鬼畜魔王ランス伝

   第99話 「自由都市軍怪進撃」

 戦後の軍制変革に伴って定数を2000名にまで増強されたミリの部隊は、プアーの街に侵攻して来たロックアース軍2400との戦闘の真っ最中であった。
「さぁて、いっちょやるとすっかぁ! さあさあさあ! いらっしゃ〜い。」
 威勢良く啖呵を切って切り込むのは“女王様”ことミリ・ヨークス。
 また、その後に従順に従う兵士たちは本来はリーザスの一般兵であった。……が、毎日のように行なわれた調練のおかげで、今ではすっかり彼女の下僕も同然の有様となっていた。……男女を問わず。
 それだけに忠誠心と結束力は他に類を見ないレベルを誇り、軍制改革で今までの一般兵を解散してリーザス正規兵を配備しようという案が立ち消えになったぐらいである。
 それと相対するロックアースの都市軍はと言えば……
「うぉぉぉぉ! タマ取ったれや〜〜!」
 ゴロツキに毛が生えた程度の連中であった。
 勿論、個人個人を見ればそれなりの技量はある。
 しかし、数百…数千の単位での軍団戦は小人数での戦い方とは全くの別次元である。
 洗練された戦術を駆使できるリーザス軍に比べて、軍団戦では突撃と退却しかできないロックアース軍では始めから勝負になる訳がない。
 故に、それなりの規模の迎撃部隊が出て来たならロックアースまで退き、市街戦に持ち込みながら援軍を待つ手筈になっていた。
 しかし、鎧というには露出が多い防具を身に付けた女戦士ミリが陣頭に立って切り込んで来た事で、指揮官の頭からは『退却』の二文字が消えてしまった。女に背を向けて逃げ出したら面子が立たないのだ。
 そうして正面から激突した両軍ではあったが、結果は……
 ロックアース軍の完敗であった。
 ロックアース軍の二人の指揮官は最初の激突で討ち取られ、生き残りは逃げ散った。
 それを見届けたミリは、敵味方の負傷者の手当てを優先して行なわせ、敗残兵の掃討を行なわずにプアーの街へと帰還したのであった。


「ん……?」
 女の子モンスター達を侍らせて良い気持ちのランスは、
 ふと、窓の外に目を向けた。
 ランスが現在いるのは20階建ての塔の最上階であるだけに、すこぶる眺めが良く、遠くまで見通す事ができる。
 そう、かなり長い距離を離れて来た筈の黒いモヤモヤ……玄武城の跡地に発生していたモノが見えるぐらいに……。
 いや、違う。
 明らかにモヤモヤは勢力を増し、広がりつつあった。
 今、黒い靄がゆっくりとオアシスを飲み込もうとしているのが観察できる。
「ちっ、急がないとマズイか……。おい、起きろお前ら! とっととずらかるぞ!」
「え、それはどういう……」
 夢見心地で余韻を楽しんでいた女の子モンスターたちが、大声で叩き起こされる。
「この世界がヤバイから脱出する。来ないヤツは置いて行くぞ。」
 唐突な発言ではあったが、モンスターたちにとって自分の主と認めた者の命令の重さには格別のものがある。
「わかりました。」
 その場にいた全員が、即座に出発の準備を整えた。
 着衣の乱れぐらいは一応直したが、破れた服や色々な汚れの類は時間が無いので、このさい無視である。旅支度も用意してるヒマがないので手ぶらでの出発となる。
「行くぞ!」
 先導するランスの後に従って、内部に居た娘達全員が……ついでにやぎさんの旦那のドラゴンナイトたちも……塔から出ると、塔は蜃気楼のように霞んで消え失せた。
 こうして、ギャルズタワーの伝説はここに終焉を迎えたのである。


 また、ハンナを出撃したハンナ市民軍3800名は、オークスの街を守るバレスの黒軍2000名と対峙を続けていた。
 縦横無尽な戦略発想を誇るハンナの街在住の天才軍師 篠田源五郎といえども、守りに徹した稀代の戦術家バレスの堅陣を突き崩すには手持ちの駒が不足し過ぎていた。
「むう。これではバックスがオーバーラップして来るのを待つしかないではないか。だが、我がハンナ軍の今の役目は敵軍のブロックであるから、これはこれで問題は無い。」
 そう。3800にも及ぶ大兵力は、現在のリーザス軍の攻防の要たるバレスの部隊をここに釘付けにする為だけに用意されたのだ。
 勿論、バレスがオークスを離れれば一気に攻め上る構えでもある。
 それが分かるだけに、バレスも下手に動く事ができなかった。
 決戦を急げば隙の無い包囲陣に誘い込まれた上で退路すら断たれるであろうと、敵軍の布陣を見ただけで理解するバレスも非凡なら、バレスがそう思考するだろうと読んで敢えて堅固な守りの陣を見せている篠田もまた非凡である。
 日没まで続いた睨み合いは、両軍がそれぞれ待つ時の賜物…援軍…がやって来るまで動く気配はなかったのだった。


 ギャルズタワーから出て、下で待たせておいた連中と合流したランスは、ランスに続く女の子モンスターたちの有様を見てジト目になりかかるリズナの態度を黙殺して出発を急がせた。
 地面からでは未だ黒いモヤモヤは見えないが、急いだ方が良いのは確かであるからだ。

 なお、どうでも良い話であるが……この時、千両箱を抱えて潰されたままのおたま男が「あ〜れ〜」と言いつつ黒いモヤモヤ…結界の綻び…に飲み込まれてしまった。などと云う事が起こったのだが、本人以外にそれを知る者はいなかったのだった。

「ランス様、いったい何をなさってたのですか?」 
 黙殺されるのに耐え切れず、直接質問を投げかけるリズナ。
「あいつらに俺様の良さを分からせていた。女の子モンスターが相手なら、ああした方が下手に言葉で説得するよりも早いからな。」
 どう見ても乱痴気騒ぎの後と言う格好の理由をランスがあっさりと説明すると、
「そうですか……。すみません(つい、てっきり、非常事態なのに女の子となさるのに夢中になってらっしゃったのかと疑ってしまいました……)。」
 リズナは素直に納得して頭を下げた。
「まあ、いい。これからは気をつけるんだぞ。」
「はい、ランス様。」
 お許しを貰って頭を撫で撫でされたリズナに笑顔が戻り、リズナも自分の身支度を済ます。まあ、身支度と言っても地面に置いておいた行李を背負うだけなので十秒もかからないのだが。
「がはははは、行くぞ! 女の子は遅れるなよ! 野郎は遅れたら置いてくぞ!」
 だいたいの面々が用意を終えたのを確認したランスは、イシスと復讐ちゃんを先頭に立てて出発した。
 謎のモヤモヤに追い立てられるような格好で……。


 反乱を起こした自由都市群の中でも旧リーザス国に直接面していないレッドとラジールの軍は、直接リーザスに向かう事はなかった。
 ラジール軍1200名はアイスの街に向かって現在は非主流派である主戦論者の蜂起を助け、その後アイスで得た援軍を併せてロックアース方面へ向かい、先行しているロックアース軍と合流してから進撃する手筈になっていた。……実際にはロックアース軍は1日すら持たずに壊滅しているのだが、さすがにそんな予想まではしていない。
 そして、レッド軍2400名は、同じく魔王の支配に反旗を翻したハンナの街との連絡路を確保する為もあってMランドへと進撃していた。
 レッド軍がMランドを包囲するように野戦陣地を構えてMランドの都市長に出頭するよう命じると、30分ほどしてMランドからの使者が来た。
「はじめまして…Mランドの都市長 運河さよりです。」
 一時期はランスのハーレムに加えられていた程の容色は全く衰えてはいなかったが、状況の急転に顔色が冴えないのは流石に隠せない。
「単刀直入に言う。我々に無条件で降伏しろ。でなければ、このMランドを徹底的に破壊するぞ。」
 レッドの軍を率いる悪相の男が毒々しい笑いを上げると、
「降伏するのはかまいません。ですが……このMランド、遊園地の経営だけは続けさせて下さい。」
 か細いながらハッキリとした声が、釘を刺そうとする。
「げははは。こちらは無条件と言ったんだぞ。……どうせ、こんなご時世にのんきに遊び呆けようって馬鹿はいないだろ。」
 が、全く取り合おうとしないレッド軍の首領。
 しかし、
「……そうだな。何か別の手土産でもあれば話は別だ。」
 さよりの全身をねめつけるように見つめてから、いかにも今思いつきましたとばかりに口に出された台詞は、実は予定通りのものであった。
「どんな条件でしょうか?」
 しかし、さよりは気付かない。
 相手が以前さよりとランスの間で交された約束について聞き知っている事を……。
「お前が我々のモノになるなら、遊園地の経営は続けさせてやっても良い。」
 そして、相手がその知識を利用してさよりを手に入れようとしている事を……。
 ついでに言えば、レッド軍の首領が適当な時点で遊園地が魔王軍に破壊された事にするつもりなのも、思い詰めたさよりは気付けない。
「わ…」
 承諾の言葉を発しかけた時、
< ボムッ >
 突然、視界が黒く染まる。
 何かが爆発して煙を発したのだと気付く前に、さよりの意識は闇に溶けた。


 テカテカと日が照りつける砂漠地帯を抜けると、そこは真っ暗な道であった。
「ん……暗い……が、そんなに暗くないか。」
 が、目が慣れると周囲が見える程度には明るかった。ちょうど太陽が燦々と照りつける真昼間の屋外から、20W電球一個だけが室内を照らす暗い地下室に入ったような感じが近いかと思われる状況である。
「そうですね、ランス様。ここを抜けると出口に行けると聞いた事があります。」
 リズナが又聞きした情報を伝えると、正しい道を辿ってると確認したランスや他の面々の顔もほころぶ。
「がははは、そうか。おい、お前ら急ぐぞ。」
「わかりました。」
 口々に承知の声を上げ、ランスと450体あまりのモンスターたち(また増えた)は、暗い中にもはっきりと見える道を踏み締め、脱出行を急いだのであった。


 魔王城の一室。
 魔王ランスが神官セルの為に与えた住み心地の良い部屋で、ある計画が動き始めた。
 うめき声すら上げる事が出来ないほど強い痺れ薬を塗った手裏剣で刺されて床に倒れているのは、セルの監視役兼世話役のキャプテンばにらの使徒のヒルデとまじしゃんの使徒のスティアであった。
 手裏剣を投じたのはカオル、注意を引く役はセルという完璧なフォーメーションにしてやられた二人の使徒は、不意討ちされてへなへなと崩れ落ちたのだ。
 致死毒ではなく痺れ薬を選ぶ辺り、カオルにも多少の遠慮というものはあるらしい。
「カオルさん。この者たちは邪悪なる魔王の眷属、退治してしまった方が良いのではありませんか?」
 手際良く二人の使徒を荷造りして物蔭に隠す作業を黙々と続けるカオルに、厳しい表情のセルが言う。
「いえ。殺してしまっては、かえって事が露見し易くなってしまいます。ここは私にお任せを。」
 後ろも見ずに答えるカオルの返答に、
「わかりました。カオルさんがそう言われるのであれば……」
 不承不承納得するセル。
「それより、封印を解く用意の方はよろしいのですか?」
 一応ながら隠し終えたカオルがセルを振り返る。
「はい、ここに……」
「では、まいりましょう。」
 時間の余裕はあまりないと判断したカオルは、セルを促して玄関ホールへと向かった。
 『魔王の敵』を縛から解き放つ為に……


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 今回は少なめサイズ。
 コトラさんのリクエストでおたま男が再登場してたりします。……当初は再登場させる気なかったんだけどね。
 なお、篠田のアメフト風用語は、『バックス=後援軍』『オーバーラップ=前線に投入される』『ブロック=足止め』って感じで使ってます。
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