先ずは自己紹介させてもらうよ、僕の名前はアフマド=アジス=ワジュディー・・・アジスと呼んでくれれば良いよ」

パソコンに向かい、操作をしながら自己紹介する男・・・アジス、その名を聞いて二人はそっと目線を合わせ頷く、日記にあった名前、Azizと書かれていたのでアジズと読んだが、アジスとも読むらしい。おそらくこの男が間違いなく主任、と踏んだ二人の前で「データが心配なんだ」と言ったきり、アジスはキーボードを叩き続けている。此処は地下二階にある秘密研究室だ、カルロスがプリントアウトした地図にすら載っていない部屋で壁にある隠しボタンを操作することにより、開く。

バイオハザード対策のために、出入りする空気は全て一度、強力な消毒液やフィルターを何重にも通るのであのリーチマンも流石にこの部屋には入って来れないらしい。とは言え二人は其れで安心した、という訳でも気を落ち着けている訳ではない。彼等は出来るだけ速くその血清を今も苦しんでいるジルの元へ届けなければならない、そして残された時間は決して長くはない筈だ。

早く血清を、と詰め寄るカルロスに「先ずは落ち着いてくれ、データを確認しない事にはどうにもならないよ」、アジスは直ぐに終わるからとキーを叩き続ける。その音は凄まじく速く、一分と経たずに止まった。フゥ、と安心の溜め息と共にアジスが涼二達の方に振り向く。

「大丈夫だデータは壊れてない、この数日の研究は無駄になってなかったよ」

「其れよりも血清だ! 何処にあるんだよ!」

噛み付くように怒鳴るカルロスをまぁまぁ、と押さえながらも涼二とて思いは一緒だった、そんな思いを知ってか知らずかアジスは肩をすくめてかなり衝撃的なことを言い放つ。

「何処にって・・・手元には無いよそんな物」

「な、ないって・・・日記には希望があるって書いてあったんすけど。あ・・・」

確かに希望はあるとあったが、血清が「ある」とは一言も書いては無かった。焦り過ぎてそんな簡単な事も見落とすほど目が曇っていたか、唇を噛み締める涼二の横で無言のままカルロスが踵を返しこの部屋のドアへ向かう、其れをキョトンとした顔で見ていたアジスがこの状況においてよくも・・・と言えるほどのマイペースさで声をかける。

「何処に行くんだい?」

「この病院を出てその大学とやらに行くんだよ! 血清が無いなら此処に長居する理由は無いだろうが!!」

「あれ、血清はいらないのかい?」

「あぁ!? 手前が無いって言ったんだろうが!! 在るのか無いのかハッキリしやがれ!! どっちだ!!」

カルロスが怒鳴るのも無理は無い、涼二とてカルロスが怒鳴ってないなら代わりに怒鳴っていたろう。

どうやらこのアジス、研究生活が長かったからか、それとも地か、コミュニケーション能力が乏しいようだ。此れはさっさと要点を聞き出さないとカルロスが暴走する・・・ジルへの愛ゆえにその他の事が、おろそかになりがちな彼なら間違いない、涼二はそう踏んで二人に口を挟もうとする、だが少し遅かった。

涼二が口を開く前に、アジスは何故カルロスが怒るのか、さっぱり分からないとばかりにあっけらかんとした表情で答えた。

「え? 僕は手元には無い、と言っただけで存在しないと言った覚えは無いけど・・・人の話、聞いてた?」

「こっ・・・のっ・・・!」

「だああぁぁぁぁ!!! 気持ちはすっげぇ分かるけど落ち着けカルロス!! 今はとにかく話を聞いて、そしてジルを助ける術を迅速に探す時だろ!? 拳は下ろしてとにかく落ち着け!! 其れからアンタもだアジス! 確かにこっちが詳しく聞いてないのも悪いけど、だからって学校の授業じゃないんだから、ちっとはフォローしてくれたって良いだろ? 違うか?」

殴り掛かろうとしたカルロスを慌てて羽交い絞めにする涼二、上手い事相手が力を出せないように押さえたが、筋力等のポテンシャルは遥かにとまでは行かないがカルロスが上、振り外されそうになるのを必死で言葉の鎖で押さえる、同時にアジスへ釘を刺すのも忘れずに。一度は暴走しかけたが涼二の言葉を聞き入れる余裕は、まだあったらしい、カルロスはOK、分かったと力を抜き、涼二が放すと壁際へ歩み寄り、無言で寄りかかった。どうやら、このまま自分が話すとまた切れそうになる事を自覚しているのか、黙って傍観する事を決めたらしい。

アジスのほうも下を向き、頬をポリポリ掻いている、いくら鈍感な彼でも不味かったという事は薄々感じたらしい。カルロスに「すまない」と頭を下げ、カルロスも手を振って了解の意思を示す。其れを見て涼二はほっと胸を撫で下ろした、その彼にアジスがそう言えば、と声をかける。

「彼がカルロス、という事は聞いたけど君の名前は聞いてないよねそう言えば、良ければ聞かせて貰えないかな?」

どうやら涼二自身も気付かない内にかなり焦っていたらしい、自己紹介も忘れ叫んでいたとは恥ずかしい限りだ。涼二もまた頬を掻き、照れ笑いを浮かべながら名乗った。

「あ、俺は涼二、寛和涼二っス。激しく運悪く交換留学生としてこの時期に訪れた不幸な一学生ですよ」

自嘲気味の自己紹介、だが其れは予想外の効果をもたらした。涼二の名を聞いた途端、アジスは目を丸くし、再びうつむく、先程と違う点は涼二の名をブツブツと呟いている事か、正直、不気味だ。余りに長く続くのは後ろに控えるカルロス的にも良くない、そう思った涼二が口を開くよりも早く、アジスが弾かれたように立ち上がった。そのまま、展開について行けず立ち竦んでいた涼二の肩をがしっと握る。

「涼二・・・涼二って事はもしかして、君、和則、奇道和則の知り合いかい?」

「へ?・・・な、何でアジスさんが和則さんの名前を?」

唐突に出てきた自分の世話人の名前、何がなんだか分からない・・・そんな表情を見せる涼二の事など気にした様子も無く、何か一人で納得しているアジス。それにやっと気付いたアジスが慌てて涼二の肩から手を外し、ハハハと笑う。

「い、いやゴメン、つい興奮しちゃって・・・、そうか、君が涼二か・・・本当に此処まで辿り着けるとはね・・・和則の言う事は間違っていなかったんだ」

ウンウンと嬉しそうに頷き、それではと歩き始めるアジス。その行動に疑問を覚える二人の前でアジスが立ち止まり、苦笑を浮かべたまま振り返る。

「あ、すまないまた説明不足だったね・・・ええと、君が和則の知り合いの涼二君だとしたら見せたい物があるんだ」

「俺に見せたい物?」

問いにそうだ、と頷くアジス。

「僕の予想が正しければ、今から君達に必要な物が入ってると思うよ。それと一緒に血清と治療薬について説明しようと思う、構わないかな?」

その提案には涼二は特に異論は無かった、カルロスの方を向くと彼も特にないらしい、まだ表情は硬いが大丈夫だろう、そう踏んだ涼二も一歩踏み出した所で唐突に先程までアジスが弄くっていたパソコンのディスプレイに赤い文字で「ALERT」と表示され、同時に警報が鳴り響く。何事だと辺りを見回す涼二、カルロスを半ば突き飛ばしアジスが泡を食った表情でキーボードを叩く、それに反応してパソコンが音声で情報を伝え始めた。

【高速飛行物体、多数接近中。各種事情により正確な数は不明。所属、アンブレラ空挺部隊】

「ナンだってそんなもんが今更・・・救援か? カルロス」

「いや、有り得ねぇ。救援は救援部隊の仕事だし、その輸送なら空輸部隊を出すのが普通の筈だ。空挺部隊は文字通り戦闘に特化した部隊、とはいえ今この状況に兵隊何人送り込んだって敵は誰だって感じだな、となると考えられるのは・・・」

カルロスの言葉から涼二はその続きを推理し、結論に至る。

「・・・何らかの物資、其れも兵隊の監視下に置かないといけないような物を運んで来た?」

「あぁ、単純に考えるとそりゃあ・・・」

二人同時に頷く。

「「ウィルス兵器」」

その統一された結論を肯定するかのごとく、情報は次々と入って来る。

【ヘリコプターよりコンテナ投下を確認。確認できた投下地点、ラクーン大学、ラクーン公園、ラクーン警察署、残りは確認不可・・・一つ判明、ラクーン第二病院】

無機質な合成音声の数秒後、硬直する三名の耳にズンッと重い物が地面に落ちる音が届いた、此処は地下二階だというのにだ。つまり、この近くに態々、コンテナに入れて、其れを落とすほどの手順をかける化け物が解き放たれたという事に。

「此れは・・・時間は本当に無いみたいだね」

操作を終えたアジスが振り返る、先程と打って変わって表情は真剣そのものだ。

「だろ、という訳で焦るのは禁物だが急ぐぜ。何処へ行けばいいんだ」

先を促すカルロスにアジスは「こっちだ」と言い、部屋の隅へ立つ。その研究室の一角にある何の変哲も無い金属壁、周りとの違いと言えば其処だけ壁の中央辺りに小さなマークが入っている事か、そしてその下に付いているLEDが青く点滅している事も違いといえば違いだ。んで? と視線をカルロスから送られたアジスは涼二に視線を向けた。

「さて、涼二君、出発の前辺りに和則から何か預からなかったかい?」

問われ、直ぐに思い当たる涼二。無言で胸ポケットを探り其れを取り出す、空港で別れ際に和則からキーホルダー付のキーを。先程から何か違和感を感じていたが、その原因が今其れを取り出して分かった、キーホルダーが静かに振動しているのだ、それに良く見ればキーホルダーに刻印されている模様、其れは今、彼の目の前にある壁にある物に酷似、否、其の物ではないか? 其れに気付いた涼二は無言のまま、キーホルダーを壁の模様へ近付ける。それに呼応するかのようにLEDランプの点滅は収まり、常時点灯へと切り替わる。更に小さな音を立て、その下に鍵穴が姿を現した。

キーホルダー付属のキーを眺める涼二、明らかに大きさ、目の前に開いた鍵穴にフィットするサイズだ。鍵の中から青い塗装のされているキーを摘み出し、鍵穴に差し込んだのはLEDが青く点灯しているから、と言う単純思考だがこういった事に捻りを付加する事は無意味だ、青には青、其れで良い。一度の深呼吸の後、キーを時計回りに捻る、プシュッと空気が抜けるような音を立て、鍵穴の隣の壁が奥に縦2m.横3m.ほど凹み、横へスライドした。

驚愕による無言のまま、三人は壁に開いた穴をくぐる、中には更に驚愕させる物が入っていたが。

「こいつはスゲェ・・・」

「何で、こんなもんが?」

「流石は和則だね、此処まで用意してるとは」

三者三様の感想を漏らした者達の前にあった物は5m.四方程度の部屋、天井はそれなりに高い。だがその中にはある壁一面に軽火器から重火器まで並び、弾薬もきちんとその傍に置かれている。その隣の壁には刀、ナイフ、防護服らしき物やコート、明らかに涼二用と思しき武器が整然と並べられていた。他にも金属製のでかい棺桶の様な箱にタイヤが付いている物体もある、その上にテレビのリモコンらしき物が鎮座している事に気付き、涼二は其れを手に取る、見ればその正面に液晶画面が壁に設置されていた、リモコンにはDVDプレイヤーの物にも良く付いている三角のボタン、頂点が指す向きは右、明らかに再生ボタンだ。

「君は其れを見ると良い、間違いなく今の君に必要な物だよ・・・何、武器の方は僕とカルロスで詰めるから心配ない、此れでもアンブレラで最低限の戦闘訓練は受けた、大丈夫さ」

武器とリモコンを交互に見る涼二に後ろからアジスが声をかける、見やると手に武器を抱え、涼二の足元にあった棺桶・・・箱を開け、中に詰め込んでいる、カルロスも無言で同じ作業をしていた。

「血清、治療薬についてはカルロスに、作業をしながら説明しておくよ、だから・・・」

視線は画面へ向いていた、涼二はその後の言葉を待たず画面へ向けて再生ボタンを押す、数瞬、乱れた画面に映ったのは懐かしい、涼二にとってはホッとする人の顔だった。

「和則さん・・・」

涼二の世話人であり、唯一、家族と認識できる間柄である男性。眼鏡をかけ無精髭を生やした温和な顔、襟元は少々、着崩したネクタイを締め、サスペンダーを着用した何時もの姿、涼二が朝、眠い目を擦りながらダイニングへ降りて行くと、笑顔でコーヒーを片手に迎えてくれた笑顔、少なくはない安堵を彼は覚えていた。

【元気ですか? 涼二さん、この映像を見てる限りは大丈夫、とは思いますが・・・怪我はしてませんか? 生水は駄目ですよ、お腹を壊しますからね】

どうやら録画映像らしい、それにしてもある程度此方の状況を理解している筈なのに飲み水の心配、相変わらずだと涼二は思う。

【さて、何処から話したら良いやら・・・先ずは私の立場から明確にしましょうか、私は【Dandelioners】(芽吹く者達)と呼ばれる集団の一員、因みにきちんと生きていればお会いしたと思いますけど、アジス、彼もその一員です。ああ、彼は少しマイペースな所がありますから、その辺りを汲んで付き合ってください、決して悪い人物ではありません】

余計なお世話だよね・・・と後ろから呟く声を耳に入れながら涼二は和則の言葉に集中する、おそらく今から語られる事はかなり重要な内容だと容易に想像できる事だからだ。

【此れは別に何らかの結社、組織という訳ではありません、あるのは縦の繋がりのみで横の繋がりはほぼ・・・私とアジスのように交友関係を持つのは稀ですね、互いに存在は知っているが馴れ合う事は無い、そんな関係です。そしてこの集団を作られたのは貴方のお爺様、見造様です】

「ジッちゃんが!?」

唐突に知らされた、彼の知らない事実に思わず声を上げる。記憶にある生前の祖父、見造は縁側に置かれた座椅子にゆったりと座し、涼二が剣術の修練を行ったり、たまに訪れる師匠の息子との仕合をにこやかな笑顔で見守る、まさに好々爺を絵にしたような人物その物だ。人材の発掘にまで手を出していたとは想像も付かない、確かに彼は一代で巨大企業を起こし、成功した人物、それでも涼二の記憶とその事実は今でも一致してない事実なのだ。

【見造様は人材の発掘に力を入れられておりました、世界中に孤児院、一貫高を設立し才能ありと見た人材を育て上げる。才能の内容は問いません、スポーツから学問、芸術もです。そして成長しきった後も自分の手元に置かれる事無く、例え敵対企業に行くとしても其れを笑顔で見送る、そうして見出された人材は世界中へ散らばり・・・まさにタンポポの種の如く地を離れ、空を舞い、他の土地で芽吹く・・・故に何時しか我々は総じて【Dandelioners】、そう呼ばれるようになったのです】

別にそう言う頭脳集団を作ろう、という訳ではなく純粋に才能を開花させる事が目的らしい、そしてその見出された人物達を【Dandelioners】と呼ぶようになった誰とも無く、そういう事なのだろう。

【因みに私の見出された才能は【改竄】です、今、涼二さんがおられる武器倉庫も書類を改竄し、アンブレラの緊急時における警備員用武器庫として作らせたんです。アジスは想像は付くとは思いますが【生物工学】、特化したものはありませんでしたが、どの分野も平均を超える所から其処の主任に推されたのですね】

説明に区切りが付いたからだろう、ゴホンと咳払いをした和則の表情が涼二から見ても引き締まる、いよいよ本題のようだ。


【さて、涼二さんが今置かれている状況ですが・・・想像は付きます、アジスからある程度の情報を渡されているという事を前提に話しますが万が一、彼から話を止むを得ない事情から聞けなかった場合は、この映像が途切れた後、開く金庫の中にある携帯端末を参照して下さい。役に立つと思います】

其処で一端切ると、和則は眼鏡を外し、目頭を揉む、精神的にも疲れているらしい、注意深く見ると目にも充血が見られた。

【事の発端は涼二さん、貴方の交換留学の話を聞いた時でした。確かに貴方の英会話能力は高い、しかしこういった事にはもっと優等生と言われる人種を派遣する筈・・・何故、貴方なのか? そう思った私は調べてみました】

ある意味、虚仮にしてるとも取れる事だが事実なので涼二は流す。

【そして知りました、交流先はアメリカ、ラクーンシティにある高校で其処はアンブレラの支配下にある事、アンブレラとはキサラギがかなり深く提携しているという事、そして・・・】

辛そうに黙り込む、だが涼二は逆に心が冷めて行く感触を覚えていた、今、涼二の集中力は最大まで高まり、思考も高速化している、今まで這い蹲りながら生き残って来たのは剣の腕もあるがこの一時的に跳ね上がる高速思考だ、その瞬間瞬間において最善の行動を弾き出す、其れが涼二のもう一つの能力。その能力が彼に教えていた、この地獄に、涼二を送り込んだ人物を、そしてその理由も。

顔を上げる和則、その顔には泣き笑いのような物が浮かんでいた。

【止しましょう、隠すのは。と、言うよりも涼二さんは気付いていますよね、貴方は本当に賢い人ですから・・・そう、貴方に賞金をかけ、抹殺を依頼した人物がいる事を・・・ええ、貴方の義母にあたる斗和子さん、彼女が全ての原因、といっては失礼なのですかね? その物です】

武器を詰める音が一瞬、止んだのに涼二は気付いている、だが敢えて無視した、振り返っても返って来るのは同情の視線以外の何物でもないだろうから。自分で納得し、もう此れで良いのだと割り切っている事で同情される事ほど辛いのはそう無い。映像ゆえに立ち止まる事無く、和則の話は続く。

【其れを知った私は急遽、貴方がいるような武器庫を設置しようと動きました、本来なら渡す鍵はもっと多かったのですが・・・予想外の事が起こりました。そう、T−ウィルスの漏洩です、当初は何とか収めようとしたアンブレラもその予想外の広がりに鎮圧を諦め、アメリカ政府へ打電、ラクーンシティへの核攻撃を進言・・・政府は其れを飲みました】

誰の物かは分からない、あるいは意識しない内に涼二が鳴らしたのかもしれない、唾を飲み込む音が酷く響く。

【此れを見ている時の日付、時間は分かりません、だから正確な残り時間は言えませんが攻撃開始時刻は判明しています、10月1日早朝5時、作戦コード【CODE:XX】、ラクーンは夜明けを待たずに廃墟と化すでしょうね。どうか其れまでに脱出を。それから其方にアンブレラの方も時間を取られ、武器庫の設置も余裕が無かったようです。設置できたのは4箇所、此処を入れると後3箇所のみです、本当に残念でなりません。

もう気付いてるとも思いますが設置場所に近付くとキーホルダーが振動、壁のライトが点滅します、後はキーホルダーを近づけて開いた鍵穴に、ライトの色と同じ鍵を使えばドアが開きます。一度、入ると閉まってしまいますが近付けば自動ドアのように開きますので安心してください、外からは近付いても反応しませんので一時の避難場所としても使えるでしょう、とは言えその状況下での長居は命取りですが・・・此れは言うまでもありませんね。銃器は同行している仲間がいらっしゃった時を思い、用意させました・・・刀などの武器だけを置いておくのが不自然だろうから、そのカムフラージュもありますが。刀、防具についての細かな説明は携帯端末に入っていますので、確認を。余り長々と話しても仕方ありませんね、残りは帰ってからゆっくりお話しましょう】

彼は暗に言っているのだ、【生きて帰ってきて下さい】と。だから涼二も口に出さずに答えた、頷く事で。

【本当なら、あなたの留学を取り止めにする事がベストなのですが・・・申し訳ありません、私に其処までの力はありませんでした】

「そんなこと無い、そんなこと無いよ和則さん・・・お陰でこうして助かってる・・・」

通じる筈の無い、聞こえる可能性など無い呟き。でも画面の中の彼は微笑みながら。

【其れでも涼二さんは「そんなこと無い」って言ってくれるんでしょうね、貴方はそう言う人ですから。だから私は喜んで、この身を投げ出せる】

身を投げ出す? その意味を訝しげに汲み取ろうと涼二は頭を捻るが良く分からない、危険を犯しているというなら確かにこの武器庫製作はそうだろう。他にあるのか? と思考を深める涼二の前で映像は終わりかけていた。

【それではこれ以上お渡しできる情報は残念ながら、そうそう、そのキーホルダーですが武器庫の鍵と同時に機械によって制御されているタイプのB.O.W(BIO ORGANIC WEAPON)への指令電波や制御信号の伝達を阻害する効果を持っています。有効範囲は半径数m.それなりに役に立つ筈です。ただ残念ながらバッテリーがそう長くは保ちません、起動はラクーンシティ到着に合わせて置きましたから、そこから長くて十時間ちょっと、その間に敵の攻撃に慣れて下さい。ま、私より強い涼二さんにこの忠告は無意味ですかね。名前はそうですね・・・【THREE SEALS】(三枚のお札)とでもしときましょうか、はは、昔話から取ったのがばればれですね】

苦笑いのような物を浮かべた所で、画面上のLEDが点滅する、終わりが近いらしい。映像の和則は涼二へ頷き【其れではまた】、其処で映像はブツンと切れる、同時に画面下の壁が一部、20cm.四方ほどドアのように開く、中には和則が言った物であろう、携帯端末が入っていた。手にとって見ると大きさにしては重い部類に入る、素材は金属、もしかしたらチタンを使用しているのかもしれない。

ノートパソコンのように真ん中から開き、ディスプレイとキーボード、左隅にはトラックボールがあり右隅にはマウスクリックの代わりらしきボタン、使い易さも追及されている。四隅にはゴムがはまっており衝撃吸収も考えられている。涼二が開くと自動的にOSが立ち上がり【Red Magic Version.6】のロゴが画面中央に表示される、世界的に使われている、かの有名な頻繁にアップデートを繰り返さないといけないOSではないらしい。

説明書はなかったが画面には複数のアイコンが並び、パソコンを生活において使用している者ならば直感で操作できるようになっている。涼二はこんな時まで、お茶目な悪戯を仕込むほど酷い性格ではあるまいとその中から自分用の武器に対する説明と思われる刀を模したアイコンをクリックする。

当たり、其処には涼二の視界に入る刀剣類の説明が並んでいた。説明を聞きながら装備するか、と近くの台の上へ置き、先ずは現在着ているコートを脱ぐ、其れはまだ数時間しか経っていないにもかかわらず擦り切れ、千切られ、ボロボロになっていた。如何に厳しい戦場であっても、考えられないほどの損耗率、改めて涼二は自分の置かれている状況を再認識させられた。

其れだけで45口径の弾丸を食い止める、とあるインナーを着込み、似たようなシャツを羽織りボタンを首元まできっちり留める。その上からオプション装備を追加できるタクティカルベストを、此れだけ着込んでも殆ど重さを感じないのは涼二の鍛えた肉体と、装備自体の軽さの賜物だろう。最後にコートを取る、デザインは何処となく先程のネメシス・・・操作練習の際にBOWリストで見掛けたのだ・・・が着込んでいた物に似通っているのが気になるが。カラーリングは鼠色と言うか、くすんだ青か、余り明るくはない。

【液体防弾服【KONJO】。ザイロン繊維を使用し、間に衝撃吸収流体を挟む事により防刃防弾性、衝撃緩和が飛躍的に向上しています。理論上、防弾レベルはLEVEL-Xを超すと思われます】

「ん〜と、確か現存する奴の最高レベルは4位じゃなかったかね。有彦の奴が持ってたミリタリー雑誌かなんかで読んだような、なかったような・・・」

うろ覚えの知識でも、其れが凄いという事は分かる。コートに袖を通すが普通のコートと重さは殆ど差はない、寧ろ軽い位だ、それに人の動きを妨げないように作られているのかスムーズに体を動かせた。防御はこの辺りで、と満足した涼二は武器の選定に移る、流石に全ては持っていけないし、持ち過ぎてまともに動けなくなるのは情けない話だ。かと言って途中で足りなくなるのもお笑い種、バランスは本当に難しい。

取り合えず、今まで装備していた物を名残を感じつつも全て外す。矢張り市販品よりも自分の為に用意された武器の方が合っているようだ。

【指向性爆裂スローイングナイフ【KIROU】。刃は刺さる事に特化しており、切断には向きません。刃は中空で先端に小さな穴が開いています。柄に指向性爆薬が仕込まれており、対象に刺さると爆薬が爆発、爆風が先端の穴を通じ対象の内部へ送り込まれます。起爆法は二種類、一つは柄の後部にあるボタンを押し、対象へ投げる。着弾の衝撃で起爆する物。もう一つは柄の後部を捻り、その後でボタンを押します。そうする事によって時限式起爆を行います、タイマーは捻りに刻んである単位秒の数字で決定、10〜60の間でアナログ形式にて設定可能】

【特殊チタン刀【SIN-I】。特殊な精製等を行う事により硬度と粘性を得た特殊チタン【HIHIIROKANE】を刀鍛冶の技法を再現した鍛鉄装置によって鍛えた刀。日本刀と同じ工法の為、その性能は名刀と呼ばれる物に匹敵する物が出来ると思われていたが最終的に81%の再現までしか出来なかった。ただ、丈夫さは増しているので長期メンテナンスが不可能な状況においては、此方の方が優れている】

【超振動ブレード【TOTUKANOTURUGI】。トリガーを引く事により、一定時間振動するブレードによって驚異的な切れ味を誇るブレード。実験では厚さ数cm.の【HIHIIROKANE】を両断する結果を残す。しかしブレード自体が振動するため金属疲労が起き易く、更に横からの衝撃に弱い、そのため容易に折れる恐れがある。バッテリーの関係から振動を起こせる回数は10回】

【折り畳み式洋弓【KISAKU】。容易に折り畳める他、ワンタッチで展開出来るように改良された弓。矢じりの種類は鏑矢とも言うべき、相手に当て衝撃を与える事が目的の【打撃】。対象に接触、爆発する【爆裂】。対象に命中すると同時に矢じりが急速回転し、防弾レベル LEVEL-3までの物を貫く事が可能な【貫通】。他にも各種存在。カーボン、チタンを使用している為、【爆裂】以外は使用後の再利用が可能。】

以上を説明を読みながら選択する、弓を最後に選択したのは此処までの戦闘で遠距離攻撃手段を持たない事の不利が露呈したからだ。道を塞ぐゾンビの集団、突進し正面からの撃破は可能ではあるが、危険は付きまとう。先ずは牽制の一撃を放ってからの進攻の方が、幾分かは生存率を上げるのは想像に難くない。涼二は別に飛び道具が嫌いとか、そう言う理由で拳銃を使っていない訳ではない、現にこうして弓の扱いは和洋双方共にそれなりの物だ。

銃を使わないのは単純に信用出来ないから、弾丸の補給が途絶えればただの鉄の塊に成り下がり、撃つ度に銃身は疲労し歪んで行く、定期的分解メンテナンスをしなければ火薬滓が詰まって行く。きちんとメンテナンスをしていても、攻撃中にジャムを起こす事すらある。そんな不確かな存在に命を預ける気はない、其れが涼二の持論だ。弓ならば最悪、使用後の矢を回収すれば其れなりに使用できる、辺りの棒を削って即席の矢を作る事で銃よりかは、補給に気を揉む必要はない。


ナイフを挿したホルスターをベストに吊るし、抜き撃ってみる、スムーズに出来た事に満足し次へ。刀を二本、左腰と背中へ一本ずつ装備する、腰はベルト横の、背中はコート表面のアタッチメントに固定する。折り畳んだ弓は左腰の後ろ、刀の鞘の上辺りに下げる。此れで刀、弓、抜き撃つ際には互いに干渉しない筈だ。後はその弓とペアになる数種の矢、そして一撃必殺、まさに奥の手の振動ブレードだ。矢は矢筒の中にぎっしり詰まっており、其れなりにかさ張る、振動ブレードに至っては刃と柄を合わせて150cm.はあり、更に柄頭からはバッテリーからの電力供給の為のコードが延びている。これ以上の装備は、便利ではあるが動きを阻害するだけだと判断し、それらを抱え涼二は未だ武器を詰めている二人の元へ近付く。

口を開きかけるアジスを手を上げて制し、首を横に振る事で良いのだと告げる、実際、涼二にとってはもう終わっている事なのだ、義母との関係は。逆になんらリアクションを起こさないカルロスの横へ立ち、手に持っていた装備を差し出す、カルロスは其れを黙ったまま、武器を詰め込み続けている箱に銃器と一緒に入れた。実は先程から詰め込んでいる箱、此れはただの箱ではない。

【【GETSUEI】。自走式武器運搬ユニット。内部に相当量の武器弾薬の詰め込みが可能。本体は特殊な軽合金装甲で覆われており、防弾性は軍で戦車、装甲車等の装甲に使用されている特殊鋼に劣るが、その重さは同じ体積のアルミニウムとほぼ同じ重さと言う軽量さを誇る。4輪駆動、タイヤは低圧式を採用、タイヤ一つ一つが独立しており底部モーターに繋がっている。動力はバッテリー、緊急充電用コードも付属しており家庭用コンセントからの充電も可能(一時間急速充電で5〜6時間稼動可能)。リモコンを所持した人物の周囲数m.以内に存在するよう自動的に移動する。簡単な指令は音声入力により可能(蓋を空ける「OPEN」、側面防御板を迫り上げる「DEFENSE」等)】

携帯端末にあったスペックを諳んじてみる涼二、だからこそ【GETSUEI】・・・月影と名づけられたのか。主たる月の影、密かに追い其処に佇む存在。

「シャドゥムーン・・・か、キングストーンとかないのかね?」

どうやら口に出していっていたらしい、二人から変な顔で見られていた、涼二的には平成より昭和の方が性に合っている。何でも無いと付け加え、で? と目で問う、その意味が分からないほど鈍い人間は此処にはいない。因みにカルロス、アジス両名ともさっきまで着ていた服をタクティカルスーツ、特殊部隊用ともとれる物に変えていた。防弾性能は涼二が着ている物と殆ど変わらないらしい、戻った後の事も考え人数分の服を袋に詰め込み、運搬ユニットの上に乗せたのを涼二は確認している。

「んじゃ簡単に説明するぜ、俺達に選択できる治療法は二つ、血清と治療薬だってのは大丈夫だな」

涼二が頷くのを確認し、カルロスは続ける。

「当然、両方を回ってる時間はねぇ、どちらかを選ばないといけない。先ずは血清、此れは此処で収得できる、地下3階に行けばな。とは言え楽じゃねぇ・・・院長の日記にあったろ?【B・D】って、ありゃあ単純に犬、DOGの頭文字だ、BはBoost(強化)だな。とは言え当然だが犬つっても普通じゃない、ウィルスに打ち勝つためにあらゆる改造処置を施された改造犬、強化犬さ。骨格強化、筋肉増強、五感鋭敏化、治癒力強化、皮膚の強化ってのまでやったらしい。手術に薬物投与の結果、ついにウィルスに打ち勝った世代が生まれたそうだ。後はそいつの血を抜き取り、其処から血清を作れば良かったんだが其処で運が尽きちまったようだな。

職員がアジスを除き、全てがゾンビ化しちまった。間の悪い事に模擬戦闘区画にその犬を放したままでな、どうやら戦って強くするとかそう言う理屈で捕獲してきたハンターやらゾンビやらと戦闘させてたらしいぜ、処理って意味合いもあったらしいが。で、戦わせる化け物を放り込むドアが半開きのままで其処から犬が抜け出し、アジスに襲い掛かったそうだ・・・」

「いや、アレはギリギリだったね、最終扉を閉めて閉じ込めるのがやっとだったよ・・・」

相当な恐怖を味わったのだろう、体を両手で抱きしめ震えるアジス。カルロスは「運が良かったな」と慰めとも取れる台詞を投げつけ、涼二へ向き直る。

「つまりはそういう事だ、血清を手に入れるためにはハンター程度、屁でもない位にレベルがアップしている無敵のワン公と対峙し、そいつの血を抜き取らないと行けねえ。今後の事を考えるとちっとの量じゃ済まないだろうから相当苦労するだろうな。因みにでかさは子牛並みにまで巨大化、しかし俊敏性は数段上昇してるオマケ付。麻酔、麻痺系の薬物には耐性が出来ていて全く効かねぇ、毒にもケロリとしてたとよ。銃弾も直角の角度を持って撃たないと、最悪毛と皮で弾かれる。当たったとしても脳破壊以外の致命傷は数十秒、掠っただけなら数秒で治るとさ。それに・・・」

顔色が曇る、が、黙っている訳にも行くまいと決断したか、カルロスの沈黙は短かった。

「通常のウィルスなら間違いなく完治するらしい、実験で其れは証明済みだ。だがジルの体内に巣食うウィルスはあいつから感染させられたもの、相当強化、つぅか進化してると見て間違いないらしい」

「話を聞いてみるとどうやらネメシス、【チーム:アリス】が開発した物のようだからね。あそこはウィルス自体の強化も念頭に入れてたからその可能性は高いよ。効果が全く無い事はないだろうけど、完治は運頼みだね・・・それでも60%の確率で治るとは思う、あくまで憶測だけど」

カルロスの説明をアジスが補足する、また新しい単語だ、【チーム:アリス】。おそらくはあのネメシスを開発したアンブレラの部門の名前か何かだろう、今必要な情報という訳でもないので聞くのは止す。其れよりもう一つだ、早く其方を聞いて選択を、涼二は先を促す事にした。

「分かった、もう一つは?」

「もう一つは治療薬のほうだ、場所は何回か出たと思うがラクーン大学。これは間違いなく100%効く、ウィルスは変異も早いがだからと言って全てが変わるわけじゃねぇ、矢張り何処か一部は変わらずに残る事が判明したらしいんだ。この治療薬はその部分を破壊し死滅させる、だからこその100%さ。ただ問題は」

「距離か?」

「其れもあるな」

カルロスはそう呟き、ラクーンシティの地図を広げた。建物の上に数字が振ってあり、Hが仲間達のいる時計塔だ、という事は隣の建物が今いる病院なのだろう。

地図

「今、俺達がいるのが此処」

カルロスの指が涼二がそうだ、と思った建物を指し、そのままスッと道路を滑るように移動する。赤い線は路面電車の路線だろう、カルロスの指はその線が途切れた先まで行き、Mで止まる、それが大学か。

「そして治療薬を取りに行く場合は此処まで行く必要がある。距離的には往復1km.あるかなしか、とは言え道には化け物はワンサカ、それにさっきのコンテナの中身とコンニチワする可能性も大。更に行けば手に入る訳でもないらしいぜ、アジスも詳しい事は知らないらしいが少なくとも三種、原料が必要のようだ」

「三種・・・病院にある薬品で合成できる可能性は?」

「分からないものの合成は無理だろうな、それにアジスに来た研究者からのメール「原料を入手する際に2名が刺され、毒により死亡。後にゾンビ化、処分」なんて一文があったらしいからな、こりゃあピクニックみたいには行かないようだぜ」

「・・・原料が取れる相手はおそらくウィルスに侵されたBOW、毒があり刺されたって事は虫、魚系統って事になるな。蛇なら「咬まれた」だ。後のは多かれ少なかれ体内含有タイプだし、其処まで意外性のある生物がいるとも考えにくいし」

無論、可能性は考慮しなければならない、常に。そう自分に言い聞かせ、地図から視線を上げカルロスを見る。カルロスの方もほぼ同時に顔を上げ、涼二の方を見た所だった。

「選択の時間だ涼二、残された時間は短い。一つはこの場で血清を取るか、もう一つは大学まで突っ走って治療薬を合成するか。正直どちらも辛い、命がけなのはどっちも同じさ。だから涼二、どっちにする?」


選択を任す、カルロスは暗にそう言っているのだと涼二は見抜く。別に責任押し付けといった事じゃない、そんな卑怯な事をする男なら今、此処にいないだろう、色んな意味で。ジルだ、涼二がその結論に至るのに、さほど時間はかからなかった。選択一つで彼女が助かる、間違うだけで彼女を喪う、その決断を自分で冷静に行う事は出来ない。当たらずとも遠からずだろう、しかし涼二も彼の気持ちは分かる、同じ状況でジルの代わりにアリスが苦しんでいたら。想像するだけでゾッとした、カルロスほどの平静をある程度保てるかすら自信が無い。

(其処まで惚れちゃったかね・・・吊橋効果? さぁて、その程度なら時間が解決してくれるだろうから、今悩む事じゃないな。じゃあとっとと決めようぜ涼二、今の戦力は俺とカルロス、アジスは身を守るのが精一杯だろうから除外。武器は其れなりに、とは言え無駄遣いは許されない。地下三階の敵はおそらくネメシスに匹敵、強敵だ。大学へは道の途中にそんな化け物が少なくとも数体は存在、遭遇する可能性は低くは無いだろうな。とは言え、そいつら同士がぶつかったら? もう直ぐ滅びる街にわざわざ虎の子のBOWを投入する理由、そりゃあ一つしかない。戦わせてデータを取る、もしかしたら「誰のが一番強いか決めようぜ」レベルの話かもしれない。

此方が標的にされる可能性は、アリスがいないこのパーティーならもしかしたら低いか? だが、大学に着いても必要な三種薬品の正体、入手、合成、帰還。ギリギリじゃないか? 万が一にもネメシスクラスと当たっちまったら・・・。はっ、悩んでる暇は無いな、時は金なりって言うが金以上だよ時間は。血清か、治療薬か・・・)


LIVE SELECTION THIRD...SELECTED!!


「・・・良し!! 血清だカルロス、確実性を取ろう。間違いなく此方が入手の難易度も低く、その後の展開も楽になると思う」

「その根拠は?」

余り驚かず、素直に受け入れた所を見るとカルロス自身も其方が的確な判断だと薄々は感じていたのだろう。

「先ず第一に遭遇する可能性のある、BOWの数の差だ。血清を入手するなら強化犬、建物をうろついているリーチマン、後は運悪く病院に入って来たコンテナ投下のBOWだろう。それに、犬やリーチマンは相手がどういう存在か掴めているので対策も立て易い。

対して大学に行くとなると道をうろつく雑魚にコンテナの中身、さらには大学内で戦うだけじゃなく相手から合成する物質を入手する必要がある。大学内もゾンビで溢れてる可能性があるし・・・此処の地下三階なら犬が食うかどうかしてると思う。

第二に治療法の入手法だ。血清は犬の血を採る、此処の部屋にある遠心分離機で血清を取り出すと明確だ。だが大学側は先ず合成物質の特定、入手法の特定、製作法の特定、其れが出来てやっと物質入手に行けるって事になる。しかも、その全てにおいて戦闘が必須の可能性もあるし、そいつ等の戦闘レベルがネメシスクラスだったら間違いなく時間が足りないだろうね。

100%の数字は確かに魅力だけど、かと言って時間内に持って帰れなければ本末転倒。それに血清は完治しない可能性もあるけど、症状の緩和や発症の先延ばしは可能だ。最悪、血清を使った後に大学で治療薬をって選択肢も出て来るよな。そうなったら此処にある武器を抱えて、戦闘員も増え、だいぶ楽な展開で攻略出来るってモンだろ? 間違いなく、生き残りたいなら血清を選んだほうが賢いと思う」

一息に述べられた涼二の意見を頷き、受けるカルロス。

「OK、この状況でほぼ完璧と言って良いプランだ。早速、向かおうぜ・・・アジス、地下三階への入り口は?」

「この研究室を出て、焼却炉の近くまで行くんだ。炉の横手に扉があるよ」

ある一点を見詰めたままカルロスの質問に答える、その先には先程の和則の映像が映し出された画面があった。その事には触れず、カルロスは【GETSUEI】のリモコンを取り、マイク部分に口を寄せる。

「Active.」

それに呼応し、軽い駆動音と共に【GETSUEI】は稼動を開始した。隠し武器庫を出るカルロスを追随する形で、その後方ー数m.を彼の歩調に合わせて進む。それに続いて涼二も出ようとし、未だ視線を固定したままのアジスに気付いた。

「どうしたアジス? 行くぜ」

呼びかけられたアジスは涼二と画面、双方に視線を行き来させ、最終的には涼二へ頷き腰に吊るしたホルスターに収められたグロックに手を添えながら出口へ足を向けた。グロックには命中率を上げる為と視界を確保する為、レーザーサイトと小型ライトをオプションとして装備している。

そのまま武器庫を出るかと思われたアジスだが、出口の所でふと立ち止まり涼二へと振り向いた。さっきからの不審とも取れる行動に涼二も首を傾げる。アジスはそんな涼二に曖昧な笑みを浮かべ、口を開いた。

「えと、さっきの和則だけど・・・」

おそらくは映像の事だろう、涼二は無言のまま頷き先を促したがアジスは結局、首を振り「何でもない」と口の中で呟くようにして倉庫を出た。涼二は一人、倉庫の中に佇み画面へと視線を向ける、先程のアジスのように。

「・・・気付いているさ、アジス。和則さんも余裕が無い、って事は」

先程の映像での説明、和則の普段を知る者なら首を傾げるものだった。話は要点を抑えている様で、微妙にずれていたり無駄があったり。普段の彼なら穏やかながらも理路整然と、簡潔に用件を伝える筈なのだ。其れが出来ていないとは、そして何故リアルタイムの映像ではないのか。

予想できる範囲での一つ目の質問の答えは「本当に切羽詰った状態で、焦るように用意したから」。二つ目の質問の答えは「電波を盗聴される恐れがあるから」。此れだけでも和則が相当に危険な立場に立たされている事を指している。仮にも涼二の義母に当たる斗和子の部下なのだ、直接とは言えなくとも。

だがこれ以上の無茶をしなければ彼も、自分も大丈夫。そう自身に言い聞かせた涼二は、好い加減倉庫を出ようとするが。

「あ、いけね」

携帯端末を近くの棚の一段に置きっ放しにしてしまった事に気付き、慌てて数歩戻って掴む。未だ閉じていなかった其れは慌てていたせいもあってか、かなり強く握った涼二の指を操作されたと認識したのだろう。アイコンの上で一瞬、カーソルの形が変わり新たなウィンドウが開く。BOWリストの其れを苦笑交じりに消そうとした涼二の指が、固まったように止まる。

「オイ涼二どうした! 行くぞ!」

タップリ数十秒は固まった涼二の思考は、多少の苛立ちをこめたカルロスの呼ぶ声によってやっと元に戻った。

「わ、わりいわりい!!」

慌てて操作した携帯端末を折り畳み、コート内側のポケットへ押し込みながらカルロスたちに合流するために走る。だが、その脳裏から先程の映像が消える事は無い。

Aの項・・・そこにあった人型偽装BOWと銘打たれた生物兵器【Alice】、外見を写したであろう画像には涼二が、彼が仄かな恋心を抱いているアリス・・・彼女の写真が載っていた・・・。


mission clear! go to next mission!


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読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


後書き

書き上げてハイなのでキャラコメでも付けたい所だけど、拒否反応を起こす人達がいたりするので(´・ω・`)ショボーンとした顔で普通の後書きを、てか普通ってどんなんだ

書き始めてからかなりの時間が経ちましたがやっと、第二話完結です。進まない理由としては兎に角長くなる、大体この後編だけで80?て何事よ、前編足したら100超えるし。20ずつにでも分けたら既に10話は超してますね、はい。なんか書く事足していったら長くなるんだよな・・・短くまとめられん、呪いか此れは

なんて、愚痴りながら以下、予告です


障害を駆逐しつつ、涼二は心に葛藤を抱えつつ。終に彼らは魔狼の住処と化した地下三階へと踏み入れる。

そこで予想以上の進化を遂げている【B・D】が彼らを待ち受けていた。

全ての罠を回避され、正面からの突撃すらも砕かれる。時間だけが浪費される、そんな絶望の空気の中。

一人の人間が獣の心を思い出す

「ああ・・・この空気、俺がのた打ち回ってたジャングルその物じゃねえか・・・」

サンタ・マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『Mission3:Wild Fang』

知っている人は知っている上の決め台詞、言う本人が出るって事は100%ありませんのでその積りで、南米の反政府組織繋がりって事で、其れだけですから


  

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