鬼畜魔王ランス伝

   第84話 「魔王ランスのある日のお仕事」

「退屈だぞ、ホーネット。何とかしろ。」
 ゼス王国とその同盟軍とは一応2年間の休戦期間を置く事にしたランスであったが、実際にランスが敵と目する相手は彼等人間ではなかった。
 神。
 退屈しのぎに殺し合いをさせる創造神ルドラサウム。
 そして、その意を受けて様々な画策をする超神プランナーである。
 魔王の血に制約の枷を仕込んでいたり、様々な陰謀を仕掛けてきてランスをイラつかせる嫌な敵だ。現時点では戦っても勝てる見込みが無いので、直接に喧嘩する訳にいかない点も嫌な所である。
 そう。2年間の休戦期間には、魔王軍がゼスとの戦いを口実にして、来たるべき対神戦用の戦力を整備する為の時間を稼ぐという意味があるのだ。
 この頃のランスは、彼等に対する情報工作を兼ねている場合もあって、ランスにしては丁寧に指示を出す事も多くなってきていた。
 しかしながら、今のランスの発言は……
 こよなく嫌悪しているハズの白くじら…ルドラサウム…の言い草に良く似ていた。
 ま、もっとも、モンスターの部族の長との面談や商隊を率いてきた商人との折衝など、ランスが嫌がる部類の仕事が午前中ずっと続いていては仕方が無いかもしれないが。
『くそっ。マリスがこっちにいれば、こんな仕事全部押しつけてしまえるんだがな。』
 ホーネットに任せ切りにするという案も考えたが、ホーネットはとかく冷酷になれない上に融通が利かないので政治や通商を全て白紙委任するのは少々危険である。下手をするとランスが好き勝手する為の“こづかい(国費における予備費。戦費などはここから支払われる)”が大幅に減ってしまう恐れすらもあった。
 故に渋々ながら真面目に政務関係の仕事をしている訳なのだが、いよいよランスのなけなしの自制心も尽きようとしていた。もっとも、細かい数字関係の事などについては、魔王軍を旗揚げして以来地道に育ててきた官僚組織やリーザスから派遣させて指導に当たらせている専門の官僚に任せているからこそ、何とかここまで持ったとも言える。
「ご辛抱下さいませ、ランス様。今日の執務は、あと謁見が2件だけですので。」
「そうか。がはははは、良し。その2件が詰らん連中だったら、口直しに今日の午後いっぱいホーネットをエッチにいじめて遊ぼうか。」
 口元に意地悪な笑みを浮かべたランスを頬を染めて困った顔で見つめたホーネットは、
「え…えと……その……」
 嫌なんだか嬉しいんだか判別に苦しむ表情でうろたえた。
 即答で嫌だと言えない辺り、随分とランスに毒されてきたのかもしれない。
「……次の方を通しなさい。」
 結局、良いとも嫌とも言えず、衛兵役のソードマスター(注:女の子モンスター)に仕事を指示する事しかできなかったホーネットであった。

 衛兵が呼びに行っている間に、ホーネットはランスに次なる謁見希望者の情報を手早く伝えるべく口を開いた。
「次の謁見希望者は、ヘルマン地方はゴーラクの街に派遣された駐在員であるやもりんのアイシャ殿と現地に在住しているメルシィ・アーチャ殿でございます。」
 その言葉を聞いた途端、『さて、ホーネットをどうやって…』とお子様にはとても見せられない映像を頭に思い浮かべていたランスの意識は現実に戻ってきた。
 しかし、口元の笑みは全く変わらない。
『メルシィ…メルシィ……まさか……いや、どうだろう?』
 ランスは今日初めて謁見を求める客を期待を込めて待ち焦がれた。
『まあ、来たのが“あの”メルシィなら…おしおきは勘弁してやろう。』
 と、ちょっとだけ残念に思いながら。

 案内して来た衛兵と付き添いのやもりんに押し出されるような格好でおずおずとランスの御前…玉座のある壇の下…まで歩いてきたメルシィは、どこか脅えた小動物を思わせる目でランスを上目使いに見上げた。ランスが、かつて自分をさらおうとした盗賊の頭であった事は未だ気付いていないが、魔王というだけでも恐怖するには充分な理由なので知らぬ所でさほどの違いはない。
 当然だが、ランスの方は“一度逃がした魚”の本人だとバッチリ気付いている。
「あ…あの……」
 脅えているせいか、どもって上手く言葉にならないメルシィであったが、彼女の目を見つめたまま待っているランスの姿を目の当たりにし、意を決して話し始めた。
「あの……お金がいるんです……、それも……たくさん……」
 メルシィがなけなしの勇気を振り絞って言葉を紡ぐ間にランスが何をやってたかと言うと、落とす算段を整えるべく相手の出方を見ていたのだ。
『脅える女の子を力尽くで無理矢理ってのも悪くないが、それよりも俺様にメロメロな娘にした方が色々と都合が良いし気持ち良くなるからな。わざわざ会いに来るような事情があるなら利用させて貰おう。』
 などと眼前の男が考えているなどとは知る由も無く、メルシィはたどたどしく訴えを続けようとする。
「がははは、何故金が要るんだ?」
 だが、ランスが不思議と人を引き付ける不敵な笑みを浮かべながら質問した事で、メルシィは傍目からも分かるぐらいホッとし、同時にカチンコチンに緊張した。
「りょ…両親が…怪我して……手術にお金が……」
 そこまで聞いて、ランスは頭をフル回転させて正答に辿り着いた。
「がはははは、なるほど。俺様に直接相談しに来たという事は、すぐにでも金が欲しいんだな。」
 コクンと無言で頷くメルシィ。
『やっぱり、そうか。すぐに金が欲しいんじゃなかったら、俺様が主催してる人員募集のオーディションで1位になれなかった時に言えば良い話だからな。』
 予測が当たった事に内心喜びと苦々しさを覚えながら、ランスは
「それで、いったい幾ら必要なんだ?」
 聞いておかなければならない事をできるだけ優しい口調で確認した。
「きゅ……900万GOLD…です……」
 目の前の男に対するモノ以外の震えも混じった声でやっと口に出したメルシィと、さすがに少々驚いたランスの視線が数秒間絡み合う。
 勿論、視線を逸らしたのはメルシィの方だった。視線が合っていると意識した瞬間に顔ごと俯いたのだ。
「そうか…」
 幾分か声のトーンが落ちた事で、メルシィは文字通り竦み上がった。
 が、
「ホーネット。900万GOLD、できるだけ早く用意してやれ。」
「わかりました、魔王様。」
 直後に交された会話を聞いて、またおずおずと面を上げた。
 物問いたげな視線に口元の笑みを苦笑に変えたランスは、
「がははは。可愛い娘が困ってるのを黙ってられんからな。」
 と、ぬけぬけと言い放った。
「それに、俺様のところで働いて返してくれるんだろ?」
 それにはコクコクと頷くメルシィ。
『何か以前のアールコートを見てる気がするな……こういう娘は優しくしてベタ惚れにしてしまえば良い感じになりそうだな。』
 下心満載で笑みを口元に浮かべたランスは、
「そうだな。俺様はしばらく忙しいから、新年が過ぎるまで両親のとこにいてやれ。」
 破格に親切な申し出を行なった。
「あと、アイシャだったっけ? グッドな判断だ、褒めてやる。花丸をやろう。」
 次に、ランスは後ろに控えていた女の子モンスターやもりんの好判断を称えた。彼女がメルシィをランスに会わせるべく手配しなければ、メルシィは焦ってヤバイ所に金を借りに行ったかもしれないからだ。そうなれば……最悪、二度と陽の目を見られない事も充分に有り得る話である。
「あ、ありがとうございます、魔王様。」
 頬を染めて照れる快活な少女型のモンスターには独特の色香がある。ランスのハイパー兵器はそれに敏感に反応した。
「(む。こっちの娘もなかなか良い感じだな)がははは、おい。良ければお前も俺様の側付にしてやろうか?」
「たいへん嬉しいのですが……今回はご遠慮させていただきます。」
 表情を曇らせながら口にされた答えは、我ながらナイスな提案をしたと思ったランスの眉をピクピクと震えさせた。
「何故だ?」
 関係無いメルシィが気絶しそうになるぐらい低く響く声は、無論女の子モンスターであるアイシャをも震えさせる。
「あ、はい……こちらの方は人見知りが激しいようなので、今回は…付き添いで帰った方が良いと思いまして……」
 それでも威圧感や殺気が放たれている訳ではないので、所々つかえながらも何とか説明を行なう事ができたのだった。
「がはははは、なるほど。良し、アイシャ……お前を俺様の側付に任命する。お前の最初の任務はメルシィの付き添いだ。」
 理由を聞いてなるほどと思ったランスは、即座に先程の発言を工夫する。
「は…はい! ありがとうございます、魔王様。とっても嬉しいです!」
 場に張り詰めた雰囲気も一挙に和らぎ、メルシィは深く深く息をついた。
「じゃあ、怖がらせたお詫びにゴーラクまで送ってやる。ホーネット、チューリップ4号を1機出してやれ。」
「はい、承知致しました、魔王様。」
 そして、メルシィは両親の治療費900万GOLDをランスから貰い、付き添いのやもりんのアイシャと共にゴーラクの街へと帰って行ったのだった。
 ランスの元で働くとの約束を残して。


「さて、あと1件だったか、ホーネット?」
 メルシィという予想外の獲物を手に入れるメドがついたおかげで一気に機嫌が良くなったランスは、朗らかな声で傍らに侍るホーネットに話し掛けた。
「はい、魔王様。次の方は…」
 ホーネットが来客の名を言い終えるよりも早く、ガタンという大きな音をたてて扉が開いた。ドアに躰を預けるように倒れ込んだ白いドレスの女性が、床にダイブしてしまう。
「ちっ!」
 素早く玉座から立ち上がって謁見の間の入り口へと急ぐランスであるが、幾ら何でも間に合うものではない。間一髪と評するには無理があるタイミングでランスが差し伸べた手は空を切る。
 だが、床に敷かれていた柔らかな赤絨毯が彼女を抱き止め、石床との正面衝突だけは何とか回避された。
「大丈夫か? ……よっと。」
 空を切った手をそのまま伸ばして抱え起こそうとしたランスは、そこに深窓の令嬢とも言うべき外見に恵まれたお姫様シーラ・ヘルマンが油汗を流しつつ苦しげにうめいている姿を見つけた。
「ん、どうしたシーラちゃん。」
「ううっ…うっ…嫌…助けて…薬…ほしっ……あ…いら…な…いっ…」
 そう。シーラは、実父ステッセルに犯された上に重度の麻薬中毒にされてしまった不幸な過去を持っているのだ。ステッセル自身はとうの昔に他界しているが、かの悪党の残した呪縛は未だにシーラを苦しめ続けているのだ。
『やっぱり禁断症状か。ちっ、これは俺様にはどうしよう……待てよ。』
 ランスは思わず舌打ちしてしまいそうになったが、ふとある事に気が付いた。
『レベッカにかけられてたプルーペットの魔法は解除できたからな。あれ式でシャブ中の方も何とかできるかもしれん。』
 そう。使徒化である。
 魔王の血という“猛毒”の前では、なまなかな薬物は意味を失う。
 その魔王の血を用いてシィルの使徒にすれば、薬物中毒になった躰を治療する事が可能かもしれない……という事をだ。
 とはいえ、さっさと使徒化をする訳にもいかない。禁断症状に苦しめられているシーラが使徒化に耐え得る体力を残しているとは限らないからだ。
「(何にしても、まずは禁断症状を治める方が先だな)がははは、薬なんかより良いモノをやろうか?」
 一応の方針を決めたランスの台詞は、揺れるシーラの心の天秤の皿の片方に小さな重りを載せてしまった。
「ほ…欲しい……欲しいの…ちょうだい……早くぅ…」
「がははは、いくぞ。」
 細首にかぶりついたランスは、味わいながら血を吸い上げた。
『うげっ……不味い。これが麻薬漬けの女の子の血の味か。』
 ただでさえ乏しい体力が尽きないように気を付けながら吸うと、冷たくなりかかっていた躰が逆に火照り始めてきた。
 今まで慣れ親しんできた麻薬による恍惚とは違った恍惚とした幸福感に身を浸し、シーラは瞳に妖婦以上に妖艶な色を宿した。
「ふふっ……」
 シーラが子供のように破顔し、
「ねぇ、ランス王様。シーラに…して。」
 耳元で場末の娼婦以下のおねだりを囁く。
「私、欲しいの……あふっ…あっ…くぅん……ねえ、いいでしょ? ……ふわっ……そのつもり…でしょ?」
 場所柄も気にせず、シーラの手はランスの下腹部に伸ばされ充血し始めているハイパー兵器をズボンの上から撫で上げた。
「ふふっ…おっき……これ頂戴…ね? ランス王様……」
「待て。ちょっと場所を移るぞ。」
 両手でシーラを抱え上げ、すっくと立ち上がったランスに
「嫌、待たない。」
 言いざま膨れっ面で首根っこにしがみつくシーラ。
 そのまま力任せに押し倒そうともがくが、
「わかった。やってやるから暴れるな。」
 と聞いた途端におとなしくなった。
「こうなったら皆でやるぞ! ホーネット、お前も脱げ。」
 こんな事もあろうかと、謁見の間の衛兵は魔王親衛隊に所属する女の子モンスターや人間の女性など女性陣で固められている。謁見にきた客や呼びつけた将軍などが男でなければ、ランス以外の男の目に肌を晒さずに済むのだ。
 こうして、時ならぬ淫靡な狂宴が始まり、魔王ランスが行なう今日の政務の仕事はなし崩し的に終わりを告げたのだった。

 累々と大理石の床に転がる裸の女体の群れは、もはやぐったりとして動かない。
 衛兵役だったバルキリーやソードマスターなどの鎧や服は剥され、無造作に放り捨てられていた。その代わりと言っては何だが、どの娘も両足の付け根から白濁した粘液をトロリと溢れさせており、先程まで行なわれていた宴の激しさを無言で物語っていた。
「がはははは。ホーネット、もう一発だ。」
 いや、元々精力絶倫な上に魔王の莫大な体力まで手に入れたランスだけは、未だに余裕を残していた。一人で全員の胎内に精を注ぎ込んだ事を考えると物凄い体力である。
「堪忍して下さい、魔王様ぁ……」
 魔人であるホーネットですら身体に力が入らないという有様では、薬物を常習して基礎体力を細らせているシーラが持ち堪えられる訳も無く……ゼンマイの切れた人形の如くピクリともせず横たわっていた。
「さて、どうするか……良し、フェリス。とりあえず全員部屋まで運んどけ。」
「はい、マスター。」
 幾ら魔王でも床に力無く転がる10人を超える女の子たち全員を手早く部屋まで運ぶのは難しい……というか面倒なので、ホーネットとシーラを除く全員を運ぶ役目をフェリスに丸投げしたのだ。
「俺様の方はっと……ちっ、服がベタベタで着る気が起きないな。それに一人で二人運ぶのも持ち難くて嫌だし。そうか、こういう時こそシィルの出番だな。」
 ランスはホーネットを抱き上げながら、脱ぎ散らかした自分の衣服の山の上にちょこんと置かれた簡素な作りの長剣に向かって命令する。
「おい、シィル。シーラちゃん持って俺様に付いて来い。」
「はい、ランス様。」
 返事も待たずに歩き出したランスを、シーラを丁寧に抱き上げたシィルが小走りで追いかける。服も着ないで廊下を闊歩するランスは、
『今の俺様の姿を見た男は、問答無用で死刑だな。』
 などと物騒な事を考えながらホーネットの部屋へと向かったのだった。

 なお、理不尽な死を賜った犠牲者は幸いにも誕生しなかった。
 あくまでも今回は……であるのだが。

 素晴らしいスピードで走り、2分とかけずにホーネットの部屋に着いたランスは
「シーラちゃんをそこらへんに置いて、ドアを閉めとけ。」
 と、振り返りもせずに言った。
「はい、ランス様。んしょ。」
 長椅子にシーラを寝かせたピンク色の髪の少女は、当然とばかりに流れる汗を拭うのも後回しにして愛しい主人に言われた通りにドアを閉めた。
 そこで限界が来た。
<カラン…>
 床に硬質な物が転がる音がする。
 ベットにホーネットを寝かせたランスが振り返った時には、ピンク色の刀身の剣がふにゃふにゃと床に横たわっていた。
「まったく、しょうがないヤツだな。」
 憮然とした口調で毒づき、剣を無造作に拾い、近くに落ちている鞘へと落とし込み、そこらの適当な場所に立て掛ける。一連の動作は一見ぶっきらぼうであるであるため気付き難いが、実は細かい所では丁寧に扱ってたりする。その証拠に、適当に立て掛けたハズの剣がコトとも音を立てなかったりする点などが挙げられるが、まあ余談かもしれない。
 ランスはそのままホーネットのタンスの引出しの一つを開け、その中に用意してある着替えを適当に物色して身に付けた。……一応言っておくと、ランスがホーネットの服を着ている訳ではない。何度か着衣のままエッチな行為に及んでいたのだが、いちいち着替えを取りに行かせるのが面倒だったので、タンスの引出しの一つに着替えを置かせるようにしたというだけの話しだったりする。
 流石に剣帯までは置いてないので魔剣シィルは鞘ごとベルトに挟み込み、
「じゃあ、おやすみだ。風邪なんか引くんじゃないぞ(俺様が余計忙しくなるし、エッチな事もやり難くなるからな)。」
 長椅子からシーラを抱き上げ、ランスはホーネットの部屋を後にした。
「はい……魔王様。おやすみなさいませ。」
 小さな呟きを聞き、わずかに頬を緩めながら。

 自室に戻ったランスは、早速シーラをベッドに寝かせて容態を確かめた。
「生命に別状は無いんだが……使徒化するには、ちょっとヤバイかもな。」
「はい、私もそう思います。」
 と言っても、ランスは医学的な知識にそれほど詳しい訳でもないので、シィルに簡単な診察をさせた結果から類推したに過ぎない。
 ついでに言うと、シィルも神魔法の使い手が当然知っているべき医療知識ぐらいしか身に付けていないので、専門の医者の診察に比べたら心もとないのであるが……。
『すると、使徒化する前に体力を補充してやる必要があるってことだな。良し、何にしても、まずシーラちゃんを起こそう。もうそろそろ話ができるぐらいには回復してるだろうからな。』
 シィルの使徒は、数が多いだけに魔人が使徒に及ぼす支配力がとても弱いという特徴がある。本来、魔人が使徒を作る場合は自らの力を分け与える為に、使徒の数があんまり増えると魔人自身も弱体化する危険が大きいのだが、シィルの使徒の場合はランスの力を分けて貰っているのでシィルが弱体化する危険は無い。
 しかし、使徒に対する支配力の弱さという弱点は補いようがない。
 そこでランスは、自分を慕う…あるいは、自分に忠誠を誓う者が承知した場合に使徒にするという方法を採用しているのだ。
 ぐったりと眠りにつくシーラの唇にそっと唇を当て、舌を捻じ込んでピチャピチャと嘗め回すと、さすがにシーラの眼が驚きに見開かれる。
 そのまま無理矢理にやってしまいたい誘惑を何とか抑えると、ランスは自分の身体を起こしてシーラの枕元に座った。
「ランス王様、いったい何の御用でしょうか?」
「がははは。シーラちゃん、俺様は君さえ良ければ君の麻薬中毒を治してやろうかって思っているんだが、どうだ?」
 唐突な問いではあったが、それはシーラの関心を引いた。
「……本当…でしょうか?」
「がははは、俺様に不可能は無い! ただ、ちょっと人間で無くなるけどな。」
 さりげなく言われた一言ではあるが、シーラは当然ながら無言で首を横に振る。
「そうか、実の娘をシャブ中にして犯すようなヤツの娘って呪縛から解き放たれて、新しく生まれ変わるチャンスだと思うんだがな。」
 残念そうにしみじみ呟く言葉に心の琴線を刺激されたのか、シーラが背けた顔をランスの方に向ける。
「私、汚い子で…不義密通の子で、近親相姦してて…」
「そんなの関係無い! シーラちゃんは充分綺麗な子だ。俺様が保証する!」
「ヘルマン帝国も無くなったのに、私に価値なんてあるの?」
「シーラちゃん自身の価値に比べたら、ヘルマンなんて国にはゴミクズみたいな価値しかないぞ。」
 即座に迷い無く断定される答えに、シーラの顔に赤みが差してくる。
 今までの人生で、シーラ自身にこれほどの価値を見出してくれた人間には出会った事がなかったからだ。敢えて言うならアリストレスだが、それも“ヘルマンの王女”という肩書きが自分に無かったら……と思うと一抹の不審を抱かざるを得ない。
「……それで、麻薬中毒が治った後で…私にどうしろと言うのでしょうか?」
「ああ。それはシーラちゃんの好きにして良い。俺様の女になってくれるんなら嬉しいんだが、そうじゃなくても面倒ぐらいは一応見てやるぞ。」
 それは政略的な意味もある行為なのだが、この男が言うと不思議と『今落とし損なっても後でゆっくりと…』と言うように聞こえる。
 その、ある意味熱烈なラブコールとも取れる発言に、シーラは遂に落ちた。
 自分の実像を見て、それを愛してくれる男のモノになる事を思っただけで、心が温かく身体が熱くなってきたのだ。
「…いいの……私で……」
「おう、シーラちゃんなら大歓迎だ。」
 ランスは、シーラに覆い被さりながら儀式を開始した。
 シーラの体力を回復させる為の性儀式…別名、房中術…を。

 RC1年12月30日の陽が落ちる前に、シーラは魔剣シィルの刀身についたランスの血を嘗めて、シィルの使徒となった。
 だが、麻薬自体の中毒症状は消えても、それがもたらす恍惚感への中毒までは払底できなかった事をランスが知るのは、後の事となるのであった。


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 うわぁ、メモテキスト換算で17.3kb……道理で、書き上がりが予定を上回る遅さになるはずだわな(苦笑)。
 ちょっとした事情で説明的な文が多くなってる気がしますが、なにとぞ御容赦を…。
 今回はメルシィとシーラのエピソードですが、前回のカオルに続いて宿題の山を積み残してます(汗)。……こういう事やってるから、長くなるんだよなぁ(笑)。
目次 次へ


読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます


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