鬼畜魔王ランス伝

   第5話 「女王様の最後」

 リーザス城を出たランス一行は、サイゼルの道案内でケイブリスの人間界派遣部隊のアジトへ向かっていた。さすがにノースやスケールなどといった街は青軍や白軍で防備を固めていたが、ランスが街を迂回するのが分ると戦闘は手控えられた。
 特に、ノースの守備隊と挟み撃ちにしようとして攻撃をかけたラファリア将軍の部隊が一瞬で消滅させられ、将軍本人も半殺しにされたのが知られてからは、自分たちの方から仕掛けてはならないとの指示が徹底して実行された(彼女自身が“王の女”のひとりでなければ殺されていただろう……とか、ランスに選ばれて傍に侍るアールコートを見て逆上した……だの、という噂も併せて流れたのだが……)。
 そんな訳で、ランス軍はたいした妨害にも会わずにリーザスとヘルマンの国境となっている急峻な山脈の中腹にあるカミーラ達の隠れ家へと1昼夜で到着した。
 カミーラの隠れ家である瀟洒な山荘は、元は貴族の別荘だったのか、洗練された雰囲気があった。同行してきた連中を周囲の森に潜ませて、そこにずかずかと正面から入って行くランス。
「な、何ですか!? あなたは! 無礼にもほどがあります!」
 激高しているのはラインコック。美少女の外見を持つ美少年のカミーラの使徒。ノックどころか声もかけずに入って来たランスを咎めているのだ。
「どけ、オカマ。俺様は美女に用があるんだ。それに先に無礼を働いたのはてめえらの方だ。」
 とりあおうともせず、屋敷の奥……カミーラの寝室の方へ向かおうとするランスの行く手を阻むように移動すると、ラインコックは人生最大の間違いをしでかした。
「氷の矢!!」
 そう、わずか経験レベル4程度の実力で覚醒している魔王……本来はカミーラの主たる実力と位階を持つ者に挑むという愚行を。ラインコックがその愚行を自覚した表情をしていれば多少は結果は違ったかもしれないが、彼の目では……ランスは隙だらけの不遜で無礼な男にしか見えなかったのだ。結果、シィルを抜き放ちざまに斬り付けた逆袈裟掛けの一撃で、氷の矢ごとラインコックは真っ二つにされた。
「うるさいわね…ラインコ…!!」
 気だるげに文句を言いに来たカミーラの目が、寝起きの気だるさを吹き飛ばし瞋恚に燃えた。視線に実際に力があるなら相手を焼き殺してしまえるほどの怒りに満ちている。
「貴様っ!!」
「おっと、怒るな。そいつが仕掛けてきたんだ。実力差にも気付かずにな……。」
「…………」
「で、本題だ。俺様の女になるか部下になれ。」
「断る! たとえ、貴様が魔王だとしても。私の身体も心も貴様なんぞに渡すものか!」
「ほう。さすがに魔人四天王ともなれば鋭いな。そう……俺様が魔王だ。」
「では、何故私が絶対服従しない! 貴様も紛い物か! あの小娘のように!」
「俺様の意志だ。従う気もない操り人形なんぞ部下に使う気はないってこった。」
「そうか……。」
「部下にならんなら、せいぜい俺様を楽しませろ!!」
 シィルを袈裟掛けに打ち込むランスに対し、カミーラは全身の力を抜いた。
〈ズシャ〉
 ランスの一撃は肩口から心臓部まで入った。
「くっ……貴様を楽しませてなるか……」
「それで、あっさり斬られたってか……なかなかの抵抗だ。楽しかったぞ。」
「くっ……くそっ。」
 カミーラは絶命した。顔に悔しそうな表情を浮かべて。
 身体が風化して消え去った後に残された魔血魂には、カミーラの自我は残されていなかった。
「ふむ、なかなかの実力だ……おまけにいい女だったんだが……もったいない。」
 結局、ランスはカミーラの魔血魂を初期化して取り込んだ後、腹癒せに山荘を吹き飛ばした。食料として貯め込まれていた少年たちが多数犠牲になったが、当然ランスが気にするような事はなかった。
「ぬう。カミーラが使えないとなると……駒が足りんな。マリアもアールコートも魔術師系の魔人だし……。」
 そう、マリアもアールコートも魔法の才能を大幅に伸ばしていた。マリアの魔法技能は2に、アールコートにいたっては3レベルにまで達していた。経験レベルも大幅に上がったため、ゼスの魔法使いでも怖くない……才能を獲得していた。が、所詮は才能だけなので肝心の呪文を覚えないと役に立たないのも確かだったりする。つまりは、即戦力とは言い難いのである。それでも、並みの兵士千人より役に立つが。厳密に言えばマリアにはチューリップがあるし、アールコートは元々剣を使えるので言うほど厳しい状況ではない。
「う〜、前で戦えて、即戦力で、…おまけに影働きが出来れば言う事なしか……そんな都合のいいやつ……そうか!」
 ランスはポンと手を打つと、ソレの名を呼んだ。
「出でよ、フェリス。」
 その呼び声に従って、大鎌を持ち緑の服を着た黒い肌で蝙蝠の翼を持つ女性型悪魔…ランスに契約支配されている悪魔フェリスが現れた。
「何の用。こっちも忙しいんだから、さっさと用件言って。」
「あいかわらず態度がでかいな。そうだな、今回の用件だが……おい、お前俺様の下僕…魔人になる気はないか?」
「はあ? 魔人!?」
「そうだ、魔人だ。魔人になれば悪魔としての階級に縛られなくなるし、魔力だって上がるぞ、どうだ?」
「どうだって言われても……急な話だし。」
「がははははは。今まで通り下っ端のパシリでいたくなければ、さっさと俺様の質問に答えるんだな。」
「その前にこっちから質問だ。お前は何のために魔王になった。」
「ふっ、そんなの決まってる。俺様が真の最強になるためだ。それには、あの白くじら…ルドラサウムも邪魔だって事が魔王になってから分かったがな。」
「いい返事だ、わかった。いいだろう(この契約者の下僕に移籍しても上司は責めないだろう……この答えならば)。」
 状況を考えて情状酌量で無罪になる確信を得ると、フェリスは魔人化を受け入れた。
 数分後、フェリスは新たな魔人となった。
「力は総合的に上がってるだろうが……今までとの大きな違いは、お前はフェリスであってフェリスではなくなったって事だ。だから、今までのように真の名前や悪魔としての階級ではお前を拘束できないって事だ。」
「はい、マスター。」
「あと、お前は油断ならんから、お前は俺様に絶対服従するように設定しておいた。」
「はい、マスター。ありがとうございます。」
 天使も悪魔も上位者に絶対服従するモノであるので、うかつに完全自由意志を持たせると存在意義を見失って精神崩壊するのであるが、これはそうしなかった事に対する礼である。無論、そんな事はランスには判らないのであるが。
「…ん、変な奴だな。まあいい、さっそく任務だ。俺様が手に入れてない魔血魂を全部持って来い。……おっと、そうそう。魔人として活動してるのは除外していいぞ。」
「はい、マスター。」
 フェリスが姿を消した。元々悪魔である彼女は隠密行動に長けているのだ。
「さ…て。状況も一段落したから、キサラちゃんも魔人にしてやるぞ。」
「はい、お願いします。」
 ランスはキサラの首筋に牙を突き立て“血”を注ぎ込んだ。これにて、ランス直属の魔人は8名となったのである。

 その魔王軍というにはささやかな100体ほどの集団を、隠れて監視している1団がいる。ミリ、ミル、それに、見当かなみの3名であった。彼女らの任務は隠密での魔王ランスの動向調査である。だが、不幸にして……
「よお、こんなとこで何してる? 俺様の躰が忘れられなかったか? がははは。」
 当の尾行相手にあっさりと見つかってしまったのだった。
「なに言ってるのよ馬鹿ランス!」
 隠密行動に慣れてない二人はともかく、別の位置に潜んでたかなみが真っ先に見つけられた(推定)のだ。本職であるだけに、とても恥ずかしい。ついでに言うと、ランスが服を脱がせてくるのも恥ずかしい……服?! そこで、かなみは我に帰るがランスのハイパー兵器は止まらない。
「おい、お前らも参加するか?」
「おう、ちょっとは腕上げたか?」
「ランスぅ〜」
 豪快に笑いながら出て来るのはミリ・ヨークス。性技にかけては女ランスと称される程の強者である。ランスの背中にしがみついて泣いているのがミル・ヨークス。凄腕の幻獣使いで文字通り1人で1軍に相当する。本来は11歳の子供なのだが、“成長の泉”の効力で大人の姿をしている。実際は正面から抱きつきたい所なのだろうが、そこにはハイパー兵器で串刺しにされたかなみが抱き抱えられている。
「おう、二人ともちょっと待ってろ。」
 そう言うとランスは激しく腰を動かした。ほどなく、失神したかなみの体内に白濁液が吐き出された。そこで、ようやっと2人に向き直る。……かなみは抱えたままだが。
「ふぅ。で、何の用だ?」
「こっちを呼んだのはあんただろうに……」
「いや、リーザス城から付いてくるもんだから気になってな。」
「う……」
 そのあたりからバレてたとは……。二人とも二の句を継げなくなった。
「まあ、いい。がははは。良ければこっちこんか?」
 かなみを持ったまま言うランス。どうやら“お持ち帰り”するらしい。
「うん、行く!」
 即答したのは、ミル。
「あたしは……やめとく。妹をよろしくな。」
 断ったのは、ミリ。
「え〜、行こうよミリ姉ちゃん。」
「雇い主ってもんがあるから、そういう訳にもいかねぇし…帰ったらウハウハだしな。」
 ミリは森の奥へ消えて……行こうとしたが戻ってくる。
「すまんが、一夜の宿を借りるぞ。」
「がははは、焚き火と毛布しかないが……な。」
 さすがの女傑と云えど、徹夜で強行軍した日に夜の山で単独行動する愚を悟ったようである。まあ、こんな森の中で離れて監視任務を続けるのは無謀というものであろう。
「で、なんで声かけてくれなかったの? ランス。」
「う〜ん、何でだろうな。まあ、それは……何でだろ。」
「ん、も〜う。何でよランスぅ。」
「がははは、多分……ミリに悪いって思ったのかもな。」
「う〜……。」
「じゃあ、保護者の許可も出た事だし……来るか?」
「うん。」
 二つ返事である。もしかしたらリーザス城を出た時……いや、その前から決めていたのかもしれない。姉の恩人でもある“初めて”の相手についていく事を。


 見当かなみは生涯でも屈指の珍しい目覚め方をした。男と添い寝していたのである。しかも、腕枕付きで。
「あれ……ランス……あたし…どうして……」
 身体を起こすと妙に寒々しい。夜明け前の山の寒さもあるが、さっきまで味わってた人肌の温もり……を失ったのがキツイのだろう。
「んあっ……っしょい…。寒いじゃないかかなみ。」
「え、あ、ごめん。」
 そう、かなみが身体を起こしたせいでランスの身体にかかってた毛布も一緒に捲れ上がっているのだ。毛布をかけ直して出て行こうとすると……
「まあ、寝てけ。」
 と言って抱き抱えられて身動きできなくされた。なんか、湯たんぽ兼抱き枕みたいな格好である。
『こういうのも……悪くないかな……』
 朝まで……そう、朝までなら。そう、自分に言い訳すると逞しい胸に顔を埋めた。リーザス城では出来なかった贅沢を目一杯に味わうため。 
 翌朝、かなみはランスの“上”で目覚め、赤面する事になる。


「そうか。」
 リアからの手紙をかなみから受け取ったランスは、それだけ言った。
「ちょっと、それだけ?」
「そうだ。どうせ、マリスの差し金だろ?」
「う……」
「……まあ、いい。がははは。リーザスが健闘すれば考えてやる……と伝えとけ。」
「(マリス様の予想通りの答えね)わかったわ。」
「さて、俺様はちょっと先に行く。お前らは後から来い。」
 お馴染みの緑の鎧を装着し、腰に魔剣シィルを提げランスは立ち上がった。
「来い…って、ちょっとランス、どこに行けばいいの?」
「パラパラ砦だ。そこの、北の平原。」
「わかったわ。」
 その返事を受け取ると、ランスは高速飛行魔法で南へ飛び去ったのだった。


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 うーん。カミーラファンの方ごめんなさいですね。でも、今回のSSでは魔人は魔王に絶対服従ではないので、カミーラが部下になるって方向へは行きにくいですね。
 ちなみにラインコックの「氷の矢」は氷の属性を持つ指輪の魔力を起動したものだという、どうでもいい裏設定があります(笑)。
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