警告!!
 
       この物語には 読者に不快感を与える要素が含まれています!
         読んで気分を害された方は、直ちに撤退してください!
 
 
 
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・宗教・学問等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退してください。
 
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
 
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
 
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・微弱電波・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます。
以上の属性に拒絶反応が出る方は、お読みにならないことをお勧めします。
 
作品中に 所々寒いギャグが含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご勘弁ください。
 
 
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様 きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
 
 

 
 
 
 
                 『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その11』
 
 
 
 
 
 
俺の名は与渡大輔。17歳。つい最近ハーレム持ちになった高校二年生。
なんでまたハーレムを持つことになったかと言うと、目の前にいる全身黒タイツ姿の怪人が原因だ。
 
「貴様の家庭環境の方が要因として大きいと思うぞ。支配者よ」
 
五月蝿い黙れこのヘボ悪魔め。
 
 
悪魔とゆうのは比喩ではない。俺の目の前にいるアメコミヒーロー体型野郎は、魔界からやって来た本物の悪魔なのだ。
まあ 出会ってから一時間もしないうちに、ど素人だった俺に完全支配されちまった間抜けだけどな。
 
 
しかし、なんでまたお前が目の前にいるんだ? サタえもん。
ここはいったい何処なんだ?
確か俺は放課後の保健室で、朔夜に添い寝して貰って寝てる筈なんだが。
 
今、俺とサタえもんが居る場所は、上下左右も広さも分からない真っ暗な空間だ。
暗闇の中に浮いている俺の周りに、14〜5枚の液晶画面じみた板がふわふわと漂っている。
サイズはそれぞれ30インチぐらいか。電源は入っているようだが、灰色の画面には何も映っていない。
 
朔夜とゆうのは、俺の幼馴染‥とゆうにはちと付き合いが浅い町村医院の末っ子、町村朔夜のことだ。
なかなかの美人で、かなりの変人で、そして俺のことを熱烈に想い続けてくれている、可愛い奴なのじゃよ。
 
まあ、余りの熱烈さにちょっぴし退いてしまう事もあるけどな。とゆうか今日の今日まで盛大に退いていたのだが。
 
 
 
「貴様の悩みを解決してやろうと思ってな」
 
悩み?
 
「同衾している娘について、踏ん切り付かなくて困っていたのではないのか? 支配者よ」
 
む、むう。確かに朔夜を俺のハーレムに入れるべきか否か、そして入れるとしたらどう口説けば良いのか迷っていたが‥
 
「だから貴様の夢に出て、決心の材料になる記憶を見せてやることにしたのだ」
 
夢? なるほど、これは夢か。
 
「そうだ。ただし俺と貴様が同時に見ている夢だがな」
 
 
 
サタえもんが手招きすると、浮いてる画面の一つが俺の方に寄って来た。よく見ると画面の枠に『朔夜』と書かれた札が貼ってある。
一体何なんだ、これは?
 
「貴様の記憶を各人ごとに客観化して編集したものだ」
 
要は朔夜に関する俺の思い出か。
ふうむ。そういえば朔夜がいつから俺のことを「ハニー」と呼び始めたのか、微妙に気になっていたりするんだよな。
 
 
「では、異存も無いようなので始めるとするか」
 
まあそんな訳で、映画風に編集した俺の記憶を観ることになったのだが‥ 
俺ってこんな奴だったっけ? 
編集偏ってやしないか? まさか、T○Sじゃあるまいし台詞の改竄とかしてないよな、サタえもん?
 
 
 
 
 
『朔夜』と書いた札がついている画面に映っているのは、夕暮れ時の土手だ。ふむ、我が母校である小学校の裏手にある土手だな。懐かしの風景だ。
 
画面の中で 土手の芝生に座っている小学生と思しきガキんちょ‥俺だよなあこの顔は‥は、隣で泣いている娘さんに宥めているんだか口説いてるんだか分からない台詞を並べたてている。
 
間違い。
 
隣で泣いてるのは朔夜だ。小学五年生の。
一瞬見間違えてしまったが無理も無い。俺が記憶していた朔夜より遥かに大きいからなあ。
そういや、朔夜はこの時点でもう母さんより背が高かったんだよな。
顔立ちも大人びているから、赤いランドセル背負ってなければ中学生どころか高校生に間違えられかねない。とゆうかよく間違えられてた。
当時の俺にとっては、朔夜が大きいのは当たり前だからそれ自体は特に意識してないのだろうな。うん。
 
で、まあ小学生の俺は「あいつらの言うことなんか気にするな」とか「さくやはかわいいぞ」とか「もし売れのこったら、俺がさくやをもらってやるから」とか、歯の浮くような発言連打してますよ‥ あははははっ
 
説得は言葉だけではない。まだ泣いてる朔夜の肩を抱いて、頭をかいぐりかいぐり撫で回したりしている。
おーい その手は由香以外の女の子には通じないと思うぞ、六年前の俺よ。
ほら、泣き止まないだろ  ‥って、このガキゃあ口付けまで敢行しやがりましたよ! 頬に、だけど。
 
むう。なんだか小学生の癖に凄くラブラブではないか。傍から見てると泣き虫のおねえさんを慰める弟分とゆう感じだが。
いや、これは子供ならではの無邪気なスキンシップだな。この当時の俺はまだ性に目覚めていないし。
 
 
記憶の再編集とやらは、なんとゆうか懐かしいと言えば懐かしいが、改めて見ると色々と発見があるな。
今なら解る。当時、朔夜を虐めていた糞餓鬼どものなかには、朔夜のことが好きな奴も居たんだろう。
だがそいつ等は、朔夜への興味や関心を好意としてでなく、暴力としてのみ伝えていたのだ。
ど畜生どもめ ‥今でも名前も顔も憶えてるぞ。 
あー 思い出したら無性に腹立ってきた。
 
まぁ、過ぎたことだがな。既に報復も倍返しで済ませたし。
 
 
 
 
その後 ようやく泣き止んだ朔夜を元気付けるつもりなのか、小学生の俺は二人で『秘密基地』に向かった。
ガキの頃憧れなかったか? 秘密基地。俺は何度か造ったことがある。
 
今映っているのが最後に造ったやつだな。「さくやにだけ教えてやるからな。由香もまだ知らないんだぞ」などと小学生の俺が偉そうに案内してます。
 
いや、ほら、あれだ。当時小学二年生な妹が秘密を守れる訳がないじゃろ? 
だから教えてなかったのじゃよ。存在がバレてしまえば、それはもう秘密基地ではなくなるからな。
まあ、うちの親のことだから、全部分かっていたのかもしれんが。
 
 
でもって 当時町の山際に建っていた、廃屋の二歩ぐらい手前な小さな家‥爺さんの持ち家の一つだ‥の一室を改造した『秘密基地』で、小学生の俺と朔夜は逢引を繰り返しております。
うむ。頭の中身もお子様だった俺はともかく、朔夜からすれば逢引以外の何物でもないよなあ、これは。
 
『秘密基地』の中で、小学生の俺と朔夜は禁じられた遊びをやり倒していた。
放任主義気味な我が家と違って町村家は厳しかったから、朔夜は見たい映画もなかなか見れなかったんだよな。まあ、俺の家でもゲーム機はご法度だったが。
我が家にご家庭用ゲーム機が入ったのは、俺が中学に上がってからなのだ。
 
 
ううむ、懐かしいのう。対戦格闘にアクションRPGにレースゲーム‥格安で手に入れた旧世代のゲーム機とゲームソフトを持ち込んで、二人で遊びまくったよなあ。 
って、今考えると盗電のよーな気がするな‥ まあ良いか、爺さんなら笑って許してくれるだろう。
 
あー 思い出した。朔夜が俺のことを「ハニー」と呼ぶのは、この『秘密基地』で見た映画のせいだな。
粗大ゴミの日に拾ってきた型落ちのテレビと再生デッキで、何回も繰り返し見た小学生時分に大好きだった映画。
そのヒロインが、劇中で主人公をハニーと呼んでいたのだ。いや、今でも好きだけどな。映画も女優も。
 
入院する前までの朔夜は 顔の半分を隠す長髪 とゆう髪形だったのだが‥考えてみると、映画のヒロインと同じ髪型ですな。印象違いすぎて今まで気付かなかったが。
 
 
 
しかし 傍目からはラブラブ状態なんだが、本人にはその気が無いな。これは。
朔夜はともかく、小学生の俺には女の子と付き合っているとゆう自覚がないようだ。
 
「うむ。恐らくは借金娘のケース(事例)と同様の心理的ブレーキが掛かっているのだろう」
 
ん? 借金娘って 関西系商人(あきんど)娘こと、名城綾子のことか?
 
「そうだ。支配者よ、貴様はあの娘に手を出せないだろうが」
 
 
そりゃあ、なあ。今の名城を俺が口説いたら、借金を盾に交際を強要しているよーなものではないか。誰が見たってそう思うだろう。
サタえもんとしては 朔夜の場合も似たような要素がある と言いたいのか。
 
 
 
町村朔夜は虐められっ子だった。
そして、虐められっ子ってのは大概そうなんだが‥家庭内でも孤立していた。
町村先生‥若先生(朔夜の兄貴)はともかく大先生(朔夜の父親)の方は、末っ子に関心が薄かった。まあ、元々大先生は医者として、公人としては立派な人だが、親としては評価できない人だからなぁ。
 
正直な話、父さん‥実は腐れ外道だった俺の父の方が親としてはまだマシだろう。仮面とはいえ、子供の前では良い親を演じきっていたのだから。
しかも朔夜の母親は、更に輪を掛けた酷い親でなぁ‥
人様の家庭をとやかく言いたくないが、当時の俺に今の力が有り、事情を知っていたなら只では済まさんところだ。
 
 
朔夜の姉や兄が居るうちはまだ良かったんだが、姉の朧(おぼろ)さんが嫁に行き、兄の輝明(てるあき)さん‥つまり若先生が医大に入ってしまうと、朔夜の家庭環境は針のムシロ状態になってしまった。
 
勿論、当時の俺にそんな事情が解る訳も無かった。 
俺は上京する若先生に「妹を宜しく頼む」と言われただけだからなあ。
若先生の言葉に、兄とゆうよりは妹持ちとしての共感を覚えた俺は朔夜に構うようになり‥虐めっ子どもへの反感もあって、朔夜を護ることにしたじゃよ。
 
要は 当時の朔夜は家にも学校にも居場所がなく、心身ともに追い詰められていた とゆうことだ。
そんな子供に‥身体はともかく、朔夜の心はまだ小学生だったんだ‥優しく接していれば、簡単に陥落させれただろう。
 
だからこそ 当時の俺は朔夜を女として見なさず、友達として接していた と、黒タイツの怪人は言うのだ。
 
 
確かに、病気の時とかに優しく看病して貰えると嬉しいからなぁ。
相手が弱っているときに付け込むのが兵法の基本ではあるが‥ 色恋でそれをやっちゃいかんだろ。余りにもアンフェアだ。
 
何? 魔界アイテムを使うのはアンフェアではないのか って?
俺にとっては全く問題ない。
『妹コントローラー』は由香と結ばれる切っ掛けになったし、『幸せ回路』は死人に囚われていた美香を救ってくれた。
そして悪魔に伝授された治療術とゆうか治療術と連動して目覚めた霊触能力は、朔夜との溝を埋めてくれた。
天地神明に‥ いや地獄の魔王でも構わんが、誓ってやましいものは無い。うむ。
 
 
 
ふうむ。
朔夜が俺を好いてくれる理由は、なんとなく解った。
 
つまりは朔夜にとって、俺が異性(とゆうか男)としての基準になっちまったんだな。
小学生の交友範囲なんて狭いものじゃからのー。
ごく限られたサンプルの中身がことごとく悪性の代物だったから、たった一つ紛れ込んでいた普通株の評価が天井知らずに上がっていった訳か。
 
 
 
しかし、腑に落ちんな。
ここまで親しかったのに、何故疎遠になってしまったのだろう? 小学生時分の朔夜と俺は、今の虎美と俺よりも仲が良い関係に思えるのだが。
 
 
うーむ、若先生が帰ってきて町村家の家庭環境が良くなったのも、朔夜との縁が薄れた原因なのかな? 家に居場所が出来たわけだし。
いや、それだけでは説明が付かん。
俺と朔夜の間に、一体何が有ったのだろうか。
喧嘩したとかなら、少しは記憶に残っていそうなものじゃがのう。
 
サタえもん、お前はどう思う?
 
 
「離れた理由よりも、まずは接近した理由を考えるべきだと思うぞ」
 
なんだって?
 
「支配者よ。幼馴染と言うにはちと付き合いが短い筈の娘と、何故に親しくなったか‥その理由に心当たりはないか?」
 
むむむむ?
若先生に頼まれたから、朔夜に構うようになったのだが?
 
「立場が逆なら、貴様は妹と殆ど接点のない若先生とやらに妹の世話を頼むか? ん?」
 
 
むう。 既に付き合いがあったから、若先生は俺に朔夜の面倒を見るように頼んだ とゆうことか。
 
サタえもん。ちょっと画面巻き戻してくれないか。
 
 
 
ふむふむ‥ 
 
朔夜と親しくなった時期は、丁度沙希ねぇとの距離が離れた時期と一致しているのか。
 
 
 
 
 
俺と親しい‥とゆうか幼馴染的時間を共有している女の子と言えば、何と言っても沙希ねぇだな。あと由香も。
特に沙希ねぇとは、互いに物心つく前から仲良しこよし、寝るのも一緒お風呂も一緒。文字通り寝食を共にした仲だ。
 
由香が生まれた前後の記憶はあるが、沙希ねぇと初めて会ったときの記憶は、俺には無い。
気付いたら側にいた。俺と沙希ねぇはそんな関係なのだ。
 
俺を含む一家が本家を出て今住んでいる家に引っ越してからも、俺たち三人の仲は変わらなかった。
長い長い、体感時間でなら今の一年間にも匹敵するほど長かった幼児期の夏休みに、飽きることなく繰り返したおままごと。
ごっこ遊びとはいえ 何回式を挙げ、誓いを交わし、唇を合わせたことか。
 
実を言うと俺のファースト・キスの相手は沙希ねぇなのだ。勿論沙希ねぇにとっても俺が初めての相手‥の筈だ。多分。
 
 
 
べったべったに仲の良い従姉弟だった俺たち二人の距離が離れた理由は、皮肉なことに沙希ねぇが丈夫になったからだ。
 
明日をも知れない‥とまではいかなくとも、一年後も生きているかどうかは誰も保証できないような病弱さんだった沙希ねぇだが、10年前の大手術を境に少しずつ元気になっていった。
元気になれば学校にも休まず通えるし、遊びに行ける範囲も広がる。
家事もスポーツも娯楽も、今までは無理だった事が出来るようになるのじゃよ。
 
で、その結果として 才気溢れる本家の総領娘と健康だけが取り得の俺とでは、段々とスケジュールが合わなくなってきたのだ。
 
当時、沙希ねぇの周りはとんでもない勢いで動いていた。
沙希ねぇ本人も、病弱で外出も満足に出来なかった今までの鬱憤を晴らすかのように動き回っていた。
思えば あの頃の観劇体験が、沙希ねぇが演劇にはまり込む切っ掛けになったのだろーなー。
それまで刺激の薄い生活を過ごしていたからなあ。
 
 
 
つまりは ずっと一緒だった従姉との距離が離れて、寂びしん坊状態になった俺が見つけ出したのが、他者の助けを必要としていた女の子。虐められっ子の朔夜だった。とゆう訳だ。
 
六年前の俺は朔夜を慰めてたんじゃない。俺が朔夜に慰めて貰っていたんだ。
 
 
 
それからしばらくすると、沙希ねぇの周りも少し落ち着いてきて、俺は沙希ねぇと一緒に道場に通うようになった。
佳夜原道場の跡取り娘であるポニーテールが良く似合う爽やか美少女剣士、佳夜原くぬぎさんと出会ったのも丁度この頃だな。
俺の活動及び交友範囲が広がるにつれて、段々と朔夜と過ごす時間は短くなっていった。
 
決定的なのは、あの一年間だ。
 
由香との秘密の遊びを始めたのが四年前の春で、秋に父さんが死んで、事態が落ち着いたのが三年前の春。
そう。あの年は、前半は由香との愛欲に溺れた日々、後半は父さんの死とそれを乗り越えるまでの苦難の日々、と忙しかった。だから朔夜との接点は、どんどん細くなっていったのだ。
 
一年余りも付き合いが薄れていたら、距離が出来て当然じゃのう‥
 
 
 
もしかして俺‥罪人確定?
気落ちしている女の子に優しくしといて、その後は放りっぱなしだもんなあ。 
 
完全に放置していた訳ではないのだが‥ ある意味完全放置より質が悪い。
と言うのも 画面の中の俺はその後も朔夜が困っている度に、呼んでもないのに現れては節介やいているのじゃよ。
縁は薄くなっているが、切れた訳ではない。未練が残るよなぁ、これは。
 
 
例えば一年ほど前に 朔夜が懐に携帯している注射器と薬剤を使ってご町内の犬猫を薬殺して回っている とゆう噂が流れたときは、噂の発生源とついでにその黒幕の陰謀を叩き潰した。
 
‥まぁ、実際に潰したのは沙希ねぇだけどな。
黒幕や背後の事情について話すと長くなるので大幅に省略すると、大手暴力団と関係が深い隣町の某病院が、商売敵である町村医院の評判を落とす為に流した噂だったのだ。
 
余談だが、噂には根っこの一欠けらぐらいは無いことも無い。朔夜が無報酬の無免許獣医やってるのは本当じゃからのう。
流石にこの事件の後は、朔夜が街中を白衣翻して歩くことはなくなった。獣医の真似事は今でも続けているらしいが。
 
 
二年ほど前に 日曜の昼間に中学校の理科準備室で火事が起きて 理科室準備室の主と化していた朔夜の責任にされそうになったときは、中学の校長に圧力を掛けて処分を遅らせた。
 
こっちは沙希ねぇの力は借りてない。
いや、校長に「朔夜を処分するのは良いけど、後で無実だったことが分かったりした日には、貴方に幸せな老後なんてものは有りませんよ」とゆう意味の言葉を言っただけじゃがのー。
与渡一族の力を取引の材料に使ったのであって、俺の実力ではないな。
 
因みに火事の原因は、消防署の調べで 何処かの馬鹿が捨てた大判のアルミ箔が、風に吹かれて日曜の昼間に学校までやって来て、偶々落ちた位置と地形が悪くて反射鏡となり、理科準備室の天井を焼いた とゆう事故だと判明した。
 
 
しかし、我ながらどうしてこうも毎回々々絶妙のタイミングで出てくるのだろうか? 画面の中の俺は。
ニュータ○プでもあるまいに、不自然なまでに都合が良いではないか。
 
 
「記憶の範囲内では第三者の干渉は認められん。そうゆう巡り会わせなのだろう」
 
偶然 とゆうことか。
 
「違う。運命だ」
 
好きにほざいてろ。ヘボ悪魔め。
 
 
 
 
 
さてと 念のためにもう一度巻き戻して、最初から見直してみますかね。
 
‥成る程な。やはり朔夜が不気味さん化したから疎遠になったのではなく、疎遠になってから不気味さん化が始まったのか。
多分、とゆうかほぼ間違いなく、朔夜が不気味さんになったのは俺のせいなんだろうなあ。
 
 
 
 
 
「攻撃力51/防御力38/感知力17」 これが魔界アイテムで測った、朔夜の大雑把な魔力だ。
トータルで見ればかなり高いが‥感知力、つまり「知る能力」が極端に低い。
言い換えれば朔夜は鈍いのだ。
朔夜は鈍くなったのだ。
鈍くなければ、無関心とゆう最悪の悪意に耐えきれなかっただろう。
 
 
仕事人間の父親に半ば以上忘れ去られ、虐待癖のある母親に苛まされ、崩壊した家庭から姉は逃げ出し、兄には見捨てられた。
事実はどうあれ、朔夜はそう受け取ってしまったのだ。
 
こんなことを言いたくは無いが、若先生が(おそらくは別の辛さの余りに)朔夜と良く話し合わなかったのが原因だよな。
七年前の春、若先生が上京するときに「必ず帰ってくる」とでも約束していれば、この事態は防げた筈だ。
まぁ その場合、町村家の長男と次女が『仲の良すぎる兄妹』になっていた可能性もあるがな。
 
やはり会話は大事じゃのう。言葉で通じないものもいっぱいあるけど、話さなければ伝わるものも伝わらんからのー。
 
 
 
 
話を戻そう。
朔夜の親は両方共に酷い人だったが、その代わりに朧さんと若先生‥ちなみに下の名は輝明とゆう‥が居た。
居たが、一時的とはいえ、六‥いや七年前の時点で居なくなってしまった。
精神的には両親にも等しかった姉と兄を失って、当時の朔夜は闇夜の山奥に放置されたような心境だったのだろう。
そんな朔夜に、止めを刺してしまったのだ。俺は。
 
朔夜が思い込みの激しい女になってしまったのは、俺のせいだ。
一途な、いや、痛い女になってしまったのは、俺のせいだ。
 
俺は 孤独な環境にある女の子を、利用するだけ利用して用がなくなったら放り出してしまったのだから。
‥いや放り出したくせに、その後も僅かな希望を、一片の木っ端のような希望を与え続けたから、朔夜は俺を諦めることが出来なくなった。
 
だから、朔夜は俺に退かれていることに気付かない、痛い女になったのだ。
 
 
 
恐ろしい想像がある。
 
朔夜の奇行、悪趣味な行動の数々は、俺に疎まれる為にやっていたのではないだろうか?
朔夜の無意識は、俺に嫌われるもっともな理由を欲しがっていたのではないだろうか?
 
嫌がられて当然の人間になってしまえば、好かれていなくても不思議ではない。誰もが納得する。本人の無意識も、諦めがつく。
 
あとは朔夜の表層意識が疎まれていることに気付かなければ、無意識が気付かない振りをすれば、幸せに過ごせる。
決して思いが届くことが無い相手なら、安心して尽くすことが出来る。なにしろ振られる心配が無いのだから。
 
それだけで‥ 鈍くて一途で悪趣味な、痛い女になるだけで、世界は朔夜にとって楽園になる。
最早孤独はない。朔夜の心の中で、理想化された最高の恋人が微笑んでいるのだから。
 
その幻想は安泰だ。
2月14日に漢方薬(両生類の黒焼き)を送りつけるような痛い奴だ ‥とゆう理由なら、俺と朔夜の縁は切れない。
実害ゼロの、ちょっと痛い女に好かれているだけなら、あえて何か行動に出るよーな積極性なんぞ持ちあわせて無いからな、俺は。
 
朔夜には 温和で誠実で有能な医者(のタマゴ) とゆう、充分以上のプラス要素も有るから尚更だ。
 
 
 
以上は サタえもんが俺の記憶を元に導き出した、限りなく真実に近いであろう推論だ。畜生。
 
 
 
 
 
自分を善人だと思った事など無いが、流石にこれは酷すぎる。
鬼畜・外道・変態・風見鶏とかはともかく、薄情とか冷血とか自由自在に可変な身内意識(所謂ウリナム回路)搭載とかの、ヒトモドキな属性は欲しくない。
 
これは何かの間違いだ。
間違いは速やかに修正されねばならんのだ。
 
ただ 何をどう修正すれば良いのか分からないのが困るんだよな。
どーしたもんかいのう‥
 
 
「支配者よ。妹の時も、同じ様なことを言ってなかったか?」
 
む? そういや由香との吸った揉んだの告白騒動のとき、同じ部屋に居たよな お前。
 
あのときは、由香と話し合ううちに 二人を取り巻く環境にあわせて愛を育むのではなく、愛を貫くために世界を変えるべき とゆう結論に達した訳だが。
 
 
ああ そうか。
 
何も難しく考える必要無い。俺が朔夜を受け入れれば良いのだ。
朔夜の望むものを全て与え、朔夜の心を幸せで満たしてやれば良いのだ。
朔夜が胸に抱いている理想の恋人像と、俺の実態とが重なって一体化してしまえば、幻想は現実になる。
触れた相手の心が読める『霊触』能力、そして魔界アイテム(プラス悪魔一匹分)の力があれば、朔夜の望みを知ることもかなえることも不可能ではない。
 
 
良し。それで行こう。
ちょっぴし痛い女の妄想など、丸ごと俺の中に取り込んでくれるわっ
 
「その意気だ。支配者よ」
 
うむ。駄目なときは援護を頼むぞ、サタえもん。 
 
「上手くいかない時は、コイツで『望み』の方を変えてしまうのも手だな」
 
‥いや、『幸せ回路』はまだ出さなくて良いから。それは最後の手段だ。
って言うか、俺の手腕に全く期待してやがりませんねこの野郎。
 
 
 
 
 
良し。では現実世界に帰還   する前に一つ聞いておきたいのだが‥
 
「何だ?」
 
もう、居ないよな? 朔夜だけだよな?
 
只の顔見知りだと思っていたら実は‥とか、只の女友達だと思っていたら実は‥とか、サプライズな展開はもう無いよな?
 
「この場合、不意打ちとゆうより自業自得ではないか、支配者よ。貴様の選択的記憶がそもそもの原因だからな」
 
言葉の綾だ気にするな。
 
で 大丈夫なんだよな? 俺の人生には、もうフラグとゆうか火種が燻っている人間関係はないよな?
『気が付いたら信管不良の対車輌地雷を枕にしてた』よーな、危うい人間関係はもうないよな?
具体的に言うと 我が心の友であり世界で一番眼鏡が似合うであろう女子高生、九条虎美さんに「与渡くんを殺してあたしも死ぬー!」とか言われて刺されたりとか ‥しないよな?
 
お前なら分かるんだろ? 俺の心が読めるんだから。 
 
 
「無い と言いたいところなんだが‥ 貴様の記憶は部分的に封じられている。よって断言は出来ん」
 
封印? 誰が何のために?
 
「貴様が自分自身で封じている」
 
と 言って黒タイツ悪魔が指差す灰色画面の枠には、『沙希』と名札が貼ってあった。
 
「見てみるか? 貴様なら封を外せるぞ」
 
 
むむむむむ、沙希ねぇとのイベントか‥
何があったのか大いに気になるが、ダイジェストで流しても全部見るのに一昼夜は掛かりそうじゃのう。
とりあえず 虎美に刺される可能性が無いことは判ったから、それで良しとしとくか。
 
我ながらヘタレ街道まっしぐらじゃのう、俺。
 
 
 
 
 
 
そんなわけで、真っ暗闇のなかで筋肉ダルマな悪魔と向かい合うとゆう むさ苦しい夢から目覚めた俺の目に飛び込んできたものは‥
光溢れる保健室の、白いシーツに覆われたベットの上で、セミヌードのまま添い寝をしてくれている女子高生の寝顔 とゆう嬉しさ爆発の代物でした。
 
うーむ、流石に寝てるときは無防備とゆうか、歳相応の顔をしておるのう。
 
と、寝顔を鑑賞している場合ではない。
おーい朔夜、起きてくれー。起きないとほっぺプニプニしちゃうぞー。
 
 
「‥おはよう、ハニー」
 
うむ。おはよう。
 
起きた早々何だが‥朔夜、俺と付き合ってくれ!
 
「うん良いよ。何処まで行く? ツーリングには最高の季節だよね」
 
おう。お前の足の怪我も治ったことだし、慣らし運転がてら岬まで‥ って違う! 自動二輪の話じゃねえ!
 
「違うの?」
 
お約束のボケをかましやがって‥このお茶目さんめ。 
いや、待てよ? 『痛い娘さん』モードの朔夜にとっては、俺らは既に付き合うとゆうか交際しているようなものな訳か。
 
こうゆう場合どう言えば良いのかのー  『俺の女になれ』とかか? なんか違うよなぁ。
 
拙い、早くなんとかしなくては。サタえもんが『幸せ回路』を取り出して、これ見よがしに翳してやがる。
畜生、にやにや笑うんじゃねえこのヘボ悪魔め。
 
 
えーとえーと‥ ええい、馬鹿がいくら考えても同じことだ! 「停まるな。間違いでも良いから何か行動しろ」と砂漠の狐も言っているではないかっ!
 
 
朔夜、一緒に町村医院に行こう。若先生に会わねば!
 
「うん。元々退院の手続きとか必要だから、僕は一旦病院に帰らなきゃいけないんだ。‥でも、兄さんに何か用なのかい ハニー?」
 
うむ。大事な用事があるのだ。
 
 
 
と、ゆうわけで とっとと保健室を出ることにしたのだが‥
あのー 朔夜さん。非常に言い難いのですが
 
「なんだい?」
 
そう言って振り向いた朔夜のスカートには、尻の部分にくっきりと染みが出来ていた。
 
 
 
 
 
まあ、アレだ。どうやら朔夜は、本人が思っていたよりも濡れ易い体質だったようだ。
仮眠前の軽い愛撫で、スカートに染みが出来るぐらいだからな。
 
その朔夜なんだが‥ 事態を悟ってから五秒でオーバーヒートしてしまった。
色白の顔を真っ赤に染めて眩暈を起こしている朔夜を、再びベッドに座らせて団扇で扇いでやる。
 
うーむ。由香や母さん相手だと直ぐに脱がしてしまうから気付かなかったが、服着たまま愛撫を続けるとこうゆう問題が起きるのだな。これからは気を付けることにしよう。
 
 
「‥どうしよう、ハニー」
 
お、復帰したか。
 
うーむ、お前のロッカーはカラッポだろうし、かといって俺の半ズボンなんぞ穿こうものなら要らぬ詮索を招くだけだ。
何かでスカートの尻部分を隠しながら歩くのは危険が高いし、洗って乾かすと時間が掛かり過ぎる。
お前に予備のスカートを貸してくれそうな女子といえば、演劇部の皆さんだろうが‥
 
「こんなの皆に見られたら、死んじゃうかも‥」
 
台詞の割には表情とか嬉しそうですね、目元なんかまだ赤いし。
ふむ。要は演劇部の皆さんに見られたくないんだろ? 
 
ならば手はある。お姫様抱っこだ!
 
 
朔夜のあんよに、割ったギプスを付けて包帯を巻きなおして、と。あとは抱っこするだけで、怪我人の女生徒を抱えて運ぶナイスガイの出来上がりだ。
これなら恥ずかしい染みだけでなく、怪我が治ったことも隠しておける。我ながら良い思いつきじゃのう。
 
 
「えーと‥僕が死んじゃうかもしれないのは、同じ様な気が」
 
などと言いつつも、俺の首にしっかりと腕をまわしてしがみついている朔夜を抱え、保健室を出る。
心配するな、朔夜。何が起きようと俺が守ってやるから。
 
 
おっと『結界鈴』を回収しとかないとな。サタえもん、取って来い。
 
 
 
鍋を気にしているサタえもんと保健室の前で分かれて、その後は体育館横の舞台上を覗ける窓から、演劇部の皆さんの様子を伺う。
ふむ。今日は朔夜と名城を除く全員が集まっているのか。タイプは違えど、美少女が七人も固まって居ると壮観じゃのう。
 
あまり長居すると気付かれるかもしれん。ここらで動くとしよう。
演劇部の様子を見て、朔夜も学校に来た目的を一応果たして満足している事だし。
 
 
嬉し恥かし状態な朔夜を抱えたまま、裏門を出てタクシーを拾う。「町村医院まで」と行き先を告げると、運転手が露骨に嫌そうな顔をした。なにせ、学校から1キロちょっとしか離れてないからのー。
この運転手は顔見知りだから、乗車拒否される心配は無い。つーか、与渡家の人間を乗車拒否して無事に済む運転手なんぞ、この街には居ないけどな。
 
運ちゃんの不機嫌は着いた先で「帰りも使うから、待っててくれ。メーター回してて良いから」と言うまでしか続かなかった。
うむ、懐が暖かいって良いなぁ。
 
 
さて、着替えたがっている朔夜を病室に戻して‥ と。
 
 
「朔夜! 何処に行ってたんだ?」
 
あ、捜す前に向こうから来ちゃったよ若先生。手間が省けた。
若先生‥輝明さんは兄妹だけあって朔夜に似ている。つまり背が高くて色白で整った顔立ちなのだ。朔夜ほどではないが秀才でスポーツ万能。これで腕も性格も悪くないのだから人気が出るのも当然だよなあ。
 
「ちょっと学校まで、ね」
 
「何がちょっと、だ。骨も癒着しないうちから出歩く馬鹿が何処に居る! せめて車椅子を使え!」
 
言われてみればその通りだな。昨夜は「車椅子が空いてなかったんだ」などと答えてるが‥ 察するに外出しようとして止められたから、こっそり出たんだろうな。
一応の筋は通すが、それ以上の駆け引きとか交渉とかしない奴だからな、朔夜は。
スペックはやたら高いくせに、なんとも不器用な女なのだ。いや、スペックが高いからこそ‥なのか?
 
 
と。若先生、説教の最中に済みませんが、少しばかり時間良いですか?
 
「ああ、兄さん。ハニーが何か用事があるそうだよ」
 
そうです。大事な話があるんですよ。
 
「急を要する話なのかい? ‥仕方ないな」
 
若先生は意外にあっさりと説教を中止して、病院の応接室へと案内してくれた。滅多に見ない俺の真面目顔に、用件の重さを理解してくれたらしい。
手早くスカートと上着を替えて荷物(といっても服が手提げ袋に二つと本が数冊だが)を纏めた朔夜を、車椅子に乗せて押してやる。
朔夜は何か言いたそうなのだが、その唇に人差し指を当てて黙らせる。お前は怪我人ってことになっているんだから、大人しくしてなさい。
 
 
で 応接室に通され、三人だけになったところで早速用件を切り出す。
若先生‥いや輝明さん、朔夜を俺にください!
 
「‥何の話だい?」
 
いやそのまんまな話ですが。朔夜を貰っていくことに決めましたので、一応輝明さんには報告しておこうかと。
 
 
「貰う ってどうゆう意味なんだい? ハニー」
 
一緒に暮らそう、朔夜。まだ式も挙げれないし籍も入れれないけど、近い将来できるようにするからさ。
具体的に言うと六年後を目処に。
 
 
「‥ハニー。それじゃまるでプロポーズの台詞だよ」
 
プロポーズ? うむ、確かに。
朔夜、お前が欲しい。俺のものになってくれ。
 
 
などと朔夜の手を取って口説き始めた俺に
 
「‥大輔君。そうゆうことは此処に来る前に済ませて欲しいんだが」
 
流石に若先生も呆れている。
むう。確かに順序デタラメかもしれんな、俺。
 
朔夜の反応は‥ おや? もう一つ乗り気でないようですね。
 
 
「その、ハニーの気持ちは嬉しいけど一緒に住むのは‥」
 
嫌なのか? 違うよな。何か気になる事でもあるのか?
 
「やっぱり、そうゆうことは家族の承諾を得てからでないと」
 
ん? ウチの方は大丈夫だぞ。由香も母さんも、つれて来るのがお前なら文句ないって。ノープロブレムじゃよ。
 
‥言っちゃ何だが、俺はあの女をお前の母親と認めてないからな。大先生も五十歩百歩だ。この俺がお前の身内とゆうか肉親と認めるのは、朧さんと輝明さんだけだ。
 
 
と ゆうわけで若先生、話戻しますが朔夜をください。
 
「猫の子でもあるまいし、はいそうですか とはやれんよ。第一に、与渡の本家はどうなんだい? 大輔君や美香さんが納得しているとしても、本家が認めるとは到底思えないが」
 
本家‥とゆうか婆様と沙希ねぇは、俺が責任持って説得します。
 
「できると思うのかい。そんなことが」
 
出来ますとも。今の俺ならね。
 
 
そう、軟弱な坊やだった五日前の俺ならともかく、今なら大概の事が出来る自信がある。
魔力に目覚めたからではなく、魔界アイテムを手に入れたからでもなく、勿論へっぽこな悪魔を支配下に置いてあるからでもない。
由香と美香が‥絶対の信頼がおける、『真実の愛』で結ばれた二人の奴隷妻が、側背を守ってくれているからだ。
 
そして、朔夜にも同じ様に、傍にいて欲しいのだ。この不器用で口下手で変な趣味の女の子に。
 
断言できる。俺は朔夜が欲しい。
義務感とか罪悪感ではなく、本当に朔夜が、朔夜本人が欲しいんだ。
 
 
朔夜、ずっと俺の傍に居てくれ。今度もまた、俺の為に髪を伸ばしてくれ。
そして、セーターでも何にでも良いから織り込んで編んでくれ。俺の為に。
 
お前の髪が入った編物、大事にするから‥ 俺が死んだら棺桶に入れてもらうから、お前は俺より先に死ぬなよ。
剥製とか要らないぞ。形とか材質以前の問題だ。
お前の遺品なんか要らないからな。俺を置いて死んだりしたら、無理矢理にでも生き返らせてやるぞ。分かったか? 
 
そう言うと 朔夜はぽろぽろと涙を零し出しながら、泣き始めてしまった。
 
 
「‥ごめん、ごめんようハニー」
 
我ながら勝手な事言っているよな、俺。
などと思いつつ、泣いている朔夜の顔を予備のハンカチで拭いてやる。
 
 
「分かったよ。もう二度と言わないから。‥頑張ってハニーより、一日でも長生きするから」
 
と俺のハンカチを握り締め、朔夜は泣きじゃくっている。
むう。なんか口説くたびに相手を泣かせているよーな気がする。‥気のせいかな?
 
 
まだ泣いている朔夜の顎を軽く上向かせて、唇を重ねる。俺にできる精一杯の優しさを込めて。
唇を合わせたまま、朔夜が目蓋を閉じた。頬につたう涙が熱い。
俺は唇を合わせたときから目を瞑ったままだが、それでも分かる。キスしている相手の事ぐらい、魔力に頼るまでもなく解る。
 
女の子の涙を止める方法と言うと、これぐらいしか思いつかない。由香と沙希ねぇにはこれで効いたんだが‥ 良し、朔夜にも効いたようだ。
 
 
どこぞの機械化人間じゃあるまいし、俺には人間の剥製を愛でる趣味は無い。だって、人間の剥製って気持ち悪いじゃないか。毛皮が無いから縫い目ごまかせないし。
とゆうか剥製自体が俺の美意識に合わない。生き物の美しい姿を残したいのなら、絵か写真か或いは彫刻にでもして保存すれば良かろうに。
まあ、俺は昆虫採集とかトロフィー集め的な趣味を持っていないからのー 虫とか生き物を観察するのは好きだけど。
 
かつての「剥製にして飾って云々」とゆう朔夜の発言に退いてたのは、そーゆー美意識上の問題もあるのだが‥ それ以上に、朔夜が『俺より先に死ぬこと』を前提にして疑わない事が嫌だったのだ。
幸い、朔夜もそのことを理解してくれたらしい。
 
 
俺は朔夜を抱きしめて、口付けを続ける。唇を合わせたままだから、言葉に出せない想いを込めて。そう、ありったけの想いを。
 
朔夜、ずっとずっと傍にいてくれ。俺を置いて行ったりするな。
 
 
 
 
 
「うおっほん」
 
わざとらしい咳払いに、抱き合ったまま口付けを続けていた俺は、朔夜から慌てて離れた。
いかんいかん、そういや居たんだよな輝明さん。もう少しでディープキスに移るところだった。
 
「‥もっと」
 
喜びに蕩け切った目付きで、俺を抱き寄せながら続きをおねだりしてくる朔夜に「後で幾らでもしてやるから」と耳打ちして とりあえず離れて貰う。
 
 
 
えーと まあ、こんな訳で朔夜から承諾貰いました。後は輝明さんだけです。
 
「一つ訊いておきたい。大輔君、君は何処まで知っている?」
 
何をですか?
 
「与渡家についてだよ」
 
俺の戸籍が弄られてる事とか、与渡家が只の戦後成金じゃない事とか、俺が18歳になった日に与渡家の三代目当主が決まる事とかは知ってますよ。
与渡家関係者が、俺を当主にしたい派・沙希ねぇを当主にしたい派・俺と沙希ねぇの夫婦を当主にしたい派・俺を始末したい派とかに分かれて暗闘繰り広げている事も。
 
 
若先生は暫くの間、俺の瞳の奥を覗き込むかのように見詰めていたが、やがて目を逸らし
 
「そうか。 分かった、妹のことを宜しく頼むよ」
 
と言って、溜息と共に肩を落とした。
 
むう。なんか諦めムードとゆうか疲労感たっぷりですな。‥無理もないか。可愛い妹が他所の男に持っていかれちゃうんだもんなあ。心中お察しします。
ま、俺が輝明さんの立場だったら妹泥棒の命はないがな。「妹さんをください」と、言い終わらないうちに捻り殺してやるわい。
 
 
任せてください、輝明さん。必ず、貴方の妹を『幸せ』にしてみせます。
 
これも嘘じゃない。嘘は一欠けらも入ってない。
『ハーレムの一員として』とゆう前半部分を省略しているだけだ。
いや、だって、その 仕様がないじゃろー。
今更由香たちと別れる訳にもいかないし、かと言って朔夜を諦める訳にもいかん。
とゆうか他の野郎に朔夜を渡す気など無い。これっぽっちもない。有ってたまるか。
 
若先生が真相を知ったら怒るだろうが、その時はその時。なんとでもなるわい。
何とかならない場合は、魔界アイテムの餌食になって貰うだけだ。
 
‥‥どこまで鬼畜なんだよ、俺。
 
 
 
「大輔君、せっかくだから一発殴らせてくれないかな?」
 
なにが「せっかくだから」なのか不明ですが、どうぞ。気持ちは分かるし。
と、ちょっと待った! 拳は拙いでしょう。手を痛めたりした日には患者の皆さんが困りますよ。ここは一つ、蹴りにしといては?
 
「そうかい? では遠慮なく」
 
 
 
 
えー 我が義兄の蹴りはなかなかに強烈でした。もう少しで膝をつくところだった。
『怪力腕輪』で腹筋固めてなければ間違いなく倒れていただろう。そういや輝明さん、大学では拳法部に所属していたと聞いたことが‥。子供の頃から整体とセットで武道やってる人だからなぁ。
 
 
 
と ゆうわけで無事、親族の承諾も得た。
 
ついでに若先生に朔夜の退院手続きを頼んでおくか。費用は後日請求して貰おう。
では、家に帰るとしますかね。
 
「車椅子を忘れているよ。足が治ったことを、まだ隠しておきたいんじゃないのかい?」
 
 
おおっと。これはミステイク。
朔夜‥お前もギプス填めた足で平然と歩くなよ。
 
あー そうか。今になって気付いたが朔夜の奴、泣き始めたころから立ったまんまだ‥
完全に折れてる筈なのに、平気で立って歩いてるんだもんなあ。注意して見ればギプスも割れてることが分かるし。
 
成る程。妙にあっさり納得してくれたと思ったら、そうゆうことか。
僅か数時間のうちに骨折が治っているとゆう、この超常現象から若先生は俺の身に起きた変化を察してくれたのか。
若先生‥輝明さんは与渡家関係者の中でも期待の逸材なのだ。与渡家の裏事情について、かなりの所まで知っていても不思議ではない。
 
 
ふむ。輝明さんが事情を承知の上で、味方‥とまでいかなくても中立を守ってくれるなら、大いにありがたい。なんせ、朔夜が医師免許を取るにはあと何年もかかるからな。ハーレムには腕の良い医師が必要なのだ。
朔夜を俺に委ねてくれたとゆうことは、少なくとも俺を敵に回すつもりはないとゆうことだろう。
 
気を取り直して、もう一度。
今度は朔夜を車椅子に乗っけて、廊下に出る。それじゃ、近いうちに正式に挨拶に来ますから。
 
車椅子をロビー前に返して、そこからは来たときと同じく病院の駐車場で待っているタクシーまで抱っこして運ぶ。
あれ? 運転手さん、メーター回しといて良いって言わなかった?
え、サービスしとくって? 悪いねぇ。
うむ。次頼む時は、もそっと長い距離を乗ることにしよう。
当然だが、町村医院から俺の家までも大した距離ではないのだ。
 
 
 
 
 
タクシーが俺の家に着くと、もう夕暮れ前だった。隣近所のうち何軒かからは、早くも台所から香ばしい匂いが漏れはじめている。
 
むう。思わず腹が減ってくるわい。今日の御飯はなんだろなっ と♪
 
あ、家に連絡入れるの忘れていた。いくら母さんでも朔夜の分は用意してないよなぁ。
いやまあ、何も言ってないのに朔夜の分も作ってたりしたら怖すぎるけど。朔夜の茶碗とかが当たり前のように出て来ても困る。
ま、良いか。一人前ぐらいなんとでもなるわい。
 
 
朔夜を抱っこしたまま、玄関の扉を開けて入る。『怪力腕輪』万歳だ。
 
ただいま〜
 
「‥お邪魔します」
 
待てい。何を駄目のダメダメな発言してやがりますか。
邪魔とはなんだ邪魔とは。朔夜、いつお前が邪魔者になったと言うのだ。お前はもう俺のものなんだろ? てことは、此処はもうお前の家なんだよ。
さあ、自分の家に入って言う言葉は?
 
「た、ただいま‥」
 
よく言えました。ご褒美に額にキスしてやろう。むちゅっとな。
 
抱きかかえたまま靴脱いで上がり口に上がり、朔夜の足からギプスを外す。これも魔界アイテムで筋力上げているからこそ出来る芸だ。
 
 
 
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
 
外したギプスを下駄箱の上に置いたところで、由香が迎えに出て来た。リビングからではなく、寝室の方からだ。続いて母さんも出てくる。はて? 二人して寝室の掃除でもしていたのかのう。
 
そう緊張するな、朔夜。とって食われたりしないから。‥多分。
 
 
「そ‥その、ハニー、そろそろ降ろして欲しいんだけど」
 
まだ駄目だ。抱きかかえて家に入ったからには、花嫁を寝室まで運ぶ義務がある。
 
「はなよめ‥って、朔夜ちゃんのこと?」
 
うむ。そのとおりだ。
 
「そう。大輔は朔夜ちゃんをお嫁さんにすることにしたのね」
 
うん。えーと‥念のために訊くけど、二人とも異存はないよね?
 
「ないよー。朔夜ちゃんなら歓迎しちゃうよ」
 
「ええ。朔夜ちゃんがうちの娘になってくれるなら、母さん反対する訳ないわ」
 
それは良かった。
ううむ、予想以上にあっさり通ったな。市子さんのときはあれだけ騒いだのに。
まあ、当日まで存在も知らなかった押し掛け許妾と、日頃から世話になっている幼馴染に近いおねいさんとでは、待遇が違って当然じゃがのー。
 
 
で、この場合花嫁を運ぶのは‥
 
「お兄ちゃんの部屋じゃない?」
 
やっぱそっちだろうなあ。んでは、二階に行くとしますかね。
 
「あ、あのー ハニー? これはどうゆうことなんだい?」
 
どうもこうもあるか。花嫁を新婚家庭のベッドまで運んで、そこに降ろすのが決まり事だろうに。元は西洋のまじないと言うか儀式らしいが、朔夜も知ってるだろ? あの映画にも出てたし。
 
一緒に階段を上がった由香が開けてくれた自室の扉を潜り、中に入ってベッドに朔夜を下ろす。はい、到着〜♪
 
「じゃ ごゆっくり〜」
 
その様子を見届けた由香は、笑いながら扉を閉めた。
 
う、うーむ、ここまで屈託がないとかえって気になるのう。
少しは妬いたり騒いだり覗いたりして欲しい気もするが‥ってまさか前みたいにカメラとか仕掛けてないだろーな。
 
どうやら無いようだ。少なくともビデオカメラは回っていない。
 
 
 
 
「ここがハニーの部屋かぁ‥ 男の子の部屋 って感じだね」
 
朔夜は物珍しそうに俺の部屋を見渡している。
まあ、部屋の隅に転がしてる鉄アレイとか壁に貼ってある岩石顔なサッカー選手のポスターとか、男らしいと言えば男らしいアイテム満載されておるのじゃよ、俺の部屋は。
 
 
しばらく取り留めのない会話を続けていた俺と朔夜だが‥やがてぷっつりと話題が尽きてしまった。とゆうか、互いに意識しているからなあ。言葉もつなぎ難いのじゃよ。
 
まあ良い。好き合う男女が二人っきりでベッドの縁に腰掛けているこの状況で、必要な言葉はそう多くない。
 
キスしよう。朔夜。
 
 
 
 
人の顔や声がそれぞれ違うように、乳とか尻とかの触り心地もそれぞれだ。当然ながら唇や舌の感触も唾液の味も、女の子ごとに異なる。
 
はい。只今俺はディープキスの最中です。朔夜の口を蹂躙しまくってます。
ちょっと固めで、弾力に富んだ女子高生の舌の感触も良いけど、それ以上にこの初々しさが堪らない。
考えてみれば、口付けの経験が浅い娘さんをテクニックで圧倒するのは初めてなんだよな、俺。母さんに敵う訳ないし、由香とはほぼ互角だ。
まあ、由香は感度良すぎるから俺とキス・テクの応酬してると、途中で攻めてるんだか自爆してるんだか分からない状態になって降参しちゃうんだけどな。
 
そういや、キスだけじゃないや。経験のない女の子を相手にするのは、朔夜が初めてだよ。
由香とは、お互い経験値ゼロ状態から始めた仲だからなあ。初体験のときには、もう完全に開発済みだったし。
まあ、ディープキスするのは朔夜で三人目だから当然だが。
 
 
さぁ〜て保健室の続きと行きますかね。今度こそスカート下要塞線を抜いてみせよう。
 
軽いキスを続けながら、朔夜の服を脱がせていく。
 
「‥待ってくれないか、ハニー」
 
スカートの中に伸ばそうとした手を がし と掴まれてしまいました。ううむ、只の突撃では無策に過ぎたか。
ええと、嫌がってる訳じゃない‥よな? うん。恥かしがっているけど、俺とのえっちが嫌なわけではないようだ。
 
しかし凄い握力だ。そういや朔夜は、腕相撲でならくぬぎさんにだって勝てるんだよなあ‥。
 
「自分で脱ぐから、向こう向いてて」
 
は、はい。分かりました。
直立不動で起立して、壁の一点を凝視する俺の耳に微かな衣擦れの音が届く。
 
「もう良いよ」
 
お許しの言葉を受けた俺が期待を込めて振り向くと
そこには全裸の朔夜が はにかみながら立っていた。
 
 
ううむ。思ったとおり良い身体だなぁ。
由香の妖精のよーな青いボディも、母さんの程よく熟した女の身体も良いが‥女子高生ならではの張りのある肉体もまた、堪らない魅力が溢れている。
なんといっても、大柄な身体と伸びきった手足のボリューム(量感)とバランス(均整)が良い感じだ。
これだけはロリータ体型な我が妹や、小柄な母さんにはない魅力だな。
まあ、朔夜は見た目だけでなく抱き心地も最高なのだが。身体だけでなく、心も。
 
うむ。やはり朔夜の魅力は沙希ねぇと違うな。長身とかの似た要素は有るが、別物だ。朔夜は沙希ねぇの代用品なんかじゃない。
 
 
綺麗だよ。朔夜。
で、その、なんだ、胸に置いてある左手と股に置いてある右手をどけてくれると、嬉しいのですが‥ 駄目ですか?
 
 
常人だと気付かないかもしれないくらいに小さく頷くと、朔夜はじれったいぐらいゆっくりと手を外していく。まずは左手、次は右手。隠されていた魅惑の部分が、徐々に曝されていく。
 
大き過ぎず小さ過ぎず、程よい大きさで形も申し分なしのお椀型な胸。
白い肌に桜色の取り合わせは由香と同じだけど、サイズはやや大きめ‥とゆうより広めな乳首。
小さな可愛いお臍。細く引き締まった胴回りと、豊かな将来性を感じさせる腰周り。
更にその下の股間では、胸の先よりやや濃い色合いの肉の渓谷と、それを半ば隠している恥丘の茂みのセットが‥そして肉の合わせ目から太腿の内側に伝うぬるぬるの液体が、俺を誘惑している。
 
 
くうぅ〜 もう我慢できない。したくもない。
見た目も、匂いも、声も、魅力的過ぎる。
 
俺は思わず朔夜に飛びついて、ベッドに押し倒してしまった。「きゃっ」とか悲鳴を上げる朔夜に覆い被さり、スポンジよりも柔らかいくせにゴム毬よりも弾力のある胸を揉みしだく。
いい 凄く良い。女の子の胸より触り心地の良いものなんて、ちょっと思いつかない。
 
 
 
俺が愛読とゆうか色々と参考にしている物の本によると、女の子‥成長期が終わる前の娘さんの胸は、触られると痛いものらしい。
個人差はあるが成熟していない胸とゆうものは、触られることによる快感よりも痛みの方が強いことが少なくないのだそうな。
 
 
実は朔夜の胸も、揉みしだかれて痛みを感じているのだが、朔夜の表情が苦痛で歪んだりはしない。
俺は胸を揉む際に掌から魔力を放出して痛みを中和し、細胞と組織を修復し、更に小規模な改造まで行っているからだ。ヒーリング能力の応用だ。
痛みとは所詮神経電流に過ぎん。誤魔化すのはそれほど難しくない。
 
うむ、また一つ魔力に目覚めたぞ。治療することは壊すことと表裏一体。治療魔法を応用すれば、人体のリフォーム(改築)も可能なのだ。
 
あー もう揉むだけじゃあ満足できない。
舐めて しゃぶって 吸い付いて ‥むにむにな食感と乾いた汗の味の取り合わせが堪らん。
う〜む、ちょっと苦味とゆうかエグ味のある汗なのが残念だ。痛みによる冷汗が混じっているせいかな?
 
「ハニーったら 赤ちゃんみたいだよ‥」
 
おいおい、こんなアグレッシブな乳幼児がどこに居るか。そーれ、むちゅむちゅっ とな。
 
「‥ぁんっ」
 
おお、舌や唇からでも魔力を放出できるのか。指や掌からとはまた違う効果がありそうだ。
 
 
 
乳房を支える胸付近の筋肉を強化して、垂れないようにして と。乳腺の発達と脂肪層の美しい配列が両立した、見た目も実用度も完璧な乳を目指そう。
ふむ、感度を上げるにはどうすれば良いのかな? ただ単に神経の伝達物質を増量するだけだと痛覚過多になってしまうし‥ 俺が触ったときだけ増えるようにすれば良いのかな? 
まあ良い、感度は保留しとこう。
 
そう、俺は朔夜の胸を改造しているのだ。
朔夜の乳房を、十代後半の張りと弾力を保ったまま触られても揉まれても大丈夫な‥いや、胸への刺激だけで逝ってしまえるえっちな乳に変えてみたい。変えてやりたい。変えてやろう。
そこまでするには最低でも半年ぐらい掛かるだろうが、じっくりやれば不可能ではない。
 
 
 
「見違える程の進歩だな。素質だけは大したものだ」
 
ん? 呼んでもないのに何しに来やがりましたかこのヘボ悪魔。
 
「ふっ コレが要るのではないかと思ってな」
 
むう。『避妊指輪』か。確かにそれが必要な頃合だ。初えっちで妊娠させてしまう訳にもいかんからな。本当は妊娠させたいけど。
胸への愛撫兼マッサージを中止して、黒タイツ悪魔が差し出す黄金製呪い付き指輪を受け取る。
 
 
朔夜、安物で悪いが受け取ってくれ。
 
まあ、素っ気無いデザインの、大して高価でもなさそうな指輪でも拒否される心配はない。朔夜は俺からの贈り物なら、たとえ釣り針一本でも喜んで受け取ってくれる奴なのだ。
 
 
さて、朔夜の左薬指に『避妊指輪』も嵌ったことだし、いよいよ本格的な愛撫に移りますか。俺も服を脱いで、と。
 
‥おい、帰っていいぞサタえもん。とゆうか帰れ。それとも何か、人間の交尾見て楽しいのかお前は?
 
 
「一応警告しておくが、もうすぐ貴様の妹が上がってくるぞ、支配者よ。心構えだけでもしておくことだ」
 
‥へ? 由香が? 何故に?!
 
 
「おまたせー すぐにベッドメークす‥」
 
勢い良く扉を開けて、白い大きな枕と新品らしいシーツを抱えて俺の部屋に入ってきた我が愛しの妹は、ベッドの上で絡み合う全裸の朔夜とパンツ一丁の俺とを見て、固まってしまった。
 
 
 
 
 
糊が効いてそうな畳まれたシーツとフリル付きカバーに包まれた大きな枕を抱えて、戸口で立ち尽くす妹。
股を濡らし、色白の肌を上気させて俺にしがみ付く、全裸の美少女。
その美少女を抱きしめて、固まっている俺。ベッドと床には脱ぎ散らかされた服と下着が散乱している。
 
なんか、前にもこんな状況があったよーな気が。デジャ・ビュー(既視感)じゃないよな?
 
 
「 お に い ち ゃ ん 」
 
ああ、怒っている。由香が怒っている。でも前のがセントヘレンズ火山噴火級なら、今度のは精々昭和新山レベルだ。その心は『下手すると死人が出かねない』。ハリセンボンが出たりはしないけど。
 
 
「ま、待ってくれないか由香ち」
 
何か言おうとする朔夜を片手で制し、妹は長くてフリルがいっぱい付いた枕をもう片方の手で持ち上げて ぽく と、ど突いてきた。俺の頭に枕を何度も何度も振り下ろす。
 
ぽく ぽく ぽく ぽく
 
「お兄ちゃん、がっつきすぎ!」
 
あーうー 仕方がないんじゃよー。我慢できなかった、とゆうか我慢しようとも思わなかったんじゃよー。
 
などと弁解する俺を10回ほど殴って、妹は枕を放り投げた。
むう。思ったより怒りのマグニチュードは低かったようだ。震度で言えば精々2ぐらいだろう。
朔夜も 小姑ととの確執 とかのドロドロとした展開にならずに済んで安心したらしく、胸を撫で下ろしている。
 
 
「もー せっかく朔夜ちゃんの為に可愛い枕えらんできてあげたのにー」
 
成る程。妬いてるとゆうよりは、俺と朔夜に仕掛けようとしていた『ベッドメークと二人用枕でセクハラ攻撃』が不発に終わったから、ご機嫌斜めな訳ですか妹よ。
俺と朔夜の前で 俺のベッドを綺麗にベッドメークしたり、二人用枕置いたり、ティシュやローションや避妊具とかを枕元に並べたりして 朔夜を赤面させたいとかそうゆうことを考えていた訳ですね、妹よ。
ま、不発に終わっても、朔夜の赤面だけは見れているけどな。
 
 
「ち、違うよー。それもあるけど、それだけじゃないよう」
 
分かってるよ。つまりは順序飛ばしすぎだって言いたいんだろう? 由香。
 
 
「あらあら、もう始めちゃったの? せっかちねえ二人とも」
 
母さんも来ましたか。手に持っているのは、朔夜の荷物‥紙袋二つですか。
そう言えば、タクシーの運ちゃんが玄関先まで運んでくれたんだっけ。忘れてた。
 
て、朔夜。俺の後ろに隠れるなよ。
ん? なんだ、母さんに裸見られるのが恥かしいのか。なら、由香が持ってきたシーツを巻き付けて と。
 
 
「気持ちは解るけど、朔夜ちゃんは病院から直行で来たのよね? 御床入りは、せめてお風呂に入ってからにしなさい」
 
むう。確かに。
入院生活で、朔夜の肌も微妙に垢じみているからな。俺は気にならないけど、朔夜は困るだろうなぁ。少々趣味が悪いとはいえ、れっきとした女の子なんだし。
 
分かりました。それでは一緒に風呂入ろうか、朔夜。今度は全身を洗ってやるから。
 
「だぁ〜め。兄よめの背中をながしてあげるのは、妹のとっけんなの!」
 
と嬉しそうに宣言して、由香は朔夜の手を引いて出て行った。
むう。なんとゆう強引さ。この押しの強さは天性のものだなぁ。
 
 
それにしても、朔夜を嫁にすることに全く反対してませんね、妹よ。とゆうかえらく乗り気だな。いつもの嫉妬大爆発がないのは、ほっとするような寂しいような。
 
あ、母さんが脱ぎ散らかした服を拾い集めている。俺も手伝おう。
おや? 朔夜のスカートのポケットから、小さく丸められた布切れが出て来たぞ。
広げてみると‥ なんと、薄い灰色のショーツでした。甘酸っぱい香りの粘液で染みができている。
 
これが難攻不落のスカート下要塞線をついさっきまで守っていた代物か。
‥ふむ、ちょいとくたびれてますね。全体的に色が薄くなっているし、穴は開いてないけど所々縫い目が解れ気味だし、布地も薄くなっている。
成る程のう。
妙に恥かしがっている、と思ったらそうゆうことか。朔夜め、入院生活中とはいえ、くたびれた下着を穿いていた事が恥かしかったのか。本当に可愛い奴だ。
 
 
「大輔。女の子の下着を眺めて、へらへら笑ってるんじゃありません」
 
俺の手からショーツを取り上げて叱る母さんに、素直にごめんなさいする。確かに俺、デリカシーに欠けているかも。
 
 
不意に ガチャリ とドアノブが回り、由香が入ってきた。後ろにシーツを巻きつけたままの朔夜が付いている。
妹よ 兄の部屋とはいえ、入る前にはノックぐらいしなさい。
10秒早かったらヤバかったじゃないか。
 
「‥‥何が?」
 
いや、何でもない。路上でやってたら一発で通報される行為なんてやってないぞ。‥で、どうした? 忘れ物か?
 
「うん。朔夜ちゃんの着替えをとりにきたの」
 
由香は朔夜の荷物‥紙袋の片方を手に取った。なるほど、由香や母さんの服じゃサイズ合わないもんな。浴衣ならなんとか着れるだろうが、それにしたって寸足らずもいいとこだ。
 
あれ? そういや、荷物と言えば俺の鞄どこに行ったのかな? 朔夜、俺の鞄と手提げ袋、何処に行ったか知らないか?
 
タクシーに忘れた訳じゃないし‥ いやタクシーに乗る前、保健室を出た時点で既に手ぶらだったような気がするぞ。
教室を出たときは持ってたし、和邇少年のクラスに行ったときも柔道部に行ったときも持っていた。とゆうことは‥
 
「多分、裏門の前に置いたのを誰かが拾ったんだと思うよ。僕の松葉杖と一緒に」
 
あー やっぱりか。お前抱えて保健室に走ったときに、放り出したんだな。‥朔夜、知ってたなら早く言えよ。
 
「忘れていたんだ。‥ハニーが抱っこなんかするから、そんな細かい事気にならなかったのさ」
 
そういや松葉杖回収するの忘れてたなあ。ふむ、俺たちが保健室で寝てる間に、鞄と松葉杖が拾われてしまったのか。
しかし誰が拾ったのかな? 顔見知りや教師が拾ったのなら、電話で連絡ぐらいありそうなものだが。
 
万が一にも、鞄の中身が敵の手に渡ると拙いんだよなー。
一時に比べれば減ったけど、敵が居ない訳ではないのじゃよ、俺は。他校のヤンキーどもとかな。
 
 
「その心配はないと思うよ、ハニー。場所から考えて、皆が預かっているんじゃないかな」
 
皆って、演劇部の皆さんか? ふむ、とりあえず訊いてみるか。
 
 
がし
 
床に脱ぎ捨てた制服の胸ポケットから携帯電話を取り出し、沙希ねぇの短縮ボタンを押そうとした俺の手首が、小さな手に掴まれる。
速っ なんてスピードだ。まるきり見えなかった。
 
「‥お兄ちゃん」
 
な、何かな? 妹よ。
 
「まさか、今日も沙希ちゃんの所に行ってないの?」
 
はい。行ってません。今日こそは行く、と虎美に約束してたんだが‥やっぱ行かないと拙いかなあ。
どうした? 顔色悪いぞ?
 
「今日も‥ って ハニー、まさかもう何日も演劇部に顔を出してないとか?」
 
い、いや 先週の金曜日は部室に行ったぞ、手伝いはしてないが。
お、おい朔夜、大丈夫か? 傷が痛むのか? 貧血でも起こしたか?
 
「 ‥何日、手伝いに行ってないんだい?」
 
ええと、先週の水曜日に行ったきりだから 今日行かないと五日ですかね。
 
 
「お兄ちゃん、すぐ学校行って!」
 
え? いや、しかしだなあ‥ 朔夜を放り出していく訳にもいかんじゃろ。
 
「お願いだからハニー、僕の事を思ってくれるなら皆のところに行ってよ! 一分一秒でも早く!」
 
 
 
と まあ、そんな訳で
 
俺は由香と朔夜の二人に追い立てられるよーに家を出て、演劇部の皆さんのところに急ぐ事になったのだった。
 
「ふむ。支配者よ、急ぐならこの『バネ動力自転車』を使ってみるか?」
 
五月蝿い引っ込めこのヘボ悪魔め。
 
「時速200キロは出る逸品なんだが」
 
俺を殺す気ですかこの野郎。普通の自転車で充分だ。
良し、このMTBにしておこう。これが一番速そうだ。
 
 
あー 母さん、遅くなるかもしれないから晩御飯先に食べといて。んじゃ行ってきます!
 
「車に気をつけるのよ〜」
 
 
 
 
ああもう、急いで服着たから制服のボタンがずれてるよ。畜生。
しかも下に着てるのが肌着じゃなくて色物のTシャツだから、色が透けててみっともない。
 
しかし今更帰る訳にはいかん。ペダルを踏み踏み、通学路を急ぐ。
 
由香の勘はなかなかに鋭いし、朔夜は嘘や冗談や狂言とは無縁な奴だ。
その二人があそこまで慌てているとゆうことは、俺が今すぐ演劇部の皆さんの所へ行かねばならぬ理由があるのだろう。それが何かは分からんがのー。
 
早く行かねば。沙希ねぇがいれば心配ないと思うのだが‥
逆を言えば 沙希ねぇが居ない状況なら、万一の事態もあり得る訳だ。
 

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