鬼畜魔王ランス伝

   第48話 「教会襲撃」

 シャングリラを出立したランス一行は、本来の第一目的地であるレッド上空へと到着した。そして、そのまま目標地点の真上へと直行した。
 すなわち、この街にある教会の上空へ。
 だが、そこは、ランスの記憶にある場所ではなくなっていた。
 教会施設自体は全く変わりが無いようだが、周囲の区画全てがガチガチの軍事施設に建物が改造されており、重装備の兵士達が周囲を闊歩していたのだ。その兵士達は……独特の甲冑の形状からしてAL教のテンプルナイトに間違い無いだろう。
「ほう、ここに兵を置くとは中々やるな、あの助平ジジイ。」
 いずれ、ランスがここに来る事を予め見越しておかないと、この軍備を整える事はできないだろう。もしかしたら、ここに来た目的の人物も移動させられているかもしれないのだが……その時には教団本部をぶっ潰すだけの事と開き直っていた。
 先手を打つべく、空中に身を躍らせる。
 そして、刀身に軽く気を溜めて放つ。あの技を。
「ラ〜〜ンスアタック!」
 いきなりのランスアタックで、不幸にも爆心地近くにいたテンプルナイト43人が鎧ごとひしゃげて吹き飛んだ。急降下の勢いも込みであるだけに、剣身に込めた気の割りには威力が馬鹿みたいに大きい。
「何だ? 手応えの無い。」
 これでも人間の兵士としては強い方の部類ではあるのだが、いかんせん一般兵士レベルの技量ではランスには遠く及ばない。けれんみも何も無く、ただ真正面から数と装甲を頼りに攻めて来たテンプルナイト部隊500名は、わずか4分間で全滅した。
 魔王に対して唯の一太刀すら当てる事が出来ずに。
 教会の周囲にあった兵士詰所も、中の人員もろとも潰れて瓦礫と化している。
 累々たる屍の間をすり抜けて教会の入り口に近付いたランスに向かって、たわめられたバネの如き勢いで跳ね起きた男が、その剣を力強く横薙ぎに振り切った。爆発的な動きによって甲冑の中から溢れ出した血飛沫が宙に舞う。
「うおっと!」
 しかし、おそらくは最後の力を振り絞ったとおぼしき攻撃も、後僅か数cmの差で届かなかった。ランスがその剣筋を見切って、すかさずバックステップしたからだ。
「ああ、ムーララルー様。我々の為の贖罪を……」
 血反吐を吐いて倒れたその男の背に、ランスは魔剣シィルを突き刺して容赦無く止めを刺した。
「がはははは、油断してたらヤバかったな。だが、俺様は英雄だから油断しないのだ。」
 女の子相手なら思いっきり油断する事もある癖に、そんな事は大きな棚の上に上げた発言をするランス。だが、死体と瓦礫だらけになった急造の教会前広場にはランスにツッコミを入れるような人物は存在していなかった。
「どれどれ……」
 今度こそ教会の扉を……破る。
 ドアノブには罠が仕掛け易いという事情もあるが、半分くらいは単なる気分だ。面白半分で放った一閃は、厚い樫板で出来た扉を一撃でぶち割ってデカントでも通れるほどの大穴を穿った。蝶番の外れた扉が吹き飛んだとも言う。
「セルさん、いるか〜。」
 殺伐とした戦闘や乱暴過ぎる入り方にも関らず、のんきな声で自分を呼ばわったランスにいささか気が抜けそうになりながらも、セルは気丈な声を上げた。
「それ以上近付かないで下さい、魔王!!」
 そんな言葉は無視してズンズン進むランスに、セルは眉を顰めた。
「私は過ちを犯しました。カオスは、やはりランスさんに渡すべきではなかった。すぐにでも再封印しておくべきだったのです。」
 セルさんの目から見ただけの一方的で偏見バリバリな意見に内心溜息をつきながらも、ランスは更に歩み寄る。
「だからこそ、ここで贖罪をします。私の命を賭けて。」
 エジプト十字にも似た杖を持ったまま、眼前にまで迫ったランスに向けて抱きついた。
「数多流されし聖なる血と失われし勇敢なる御魂にかけて、大いなる主よ我に御力を貸し給え!」
 その呪文が唱えられた途端、聖堂内が青白く光り始めた。どこからともなく聖歌が聞こえ、部屋の四隅に光り輝く結界志木が現れる。そして……
「ワルヤテジ閉テシ間空ノ遠永カンナ物魔イ悪!」
 次の呪文、魔人すら封じる魔封結界を形成する言霊が唱えられた。それに応えて、光輝満ちる聖堂の象徴的中心たる祭壇近くに4本の結界志木から放たれた激しい電磁場が、ランスに抱きついたままのセルの杖を焦点として集中する。勿論、杖だけじゃなく、セルやランスも磁場に巻き込んで。
「いいのか、セルさん。これじゃセルさんまで……」
「いいんです。魔王を封じる事ができるなら私の命など。」
 その発言はランスの癇に障った。段々強く激しくなっていく磁場の中で、抱き付いているセルの身体を正面に来るようにずらして、超至近距離から相手の瞳を見据えて不敵な笑みを浮かべる。
「がははは。じゃあ、ここから俺様が脱出できたなら、それが神の意志という訳だな。」
 いつもの笑い声と、どこから湧いて来るのか不思議なほどの自信に満ち溢れた台詞を口にしながら。
「この封印に捕えられたからには、いかに魔王だろうとも脱出は無理です。いい加減に諦めて下さい。」
 それでも魔封結界の威力を信じて疑わないセルに、ランスはある賭けを持ちかけた。
「じゃあ、俺様がこれから脱出できたら、セルさんは俺様のものになれ。」
 じりじりと光が輝きを増して来る。目を開けているのさえ辛くなってくる程に。
「何でそうなるんですか!?」
 言い返すセルも段々苦しげな息を吐き始める。磁場の影響が出てきているのだ。
「結界の効果を信じているなら、約束出来るハズだろ? それとも自信が無いのか?」
「わかりました。天使様が直々に教えて下さった呪法が負ける訳ありません。」
 それで、ランスにもセルの自信の根拠が分かった。連中が仕掛けた罠ならば、封印に捕えられた者が中から脱出するのは魔王でさえ無理だろう。
「おい!! やれ!!」
 ……自力なら。
「はっ!」
 神風の矢が結界志木に突き立ち、真っ二つに裂く。
「火爆破っ!」
 まじしゃんの放った攻撃魔法が結界志木を焼き尽くす。
「えいっ!」
 髪長姫の長い髪が伸びて結界志木に巻きつくと、それをズタズタに切り裂いた。
「まぐろアッパー!」
 勢い良く踏み込んだキャプテンばにらの下から突き上げるような拳は、結界志木をへし折った。
 メリムはそんな皆を“天使の鏡”から注がれる光によって守り、とっこーちゃんはメリムを護衛して背後を警戒している。
 破壊された扉から状況を把握して待機していた皆は、ランスの呼びかけを合図として完璧なフォーメーションを見せ、魔王ですら捕縛できる魔封結界を瞬時に破壊した。……封縛術の効力の外側から。
 術のバランスが急に崩れた影響でセルの持つ杖が爆ぜ割れた途端、セルはランスに縋り付いたままヘナヘナと崩れ落ちた。
「がはははは。俺様のスーパーな頭脳の方が一枚上手だったようだな。」
 高笑いしながら豪語するランスであった。
 ご機嫌でセルさんを拉致したランス一行は、そのまま長崎へと向かって旅立った。
 破壊され尽くした教会と骨も残らないほど焼き尽くされた骸の山を後に残して。


 その頃、大陸地下にある大空洞では、体長が2kmもある白鯨の姿をした巨神が、背に羽根が生えた人間を模した姿の神を呼び出して、楽しげに話しかけていた。
「くすくすくす……ねえ、プランナー。」
「はっ。」
「あんまり手、出し過ぎちゃ駄目だよ。」
「私めには何の事だか……」
 人間なら顔面に冷や汗がびっしり浮かぶ程のプレッシャーを受けながらも、プランナーは白を切った。色々と手出ししているのは事実ではあるが、どれが不興を被っているのか判断がつかないという事もあるが。
「天界の封印アイテムと封印呪法を人間に与えたでしょ。隠せると思っているの? くすくすくす。」
 明らかに面白がって追求するルドラサウムに、プランナーはこんな事態の為に予め用意していた答えを返した。
「いえ、あれは神への信仰と供物に対する正当な行為でございます。」
 あの結界志木のために、AL教は数十万人以上の命を供物として捧げた。
 各地で起こした反乱と闘神都市復活に尽力する事によって。
 プランナーは、その行為に対する褒賞だと言っているのだ。
「まあ、いいや。面白かったから、今回はコレぐらいで勘弁してあげる。」
「はっ、ありがとうございます。」
 プランナーは、しばらく地上への手出しを控える事を心に誓った。
 彼とて自分の命は惜しいのだ。


 そして、こちらは魔王城の実験研究区画にあるサテラのアトリエ。
 ここでは、今、サテラの手によって新たなガーディアンが誕生しようとしていた。
「……できた!」
 慎重な手付きで最後の部品を嵌め込むと、ガーディアンの左目に当たる部分に鈍い光が灯った。土くれから塑像された人形に、生命が吹き込まれた証拠だ。
「サテラサマ、オメデトウゴザイマス。」
「さて、お前。身体に異常はないか?」
 鋼鉄の鎧の如き外皮を纏った石の人形。新型ガーディアンは静かに首肯した。
「じゃ、能力テストをするぞ。サテラに付いて来い。」
 人間の鎧を参考にした関係で、従来型よりさらに人間のフォルムに近くなった新型は、しなやかな動きで踵を返したサテラの後に付いて歩き始めた。サテラの一番のお気に入りであるガーディアン、シーザーもその後に続く。
「アレと戦え。」
 サテラが指差したのは……従来型のガーディアン10体だった。
 戦端は、その1秒後に切って落とされた。
 魔法弾が双方から飛ぶ。
 新型の左手甲にある射出口から放たれた攻撃は一撃で従来型1体を破壊したが、従来型の攻撃はどれも致命傷には至ってなかった。だが、同じ事をあと2〜3度やれば持ちそうにない。それを察知したのか、新型は相手部隊に突っ込んで接近戦に持ち込もうとする。従来型は散開して魔法攻撃を続行しようとするが、瞬く間に4体が新型の右手甲から伸びた鉄爪の餌食になる。従来型の方が鎧がない分だけ身軽なハズであるのに、新型の動きに付いて行けて無いのだ。
 良く見ると、新型の腕や足などが時々膨らんでいるように見える。丁度、力を込めた人の腕の筋肉が盛り上がるかの如くに。布で覆われている関節部だけでは無く、金属製の装甲に覆われた部分でさえ。
 従来型がブレード状に加工された左腕で斬りかかって来るのを、右腕で横からへし折るついでに、そのまま胴体部に鉤爪を叩き込んだ。胴を大きく抉られた従来型の目から光が消える。背中から襲いかかる別の一体に、振り返る事なく後ろに振り上げた左脚が大腿部を蹴り折る。離れた所から魔法弾を撃とうと身構えた別の一体を左腕の魔導砲で撃破しながら、脚を折っただけの相手に止めを刺す。
 3分後、従来型のガーディアンは全滅した。
 どうして、これほどに新型と従来型の間に戦力の差があるのか。 
 それは、新型ガーディアンの研究開発に行き詰まったサテラが、新しく仲間になった魔人フリークの命無き鉄の人形に生命を吹き込む魔鉄匠という匠の技に興味を持った事から始まった。
 自分以外の多くの魔鉄匠が封印から目覚めた為、今更秘密にする事もあるまいとサテラに教え始めたフリークではあったが、サテラには魔鉄匠としての才能はなかった。機械で出来た人形を作るのは、性格的に向いていなかったのだ。それでも、闘将や魔法機などに使われている幾つかの魔法技術は覚えた。
 金属を外皮とする魔法と、
 布を筋肉とする魔法をだ。
 新型ガーディアンに装備されていた魔導砲のような小物を組み込む方法も覚えた。もっとも、そういう機械装置を作る方はからっきしではあったが。
 とにかく、新しく吸収した技術を従来のガーディアン作成法と併用して作ったのが、今回の新型ガーディアンなのだ。ガーディアンに魔鉄匠の技術で作った強化パーツを着せたような外観なのだが、その実体は全然違う。強化パーツの方も新型ガーディアンの身体になるように魔法をかけられているのだから。
 ただ、良い事尽くめに見える新型にも、致命的とも言える弱点があった。それは……サテラが作る手間が2倍近くに増えた事が原因で、生産数が半減以下になってしまった事である。
 他にも、魔導砲や飛び出し式の鉤爪はサテラが自分で作れないなどの欠点がある。
 だが、しかし、新型ガーディアンはその性能が買われて正式採用になった。
 生産性の問題を残したままで。


 ゼス王国上空の闘神都市。
 ここでは、闘神都市内に秘蔵されていた古代文献に従ってゼス王国の重鎮……高位の魔法使い達の魔力を高める為の儀式が執り行われていた。
 儀式を受ける者は
 ゼス国王、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー
 ゼス王女、マジック・ザ・ガンジー
 ゼス四天王筆頭、山田千鶴子
 ゼス四天王、アレックス・ヴァルス
 の4名。他の人間には適性がないと判断された為、この場にはいなかった。
 ……余談ではあるが、唯一儀式が“必要が無い”と判断された人材はいる。
 千鶴子の弟子のアニス・沢渡である。
 彼女の魔法の潜在能力は凄まじく、この場にいる誰をも圧倒出来るほどであったが……その能力は既にほとんど顕在化しているのだ。それゆえ、彼女は対象から外されたのだ。
 その儀式は……3日3晩に渡って続けられた。参加者の都合や体力を無視して。


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 47〜48は新アイテム紹介が続きます。時間的に短いので、一度書いたエピソードの続きを書き難いのが辛かったですね(笑)。
 ちなみに、テンプルナイトたちの剣の刀身に聖水をまぶしてあるので当てる数が増えれば増えるほど封印がし易くなるという裏設定があります。でも0HIT(笑)。
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