鬼畜魔王ランス伝

   第96話 「玄武城陥落」

 海苔子がランスの中に消えてから数十分が過ぎ……
 いい加減天井を見つめるのにも飽きてきたランスは、指で両目をこすって一度だけかぶりを振った。
 脱いでいた自分の服と自分の鎧を着込み、枕元に置いてあった魔剣シィルを拾い上げて左腰の剣帯に吊るす。
 それから、おもむろに家の中を物色し始めた。
「ちっ。ロクなものがねえ。商売道具引き上げたから、それなりの物は残ってると思ったんだがなぁ……」
 ちょっとした家財道具はともかく、商店をやってた時の道具類は全然ない。
 ……もしかしたら、海苔子は単に店員というだけで店主は別にいたのかもしれない。
「それなら、もう用はない……。消えちゃえボム!」
 ランスの全身から高密度の魔力が放たれ、何もかもを消し飛ばす。
 海苔子の着ていた安っぽい着物も、延べたままの煎餅布団も、いかにも何か出そうな古ぼけた部屋も、となり近所の建物も……。
 こうして、玄武城の一角にあった長屋街はこの世から消滅し、巨大なすり鉢状の穴と化したのだった。


 一方、魔王城では、
 城主である魔王ランスの不在を良い事にある人物が動き始めていた。
「魔王に逆らったが為にあんな惨い仕打ちを受けている勇敢なお方……何としてもお助けしなくては……。」
 相変わらずALICE教の神官服に身を包んだシスター セル・カーチゴルフは、玄関ホールの一角に封印されたまま晒し者になっているモノを見て小さく呟いた。
「それで、あの封印を解く手立てはあるのですか?」
 セルと会話しているのは、カオル・クインシー・神楽。この魔王城にいる人間の中でセル以外に唯一…封印の中のアレを除けばの話だが…ランスに心服しきっていない人物である。彼女らは、互いが自分の意志でランスのモノになりながらも、まだ心までは許していないと知ってから急速に親交を深めていたのである。
「はい。私が全力で解封の儀を行なえば、何とかできると思います。」
 陳列ケースを囲む魔法陣は、封印内部の者に苦痛を与えて生命力を吸い出し、魔法陣そのものに溜め込む性質の術法に見える。それなら、魔法陣に溜め込まれた生命力を魔力に変換して利用すれば、自分の神魔法の技量でも魔王のかけた封印呪法を解除しておつりがくるであろう……と、セルは見積もりを立てていた。
「では、今夜にでも……」
 カオルの不幸の元凶は、カオルがゼスで大量殺人をやらかした犯人の顔を知らなかったせいで、封印の中で苦痛にもがくアレが本当に凶悪な異常者だと気付けなかった事。
「はい。」
 そして、魔王の言う事など頭から頑なに信じようとしない石頭神官セルとコンビを組んでしまった事であろう。
 初めは慎重派だったカオルも
「魔王がいない今がチャンスです。勇者様をお逃がししなくては。」
 と、強硬に主張するセルに押され、とうとう救出作戦に参加させられてしまったのだ。
 まあ、元々ガンジーの“世界を救う勇者”の捜索に付き合わされていた時点でセルの話に乗ってしまう素地ができてはいたのだろうが……。
 そして、勿論、彼女達を自業自得の災厄が見舞う事になるのである。
 が、それについて述べるのは後ほどという事としよう。


「なに! 物資が足りないだとっ!」
 すっかりランス軍の宿営地と化した廃寺の境内、そこで脱出行の準備について報告を受けていたランスは、思わず声を張り上げた。
「はい。糧食と水の手持ちは一日分しかありません。それに、砂漠を行軍する為の装備も不足しています。」
 無表情で淡々と報告を続ける復讐ちゃんの言葉に、ランスは渋い顔をする。
「う〜ん。こいつら備蓄もなしに戦争をするつもり……ん、待てよ。城ならその手の物資はしこたまありそうだな。良し、調達しに行こう。」
 善は急げ。ランスは、さっそくゲンジを駆り集めて玄武城へと向かったのだった。

 天守閣の入り口。
 あれから数時間あまりが経過したにも関らず、リズナはまだそこにいた。
 抜け殻のように呆けたままで。
「う〜ん。このまま見捨てるのもちょっと可哀想かな。もったいないし。」
 ゲンジを率いて前を通りかかったランスの呟きに、
「ランス様、助けてあげましょうよ。」
 腰に提げられていたシィルも助け船を出す。
「よし、復讐ちゃんはゲンジを連れて必要な物資と金目の物を残らず持ち出せ。俺様はこれから大事な用事があるからな。」
「……わかりました。」
 すぐ後ろで立ち止まっていた復讐ちゃんの唇を素早く奪うランス。
 驚きに見開かれ、すぐにうっとりと閉じられる瞳。
 しかし、唇はその直後に離れていった。
「続きは後だ。御褒美を貰いたかったら頑張れ。」
 笑みを含んだ視線が注がれるのを感じて頬を朱に染めた復讐ちゃんは、
「……頑張ります。」
 と、一言だけ残して城内へとスキップして行った。
 そして、ゲンジ達はそんな復讐ちゃんを早足で追いかけていったのだった。

 目の前で展開された一幕にも関らず、リズナの意識は未だ戻ってはいなかった。
 恐らく、あまりのショックに現実を認識する能力が麻痺しているのだろう。
「う〜ん。こういう時は……」
 エッチな事をするに限るという事で、ランスは着物の上からリズナの豊かな胸をいやらしく揉み始めた。
 段々エスカレートする悪戯に、身体に直接刺激を受けたリズナの意識もゆっくりと目覚め始める。
「……ぁ……ぁぁ…ん……はぁ……はぁ……」
 それは徹底的な調教の賜物だったのだろう。
 絶望によって壊れかけ、朽ち果てようとしていたリズナの心は、あと一歩のところで辛うじて現実へと戻って来た。
「がはははは。お目覚めか、リズナちゃん。」
 そして、忘れ難い笑い声が、彼女に彼女を起こしたのが誰かを教える。
「……勇者様……どうして、戻って……」
「がはははは。ま、見捨てて行くのも可哀想だから、一回だけ助かるチャンスをやろうかと思ってな。」
 運命すら笑い飛ばしそうな不敵な笑顔と、優しさも確かに混じっている視線に、リズナは心を奪われた。
「えっ!」
 自分に騙されたというのに、まだ許しの手を差し伸べてくれるランスの寛大さが、リズナには眩しかった。
「許して……くださるのですか?」
「ああ、もう俺様を騙そうとしないんならな。」
「ありがとうございます。……ごめんなさい、ごめんなさい勇者様。もう、もうしませんからぁ……。」
 とめどなく涙を溢れさせ、ランスに縋り付くリズナ。
 さっきまでの悪戯で火照り始めていた肢体がぴっとりとしがみついた結果……
 ランスのハイパー兵器は、これ以上ないほど屹立した。
「じゃあ、リズナちゃんを助ける件についてだが……」
 耳元で囁くランスの声。
「はい。」
 涙ながらに答えるリズナ。
「それについて考える前に、暗黒ヒマワリを退治した報酬を貰おうか。リズナちゃんがこの城から出られないなら、この城の中でな。」
 もうランスを騙す気もなければ、身を委ねずにすます理由もない。
「わかりました、勇者様。」
 いや、先程までいやらしく刺激を受けた身体が男を求めて疼き始めていたので、ランスの提案はリズナにとっても渡りに船とも言えた。
 勿論、即決でOKする。
 さすがに自分からねだる事まではしなかったが、今更リズナに慎ましく装う余裕など残されてはいなかった。
「がははははは。よし、早速GOだ。」
 まずは良くほぐしてから…と突っ込んだランスの指がねっとりとした液体で濡れる。
「ん……? がははは。もう二本も指が入るじゃないか。これなら俺様のハイパー兵器でも入っちまうぞ。」
 指でぐちゃぐちゃ掻き回すと、リズナの声がより艶やかに、より大きくなる。
「よし。じゃあ、もう入れよう。」
 ハイパー兵器だけをズボンから出し、着物の裾を開いたリズナを正面から抱きかかえてずっぽしとハメる。
「……ああ、……あ……」
「しっかり捕まってろよ。歩くからな。」
 耳元で意地悪く囁くランスに、
「あ……歩くって……」
 既に息も絶え絶えなリズナが問う。
 が、その答えは言葉では返されなかった。
「がははははははは。」
 両腕でリズナの太ももを抱え、のしのしと歩くランスに、快感に力が抜けそうになる両手両足で必死にしがみつくリズナ。
 その辛く甘く気持ち良い責め苦は、天守閣の最上階まで続けられた。
 階段を上る毎にキツクなる絶妙な絞めつけと堪え切れず漏れ出す色っぽい喘ぎ声は、ランスを心身ともに心地好く刺激する。
「あ……あ……もう許して……勇者様……」
 かすれた声で泣き言を言うリズナの方も、もうそろそろ本当に余裕が無くなっていた。
 何せ、ランスは未だ一発も発射していないにも関らず、リズナの方は抜かずに何度も何度も極めさせられているのだ。
「がははははは。じゃあ、俺様の“情け”をくれてやる。ありがたく受け取れ!」
 これで最後とばかりに奥まで突き入れ、熱い液体が流れ込んでくる感触を最後に、リズナの意識は闇へ飲み込まれていった。
「うん。なかなかの身体だ。これは、手離すのはもったいないな。」
 力が抜けて倒れそうになったリズナを畳の上に寝かせ、ランスはポツリと呟いた。
 そのやり取りの一部始終を観察している鋭い眼がある事など気にもせずに……。


 放棄されたケッセルリンクの館の地下にある避難シェルター。
 その一角に設けられたマットレスの上から、一人の少女が……
「むぎゅっ。」
 床に転がり落ちた。
「大丈夫、姉さん。無理したから……。」
 冷たい床に突っ伏している翼ある少女と良く似たシルエットが、別のマットレスの上から身を起こす。
 どうやら、今回は別々の布団で寝ていたらしい。
 ハイパーモード(準暴走状態)が終了した後、シェルターに辿り着くまでに数人の兵士と戦う破目になったのが響いたのだろう。昨夜寝た時点では、姉妹で慰め合うどころか、いたわり合って一緒に寝る事すらキツイぐらいのダメージが身体に残っていたのが、習慣と嗜好に反して別々に寝ていた原因だと思われる。
「大丈夫、ハウゼル。ちょっと落ちちゃったぐらいだから…」
 しかし、一晩寝た事でかなり回復したのだろう。
 サイゼルは何とか一人で立ち上がった。
 そして、そのまま収納棚にふらふらと向かう。
「姉さん!」
 今にも倒れそうな危なっかしい足取りで歩くサイゼルが棚にぐてーっともたれかかったのを見てハウゼルの血相が変わる。
「あ、お腹空いただけだから。ハウゼルも何か食べる?」
 が、姉の方はいたってのんきな言葉を返した。
 シェルター内には、非常時に備えてかなりの食料や水、薬などが備蓄されていた。
 カラー族がここを離れる際に相当量が脱出行の間の糧食として運び出されたのだが、それでも未だ幾らかは薬も食料も残っていた。
「ええ、姉さん。」
 それが幸いして、充分とは言えないまでも一応の応急手当てを行なえたのだ。
「ところで、これからの事だけど……」
 味気ない保存食での食事も一段落して、姉妹は善後策について相談を始めた。
 が、
「うん。やっぱりケッセルリンク達と合流するのがいいんじゃないかな。西に向かって飛べば追いつけると思うよ。」
 ほぼ即決で妥当な結論に落ち着いた。
 地上の樹海を往くカラーたちと、飛行モンスターの中でも長距離飛行の速度には定評がある偽エンジェルナイトの元締め二人ではそもそもの移動スピードが違う。幾ら負傷で速度が落ちていようと、たいして結果は変わらないはずである。
「じゃ、行こっかハウゼル。」
「ええ、姉さん。」
 手を繋いでシェルターを出た姉妹は予想していなかった。
 ケッセルリンクの館を拠点として使おうとしていた人間たちと、出がけに腹ごなしの運動をする事になるなどとは。
 そして、それは……
 人間たち…ヘルマン解放軍の兵士達…にとって、不運と災厄の化身が砦内に出現したと言う事を意味していたのだった。
 外から攻められる事を想定して用意された堅固な外壁は逃亡を阻み、至るところにあるのではないかと錯覚させるほど多彩な隠し通路は効果的な反撃を封じてしまった。
 ……結果、最初は200人から居たならず者どもは、あっさりと全滅したのである。


 目覚めたリズナは、自分が畳の上に敷かれた布団に寝かされているのに気が付いた。
 また捨てられたのではないか…と、心の中に芽生えた不安から、急いで周囲を見渡すと行儀悪く足を崩したランスが茶をすすりながら団子を食べていた。
「がはははは。起きたか、リズナちゃん。」
「はい、勇者様。」
 ランスの姿を見つけて傍目にもほっとした風情のリズナは、着崩れた自分の着物を直そうとした。だが、二人が分泌したねばねばした体液が着物にくっついて生乾きになっているのを見て、
「すみません。お話の前に着替えさせて貰いたいのですが……。」
 と求めたのだった。
「がはははは。何なら俺様の前で着替えるか?」
 半ば冗談でランスが言うと、
「はい。お願いします、勇者様。」
 なんと、その場で着物を脱ぎ出した。
 それも、見る者の劣情を誘う計算された見せ方と素の恥じらいがミックスされた魅せる脱ぎ方である。
「おおっ(いや、言って見るもんだな)。」
 ただ一人の観客の歓声を導き出すと、リズナは着替えが置いてある隣室へと移動した。
 脱いだ着物でキワドイ部分を隠してしずしずと移動したリズナは、今度は濡れ手拭いで自分の身体を清め始めた。
 ……と言っても、ランスが一応のあたりまでは拭っていたので寝汗を拭く程度で済んだのだが……
 それから、ゆっくりと着物を着始める。
 その男の目を楽しませる着替えの見せ方も、調教の成果の一端なのだろう。
 見る見るうちにハイパー兵器の再充填が完了してしまった。
「がはははは。実に色っぽくてグッドだ。じゃあ、そろそろ話を始めようか。」
 とはいえ、ここで欲望に流されてリズナを押し倒しては何時まで経っても城から脱出する相談など出来ようはずもない。
 ランスはさすがに自制して詳しい話を聞き出す事にした。
 助け出した後なら幾らでもエッチな事ができると自分に言い聞かせて。 

「そうか。最後に残った人間が中から出られなくなる永久保護魔法か……」
 聞いただけでやっかいな代物と悟ったランスが渋面になる。この魔法は、中にいる対象の生物を保護する性質を持つが故に、力尽くで結界を破ると対象の生物を殺してしまいかねないのだ。
「はい、勇者様。その魔法のせいで、この玄武城に34年もの間囚われていたのです。」
 辛い記憶を噛み締めながら話すリズナの表情には苦渋の色が滲んでいた。
「俺様やモンスターが自由に出入りしてたって事は、その魔法は“人間”だけに有効なんだよな。」
 何かを思いついたのか、ランスの顔に不敵な笑みが浮かぶ。
「はい。そのようです。」
「じゃあ、俺様がリズナちゃんを助ける方法は一つしかないな。」
 無造作に言い放った言葉は、リズナの意表を突いた。
「えっ……」
 まさか、本当に対策を思いつくとは信じていなかったからだ。
「ただ、この方法はリズナちゃんが俺様に身も心も捧げてくれなきゃできん。」
「勇者様に……身も心も全て捧げれば助けていただけるのですか?」
 前にここに来た男に穴奴隷として開発されてしまった淫乱な身体でも、相手を悪人だと誤解して騙そうとしてしまった心でも、望んでくれるのなら……と言う思いが込められた問いは、
「そうだ。俺様を信じろ。」
 力強く即答された。
 リズナは、ランスから感じる強い意志と(基本的に女の子限定の)寛大さを信じ、
「わかりました。私みたいな娘でよければ。」
 自らランスのモノとなる事を選んだ。
「がははははは。よし、やるぞ! フェリス! ウィリス! ミカン! 俺様たちの周りに結界を二重に張れ。永久保護魔法の効果が伝わるのを、一瞬だけでもいいから遅らせるぐらいの効果がある強度にしろ。」
「はい、マスター。」
 元悪魔の魔人が、
「わかりました、ランス様。」
「はーーい。わかったよ、ランスおにいちゃん。」
 元レベル神の使徒二人が、ランスとリズナを囲むように強力なバリアを張る。
 いきなりの事態の急転に呆然とするリズナを抱き寄せ、ランスは首筋にキスをした。
 いや、ただのキスではない。
 鋭く尖った剣歯は表皮を貫き、鮮血を吸い上げていた。
「あっ……あぁ……ぁ……」
 リズナの目がトロンとする。
 が、突然苦しみ始めた。
 その血の流れが逆流し、ランスの血が流れ込んでいくからだ。
「あがっ……がかっ……」
 魔王の血は、言うまでもなく人には猛毒である。
 その魔王の血の中でも特別な血を授かったモノは、新たなる生命体へと変貌する。

 その生命体の名を、人は……魔人と呼んだ。

<ピシッ…ミシミシミシッ…>
 リズナに“血”が注入された直後から、部屋のあちこちから軋み音が鳴り始めた。
 部屋の中だけではない。
 良く聞くと、軋みは天守閣全体から発していた。
 古くなった木が自重で軋む嫌な音だ。
 リズナが人間でなくなった事によって、対象を失った永久保護魔法が消滅して本来あるべき時間の流れが急速に経過してしまったのであろう。
 ロクに手入れもせず、長年放置した部屋のなれの果てが、今、目の前にあった。
「ちっ。脱出するぞ。」
 リズナを抱き上げて外へと駆け出そうとしたランスの体重を支えるのを拒否した床が大穴を開け、ランスは数階層をぶち抜いて落ちてからやっと止まった。
 落下が止まったのも、構造材が支えているからではない。
 急遽、飛行魔法を唱えて落下を食い止めたのだ。
 一緒に落ちてきた建材の類は、常時展開されている防御バリアが弾いたおかげでランスもリズナも怪我は負わなかった。
 だが、しかし、その代わりに前後左右上下全ての脱出路が塞がれてしまっていた。
「くそっ。こうなったら…」
 左手にリズナを抱き、右手にシィルを構え、闘気を練り上げる。
「ラ…」
 練り上げた気を炸裂させようという正にその時、ランスの視界に赤いモノが現れた。
≪…5……≫
「ランス殿。その娘を……リズナをお頼みいたしますぞ。」
 赤いモノは、だんだんだんだん大きく大きくなっていく。
≪……4……≫
 頭上に点滅する数字も、5から段々減っていく。
「ったく、どうせならもっと建設的な事をしろ。この馬鹿!」
≪……3……≫
 通常のハニーほどにも大きくなった景勝は、
<ビタンッ!!>
 シィルの剣の平が叩きつけられると、しおしおと萎んで気絶した。
「とんだ時間の無駄だ。くそっ。拾っとけ、フェリス。」
「はい、マスター。」
 瓦礫の隙間に無様に転がるぷちハニーの回収はフェリスに任せておいて、ランスはもう一度闘気を集中する。
 魔人化の途中で動けないリズナをしっかりと抱え、両足を曲げたわめる。
「ラ〜ンスアタック!!」
 両足のバネと飛行魔法によって得られた突進力を、刀身に集めた闘気と共に眼前を塞ぐ瓦礫の壁へと炸裂させる。
<ドゴォォォォォン!!>
 そうして、
<グバババババッ!!>
 そのまま……
<メキベキミシ!!>
 身体ごと…
<ゴバァァァァ!!>
 突き抜ける!
 天守閣の横腹に大きな風穴が開いたのが致命傷となったのか、玄武城はゆっくりと崩壊していった。急速に進行した経年劣化のせいで、建物を形作っている建材そのものが自らの崩壊を食い止める強度すら失ってしまったのだろう。
 着実に壊れ続ける天守閣は、いつ倒れてもおかしくないぐらいに自壊が進行していた。
「あ〜あ。ぶっ壊れたか。……おっと、あいつらは無事か?」
 城の崩壊に巻き込んでたら大事と、周囲を見渡していると、
「……魔王様……無事?」
 派手な脱出劇を聞きつけたか、復讐ちゃんが駆け付けて来た。
「がははははは。俺様は天才だから大丈夫。ところでお前等は無事か?」
「無事。運び出しも終わってます。」
「じゃあ、とっとと逃げるぞ。持ち出した物も忘れるなよ。」
「わかりました。」
 無表情に肯いた復讐ちゃんは、ゲンジの軍団と合流すべく駆け去る。
 ランスも崩壊していく天守閣を背に、リズナを小腕に抱えたまま門外に向かって猛スピードで走り出す。
 こうして、ランスはリズナと一緒に玄武城を脱出した。
 しかし、それは、この異次元空間からの脱出行においては序の口でしかなかった。
 と、ランスは後に思い知るのである。


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 いや〜。もう、5Dと話の筋が全然違うです(笑)。
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読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


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