーカーテーブルに乗りっぱなしじゃないか」

その返事にカルロスは我が意を得たり、とばかりにニヤリと野性的な笑みを浮かべる。其処に溜め息交じりのアジスの声がかかった。

『・・・止めても無駄なようだね、じゃあ僕は見張っとくよ。それとまだ使えそうな監視カメラの位置を把握しておく、その作戦なら上からの監視も重要だからね』

了解したとばかりに二人は再びのサムズアップをカメラに向ける。そして各々に課せられた仕事を始めた、直に始まるBDとの戦いに備えて。




涼二は一人、BDの住処へとひた走っていた。キョロキョロと辺りに視線を配りつつ、足を進める。装備は手に握ったスタン警棒、此方は予備を腰に下げている。胸には先程の攻撃で折れ曲がった分を含む爆裂スローイングナイフ、後はカルロスから渡された少しの装備と身軽なものだ。此れは斬撃はダメージにならない、そして弓矢は構える、引く、狙うの間に的を外されるか近接される可能性があるので置いて来た、今回の作戦においてデッドウェイトは致命傷なのだ。

そう、作戦の第一歩はBDを誘き出しあの東屋に戦場を移す事にある、このようなジャングルはBDのホームグラウンドであり、少しは此方に有利なフィールドで戦わないと捕獲は夢のまた夢だ。その為には誰かが囮となりBDを其処まで誘導する必要がある。作戦の内容上、其れの役目を担う立場となったのはカルロスではなく涼二の方だった。

不安が無い訳ではない、だが怯え竦んでいる時間はもう無いのだ。この地下庭園に降り立ちBDとの邂逅、そして完膚なきまでの敗北。その後、用意を整え東屋へ到着、作戦説明を行いそれに合ったトラップの設置・・・。ジルが感染してから既に1時間以上が経過していた。

通常のT-ウィルスならばまだ時間は残っていると自信を持って言えるが、アジスの補足説明が正しければジルを侵しているウィルスは、通常よりも強化されている可能性がある。もう既に・・・そう思う事が増えてきた、そして否定する気持ちも弱くなってきた。これ以上は伸ばす訳にはいかない、不安は焦りを強くする、そして抑えようも無いのだ。

焦りで出来る事も出来なくなる前に、血清を。涼二はそう誓い自分を奮い立たせ、装着したインカムに小声で話しかけた。

「アジス、BDに動きは?」

軽い雑音の後、返事が返ってくる。

『動きは無し、でもゾンビライオンの方は食い尽くしたみたいだから・・・またそろそろ動き始めるかもしれない、動いたら知らせるよ』

カルロスが装備していた生きている方のインカム、囮の方が装備しておくべきだとの意見から今は涼二が装備しているのだ。今回は壊される訳には行かないと、多少の緊張はあるが便利なのは間違いない。涼二は更に周りを見回しながら、たまに立ち止まりながらBDの縄張り中心部へと急いだ。

「此方涼二。大佐、潜入に成功した」

それから数分後、何処ぞの蛇の台詞を真似ておいてまだ余裕はあると、変な安心感に浸る。彼の目の前には巨大な数メートル四方のコンクリートで出来た立方体の檻が存在していた、此方に見える面は鉄柵がはまっていたようだが何処かに吹き飛んで、否、吹き飛ばされたのであろう存在していない。

とは言え、この発言は余裕だけから出たものではない。ふざけた発言をこの状況下でする他の理由、緊張を、恐れを和らげる為。その檻の中、BDが長くなって惰眠を貪っていた、遠目にも腹部がゆっくりと上下しているのが見える。ゾンビライオンの亡骸は影も形も無い、別の食事場所があるのか骨ごと食らったか、その強靭な顎を思い浮かべただけで涼二はゾッとした。

『状況を報告しろ、スネーク。って言えば良いかな?』

「あ、知ってんだ。やっぱ日本のゲームは有名だな」

そんな緊張の空気がアジスの返答に少し和らいだ、其れを見越しての発言であろう。

『チームにゲームオタクがいたからね、日本の有名アクションゲームは大抵やったよ。他にもサウンドノベル系も薦められたけどあんまり気が進まなかったから止めておいたけどね』

ふ〜ん、と頷いた所で多少の嫌な予感を感じる涼二。サウンドノベルと日本、その組み合わせは素晴らしい物ではあるがある分野においてそれはある危険をはらんでいる。

「多少気になる点がある、質問良いかな」

檻の方からは目を一瞬たりとも離さず口を開く、勿論、小声だ。其れが聴覚も発達しているであろうBD相手に意味があるかどうかは分からないが。

『なんだい?』

「小さい事なんだが、その薦められたサウンドノベル系ゲームの題名って?」

『僕も良く覚えてないんだよね、興味なかったし。確か・・・傷とか、痕とか、こんなシンプルな名前だったと思うよ、何で?』

「いや、やらなくて良かったと思っただけ」

不思議そうにしているであろうアジスに聞こえないよう、軽く溜め息をつく。記憶が確かならば其れは間違いなく18禁ゲー、此れにはまっているアジスなんて想像もしたくない。ともあれネタにはしった会話で気分はほぐれた、そう思った涼二は意を決して胸ポケットに手を突っ込み黒いスプレー缶のような物を取り出す。スプレーと違う所はノズルの代わりにピンが付いている事、此れはスタングレネードなのだ。

「ピンを抜いて、安全装置を外して、カウント5で発光。3まで数えて、投げつける、さもないと避けられる」

ブツブツと口の中でカルロスより習った使用法を復唱する、此れがスタートの合図、号砲なのだから失敗するわけには行かない。手の中でこねくり返し、重さとバランスを確認。先程から何度もやっているが、それでも安心は出来ないとばかりに涼二は続ける、やっと満足行くほどに調べあげた涼二はグレネードを右手に持ち、ピンに左手の人差し指を突っ込んだ格好で視線をグレネードからBDへと移し

「あ」

目が、合う。矢張り先程のやり取りを聞かれていたのか、それとも最初から接近に気付いていたのか。BDは既にのそりと起き上がり、欠伸をしながら視線を此方へと向けていた。すぐに此方に飛び掛ってくる様子はない、カルロスがいない事を警戒しているのかそれとも・・・

「狩りを楽しみたいのかなワンちゃん、良いぜ? 期待に沿えるよう精々・・・」

ピンを引き抜き、安全装置を弾き飛ばす。心の中でカウントを、そうしながら持った右手を腰の後ろに引き投射の構えに入る。

「足掻いてやるよ!!」

3に達するカウント、同時にグレネードは涼二の手から解き放たれ弧を描く。其れに対し、BDは少し後ろへ下がる事で対応する。おそらく、アジス達が使用した手榴弾か何かの同類と考えているのだろう。まあ良い、距離が少し離れた、稼げたその数メートルが明暗を分けるかもしれない。既に涼二はBDに背中を向け、走り出している。

耳をつんざく高音と視界の端に見える発光、同時にBDの悲鳴が少し聞こえたのかもしれない。だが涼二にはそんな事はどうでも良かった、ついに始まったのだ・・・命をかけた鬼ごっこが。

走り出しながら涼二は、その脳裏に此処までの道順を思い浮かべる。来た道を戻るのだから当然、左右が逆になるがその辺りは脳内で補完する。空間把握能力が其れなりに高い事を、涼二は誰にかには分からないが感謝した。そんな思考に耳から届いた情報が差し込まれる、足音、身軽に跳ねるように接近しつつある其れは消そうと努力しているのかもしれないが、重量感、そしてその存在感による圧迫感までは隠し通せるものではない。

『右!』

インカムから届くアジスの鋭い警告の声、涼二は躊躇無く走りながら体を右へと投げ出し、同時に足を突っ張り急停止をかける。其れとほぼ同時、涼二が直進していたら体があったであろう空間を巨大な影が横切り、180度回転した後に地面をえぐり返す勢いで急停止した。確認するまでもない、涼二を仕留め損なったBDが此方へと視線を投げかけていた。その足元にひかれた爪痕・・・2メートルはある

涼二への攻撃を避けられた訳だが、BDの視線や表情に怒りの類はない、寧ろ楽しんでいる様子すら見受けられる。それはそうだ、暇潰しのゲームは簡単過ぎてもつまらない、出来る限り長く弄ぶ積もりなのだろう。そんなお遊びムードのBDから意識を外すことなく、涼二はチラッと左の方へと視線を走らせる。

鉄の壁の中腹、其処にプラスチック製の半球ドームが見える、中には監視カメラが。先程のアジスが発した警告は此処からの映像を見ての物ということだ。通常のカメラが露出しているタイプはほぼ全て、と言うか東屋にある一台以外は全て蔦によって破壊されていた。とは言え、プラスチックカバーに包まれているカメラもさほど残っている訳ではない。此方もまた大半は蔦が上に被さり見えなくなっていたりカバーが耐え切れていなかったりで全体の2,3割程度しか残っていなかった。

それでも何とか涼二とBDの戦闘をフォロー出来る数は残っていた事になる。此れもただの監視カメラではなく、BD『達』を監視する為のカメラだったからこその設置数とも言える訳だが。

視線を戻す涼二、目の前には此方を見据えるBD、そして目的地である東屋はその後ろで距離にして20メートル前後か。おそらくは一生の中で最も困難な短距離走になるだろうと思いつつ腰を落とす。それを感じたのか、BDもまた体勢を低くする。そしてついさっきのように思えるがアリスと共闘し、何とか退けたネメシスもかくやの咆哮をあげる。だがそれに萎縮している暇は無い、涼二もまたそれに応えて吼えた。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

叫びと共に腰に吊るしているスタン警棒を外し、軽く振って伸ばす。警棒は1メートルほどに3段階で伸びて止まる、手元にあるボタンを押せば棒の部分に電気が通り、接触した相手に数百万ボルトをお見舞いする訳だがバッテリーも無尽蔵ではないので切っておく。それを構える涼二に銀色の塊が突進する、咆哮をあげたその口は更に開く、涼二を噛み砕かんと鋭い牙を覗かせて。

ハンター、そしてネメシスすら凌駕するスピードに涼二は目を剥きながらもタイミングを計り、その銀光が目前数メートルにまで接近し簡単には方向転換といった回避行動が出来ないであろう、瞬間を狙って行動に出た。四足が空中に浮いた瞬間を狙い、先程BDの一撃を受けて捻じ曲がって正確に投げられなくなった爆裂スローイングナイフの一本を掴み取り、ノーモーションに匹敵するほどの唐突さでBDに向かい投げる、無論、起爆スイッチは入れている。

BDの鼻面を目掛けて飛んでいくナイフ、人間や通常のBOWレベルなら突き刺さっているであろう其れ。だが、足で地面を蹴る事による回避を封じてもなお、それがBDに命中する事はなかった。宙に浮いたままのBDは首を軽く捻っただけで、そのナイフをかわす。だがそれは涼二の中では予想の範囲内だ、当たらなくともナイフは爆発を起こすから問題はない。

直後に爆発、かなり大きな音が辺りの空気を揺るがした。流石のBDも再度の悲鳴を上げざるを得なかったようだ。

「痛っづぅ!!」

同時に涼二の呻き声も。目蓋の上の辺りに赤い線が生まれ、見る見るうちにそれは太くなり粘性の高い、赤い液体を垂らす傷となった。ナイフの刃の欠片が飛来し、涼二の顔を傷つけたのだ、だがもう少し下だったら眼球を破壊されていた点を考えるとまだ運には見放されてはいない、という事だろうか。

本来なら、ナイフの爆風は刃先の穴から先に抜ける。だがBDの耳の横で起きたその爆発が、BDはおろか涼二にまでも彼の予想を超えた結果をもたらしたのだ。どうやら外見からは分からなかったが先端の穴が詰まっていたらしく、爆発が空洞内部にこもったらしい。結果として爆発は行き場を無くし、刀身を破裂させる事になった、その飛び散った欠片が涼二を襲ったのだ。

痛みに顔をしかめながらも、何とか意識をBDから外さないように努める涼二。どうやらBDの方が爆発に近く、更に欠片の爆散範囲に身を置いていたためかダメージはそれなりに大きい様子だ。銃弾すら弾く毛も全ては防げなかったらしく、小さな破片が幾つかめり込み紅い血を、涼二達にとっては救いの妙薬となる其れを流している。

BDのダメージは其れに止まらないようで、ふらついているように見える。と、涼二の視線が右耳へと向く、其処からたらりと決して少なくない量の血液が滴り落ちるのを見た。幸運にも欠片の一つか二つが外耳道へと飛び込み鼓膜を破り、更にはその奥にある内耳器官を破壊したらしい。内耳器官には平衡感覚を司る部位が存在する、其処が傷付いたとなればそう簡単には回復できまい。つまり、此れは・・・

「チャンス!」

真正面から立ち向かい、ダメージを与えられる可能性については先程の邂逅で結論は出ている。ここぞとばかりに涼二は攻勢に出た、目的は東屋までこのBDを引っ張っていく事にあるが、ピンピンしたままで追われるよりも、ある程度鈍くなって貰った方が都合が良い。逡巡に費やす事無く涼二の脳髄は交戦を許可した。

目前にいるBD、その正面へと真っ直ぐに突っ込む涼二。BDも反応し此方へと攻撃を仕掛けようとするが、未だ定まらない四肢のせいでそれもままらない。そのBDの頭部へと両手持ちで大上段から振り下ろしたスタン警棒が、文字通りめり込んだ。仮にも加速と涼二の全体重を十分に乗せた一撃、さしものBDもたたらを踏む、その下がった頭部に今度は下から蹴りを入れる涼二。

「Gyan!!」

初めてBDの口から悲鳴がほとばしる、矢張り魔改造されたとは言えBDもまた生き物である事には変わりはないのだ、殴れば蹴れば衝撃が伝わり脳を揺らし、痛覚が痛みを自覚させる。そう確信し涼二は倒れそうになるのを何とか踏みとどまっているBDの横を駆け抜けた、これ以上調子に乗って攻撃している間に三半規管辺りが復活されては元も子もない。そう思いながら同時に現在地から東屋までの道筋を思い浮かべる、此処に至るまでに入念に道の曲がり具合、特徴、其の他を自分なりの方法で記憶していたのでそれは直ぐに脳内で映像を結んだ。

このまま直線が後10メートル弱続き、其処で木立が他よりも鬱蒼と生い茂っているため道幅が狭くなる、其処を抜けると右へ60度ほど曲がり、蛇行した道が15メートル、其処から左へ大きく湾曲した道を10メートルほど疾走すれば東屋へ到達、残りの行程は30メートル一寸、つまりBDの巣から既に20メートルは生き残れたことになる計算だ。

(では残りは半分チョイか、このペースで行けば何とか・・・)

そう思いながら、だが同時に警戒も忘れず今までほぼ全力疾走だったペースを落とし、ジョギング程度の速度に調整する。このまま全力疾走を続ければ、それだけ早く目的地へと到達はするだろうが問題はその後だ、息も荒く、一時的にスタミナを消費してしまった状態でBDに相対すればどうなるか。気を抜けば本能、生存本能が両足をもっと早く動かそうとするのを抑え涼二は東屋へと向かう。

『BDがまた動き出した・・・さっきより速いよ!!』

ドクン、また本能が足を早めようとするのを奥歯を噛み締め、耐える。アジスの報告の通り後ろから巨大な気配が凄まじい速さで接近してくるのが分かる、特に涼二が気配を読むのに長けている訳ではない、常人よりは高いだろうが未だ手練の域にすら達していない其れでも察知できる、それだけBDの発する気配は強力なのだ。

腐った土を柔らかい物で叩く音がどんどん近づいてくる、そして『腐った』との単語を思い浮かべた事で連鎖的に嗅覚が伝えているのを意図的に無視してきた其れ、腐臭を認識してしまい涼二は顔をしかめた。ラクーンを独りで疾駆した時から今まで、決して消える事のない腐臭。血が腐り、肉が蛆に喰われ、皮膚が弾ける、断末魔の香り、死の臭い。

此処にもまた其れが満ちている事を感じ、無理やり其れを追い出した。其れと同時に周囲に向ける意識が復活し、耳にアジスの怒号に近い叫びが飛び込んだのもまたほぼ同時だった。

『真後ろ!!』

下手な思考をする暇など無いと分かっていた筈なのに! 歯噛みする涼二の背中に生暖かい風が当たる、其れが何なのかが分からないほど涼二も間抜けではない。直ぐにも致命的な一撃が背中を襲うのではないか、防弾繊維などちり紙のように破られその爪が肉にあっさりと喰い込む事を背筋を凍らせながら想像する。無駄かもしれない、死神の鎌から逃れるには幼稚な手段かもしれないがせめて、とその場に転がろうとした涼二だったが。

「ん?」

背中に当たっていたBDの生暖かい息吹が消え、代わりに視界の左端に並走するかのごとく銀色の巨体が滑り込んで来た。濃密な獣の臭い、それ自身の体臭と喰らって来た腐肉に近い其れの臭いが混じりあい、涼二の鼻に届き思わず、えずきそうになる。先程の邂逅の際には気付くことすら出来なかったが、かなり臭って来る。

その臭いの主は涼二に攻撃を加える事無く、そのままの速度で涼二を追い抜き走り去った。何故攻撃を加えなかったのか? まさにチャンスであった筈なのに、涼二は意識を逸らしており殺す気なら一瞬で出来たはずなのだ。おそらく、と涼二はペースを崩さず走りながらその行為に結論付けた。BDは先程、後ろからの攻撃を涼二にかわされた事から『学習』したのだろう、後ろからの攻撃は避けられる可能性があり無駄討ちになるかもしれないと。

だから攻撃法を変えたのだろう、後ろからではなく一度追い抜き、広い場所で正面から。疾走するその背中の先に涼二は視線を向ける、後少しで木々が狭くなる箇所へと着き、其処を過ぎればそれなりに広い道が続く。BDとて伊達に此処で生活はしていまい、植物が枯れ、葉が落ちたと言っても地形は変わっている訳ではないのだ。

(それなりに地形を利用する知恵も・・・厄介だなオイ)

そう思いながらも涼二にペースを上げる気はない、ただでさえポテンシャルは相手が上、むしろ勝っている点なぞ一つもない。其れをペテンにかけてでも覆さなければならないのだ、ならばせめて平常を保つ事くらいはしなければ。

だが現実は無常だ、いやその思考は甘えか逃げにしか過ぎない、この世の中で優しい事など多くはありはしないのだから、特にこの時この場所で。BDは更に速度を速める、もう少しで広い場所へ出るだろう、其処で涼二を待ちうけ一気に攻勢に出る気だ。当然だが、其れを迎撃するだけの武器も、技量も、涼二には備わっていない。そして対抗する術も。

チラリ、とBDが涼二の方を振り向いた。その視線が涼二には『この程度か?』とでも言っているようであったが錯覚かもしれない。視線が交錯したのは一瞬、直ぐにBDは視線を戻し目前へと迫っていた木立へと勢い良く突っ込み

「Gaaaaaaa!!!!!」

二度目の悲鳴を上げた。巨体は何かによって食い止められ、急停止によってかかった圧力が


カメラの説明を入れたので、どうしてもテンポが・・・地形の説明もするべきかもしれないし、大幅改定するかもですね