鬼畜魔王ランス伝


   第112話 「北の塔のならい」

 闘神都市を我が物顔で闊歩するランス。
 この悪目立ちする男が一見平穏に街路を歩いていられるのは、相手が魔王だろうと何だろうと喧嘩を売りかねない過激派の急先鋒と言うべき人物…サーナキアがハウレーンに負傷させられたせいで加療中であったからだ。
 そうでなければ、今頃は悶着の一つや二つ……恐らくは刃傷沙汰……が起きていたに違いない。
「さてと、腹が減ったから何か食べてこう。」
 レストランの看板を見たランスは、何の気なしに店ののれんを潜ったのだった……。
「あんころぴー。」
 出迎えたウェイトレスに開口一番そう言われ面食らったランスだが、相手の顔を見た瞬間に最も適切な対処法を悟った。
「あんころぴー。」
「あ、元オーナー。お久しぶりです。」
 そのウェイトレスは、カサドの街の雑貨屋の売り子よっちゃんだったのだ。
「おや、坊やかい。久しぶりだねぇ。」
 更にカウンターの方から声がする。
「あれは……」
 シィルにとっては聞き覚えのある声、ランスにとっては覚える価値が無い声。
「なんだ、ここはフロンばばあの店か。」
 しかし、ランスにとっては残念ながら顔も声もしっかり覚えていたのであった。
「そうだよ。今日は何にするんだい?」
 訊かれてランスはちょっとだけ考えた。
『アリシアちゃんとシンシアちゃんはやり損ねたからなぁ。……ま、後でズコバコ楽しむつもりだが、今抱ける訳じゃないし。ここはこのよっちゃんにしとくかな。この娘も身体はかなり良い方だし。……性格は変だが。』
 ランスは取り敢えず手近なテーブルに着いて、メニューの一番上にあった料理を注文した。
「そうだな、フロンランチを2人前と……よっちゃんを一人だ。」
 平然と注文するランスに、
「はいよ。でもこの娘は売り物じゃないよ。」
 フロンソワーズもサラリと流した。
「がはははは。じゃあ、ただで良いって事だな?」
 都合良い解釈を振り回すランスに、
「そんな訳はありません、元オーナー。」
 自分でツッコミを入れるよっちゃん。
「むう……。」
 何か良い手は無いかと思案するランスであったが、そういえばこの娘はアイテム屋を買い取った時に店員としてオマケで付いてきたのを思い出した。
「実は俺様が別の街に店を移転するメドが立ったんで迎えに来たんだが、来るか?」
「はい、オーナー。……勿論、休業保証とかはつきますよね?」
 さりげに“元”が外れたのにニヤリと笑うランス。
「幾らになるかはお前次第だがな。……部屋借りるぞ。」
 よっちゃんの腕を取って立ち上がるランスの姿に、フロンソワーズはやれやれといった表情で一言だけ告げた。
「10Goldだよ。」
 と。



 吹雪、雪崩、裂け目への滑落、リスやフローズンなどの魔物、そして何より寒さそのものが激しく攻め立てた結果、ゼスから来た魔法使い達の一行がホ・ラガの塔に到着した時には、メンバーはリーダーのアレックス・ヴァルスしか生き残っていなかった。
 大きく開け放たれた塔の門をくぐり、巨大な螺旋階段を登ると、其処には何故か山の中腹のような景色が広がっていた。
 今まで通ってきた白い地獄から見たら別天地といえるぐらいの青い空と緑の草原となだらかな丘、穏やかな陽気に育まれた花畑であった。
「ここまで強力な結界が維持できるなんて……。」
 それだけでホ・ラガの実力の一端を思い知ったアレックスは、ぽつんと建っている赤い屋根の山小屋へと勇んで向かう。
 すると、山小屋から一頭のわんわんを連れた老人が現れた。
「お初にお目にかかります。僕はゼス四天王のアレックス・ヴァルスです。失礼ですが、ホ・ラガ様であらせられますか?」
「いかにも。で、この老人が貴方の役に立てますかな?」
 老わんわんを連れた妙に血色の良い爺が、緊張気味のアレックスに微笑みかける。
「はい、実は……」
 用件を切り出そうとしたのを制して、ホ・ラガが全て分かっているとばかりに肯いた。
「君達が期待する通り……私には、君達の質問に答える事の出来る知識がある。しかし、その知識を教えるにあたって……一つだけ、条件がある。一晩……私と共に過ごして貰えれば…君の為に知識を授けよう。」
 ホ・ラガは涼しげな瞳でアレックスを見つめる。
「それなのですが、実は……」
「なんだね、ハンサムボーイ。」
「教えて欲しい事と言うのは、実は2つあるのです。ですから……」
 言い難そうにしているアレックスを見て、微笑むホ・ラガ。
「では、3日3晩を私と共に過ごすという事でどうかな?」
 その恐るべき意味さえ知っていれば即座に逃げ出していただろう提案を、
「はい、お願いします。」
 その手の危険に対する警戒心も知識も持っていないアレックスは、のこのこと受けてしまったのだった。
「私に聞きたいこと、何でも良い。聞くがいい。」
「まず一つ目なんですけど、魔剣カオスを使いこなせる人間の剣士が何処に居るか教えて下さい。」
 まずはガンジー王から依頼された質問である。
 ただ、その答えはある意味彼を落胆させた。
「古今東西、魔剣カオスを真の意味で使えた人間はリーザス王ランスただ一人。」
 だが、流石に大賢者と言われるだけあって、それだけでは終わらない。
「しかし、使える可能性のある男ならば知っておる。」
 ゴソゴソと取り出したのは一本のガラス瓶。
「この瓶に“解呪の泉”の水を汲み、リーザス城近くにある“盗賊の迷宮”にいるコンクリ詰めにされた男に使うと良い。その男ならば、あるいは……」
 昔を懐かしみ、しばし目を閉じるホ・ラガ。
 もし、コンクリ詰めにされていた彼が当時の容貌を保っていたならば、誰に頼まれずとも既に実行していたであろう事は口にせず、瓶をアレックスの手に載せた。
「二つ目なんですけど、我々人間が人の身のまま魔人を傷つける方法を。」
 渡された瓶を大事に仕舞って、アレックスは次の質問を行なった。
「大別して方法は二つある。一つは魔人の力を逆用する方法。もう一つは魔人に与えられた加護を問題としない存在の力を借りる方法。魔剣カオスは後者の方法といえる。」
 これからが本題というように、ホ・ラガは爽やかな笑みを浮かべた。
「天使や悪魔も絶対加護を問題とせずに魔人にダメージを与える事ができる。ゆえに、彼等の力を上手く使えばただの人間でも魔人を殺す事が可能だ。」
 そう言いつつ、どこからか2冊の魔導書を取り出すホ・ラガ。
 その本は妙に生温かかった。
「こちらの魔導書には武器に力ある存在を封じて利用する術が、こちらの魔導書には力ある存在を召喚して使役する方法が記されておる。」
 アレックスの手に魔導書を重ねて置いたホ・ラガは薄く微笑んだ。
「さあ、知識は授けた。次は、君達が約束を果たす番だ。」
 その後、絶叫とすすり泣きとが一晩中塔の中に響き渡った。
 ただ、その晩に何が起こったのかを語る者は誰もいない……。



 メシをたらふく食って、散々楽しんだよっちゃんをテイクアウトしたランスは、休業保証代わりによっちゃんを使徒にしてから更なるお相手を求めて街を歩いていた。
 さっきと違って今回はアテがある。
 よっちゃんからパープルの居所を寝物語に聞き出したのだ。
「あんな可愛い子が引きこもりなんて勿体無いからな。俺様が何とかしてやろう。」
 パープルというのは、イラーピュでの冒険の時におかゆフィーバーに捕まっていたのを助けた女の子である。
 おかゆフィーバーの手のひらから分泌される媚薬成分で淫乱にされてたのを、何度か抱いた後で、冒険中に偶然見つけた解毒薬で治してやったのだが……
 媚薬の効果である我慢の限界を超えるほどの身体が疼きが治まるやいなや、人一倍豊かな羞恥心のせいでランスの前から逃げ出してしまったのだ。
 それを実に悔しく思っていたのだが、その後は男どころか女性ともほとんど付き合わずに家に閉じこもって内職で生計を立てているとよっちゃんから聞き出して何とかしようと思ったのだ。
 ちなみに、何故よっちゃんが事情を知ってるかと言えば、内職の仲介や生活必需物資の買い出しをしてるのが彼女だからである。
「さてと、聞いた道順通りならここら辺だよな。」
 ゴミゴミした裏通りを教えられた通りに抜けると、そこには廃材を利用したと思われる掘っ建て小屋があった。
 家の中に人の気配がするのを確かめると、ランスは大股で入り口へと向かった。
「がはははは。入るぞ!」
 宣言するや堂々と侵入するランスに、
「きゃああ!! 来ないで!」
 家の唯一の住人の悲鳴が響く。
 しかし、家の主自身が望んだ通り、ここには滅多に人が来ない故にどんなに叫んでも助けなど来る訳が無い。
「がはははは。恥ずかしがりな所は相変わらずだな、パープルちゃん。もしかして、以前に俺様とやった時の事でも思い出したか?」
 言われて一瞬息を飲む気配。
 しかし、パープルは次の瞬間からけたたましく否定の言葉を絞り出す。
 まるで、そうする事で胸に湧き出てきた想像を打ち消す事ができるかのように。
「俺様にはパープルちゃんの考えが手に取るように分かるぞ。」 
 言いつつ油断無く間合いを詰めるランス。
「駄目……来ないで……」
 逃げようにも逃げ場が無く、ただ力無く拒絶の言葉を漏らし続けるパープル。
 しかし、その脳裏には媚薬に駆られてランスと送った爛れた夜のあれこれが鮮明に思い出されて来る。それは、思い出すまいとすればするほど甘美な記憶を脳裏と身体に抗い難く呼び起こしていく。
「ここに隠れていれば、あの時の事を思い出さずに済むと思ったんだろ?」
 ビクッとした。
「他人からいやらしい女だと見られるのが恥ずかしかったんだろ?」
 確かに、その通りだからだ。
「だがな。やらしい事がそんなに悪い事なのか?」
 ついに捕まってしまった。
「今も恥ずかしい事を考えてるんだろうが、それがいけない事なのか?」
「やだ……離して……」
「気持ち良い事をするのは良い事だ。それに、今更恥ずかしがる事もないだろ。」
 離すどころか抱き締められ、パープルは思い切り混乱する。
 抱かれているのが、思いの外心地良いのだ。
「恥ずかしいって感じてるって事は恥ずかしい事を考えてるって事だよな。俺様の顔を見ただけでやらしい事でも考えたか?」
「嫌……恥ずかし……ゃ……」
「だが、俺様は実に良いと思うぞ。」
 耳元で囁く、そんな自分を肯定してくれる言葉に、パープルは思わず耳を疑った。
「それだけ俺様の事を想ってくれてるんだろ? こうしてココをこんなにしてるんだからなぁ。」
 ランスの手がもう湿り気を帯びている下着に伸ばされるが、パープルには抵抗する気力がもう湧いて来ない。
「どうせ『あんな恥ずかしい目にあった娘には嫁の貰い手が無い』とか馬鹿な事を考えているんだろうから、俺様が貰ってやる。」
 逃げる事を許さぬほどしっかりと抱かれたまま感じる所を弄られたパープルは、一気に追い詰められていく。
 追い詰められているのは、ランスの責めが的確だからだ。
 言葉も指も確実にパープルの急所を刺激していた。
 そして、何より、何年も味わってなかった『人肌の温もり』がゆっくりと脳を侵蝕していく。
「最後に一回だけ聞いてやる。俺様のモノになるか?」
「え?」
 全身に火が回り切ったのを見計らって、ランスは手を止めた。
「もし、今嫌だと言えば止めてやるぞ。そしてここにはもう来ない。」
 更に身体を離そうとしたところで、僅かに袖を掴まれた。
「ん?」
 恥ずかしさで言い出せずにいるパープルを、ランスはニヤニヤしながら見守る。
「俺様にどうして欲しいのか言ってみろ。……出て行って欲しいか?」
 小さく、しかし確実に首を横に振るパープル。
「じゃあ、どうして欲しい。」
 ニヤニヤ笑うランスの態度と点火され疼き出した自分の身体の両面攻撃に、パープルの心は遂に陥落した。
「ああっ、エッチして! ランスさんのたくましいのをちょうだいっ!」
「がはははは、良し。」
 求めに従って、既に洪水と化した割れ目にハイパー兵器をズブズブと突き込んでいく。
 その途端、さんざん焦らされたパープルは限界を超え、極みへと上り詰めた。
 しかし、ランスの動きは止まらない。
 頂点に押し上げたまま、自分も気持ち良くなるべくガシガシと腰を使う。
 そして遂に……
 ドバッと中で発射されたパープルは、とても幸せそうな寝顔で夢の世界へと引き取られたのであった……。

 その後、使徒にされたパープルはリーザス城地下にある特別室に連れ去られ、少々歪んでいるとの見方もあるでしょうが生涯幸せに暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし。


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 でもキチクマの連載自体は続きます(笑)。
 今回は、きのとはじめさん、峯田太郎さん、【ラグナロック】さん、闇乃棄黒夜さんに見直しへの協力や助言をいただいております。どうもありがとうございました。
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