「うぅ・・・なんでこんな事になるんだろ?」

「折角、シンジ君達がチャンス作ってくれたって言うのに・・・あんまりだよぅ」

「はぁ、ただ一目会って、一言伝えたいだけなのに・・・なんだか遠いよぉ・・・」

ず、ずん・・・

「え、なに、なに!?」

「なんか爆発音してるんだけど!? え、え〜っと・・・こういう時ってどうするんだっけ、マニュアルは・・・あ〜ん、覚えてないよ〜! あれって無駄に厚いんだから」

どんどん・・・どがん

「酷くなってるし! 何とか抜け出さないと・・・うう〜っ、駄目だよ、ぜんぜん緩まないし」

「うわ〜んピンチだよ〜、助けてよ■■く〜ん!!」

ずががが・・・ずどん



『第四夜、捻ジ曲ゲラレタ虚構:後編』



「A・J隊長! 韓国軍竹島常駐部隊からの連絡が途絶えました! 其れと同時に韓国軍所属の戦闘艦が此方へ接近して来ています、このままの速度だと後数分で此方は相手の射程圏内に入ります!」

「常駐部隊の通信を傍受! 韓国本土へ戦闘機のスクランブル要請! 2,30分後に竹島上空へと到達すると思われます!」

続々と耳に入って来る情報、良いねえ、なんだか戦争って感じだ。なんかこう、ワクワクするよな。

「楽しそうですね、隊長」

「ああん? 馬鹿言っちゃいけねぇよ、人死にが出るんだぜ? 喜ぶほどの外道に俺が見えるのか? 副官」

「えぇ」

へっ、ずけずけと言う奴だぜ、最初の頃は緊張しまくって吐きまくってたってのによ〜、時の流れって奴か? 嫌な話だぜ。

「レーダーに感あり! 何か接近中・・・RGM-84、ハープーンミサイルと思われます!!」

「何発だ? 駆逐艦なら4発まで発射出来るだろ?」

「いえ、一発のみです、着弾まで後1分!」

「はっ、たった一発? 時化てやがんなぁ、オイ」

「無理言わないで下さい、あの国に其処まで武器を大量に消費する予算も度胸も無い事くらい、分かって言ってるでしょう?」

ははっ、言いたい放題だな俺ら、ま、誰も止めないし嘘は言ってないからかまわねえだろ。何時だったか? スマトラ? 地震で壊滅的打撃を受けたとこ、あそこへの義援金を値切る位だからな、出来ねえなら最初っから言うんじゃねえっての、日本に対抗したかったか? 御目出度い奴らだ本当。

其れは置いといてもよ、俺としても海の藻屑にはなりたくない訳だ、今日は娘の2歳の誕生日だしな。こんな糞仕事で死ぬ訳にはいかんのよ、絶対。

「と、言う訳で頼むわ、我等の期待のエース殿」

と、言う訳で俺の後ろで眷族を従え昼のさなか霧があるとは言え、堂々と甲板に突っ立っている吸血鬼殿へお願いするとするかね。

「ふむ、どういう訳、かも、私がエース、なのかも知れないが、その、何だ、嗚呼、そうだ、了解した、そうだな、理解したよ陣内 晶彦隊長」

「おう、分かって貰えて何よりだ、後な、俺の名前はフルネームで呼ぶなっつったろ? 何度言ったら分かるんだ? シンジさんよ」

「・・・言った、かね? すまない、本当にすまない、その、あれだ、全く覚えて、無い、すまないが、本当に」

いや、其処で頭下げられてもよ、却って虚しくなるだけなんだがな・・・。ええぃ、この状態のこいつに其れ言っても無駄か畜生。

「嗚呼もう良いって、謝らなくても良いからよ、あれ何とかしてくれ、あれ」

俺が指差した先には、遂に視認出来る所まで接近したハープーンの雄姿、楽しそうに飛んでやがるなあ、畜生。

「了解、した。ではマナ、その、そう、作戦通りに、だ」

「了っ解!」

成る程、先ずは彼女の方を使うのかね。さっきまでなんでか知らんが甲板の上で唸りながらのびてたが、ん? 吸血鬼が日の光の下で弱ってるのに寝そべるってのは、どうなんだ? え?

そんな俺の崇高な推敲は無視される形で。マナは俺の横を通り、甲板の先っぽへ、其処で少ししゃがみ指先で甲板に触れる。で、そのまま立ちあがるとあら不思議、指に光る金属の糸がくっ付いて伸びてやがる、反対側は甲板に貼り付いたままだ。

糸は直ぐに光を反射しなくなるほど細く、またその組成を変えたようだ、詳しい事は分からんがな。そんでもって遂に其処まで近付くミサイルちゃん、っておい、流石に近過ぎるんでねえの? 横っ面に書いてる字が読める気がするぞ、って嘘だけどな。

「ほぃっ」

そんな俺のナイーブな心情を知ってか知らずか、彼女がかけた掛け声は軽いものだった。しかぁし、その効果は抜群だってか? ぐんにゃりと風景が歪んだ、ように見えたよ。いや実際に歪んでたんだがな、甲板の方が。

船の全部甲板の方がグンニャリ、前衛芸術の醜さって奴か、兎に角も凄い事になっている。そいつがハープーンが後もう少しで衝突、ってなった途端に一枚板、敢えて言えば巨大な中世の盾みたいな形になりやがった。

その表面にハープーンが接触、爆発。だが此方は多少揺れた程度で大した被害もない。それは彼女の持つ金属操作能力でただの鉄製甲板を圧縮強化しているってのもあるだろうし、もう一つ、理由は考えられるな。

Eihwazエ イ ワ ズ、ルーン文字で確か防御を意味するんだったか? 歳かね、良く思い出せねえが兎に角そんな雰囲気だ。この模様がその盾の表面、所狭しと並んでやがる、その表面で紅葉卸が出来るほどにびっしりだ。

別にこりゃあ彼女、マナの奴にルーン魔術の素養がある訳じゃねえ、大体が魔術はからっきしだしな。だがこういった文字、特にこうも古いものには力が宿ってるとか云々、眉唾だがね。人が其れに力があると思いこむたびに、念か? そんな感じ物がびびっと飛んで蓄積して行き、最後にゃ刻むだけで少々の力を得るって事になるらしいぜ。

古い物には古いだけで神秘が宿るとか? 以前組んで仕事をした、変な格好―――着物の上に革ジャン、だったか?―――したガキに言われたっけな?

「ハープーン着弾! 被害0!」

オイオイ、見りゃあわかるだろって話だがな、まあ報告義務があるってのが軍人って奴か、あれ、俺らって軍籍? まあ良いや。

「・・・ソナーに感! 音紋照合・・・Mk46短魚雷!! 数3!!」

ま、休ませてはくれないみたいだな、次は水の中からかい。相当相手もやばいってこったな、むきになってやがる。おそらくはハープーンと同時に発射か? えげつねえこって。

「どうでしょうマナさん、貴女の能力で水面下の攻撃に耐えられますか?」

「う〜ん、無理じゃあないと、思う。でも水の中を変化させるとなると、相当バランス崩すよね。下手すりゃ沈没・・・あまりお勧めは出来ないよ」

「其れは得策じゃありませんね、分かりました、私が請け負います」

おお、頼もしいこった。もう一人の眷属、マユミ御嬢様の御登場か。そ、彼女は御嬢様、そう呼ばれてる、嫌味とか抜きでな? 他にどう表しようもないしよ。

おっと静粛に、って奴だ。御嬢様がマナに並び、そっと本を開く。何を召喚するかは知らないが何だ? あの本、正直、ペーパーバックみたいで見た目からして霊験あらかたな一品に、欠片も見えやしないんだが? ん、読んでいるようだが声が小さいし、ラビットマンの声が大き過ぎてよく聞き取れねえ、少し黙れって・・・。

「魚雷、本船右距離200!! 着弾まで12秒!!」

もう悲鳴みたいじゃねえか!! ピーピー喚くなヒヨコじゃあるまいしよ!! 俺らレッド・ユニット、最後まで哂って死神迎えるような愉快な仲間じゃねえかよぉ!!

慌てて船縁へ走りより、下を覗き込む俺の目に白い線を微かに見せて此方へ接近しつつある死神の熱いベーゼが三発、悪いが美人でもそいつは受け取れねえ、俺には愛娘に髭ジョリジョリをするという壮大な使命があんだよ!!

「ええい御嬢様!! なんか呼んだんじゃなかったのかい!!」

振り返り、喚く俺に御嬢様はニッコリ笑ってお応えなさった、良いなあ、癒されるなあ・・・ってそうじゃねえよ! 再び水面へ戻す視線に映る三本線。おいおい、マジでこれで終わり?

「そんな訳、無いじゃないですか」

こんな事なら誰かからモクをパクって吸えば良かったかなぁと、最後にしては下らん事を考える俺の耳を打つ御嬢様の声。スッと消える焦燥、流石だね。そして俺は甲板へ戻り、辺りにうずくまる部下を蹴飛ばしながら自分の装備を引っ掴んだ、なんでか? そろそろ戦争が始まるからさ。

そしてその俺の後ろでバックコーラスとばかりに水柱が三本、魚雷の分が上がる。だがこの船には全くダメージらしきものは無い。浸水の報告もないし、何より衝撃も無かった、精々が揺れた程度だ。

甲板にかかるでっかい何かの影。振り返ると逆光を背負った巨体が海面からジャンプして俺らの前へ姿を現した。おそらくはこいつが俺らが受ける筈だった攻撃を受けてくれたんだろうがよ、ぴんぴんしてるってのは何なんだ。

そいつは有体に言って・・・鯨だな、そう、昔は缶詰になってて大和煮が美味かった奴だ。だがなんか色が白いぞ? シロナガスクジラ、はまた違う意味で白かったな。

「モ、モ・・・モービィ・ディック・・・」

振り返ると、部下の一人が呆然と、突っ立ったまま海へ再び沈んでいく白い巨体を見送っていた。顔に少々飛沫を受け、其れを少々不機嫌に掃いながらその部下が言った単語を思い出す、どっかで聞いたよなあ。

「モービィ・ディック、海の怪物、海の魔物、海の魔王。その者は絶対不可侵にして絶対敵、不倒の存在。その者を倒せるのはたった一人の執念に魂を費やす男だけ。そしてその男は此処にはいない、つまり・・・今の彼は無敵です」

御嬢様の説明が凛と響く、そうだ思い出した、無理やりあいつから読まされた本、ハーマン=メルヴィルの『白鯨』じゃねえか。それに出て来るエイハブ船長の宿敵、足を一本持って行った海の恐怖の具現とも言えるその存在。

モービィ・ディック海 の 魔 王

そいつは強かった、故に倒せない。そいつは圧倒的だった、故に敵わない。そいつは絶対的だった、故に相手にならない。そいつは何度も現れた、故に死なない。そういった読み手の思いが集まり、今の奴を強化しているのだろう。さっき言った古い物には・・・って理屈だな。

この本は出てから世界中の人々に読まれただろう、そしてその恐ろしさを感じられたろう。その人々の想いがある限り、今の奴は無敵って訳だ、流石だ御嬢様、海と言う限られたフィールド、其処で盾にも矛にもなる味方、其れをアッサリ呼びやがるんだからな。

そう言った感心といった念を籠めて御嬢様を見る、彼女はその視線を感じたか此方へ微笑み、視線は海の彼方、韓国船籍戦闘艦へ。もうその視線に優しさは欠片もねえ、強いて言えばあれだ、氷の女王って奴だな、またあだ名が増えたなあ、御嬢様。

「前へ! 気高き海の覇王よ!! 我等が前に立ち塞がる身の程を知らない屑に教えてやりなさい!! 我々が何者かを! そして自分達の愚行を!! その後に・・・文字通り海の藻屑にしてあげなさい」

右手を前へ指し示した姿はマジでこっちまでブルッちまったよ、オイ。気ぃ抜いてたら敬礼してたね、ありゃ。視線を海の化け物へずらすと、奴はワザと背中を見せたまま戦闘艦の方へ近付いてやがる、良い趣味してやがるね。相手も此れは不味いとばかりに予算度外視でボカスカ撃ってるが・・・話にならねえ、血の一滴たりとも流せてねえよ。

お、ハイジャンプ、尻尾の先まで見えるジャンプなんてそうそうお目にかかれねえぞ、って無理だろうな。写真撮っときゃ良かったなんて思いながら横見れば副官の奴がバッチリ撮ってやがる、良い余裕だ、惚れちまいそうだぜ。

そして上がった物は下がるが道理、下には哀れとも思わねえ船が三隻、大慌てでかわそうとして互いに衝突してやがるぜ、馬鹿だなホンモンの。お、轟音を立てて衝突、水飛沫、火薬に引火したか大爆発。これで海上戦力は皆無になった訳だ、奴等は。

白鯨ちゃんは如何したかなと目を凝らすと、お、上半身、って言って良いんか? そいつを波間から垂直に立ててこっちを向いてやがる。御嬢様が手を振ったら何だ、胸鰭で手を振り返したじゃねえか。ハッ、殺し合いの前に和んじまってどうすんだか。

「ありがとよ〜!!」

とは言え礼を言わないのは気持ち悪いぜ、俺も部下も、手の空いてるものは一緒になって手を振る、白鯨はある程度、其れに答えた後ユックリと潜って行った、おそらくは還ったんだろうな。

そんなこんなで、兎に角邪魔者は排除した、航空戦力が来る前に着岸するとしますか。俺は部下を叱咤し尻を蹴り飛ばし、着々と準備を進める。竹島に韓国が勝手に作りやがった埠頭へ近付き、乗り込もうとした時、部下が俺を船縁から呼んでやがる、何だと近付いてみりゃ、あ〜らら。

「クッ! 倭奴ウェノム(日本人を侮蔑する表現)が!! どういう積もりだ!!」

「独島は我々の領土だ!! それを警護する我々を沈めて置いて言い逃れ出来ると思うなよ!!」

「本国から謝罪と賠償の請求が行くだろう!! 覚悟する事だな!」 

「兎に角我々をさっさと引き上げろ!! 何をぼさっとしているんだこの愚図共が!!」

さっきの戦闘艦の搭乗員、その生き残りがなんか救命胴衣を着け、漂いながら好き勝手喚いてやがる。顔を真っ赤にしてま〜、此れがあれか? 火病って奴、か? 初めて見たが見たいもんじゃねえな。横を向けば呼んだ部下に、何事かと寄ってきた部下。俺は肩を一つ竦め、腰に提げていたP90の安全装置をはずした。

それだけで如何する積もりか理解したらしい部下達、いやぁ優秀な部下を持って何よりだ。因みに俺達の装備は基本的に戦略自衛隊の物と共用だが今回は某国の支援により、こうした特殊部隊用の銃が使えるようになっている。しかしこの銃は良いな、腕に吸い付く感じだ、帰ったら正式採用して貰おうか?

ほぼ同時に銃口を未だ叫ぶ奴らに向ける。そうされてやっと、自分達の立場ってのが分かったようだ、もう遅えがな。

「ま、待て! 戦争状態に陥った今、我々捕虜はジュネーブ条約で保護されている筈だぞ!? 国際社会を敵に回しても良いのか!?」

お〜お〜、必死だな、さっきの勢いは如何した? 大将。

「あ〜、それな? 意味ないんだわ」

「なっ・・・」

「十戒、第一条第一項『吸血鬼との疑いを持たれた者は、其れを否定する材料が見つかるまで、あらゆる条約、その他の庇護の下から外されるものとする』。この島にいる者全員に吸血鬼の疑いあり、つまりは負け犬も助けてくれる有り難〜いジュネーブ条約も、お前には関係ないって訳だ」

「な、なら我々を保護の上確かめればよかろう!! 其れに我々は吸血鬼では・・・」

そうだな、そうかもしれないな? だが俺達が何なのか知らないようだな。

「信用できねぇな、吸血鬼の力は人間以上、助け上げた所で暴れられたら御終いだ。俺は部下の命を預かる身、可愛い部下を危険には晒せねえなあ。其れに、だ」

「な、なんだ・・・」

「俺達はヘルシング所属、レッド・ユニット、灰色はおろか、白でさえあの世に送る部隊だ、知らなかったか?」

顔面が蒼白になってやがる、だが全てはもう遅ぇんだよ。

「総員構え!!」

「ま、待ってく!!」

「狙え!!」

「頼む、た、助けて!!」

「・・・Amen」

人の命を奪うにしては少し喧しい音が一定時間鳴り響き、止む。後に残ったのは物言わぬ血袋数個だけだ。さて、前哨戦はこの程度で終わり、竹島までは此処から後数分って所か。気合入れて行かねえ、と・・・。って、ありゃ

「なんだぁ!?」

おおっと、つい声に出して叫んじまった。大将を含む数名が俺の方を向いたが俺の視線の先へ目を向け、俺が喚いた理由を察したか目を引ん剥いてるぜ、大将は眉を片方上げただけだがな、流石、大物だ。

俺に叫ばせた原因はこの船の進行方向、埠頭にある。その一角の壁が突如開き、其処から見えるのは対空用の機関砲の銃身二本!! 30mm.? 下手すりゃ40mm.か!? しかしあの型なら四本で一組の筈だがと疑問に思う俺、しかし答えは直ぐに出た。

簡単な事、砲身を隠している扉が半分開かないのだ。何か詰まった、其れとも配線接触不良か元々不良品か? いや、こんな所でもネタを提供してくれるとは流石だ、魂をかけてるって感じがするぜお馬鹿なベクトルにな。

なんて馬鹿なこと言ってる間に撃って来やがった。やばい、いくら二本だけとは言えその破壊力は折り紙付だ、こんな安普請の船の船体、紙のように打ち抜くのは簡単に予想出来たが・・・。そうはならなかった。

目の前には金属製のでかい壁、其れを叩くけたたましい銃弾の音、鼓膜が破れそうだぜ本当に。マナがその能力を使って再び甲板を防弾壁にしてくれたのだから余り文句は言えねえな。だがやべえ、正直やべえよ。マナの顔が苦痛に歪む、能力を酷使している証拠だわ。

実際、あいつ等が撃ってる弾の種類はわからねえが下手すりゃお手軽硬い、環境破壊と三拍子揃った劣化ウラン弾だ、ちとコレはやべえぞ。前進するスピードまでは変わらないが元々速い船じゃない、マナが力尽きるのが先か、此方が埠頭に乗り付けるのが先か、なんだか前者の確率が高いように思えて来たぞ?

「マナさん! 船首を壁じゃなくて尖った形・・・衝角ラムにして下さい!!」

だが幸運の女神は見捨てちゃいねえ、俺らの御嬢様も諦めて無かったってこった。マナは振り向き頷き、両手を甲板に付く。其れと同時にせり上がっていた壁が下がり、銃弾の雨霰が船のブリッジ辺りを粉々にする。まぁ、元々コントロール、レーダー系統は下に移していて事実上、ブリッジは空で何の必要も無い場所になってるから良いんだけどな。

そうこうする内に船首の形が凄まじく変わっちまった。甲板の部分までの被弾を避ける為、少しの壁を残し其れは斜めになってるから銃弾は上へ逸らされる。先についたラムは長さは数メートル、表面に刻まれてるの、あれは攻撃か何かを意味するルーンだろうな、いや遠目で何か分からないけど。

とは言え先を改造したからって事態は好転しねえよ、寧ろ破壊率は上がってるしと口を開こうとした俺は、不意に感じた違和感を信じ、とっさに口を噤む。んでそれは正解だったわけだ。止まっていた車が突然動き出し、座席へ押し付けられる感覚、其れが俺を襲う、とっさに踏み止まっていなかったらあそこで吹き飛んで無様に転がっている部下のようになったろう、油断し過ぎだ、後でクソ兵隊さんマラソンフルコースな。

突然に急加速した船、何事かと右舷の方から後ろを見ると、波間にちらりと見えるのは白い尾びれ、そうか! さっきの白鯨、還さずに辺りを周回させてたってのか!!そしてこの危機に呼び戻し、後ろから押させたって訳か!

大したパワーだ、船を押して加速させるとはね! まるで波間を走るモーターボートのようにでかい船体が上下する、何十ノット出てるんだか考えただけでワクワクするね。っと、そうしてる内に必死で撃ちまくってる砲台まで後少しか! つまりは埠頭までもう距離はねえ!

「総員!! 対ショック体勢!! 玉ぁ、握り締めて堪えやがれ野郎ども!!!」

俺の叱咤が飛び、部下が辺りにしがみ付いた途端。衝撃と轟音が同時に来た、いやもう凄まじい衝撃、家のかみさんがぶち切れて暴れだした並に激しいぜこりゃあ。

少し傾いた甲板の上、俺等は取り敢えず無傷、誰も怪我はしてないようだな流石は俺の部下。既に装備は整えて後は突っ込むだけと来た。マナが甲板に仰向けにぶっ倒れる、其れに続いて御嬢様も、双方共に限界らしい、確かにコレだけのデカブツを操作したり実在しない存在を長い時間存在維持させたり、まあ仕方ねえわな。

「二個小隊この場に残り、二人の守護に回れ! 残りは俺に続け野郎ども、用意は良いか!!」

「「「「「「「「「「「「「「Sir! Yes! Sir!」」」」」」」」」」」」」

「これから先は戦場だ、ケツに力入れて掛かって行け! 動く物は全て標的だ、この場にいる俺等以外の人間、朝鮮人、支那人、そいつ等に魂売り渡してケツと腰振ってやがる日本人!!! 揃いも揃って皆平等に価値などねえ!! 分かったか!! 野郎ども!!」

「「「「「「「「「「「「「「Sir! Yes! Sir!」」」」」」」」」」」」」

「ならば仕事だお前等!! お嬢が作った道を行け!! グズグズすっと日本海に叩っ込むぞ!!!」

敬礼し、部下達はマナが最後の気力を振り絞ってラムの一部を弄って作り出した階段を駆け下り、前進する。それに今頃気付いた生き残りの韓国軍側から散発的に撃ってはきやがるが掠りすりゃしやしねえ、腰が入ってねえよなあ訓練してんのか? はっ、どうせ日本が攻めてくる筈無いと高をくくってやがったか? だから手前らは馬鹿だっつうんだよ!! 何時までもやられっ放しで黙ってるほど、日本人がお人好しばかりと思ってたか? 舐めんじゃねえぞ。

「撃って来るのは韓国兵だ!! 逃げ出すのは訓練された韓国兵だってな!! オラオラ!! 人ん家竹 島に勝手に住み着いて繁殖しやがったシロアリどもだ!! 遠慮はいらねえよ、フマキラー弾丸バルサン手榴弾を思いっきりくれてやれ!!」

怒鳴りながら俺も構えたP90を乱射する、悲鳴を上げながら崖の上から落下し俺等が上へと進んでいる道へ落ちて来たその肉体、グシャリと生々しい音を立てて潰れ、飛び散った脳漿を踏み躙りながら更に進む。

「第一斑は司令室の占拠! 第二班から第五班は証拠物件の押収!! 第六班、第七班は万が一に備え、上陸地点周辺にて待機!! なんかあったら即座に突っ込め、動く物があったら味方以外なら容赦なく蜂の巣にしろ! 問題ねえ、今此処にいるのは敵と味方、其れだけだ! 良し、第一斑は俺に続けぇ!!」

簡潔に指示すると俺は後ろも見ずに突進を開始する、しかし分かる、続いて来る重々しい、そして頼もしい足音がよ・・・じゃあ行くぜ野郎ども!!

パーティーしようぜってな!!!



〜チーム・アクルクス、レッドユニット第二中隊、竹島上陸よりさかのぼる事少し前〜

〜イラク北部モスル〜



其の地は異様な熱気に包まれていた。集まる者達の目には熱狂と狂信が入り混じり、複雑なマーブル模様を描いているようにも見える。彼等の先に、壇上にしっかりと立ち、其の視線を全身に浴びてもなお竦む事無く、逆に威圧するかのように其の視線に意思を込め。彼女は立っていた。

年の頃は二十代、其の立ち振る舞いから大人びて見えるがおそらくは前半だろう。肌の色から判断してアラブ系の女性という事は間違いない、体はイスラム伝統の黒い服を身に着けている為、前述の目がとても目立つ、其れは「何か」を語る目だった。

数週間前、ある噂が立った。寂れた山間の村に「自分はムハンマドの娘、ファティマである」と騙る女性が、数名の従者と共に暮らしていると。知っての通りイスラム教は偶像崇拝、つまりは姿形の在るものを神と崇める事を禁止している。其の地で自分がかの偉大なる預言者の娘などと騙るとは、自殺行為以外の何物でもない、人々はそう思ったし、事実そうでしかなかった筈だった。

幾人かの血気盛んな若者達が事の次第を問いただして来ると連れ立って其の村を目指したのも噂が立ってから直ぐの事だった。結果が分かっていたとしても其れを止める者がいなかったのも仕方なかったろう、だが予想に反して、否、予想だにしなかった事に彼らは一人として戻って来なかった。

返り討ちにでもあったのか、そう考えた他の住人達も手に手に武器を取り、その村へと向かう事にした、そしてその目に映ったのは驚くべき光景、彼らよりも先に来た若者達が村で普通に生活し、田畑を耕して生活していたのだ。

驚き言葉もない彼等の前に噂の女性が立っていた、そう、立っていたのだ。何処かから歩み寄った訳でもなく其処に立っていた。詰め寄る民衆に静かに語りかけ始めた女性、其の目は逸らす事無く。喧騒は静まり、彼らは彼女の前へ倒れ付した、其の姿は聖地へ祈りを奉げる信者に等しく・・・。

噂は広まり、人々は集まり、何時しか其の山間の小さな村は一万人に届くまでの巨大な集落へと変貌を遂げた。時はアメリカによる核兵器所持疑惑を確かめる為、という名の名目で行われた侵略戦争も終結し、アメリカ主導の新政府が樹立してから十数年後。人々の不満は表には余り噴出さない物の、相当な物になっていたろう。

其処に来ての聖女降臨、人々はいぶかしみながらも其の魅力に惹き込まれて行った。其の事に危険性を覚えた政府も何度か討伐隊紛いの調査団を送り込んだが、彼らもまた虜になったかのように其処に住み着き、帰って来る事は無かった。

『触れる事は被害を拡大する、放置しても広がる』

悪循環に政府が頭を抱えるのも無理はない、其の地に住んでいなくとも近隣の街では隠れ信者とも言うべき人間が増加しているとの報告が入っている。各地で彼女の姿を目撃したとの情報もあり、其の出没地点は確実に首都バグダットヘと近づいていた。

「・・・喜べ、我が父の復活は近い。私が使わされたのも其の準備の為・・・疑う無かれ! 我らの国が、我らの世界が!! 其処に誕生しよう!! 皆は其の地に暮らす栄えある住人に選ばれたのだ!! 称えよ神を! Allah-u-Akbar!!ア ラ ー は 偉 大 な り 

Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!! Allah-u-Akbar!!

地響きのように響き渡る神を、アラーを称える人々の声が夜の空気を震わせる。其れを眺める彼女の視線は実に冷たい物だった、まるで塵を見るような、そして其れを隠そうともしない。

それでも民衆は其れに気付くともなく、唯熱狂的に天も裂けよとばかりに叫び続ける、其の裂け目から今まさに彼等の偉大なる預言者が現れると信じているように。

叫びが治まったのは其れから数分後の事だろうか、叫びに疲労し全身で呼吸をしているかのように体を上下に震わせる民衆。ゼィゼィと苦しい呼吸音の中にブーツ、其れも堅固な兵隊が使用するかのような其れが地面の砂を噛む、ジャリという音が混ざっているのに気付いたのは民衆、一番後ろに立っていた少年だった。

彼等の中にそのような靴を履いているような者はいない、以前に仲間になった政府の使わした軍人達が持ってはいたが、今はサンダルを履き畑仕事に精を出していたはず。

いぶかしみ振り返る少年の目に飛び込んだもの、其れは絶対に有り得ない筈の現実だった。二人の女、長い黒髪に金髪、革コートに修道服、対称に対称を重ねた二人だが揃っている物が一つ、胸元に光る聖印、十字架、磔の救世主、憐れみと限りない慈愛、其れが指すものは一つ

キリスト教徒異 教 徒

息を呑む少年に金髪の方がニヤリと笑い、歩みを壇上の方へと、少年の信じる者の元へと向ける。流石に其れに気付いた民衆が掴みかかろうとしたが、其れを預言者の娘を名乗る女性が静止する、割れる人の群、其れはまさしくモーゼが起こした海割りの奇跡が如く、今一度、奇跡の中をキリスト教徒が歩む。

壇上の下まで来た時、二人は足を止め視線を壇上へと向けた。とは言え金髪はこんな夜なのに丸いサングラスをしているし、修道服の方はフードを深く下ろしている為に顔は、表情は良く見えない。

「何か御用ですか、異なる神に仕える聖なる司祭よ」

凛とした声での問いかけに金髪の方がそっけない声で尋ねる。

「預言者の娘って言うの、アンタの事かい」

偉大なる者をアンタ呼ばわり、民衆の怒りも頂点に達するが言われた相手が微笑みを絶やさない為、行動には移らない。

「其の通りです、偉大なるアラーが神の国を此処に降臨するべく、我が父を近い内に仕わせます。私は其の足掛かりに過ぎないのです、私を信じる事は父を信じる事に、ひいてはアラーを信じる事に繋がります。Allah-u-Akbar!!

再び起こる神を称える声、先程よりも小さく枯れてはいたが其の狂気とも取れる割れ声に恐怖を覚える者もいるかもしれない、だが少なくとも二人のキリスト教徒は違った。金髪の方は耳を指でほじり、其の指をフッと吹いたりして明らかに相手にしていない。修道服の方は俯いて、表情を見せない、軽く震えているのでもしかしたら恐怖しているのかもしれないが。

「其れでお二方は何の御用でしょうか? 貴女方の神が信じられなくなったのですか? 心配はいりません、我々の偉大なるアラーは貴女方の罪を許し、快く受け入れてくれる事でしょう。だからそう」

そう言い、二人を睨み付けるかのごとく眼に力を込める。

「貴女達も私達の仲間になりなさい」

先程とは打って変わり、口調も荒く命令をするかのような声。そして更に睨み付ける、まるでそうする事で全てが上手く行くかのように、実際そう彼女は信じているように見える。

静寂、そして直ぐに其れは破られた。金髪の方が糸に引かれる様に彼女の顔を見るかのように上げる、笑みが深くなる預言者の娘、だが其れは直ぐに驚愕に変わる。

「・・・魅了の魔眼・・・いや、魅了というよりも指向誘導? 心酔というよりも信仰心を誘導して操作してたって訳ね。範囲はそれなりだけどグレードにしてCが良いとこね。この眼鏡、一応Bまでは魔眼効果を打ち消すような強力なのを無理言って借りて来たのに。この程度だったら自力でキャンセル出来る、無駄な出費させるとは・・・ただムカつくわね」

「あ〜また局長から怒鳴られんの〜、新しく変わったのも前のと変わらないほどに五月蝿いしさ〜、如何にかなんないの? ハインケル?」

「如何にかなるモンでもないでしょ、神の試練と思って乗り切るしかないわね」

「あ〜も〜偉大なる神の為に試練と割り切るのは良いけどさ、何かこ〜もう少しさ、楽できないモンかね〜」

「な、何なんだお前達は!! まさか!!」

会話を邪魔する形で割って入ってきた彼女にハインケルと呼ばれた金髪と修道服は塵を見るような視線を向ける、先程彼女が民衆に向けていた物に負けず劣らずのを。そして面倒臭げに口を開く。

「あ〜、有体に言ってあれよ、地上に於ける神罰の代行人? 俗な言い方すると殺し屋? アンタを殺しに来たから、その辺宜しく」

天気でも話す調子でのそっと片手を上げ、告げる修道服に全身を怒らせ、震える彼女。だが直ぐに余裕の笑みを浮かべる、気が付くとハインケル達は民衆に包囲されていた。手に手に武器になる物を抱え、目を血走らせて今にも襲い掛からんばかりに肉薄する民衆を前にハインケル達は余裕そのものだが。

「御託話は終わり? じゃあ貴女の信じる神の御許へ逝きなさい!!」

叫ぶや否や、手を掲げる。それに合図されたかのように方位の輪を狭める民衆、斧を構えた青年が一番先にハインケル達の下に辿り付き、斧を振り上げ。

斧を掲げた腕が吹き飛び。

突然に両腕を失くして呆然とする青年の頭も続いて吹き飛び。

魂を亡くした青年の肉体が地に倒れる音と共に銃声が木霊した。其の展開に付いて行けず、たたらを踏む民衆、其の間は命取りだった。

続けさまに響く発砲音、其れは明らかに銃口が一つではない事を教えており、また其の銃の種類も狙撃銃だけではなく、重機関銃も入っている事を連続で吹き飛ぶ手足が示していた。

「まさかとは思うが我々が二人だけで乗り込んで来たとでも? 流石に神の加護だけで如何にかなると思うほどに我々も自惚れてはいない」

「一応狙撃手、十数人は連れて来てるから、ま〜此れじゃあ鴨撃ちだけどね」

呆然とする彼女に『殺し屋』の二人がのんびりと告げる、だが其の腕には既に其々の獲物を構えていた。銃に刀、相反する二つは互いを補完するかのように鈍い光を放っていた。

「こ、こんな事をして唯で済むとでも・・・」

そう、此処は腐ってもイラク国内、キリスト教徒が此処まですき放題しては国際問題になる筈。それ故に他宗教からの干渉がないと踏んで、彼女は此処で活動をしていたのだ。だが其の事を思い出し、安定しかけた精神は再び崩れる事に。

「ああもしかしてイラク政府のことを言ってるの? だとしたら余計な心配よ、既に政府とも話は付いてるわ。同時に長老、カリフともね、其方からの援軍を望んでも無駄よ」

「そ、そんな馬鹿な・・・」

「馬鹿かどうかはあれを見たら分かるんじゃない」

言われて向けた視線の先、さっきからの狙撃手の発砲音に紛れて気付かなかったが、何処からともなく現れた未だ駐留を続けるアメリカ軍のマークが入った兵器群が、逃げ惑う民衆に向けて発砲をくり返している。戦闘ヘリから放たれるロケット弾によって吹き飛ぶ民衆、此処まで派手な行動をアメリカ軍が行っているのだ、ハインケルの台詞も確証あっての事だろう。

「お、おの・・・」

悪役御用達の台詞を吐こうとした偽預言者の娘だが、死角からの拳を避けきれずに数メートル吹き飛ぶ。何とか無様に転がるのを止めて憎々しげに見上げた視界一杯に広がったのは実に嬉しそうな修道服の女の笑顔。今から起こる儀式、信ずる神に奉げる彼女の信仰心を体現するそれに期待を隠せないそれ。

「あ〜、自己紹介まだだったか。アタシは由美江、どうせ数分も経ったらアンタの首は胴体と御別れしている訳だろうけど、一応自己紹介。分かった?」

分かってようが分かるまいが構わない。そんな矛盾した表情で由美江は携えていた刀を引き抜き、片手で上段に構える、左手は鞘を握ったままだ。

「い、幾ら対化物機関に所属する者とは言え・・・」

其れに対し、偽の預言者の娘は地を這うかのごとく体勢を低く構え、両手は地面を這わせ下半身を上げる異様な構えを取る。何処と無く卑猥な感じさえする其れだが、全身を未だ黒い服に包んだ彼女では余り其れも感じない。

「私のように強化された吸血鬼の攻撃はかわせまい!!」

次の瞬間、叫びと共に丈の長い其の黒服が宙を舞う、一期に脱ぎ捨てたのだ。由美江は其れを見るとフンと鼻で笑い無造作に上段に構えていた刀を戻し、ポツリと零す。

「島原抜刀居合・・・震電!!」

戻った刀は気が付けば抜き放たれており、其の刃には紅く粘った液体が少し貼り付いている、同時に耳をつんざく悲鳴が。恥も外聞もなく地面を転げまわる吸血鬼、  


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