鬼畜魔王ランス伝

   第41話 「最強の闘神」

「がははははは、いい格好だな爺さん。」
 祭りの山車よろしく荷車の上に固定され、10万ものモンスター軍に囲まれて到着したフリーク……闘神Ω(オメガ)を見て、ランスは大笑いした。
「ぬう、そこまで笑わんでもいいと思うがのう。」
 大笑いされたフリークが少々傷付いた声を出す。どうやら、彼も多少は気にしているらしい。
「おお、すまんすまん。魔物を目の仇にしてた爺さんが、魔物と仲良くやってくる図を見たら何だか笑えてな。がははははは。」
 ランスの表情と謝罪の言葉には全く反省の色がない。それでも、その語の意味を悟って(あるいは勝手に誤解して)フリークはそれ以上の抗議の言葉を引っ込めた。
「ところで、私に用なんでしたっけフリークさん。」
 科学技術と魔法工学の第一人者、魔人マリア・カスタードが眼鏡の位置を直しながら現れた。愛用の白衣とあいまって中々いい感じの科学者っぷりである。
 ただし、“マッド”が付く方の。
「まあ、ワシとしては藁をも掴む心境なんじゃがな。」
 魔鉄匠(闘神などを作る技術者)の自分が、現状ではお手上げ状態だと認めている状況をマリアが何とか出来るとは考えていなかった。
 ただ、シベリアの北の雪原に隠された闘神都市Ωまで行けば、自分には打てる手が二つだけある。余人を連れて行くのには抵抗もあったが、この際はやむを得ない。
 早速自分の身体を調べ始めたマリアの手荒い調査を受けながら、フリークはそんな事を考えていたのだった。

 ……1時間後。調査が一段落ついたマリアは溜息をついていた。
「おい。エネルギー補給できる目処はついたか。」
 様子を見にやって来たランスに、マリアは手で×を出した。
「どうやら外部から魔力を無線供給するらしいんだけど、その魔力回路と指令伝達系統が切り離せなくって。」
 フリークが自分自身で闘神Ωを使用できるように指令系統を切り離した結果、外部からの動力源……魔力の供給まで遮断してしまった。最強とさえ言われるΩのボディの魔力消費量はフリーク自身ではとうてい賄い切れるものではなく、当然の結果としてエネルギー切れで動けなくなるといった事態になっている訳なのだ。
「やはりか。ワシが500年研究しても無理だったんじゃからな。」
 闘神都市システムをM・M・ルーンの遺した指令系統から解放する研究を続けてきたフリークである。それがどんなに難しいかは自分が一番承知している。
「がはははははは。どうやら天才の俺様の出番のようだな。」
「ぬぬ、ランス殿に何が出来るというのじゃな。」
 古代魔法技術の大家である自分と、科学技術と魔法工学の大御所であるマリアがふたりともお手上げの事態に、どう見ても機械オンチに見えるランスが役に立つとはフリークには思えなかった。向こうでマリアもうんうんと肯いている。
「(ちっ、マリアめ……)俺様に何とか出来る手段があると言ったら、どうする。」
「なんじゃと!!」
「え! ランス、本当?!」
 マリアとフリークがランスに詰め寄る。エネルギー残量が気になるフリークまでが動くという事は余程に驚いたらしい。
「本当だ。がははははは。」
 胸を反らしていばるランス。根拠があるかどうかは知らないが。
「いったい、どういう方法じゃな。」
「教えてもいいが……ひとつだけ俺様の言う事を聞いてもらうぞ。」
 マリアが固唾を飲んで見守る中、ある重大な選択がなされた。
「いいじゃろう。」
 その返答を聞いたランスの口には、鋭い牙が鈍く光っていた。

「結局、どういう方法な訳?」
 闘神Ωの頚部にキスしたようにも、噛み付いたようにも見えるランスの行為に、マリアは心当たりがあった。
 それでも聞かずにはいられない。
「爺さんを俺様の魔人にした。本当はああいうゲテモノに口をつけるのは嫌だったんだがな。」
 口を拭いながら心底嫌そうにしているランスを見て、マリアは不思議に思った。
「それじゃ、やらなきゃいいじゃない。……それとも、必要だったの。」
「おう。」
 苦々しげな答え。だが、それはすぐにいつもの調子に取って代わられた。
「てな訳で、俺様はマリアで口直しだ。GO!」
「ちょ、ちょっと、ランス、駄目。」
 ガバッと持ち上げて物陰に運び込もうとするランスに対するマリアの抵抗は、その実力に比べて非常に些細なモノだった。無論、そんなものがその気になったランスを止められる訳はなかった。……要所要所でマリアがこっそり協力してるのは大人の秘密だ。
 路地裏に響く艶っぽい声は、2時間あまりに渡って聞こえた。
 しかし、10万ものモンスター兵のいるこの一角に立ち入ろうとする人間はいなかったのだった。


「おっ、爺さん。もう動けるのか。」
 第何ラウンドか数えるのも面倒になった頃、闘神の稼動音を聞きつけたランスは身繕いをしてフリークの前に現れた。その後にマリアも続いている。
「ワシを魔人にして何を企んでおる、おぬしは。」
 眼光鋭く睨みつけるフリークだが、ランスは冷静にツッコミを入れた。
「その前に……爺さんまともに稼動出来てるようだが、エネルギーの方は大丈夫か?」
「ん? おおっ!!」
 指摘されてやっと、自分が外部からの魔力供給なしで普通に稼動出来ている事に気が付いた。そんなフリークを見やってランスが更に質問する。
「それで、現状で使えん機能とかあるか。」
「う〜ん。そうじゃのう……この闘神のボディに限れば使えないのは自己再生機能ぐらいじゃな。しかも大方の機能は性能がアップしとる。」
 ユプシロンにも付いていた自己再生機能は莫大なエネルギーを必要とするので、現状では仕方ないだろう。機能アップは魔人化による元の魔力の増大に付随したものである。
「しかし、何でワシを魔人なんかにしたんじゃ。」
 返答次第では一戦も辞さずとの構えに、ランスは妥協して真面目な話をする事にした。
「一つ目は、爺さんが普段も自分で動けるようにする事。いちいち何かある度にうし車で運ぶのは面倒だからな。」
 これは、今現在の自分の状態を考えれば容易に納得できる。
「二つ目は、魔人が魔王に絶対服従する特性を利用して指令系統を無力化する事。これで爺さんと闘神都市とのリンクを接続しても大丈夫だろう。」
 この要素は考えてなかったが、理屈としては納得が出来る。必要ならば接続している間に指令系統の魔力回路を書き換えて無力化する事も可能だろう。もっとも、この方法で指令の書き換えが可能なのは自分とリンクする闘神都市Ωに限るが。
「三つ目は爺さんにもパイアールってクソ生意気なガキの魔人の知識を教えて、マリアの負担を減らす為だ。」
 フリークがハッとして記憶を探ると、確かに自分の知らない技術情報がある。
「どうしてフリークさんにパイアールの知識を譲渡できるの? もしかして私に渡してない技術情報があるとか?」
「違う。“力”や“才能”と違って“知識”は複製が出来るってだけだ。」
 思わず出たマリアの疑問にランスが迷わず即答する。
「最後に……ただでさえあのアールコートを圧倒できる戦闘能力は、これからの戦いを考えれば惜しいって事だ。」
 これからの戦い……それを思いやってフリークは苦笑した。
 あんなのとコトを構えなければならないのだ。
 少々のパワーアップでさえ気休めにしかならない相手との戦いを思って、フリークは溜息を隠せなかった。
「早速だが、爺さん。爺さんの闘神都市に案内してもらおうか。」
 ランスの声が、フリークを後ろ向きな物思いから引っ張り出した。
 かつて、無敵の魔人に挑んだ時の事を考えればなんという事はない。
 そう、気を取り直した。
 “敵”は比べ物にならない程に強大だが。

 その日、探索隊はローレングラードを旅立った。
 これ以上ないほどの案内人を仲間に加えて。
 目的地は、闘神都市Ω。
 建造途中で放棄された、聖魔教団の最強最後の切り札である。

 
 占領処理で行政府よりやっかいなのは、やはり軍部であろう。だが、ランス王が元々軍部の支持を集めていた事、今回のリーザス降伏に際しても武装解除や部隊解散が行なわれなかった事も手伝って、かつてのように叛乱軍が結成されるなんて事はなかった。
 それでも、戦後処理が終わるとエクスが自発的に隠居。また、ハウレーンとラファリアと魔想志津香が徹底抗戦を叫んで仲間とゼスに亡命する騒ぎなんかも起こったのだが、無理に抑えないようにとのランスの指示によって軍事的な衝突は発生しなかった。
「そんなのが国内に潜伏してるより、あっち行ってくれた方がやり易い。」
 とは、ランスの言である。
 まあ、巨大帝国にまで急激に成長した魔王領としては、国内でサボタージュやゲリラ的な活動をされるよりは楽な事は確かである。それに、亡命阻止の行動といえども民衆に弾圧と受け取られかねない行動は避けた方が良い。そういう計算もあった。
 同様の意味で、旧軍兵士の退役も認証された。
 旧ヘルマン、旧リーザスの守備には現地出身の兵士で編成された軍を中心として編成する……その方針に従い、旧軍関係者からの志願兵を募集して新たな軍団を創設する。それが、ランスが提唱しマリスが策定した戦略であった。
 さらに、魔王の権威を背景にした行政のスリム化、法制度の抜本的改革、旧来の特権階級からの特権や財産の剥奪、財政の健全化と税制改革、福祉制度の充実、旧ヘルマン地域への旧リーザス地域からの食料販路の確保、旧ヘルマンでの軍事費肥大の是正など、マリスが1週間で成し遂げた改革は多分に人気取りの面もあったが、民衆の生活水準の向上に役立つ施策ばかりであった。
 これらのマリスの政治的な配慮と、魔王軍による略奪や暴行が皆無である事(見つかると即座に処刑される)、多くの負傷兵が魔王軍の手によって治療され助かった事実などから、民衆の魔王ランスへの反発は次第に下火になっていった。
 しかし、そんなマリスたちの努力を無に還そうとする者達が暗躍を始めていた……。


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 残骸に取り憑いただけのレッドアイとは違って、ちゃんとした闘神を魔人にできたら凄いだろうな……。そんな、安易な発想の産物です。
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