鬼畜魔王ランス伝


   第138話 「古代遺跡の寄生魔神」

 暗い迷宮の奥底を光り輝く大剣を携えて駆ける赤毛の戦士。
 それを追いかけて石畳を砕いてゆく蒼い光。
「一式、ハヤブサ!」
 赤毛の戦士が両手で振るう輝く刃の大剣が、蒼光を真正面から砕き散らす。
 赤黒い肌の人型モンスター“幼体”の群れが口から吐いた緑色の溶解毒液が、必殺技を放ったせいで動きが一瞬止まった戦士に殺到する。
 しかし、戦士は重い金属製の鎧を着込んでるのを感じさせないほど軽やかに飛び退って躱すや否や、石の床のあちこちに溜まった毒液の水溜りを避けて再び踏み込む。
「三式、ヒエン!」
 8匹のグロテスクな肉の壁が大剣で幾つもの肉槐へと斬り分けられ、毒煙を上げて地に落ちる。
「はあああああ!」
 鎧を纏った巨人のように見えない事も無い敵に突進、振り下ろされる右腕を掻い潜って大上段に振り上げた大剣を先程蒼光を放った胸の宝石へと思いっ切り斬り下ろす。
「二式、ショウキ!」
 彼が今のところ使える技で最も一撃の威力が高い攻撃が、確かに宝石の中心に当たる。
 しかし……
 カッ!
 と戦士の視界が蒼く染まったかと思うと、彼の身体は今度もまた吹き飛ばされて迷宮の床に放り出される。
「く……うっ………」
 そこを群がり襲う5匹の幼体。
 だが、素早く身を起こした赤毛の戦士が右手に握ったままの剣が横に一閃し、動きを止めた幼体の首がゴロリと床に落ちた。
「まだまだ堪えてないのか。流石は地下1000階に巣食うボスモンスター。」
 自分から後ろに吹き飛んで見せた事で蒼光の威力を大幅に減殺した赤毛の戦士…勇者アリオスは、口から幼体の卵を生み落としている巨人の姿を見て苦い笑みを浮かべる。
「いや、寄生魔神グナガン!」
 しかし、今の己が繰り出せる技の効果が薄いと思い知らされてもなお、こうして迷宮の奥深く巣食って際限無く魔物を生み出し続ける寄生魔神を放置する訳にはいかないのだ。
 世界中がグナガンが無限に生み出し続ける魔物達に席巻されてしまわない為に。
 そして、二ヶ月半にも及ぶ彼の修行の総仕上げと成す為に。



 古代遺跡から南に遠く離れた魔法王国ゼス。
 その王都ラグナロックアークから見て南東を守る位置に建つ弾倉の塔。
 しばらく前までは『マジックの塔』とも呼ばれていた防衛拠点は、行方不明になった王女マジックの後任を迎え、その呼び名を変えていた。
「馬鹿ランスも無茶苦茶だったけど、ここの王様も大概変よね。ま、実力も無いのに五月蝿い貴族どもよりはマシだけど。」
 そう、『志津香の塔』へと。



 更に南へと視点を移す。
 大陸南部にある森林地帯の西側奥にひっそりと築かれたアイスフレームの新たな拠点。
 かつての本拠地と比べて格段にみすぼらしい寒村の中央近くに建てられた掘っ建て小屋の一つしか無い部屋で、がっしりした体格をした禿頭の老爺が重苦しく口を開いた。
「ウルザ。今日は残念な報告をせねばならん。」
 車椅子に座っている儚げな金髪の美少女…アイスフレームのリーダーであるウルザ・プラナアイスが、椅子の手摺りをギュッと握る。
「なに……どんな報告なの、ダニエル?」
 ようやく声を絞り出したウルザに老爺…ダニエル・セフティが返した答えは、残念と前置きした通り芳しい物では無かった。
「このままだとアイスフレームの財政は半年…いや、3ヶ月もしないうちに破綻する。」
「え? 組織規模を縮小したから最低1年は持つはずだったんじゃ…?」
 再度の規模縮小によって、孤児院の子供達を含めても50人足らずまで頭数を減らして一息吐いたのは確かに事実だったのだが……
「思った以上に寄付の集まりが悪い。それにガンジー王の改革のおかげで腐敗した魔法貴族も、彼等の財産も大幅に減ったから資金集めもままならん。」
 それ以上に収入源が減った事と、本拠地移転の費用や解雇した人員への一時金の支給などで一過性ながらも多額の支出を強いられた事で財政状況が悪化してしまったのだ。
 現在行なっているボランティア紛いの活動を見直さなくてはならない程に。
「……アベルトが言っていた大口の篤志家の話はどうなってるの?」
 だが、それでも思い切った方針転換に踏み切れないウルザは、未だしばらくこのままの規模を維持したまま、今まで通りの方針の活動を続けられるようになるかもしれない僅かな希望となり得るかもしれない件について問う。
「現在調査中だ。」
 が、しかし、希望にもなりそうだとも、引導を渡されたともダニエルは言及しない。
 無言で『これからどうするのか』と問いかけるだけだ。
「そう……なら、アベルトの報告を待った方が良いかも……」
「そうか。ウルザがそう決めたなら、それで良い。」
 しばし悩んだ後に自信無さげにポツリと消極策を呟いたウルザに、仏頂面で答えたダニエルが鞄に診察用具を詰めて踵を返す。
「あ……」
 その活動内容によりゼス当局から目溢しされているレジスタンス…とは名ばかりの非政府慈善活動組織となったアイスフレームの前途は、斯様に多難であった。



 そして、視点は遥か北の地…古代遺跡の最下層へと戻る。
『くっ、このままじゃジリ貧か。せめてコーラさんが手を貸してくれれば……いや、それじゃ駄目だ。それじゃグナガンには勝てたとしても“あの”ランスさんに挑める程の力は身につかない。僕にはもう時間が無いんだ。』
 雑魚モンスターの雑踏を闘気で光り輝く大剣で以って切り開きつつ、アリオスは冷静に彼我の状況を分析していた。
 双方の攻防能力、双方の残り体力と回復能力、そして何よりも疲労が溜まっていく度合いの差を比べて考えると、このままの戦い方では自分が負けてしまう事を。
「三式、ヒエン!」
 練り上げた闘気を全身に巡らせて鋭さを増した斬撃を連続して繰り出し、グナガン幼体20余体を一気に切り伏せたアリオスの眼前に、グナガンまで続く“道”ができる。
『二式じゃ間に合わない。なら…』
 その道が両脇にいるモンスターが寄って来て途絶えてしまう前に、両足に闘気を集中したアリオスが風の如く駆け抜ける。
「一式、ハヤブサ!」
 両腕で構えたエスクードソードを振り下ろす動作に合わせ、集中していた闘気を両足から背筋を通して両腕に回して剣速を更に増す。そして、突進の勢いと斬撃がグナガンの弱点だと思われる胸部の青い宝石で合わさる刹那、両掌を通じて其の一瞬だけ刀身に流れ込んだ闘気が剣の切れ味を倍化させる。
「くっ!」
 しかし、それでも怯まずアリオスを掴まえに来るグナガンの巨大な左腕を躱す為、彼は再び先程と似たような距離まで追いやられる。
 そして、グナガンの額の赤い宝石から放たれた赤い怪光線が追い討ちをかける。
 が、それは勇者の能力“見切り”の力で見破った光線が当たらない位置に素早く移動する事で回避したアリオスではなく、グナガンが呼び寄せた雑魚モンスター数体を消し炭に変えただけに終わった。
 この一連の攻防が、それこそグナガンが倒れるまで続けられるならば勝てるだろう。
 しかし、其れを成すのに必要な文字通り無尽蔵に近い闘気は、幾ら勇者といえども有してはいなかった。
 毎回ダメージは与えてるものの、アリオス自身が力尽きて倒れる前にグナガンの息の根を止められる程の手傷を負わせられるぐらい強烈な攻撃を繰り出せていないのだ。
 それは弱点らしき宝石すら砕く事ができてない事からも分かるであろう。
 そして疲れ切って動けなくなれば、見切っていたはずの攻撃すら避けられなくなり、遠からず敗北するのは必至。
 其れは勇者でいられる時間が残り少ないアリオスにとって、自身の死にすら繋がりかねない結果を意味していたのだ。
 更に……
「おっと! 二式、ショウキ!」
 グナガンが無造作に其処等の大岩を鷲掴みにして投げつけてきたのを、アリオスは刀身に凝縮させた濃密な闘気を炸裂させた爆風で大岩の勢いを殺して、何とか防ぎ止める。
 何らかの“技”なら見切る事ができる勇者の特殊能力も、適当に暴れているだけの相手の動きを読み切る事は能力の範疇外なので、たびたび咄嗟の対処を強いられる事で更なる疲労と消耗が蓄積してゆくのだ。
 いみじくも本人が評したように、正にジリ貧の状況であった。
『ハヤブサの単発じゃモンスターの壁を突破できない。ショウキやヒエンならモンスターの壁を少しの間抉じ開けられるけど、単発じゃグナガンに攻撃を届かせられない。』
 歯噛みしつつエスクードソードで出来の悪い人体模型にも似た幼体の額を割って吹き飛ばしたアリオスは、其れを後続のモンスターにぶつけて殺到してくる勢いを削ぐ。
『グナガンの弱点らしい胸の宝石に攻撃するには、今のところ壁を開けた直後に僕が使いこなせる中でも最速の技であるハヤブサを使うしか手が無い。他の技だとグナガンの身体を包んでる鎧みたいな甲羅に傷をつけるのが精一杯だし。』
 考えてる間にもアリオスの身体は自動的に動き、四方八方から殺到してくる攻撃魔法の焦点から間一髪の差で見事に転がり逃れる。
『僕の見たところ、今なら弱点にハヤブサを40〜50発当てれば倒せる…はず。ヒエンなら200発以上要るだろうけど、三式技なら1回の技で数十回斬りつけられるから実質的に10〜15回ぐらい。僕が今使える技で一番攻撃力の高いショウキなら数発当たれば倒せるだろうけど、ヒエンもショウキもハヤブサに比べて“遅い”技だから、なかなか弱点に当てる機会が作れない。』
 振り下ろされたグナガンの右腕に飛び乗り、闘気を練り上げながら顔面を目掛け走る。
『弱点以外に当たっても徐々に治ってるようだから、僕が力尽きる方が先だし。』
 だが、グナガンが胸の宝石から放った極太の怪光線で薙ぎ払われ、アリオスは腕の上から敢え無く叩き落された。
「くっ!」
 辛うじて受身を取って転がり起き、周囲を光り輝く両手剣で薙ぎ払って襲い来るモンスター達を何とか退けるアリオス。
 しかし、そこに追い討ちでグナガンの額の赤い宝石から発せられた紅い怪光線が迫る。
「この程度の攻撃、あの魔王…ランスさんの攻撃に比べたらどうと言う事も無いっ!」
 だが、気合い一発、両手に握るエスクードソードを盾にして如何にか光線を弾く。
 急いで呼吸を整え直し、闘気を練り直して、一連の攻防のおかげで開いたグナガンに通じる道を再びアリオスは駆け抜ける。
『一式技じゃ威力が足りない。二式技じゃ速さが足りない。三式技じゃ一発毎の威力が低過ぎて強力なボス敵相手じゃ防御は打ち払えても、貫き切れない。』
 グナガン自身の3段攻撃でモンスターの壁は潰され、焼かれ、素早く駆け込むアリオスを邪魔できるほど直ぐには穴を塞げない。
『ならば、
 一式技よりも速く!
 二式技よりも力強く!
 三式技よりも巧みにガードを抉じ開ける!
 このグナガンを倒すのに必要なのは、そんな技だ!』
 それでも届く攻撃魔法の追撃は、普段の10倍以上もの高密度で練られた闘気に阻まれて大幅に威力を減じ、アリオスの足を半歩遅らせる事すらもできない。
 そして……
「食らえっ! 四式、ハヤテ!!」
 突進の勢いを乗せてグナガンの弱点へと真っ直ぐ勢い良く振り下ろした刀身に、アリオスが練り上げた高密度の闘気の全てが集中し、指向性を持った大爆発が青い宝石を砕く。
「ォオオォオォオォオオオ!!」
 その直後、カッと目蓋を見開いたグナガンの身体はドロリと崩れ落ち、後に残された巨大な鎧の如き外骨格がガラガラと周囲に雪崩れ小さな山を築く。
「はぁ…はぁ……はぁ………やっと、やっと僕にもできた。四式技…僕の流派最高の攻撃技、決戦奥義…ハヤテ……を。」
 其の山の前…良く分からない絵が転がっている近くで、精根尽き果てたアリオスがうつ伏せに倒れ込む。
 達成感と疲労で遠くなってしまいそうな意識を繋ぎ止め、隠しに仕舞ってある筈の帰り木を手探りで取り出そうと悪戦苦闘をしながら。


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 えー、長らくお待たせしてしまいまして、すみません。実は自分の部屋の中でランス6行方不明にしちゃってまして、アイスフレームの面々とかのランス6で登場した方々の口調とかが分からなくなっちゃってました(汗)。
 次は今回ほど間が空かないようにしま…いえ、できれば良いなぁ……。
 なお、今回出たアリオスの必殺技については一式技と二式技の技名称以外は本作品で勝手に設定させて貰ったものです。これを設定するに当たって相談に乗って下さった宇堂桐人様には感謝してもし足りないです。本当に有難う御座いました。
 そしてチャットや掲示板などで感想を述べて下さった皆様、ありがとうございました。

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