鬼畜魔王ランス伝

   第24話 「取り引き」

 純白の翼持つ聖なる者、天の御使い。
 ソレと健太郎が出会ったのは聖女の迷宮の地下75階であった。
 エンジェルナイト。
 天の御使いのみが持つ聖なる後光と彼女が発した言葉がかろうじて健太郎の凶刃を止めた。間一髪で。
「魔王を倒す方法を知りたくありませんか?」
 天使が発した一言は、自動殺戮機械と化していた健太郎の人間性を僅かに呼び起こす事に成功していた。いや、健太郎は笑みを浮かべながら剣を振るい、無意味なコロシを続けているのだから機械とはいえないかもしれないが。
 ともあれ、久しぶりに話をする気になっただろう事は確かであった。この機会を逃さずに、天使は必要な情報を健太郎に与える事にした。
 健太郎が魔王を倒すだけの力を手に入れるためには、ある3つのアイテムを手に入れる必要があるという事を。

 一つは、邪悪なる強さの石……死の力に満ちた黒い宝石で、魔の加護を得て戦闘力を増大する事ができる。人の心の暗黒面に触れ、その暗き力を増す作用もある。
 もう一つは、暗黒神の鎧……闇の闘気を増幅する効果によって、着用者に絶大なる戦闘力をもたらす鎧。ただし、人の身で使うのは負担が大きい。
 そして、最後の一つは、神勅の腕輪……悪魔を使い魔とする魔王に対抗する為、エンジェルナイトである自分を召喚できるようにするアイテムである。

「何故、そんな事を僕に教える。答えろ。」
 健太郎の声は抜き身の剣のように危険であった。下手な受け答えは死を招く。そんな緊張感に満ち満ちていた。
「我が神からの勅命にございます。我が神は今の魔王が目障りなのです。」
「なら、自分でやればいいじゃないか。僕なんかには頼らずに。」
「我が神が直接地上に関与する事は許されていないのです。ゆえに我らを遣わされたのでございます。」
「話はそれだけかい?」
 カオスを背に負うように振りかぶって構えた。常に放っている尋常でない殺気が健太郎が本気である事を示している。
「我が神は依頼の報酬も用意してございます。」
「何?」
「美樹様の蘇生と本来の世界への帰還……でございますよ。」
「何だって! それは本当かっ!?」
「真でございます。我が神の御力を以ってすれば可能でございます。」
 健太郎は報酬に目が眩んだ。一度は諦めた自分の世界への帰還。死んだ美樹を取り戻す事。この二つは健太郎にとって何より魅力的な輝きを持っている“目的”なのだ。
 神の依頼を健太郎は引き受け、契約は交された。
 復讐のみに生きる虚ろなる魂に、生きる目的が加わった。生への渇望を取り戻した健太郎は、更なる“強さ”を得たのだった。
 歪んだ強さを……。


「プランナー。彼に手出ししているのはどういう訳だい?」
 大陸地下の大空洞。そこに鎮座している白鯨の姿をした巨神……ルドラサウム……が下僕の神……プランナー……に話しかけた。
「はっ。彼と魔王の戦闘力を近づけるためであります。あっさり返り討ちになってしまっては面白くないでしょうから。」
 エンジェルナイトを健太郎の元に派遣したのはプランナーであった。わざわざ代理人を派遣したのは“魔神”の力が予想以上なのと、“魔王”が予想外の動きをしているためであった。世界の管理を担当する彼は予定外の事態を好まないのだ。
 だが、ルドラサウムは殊の外イレギュラーを好む。魔王が予想外の動きをしているというだけでは対処を命じてはくれないのだ。現在の段階でプランナーが直接に魔王を排除しようとしたなら、プランナー自身がルドラサウムに始末されてしまうに違いない。
 ゆえに、間接的に始末せざるを得ない。ドラマの登場人物の手を借りてでも。
 不安の種は無い方が良い。
 プランナーはそう考えたのだ。


 ガルティアは、現在ゼスの街マークに来ていた。
「敵を知り、味方を知れば百戦危うからず……か。よぉし、目一杯食うぞー!」
 どこから聞いてきたのか分からないが、人間のことわざを引用してやって来たガルティアが行っている“敵情視察”は、まごうことなき“ゼス国うまいもの巡り”である。
 軍用金の金塊を相当数持ってやって来たガルティアは“いいお客さん”扱いで歓迎されていた。食べた食事から自分直属の兵士を生み出す能力を持つガルティアであるだけに、この行為が軍用金の横領と言い難いところは巧妙である。
 まあ、そんじょそこらで殺気や闘気を撒き散らしているならともかく、満腹時の機嫌の良い状態であれば、服装にさえ気をつけていればガルティアを魔人と見分けるのは困難だった。当然ながら、腹部に開いた亜空間に通じる穴とそこから手を出している使徒3匹の手はコルセットで締めた上に服を着て隠している。
「しっかし、お客さん良く食うねー。いったいどこにそんなに入るんだい。」
 酒場の全メニュー制覇間近のガルティアに、バーテンが気さくに話かける。
「いや、古代魔術の文献を調べてたら食いだめする為の呪文っての見つけたんだけど、試しにそいつを使ってみたら腹が減って減って。それで、効力が切れるまでうまいものの食べ歩きでもしようって思ってな。」
 この言い訳はアールコートの入れ知恵である。人間の世界にうまいものがたくさんあると聞いたガルティアが、期限まで待つのが嫌だからいい方法を教えろとアールコートに詰め寄って色々と聞き出したのだ。騒ぎを起こさずに人間界で行動するための方法を……である。
「へえー、そいつは初耳だな。」
「まあ、実験中の呪文なんでどうなるかわからんけどな。」
「しかし、それなら他人で実験した方が……」
「魔法を使った本人にしか効果がないんだと。生命の危険がないらしいってのだけはわかってるんだが。」
「なるほどな。」
「で、この辺にこの店以外にうまい店知ってるかい?」
「うーん、そうだな。」
 その質問はバーテンにとっては答えにくい質問ではあった。しかし、既に酒場中の注目の的になっていたガルティアの疑問に、そこらじゅうで議論が巻き起こる。その中でも、最も多く挙げられた店名が気になった。その店は“ゼスで一番おいしい店”との評判をここ何年か保っているというのだ。
「おい。その店……“サクラ&パスタ”ってどこにあるんだ?」
「サバサバってとこだけど。あんた知らなかったのかい? 有名な店だよ。」
 ガルティアの問いにギャラリーの一人が答える。
「すまんね。こちとら修行修行でそれどころではなかったんでね。」
 これも用意していた言い訳の一つである。
「あ…すまん。悪かった。」
 効果は覿面。その客は即座に謝り、ゼスでは常識に近い事を知らないことから起きた場の不信感も払拭できた。実際にそういう事例が珍しくない事も手伝って、ガルティアの正体を詮索しようという輩はいなくなった。
「いや、別に俺っちはかまわんが。それじゃ、ごっそさん。」
 皿に残っていた料理を平らげると、ガルティアはさっそくとばかりに席を立った。
「おや、もう行くのかい?」
「おうよ。早くその料理ってのを食べてみたいからな。」
 そう言い残すとガルティアは走るようなスピードで歩き去っていった。いちおう言っておくと、この酒場は前払い制なので食い逃げではない。
 次の日から、その酒場では全メニュー制覇すると無料になるというキャンペーンを始めたが、それを達成できた者は誰もいなかった。


「くっそー。ランスの奴めー。」
 志津香は、軽くなってしまった自分の財布を見て深い溜息をついた。ずっしりと重かったのは昨夜までの事。ある失敗のせいで、今後1年間の俸給が新米のヒラ兵士より安くなるといった事態になってしまったのである。それもこれも……
「ランスのせいで、もぅ! 今度会ったらただじゃ済まさないんだから!」
 ……自業自得だったんだが。ともあれ、ラガールが死んでから目標を見失ってなんとなく毎日を過ごすようになっていた志津香が、新たな目標を見つけて邁進し始めたのは事実だ。
「白色破壊光線でも駄目だとなると、普通に攻撃呪文を使っても無意味ね。……そうすると……そうだわ! 封印よ! サテラを封印寸前まで追い込んだ魔封結界なら。」
 志津香はランスを倒すための方法を本気で模索し始めた……が、
「くぅぅ。何で、結界杭の材料ってこんなに高いのよ〜!」
 本格的な魔導に使用される物品の高さと自分の財布の軽さを見比べて志津香は泣きたくなった。自分の薄給では結界杭一本でさえ給料半年分に相当するのだ。魔封結界では、それが4本も要るのだ。
 志津香の前途は多難であった。それは、もう、思いっきり。


「マリス。」
「なんですか? ランス王。」
「JAPANをよこせ。」
「よこせ……とはどういう意味でございますか?」
「JAPANの土地・住民・それにサドの金山の権利に至るまで俺様の個人的な財産に移管しろって言ってるんだ。」
「リーザスのみならず、JAPANや自由都市もリーザス王室の財産です。つまり、現在のままでも王の財産……という事でよろしいのでは?」
「いや、駄目だ。俺様が個人的に所有している財産に移管するよう公文書を作ってもらおう。いいな。」
 この遣り取りが判らない方へ……マリスはJAPANの所有権はリアが妻である限り安泰なのだから別に手続きの必要がないと牽制しているが、ランスはそれとは関係無くJAPANの統治権が欲しいと言っているのだ。ただ……
「駄目だと言うならリアを離縁した上、JAPANは力尽くで制圧する事にするぞ。それで構わんか?」
 とまで言われては是非もない。元々、今回の交渉では前回の交渉時の影響もあってマリスの方が立場が弱いのだ。この状況でランスの要求を突っぱねるのは不可能に近かった。
「わかりました。手続きが完了するのは明日の夕刻になりますが、かまいませんか?」
 マリスのせめてもの抵抗である。リアがランスに相手してもらえる時間を増やす為の。
「おう、いいぞ。」
 取り引きは成立した。
 五十六は自分の部下であるJAPAN弓兵団をまとめて帰国、見当かなみはその補佐を担当する事に決まった。
 RC1年11月8日、リーザスの占領下にあったJAPANは、魔王に平和裏に譲渡されたのであった。
 

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 うあ、書き上がり早っ。やっぱり健太郎くんが出て来ると作品の締まりが違うぜっ。筆速が通常の3倍に(笑)。でも、危険過ぎてうかつに出せない(笑)。
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