警告!!
 
      この物語には 読者に不快感を与える要素が含まれています!
        読んで気分を害された方は、直ちに撤退してください!
 
 
 
この物語はフィクションであり、現実に存在する全ての人物・団体・事件・民族・理念・思想・宗教・学問等とは一切関係ありません。
現実と虚構の区別がつかない人は、以下の文を読まずに直ちに撤退してください。
 
この物語は 十八歳未満の読者には不適切な表現が含まれています。何かの間違いでこの文を読んでいる十八歳未満の方は、直ちに撤退してください。
 
なお、エロス描写に関して峯田はど素人です。未熟拙劣をお許しください。
 
ジャンル的には 現代・ファンタジー・アイテム・鬼畜・微弱電波・近親・ロリ・洗脳・孕ませ・ハーレム ものではないかと思われます。
以上の属性に拒絶反応が出る方は、お読みにならないことをお勧めします。
 
作品中に 所々寒いギャグが含まれておりますが、峯田作品の仕様であります。ご勘弁ください。
 
 
この物語は T.C様 【ラグナロック】様 難でも家様 きのとはじめ氏 のご支援ご協力を受けて完成いたしました。感謝いたします。
 
 

 
 
 
 
                   『ソウルブリーダー 〜無免許版〜 その10』
 
 
 
 
ハンカチ持った。テイッシュも持った。携帯の電池も満タン、簡単サバイバルセットも使ったものを充当済み。
鞄の中身も問題なし。課題のプリントは白紙のままだが、これは1時間目の授業中にでも埋めれば良かろう。
体操服も手提げ袋に詰め込んである。水筒代わりにサタえもん調合の薬草茶を入れたペットボトル。弁当は無し。代わりに学食の食券が一綴り。
 
うむ。忘れ物はないな。
 
「いってきます のキスは?」
 
おおう。忘れておったわい。
妹に続いて、母さんの頬に‥玄関の上がり口まで見送りに来てくれているのだ‥軽く口付ける。
 
「いってらっしゃい」
 
俺と妹も、頬にお返しのキスをして貰ってから家を出る。
今日も快晴だ。今年は水不足になるかもしれんのう。
 
 
 
俺の名は与渡大輔。17歳。只今登校中の高校二年生。
一週間ぐらい前までは普通の高校生のつもりだったが、今ではかなり特殊な立場にあることを自覚している。
 
でもって隣を歩いているのが、俺の妹である与渡由香。14歳。
小学生と間違えられることもあるロリータな外見と、歳に見合わないぶっとい肝っ玉の持ち主だ。
我が妹ながら、末恐ろしいものを感じてしまう時がある。
 
 
いやまあ、普段は素直で従順で妹持ちのクラスメイトに「うちの妹と交換してくれ」と冗談の種にされてしまう奴ではあるけどな。
妹はご近所の皆様‥主婦や老人たちにもウケが良い。見た目が可愛くて愛想が良くて礼儀正しい女の子が嫌われたら、そのほうが変だが。
 
そいつらは誰も知らないだろうが、俺の妹はもの凄くえっちで、少々危険なものを感じるくらい貪欲に俺を求めてくれる、俺の恋人兼肉奴隷なのだ。
 
現に今俺の隣を歩いている妹の子宮には、30分程前に俺が注ぎ込んだ精液が充満している。
マゾっ気とゆうか被支配願望がある妹は、俺の精を胎内に溜め込んだまま登校することが夢だったのだそうだ。
俺としても毎朝空しく浪費するだけだった朝一番の欲望を、最愛の女が受け止めてくれると言うのだから断るわけがない。
泣いて喜ぶ妹を押さえつけて、思わず三回も出してしまった。
 
近い将来、由香と結婚して子供を産んで貰い、暖かな家庭を築くことが俺の目標なのだ。
とりあえず六年後を目処に独立国家、いや最低でも治外法権の土地を確保して其処に居を構え、ハーレム(後宮)を建設する予定だ。
俺個人としては特にハーレムが欲しい訳でもないのだが、由香がハーレムの女主人になりたがっているのだから仕方が無い。
 
 
ううむ。思えばこの二日で色々なことがあったなあ。
土曜の朝も同じ様に並んで登校したが、まるで違って見える。土地も風景も変わっていないから、俺の内面が変わったんだろうな。
 
右手のバックを、左手に持ち替えて鞄と一緒に持つ。
由香、手を繋いで歩こう。学校まで。
 
 
 
 
 
嫉妬の祟り神様ごめんなさい。俺は遂にバカップルに堕しました。
嗚呼、堕落するって気持ち良いなぁ。
 
俺の提案を由香が嫌がる筈もなく、俺たちは自分でも分かるくらいに仲良過ぎオーラを振りまきつつ歩いている。
さて、こんなにベタベタしていて大丈夫なのか とゆうと、これが大丈夫なんだな。
俺と由香は実の兄妹だが、法律上は従兄妹だし保護者(母さん)の許可も得ている。由香は14歳で承諾年齢だから、淫行罪も成立しない。
大体、仲の良い兄妹がお手手繋いで歩いているからといって、妙な想像する方が間違っている。うん。
 
由香と手を繋いで歩く とゆう望みはこれで達成した。とゆうことは次はデートだな。
四年に渡る鬱屈を晴らす為にも、心ゆくまでいちゃつき倒そうではないか。妹よ。
 
 
 
遊園地はどうだ水族館がなんだとデートの場所を相談するうちに、中学校前に着いた。
名残惜しいが由香とはここでお別れだ。
流石に校門前でキスは出来ないので、我慢しておこう。代わりに頭を撫で撫でしておいてやる。
 
 
 
 
 
 
さて、課題プリントの空白を埋めつつ国家建設について考えていたのだが‥
いわゆる国家とは『領土』『国民』『主権』の三点セットが揃っている団体のことだ。要は場所とそこで暮す人間とその両方を守る力が有ってこそ国家な訳だ。
王国だなんだと言えばファンタジックだが、結局はこの世に造るものだからな。
 
 
まずは行動の拠点と、志を同じくする仲間が必要だな。
主権の確立は、独立とゆうか将来建国するときで構わない。むしろ独立するまでは日本国内に間借りさせてもらった方が良いだろう。
 
拠点は当分の間我が家で良い。ちょいと無理すれば10人やそこらは暮らせるからな。
既に世帯主の母さんを仲間に引き込んでおいてあるから、面倒が無い。
 
 
あとは力だ。無理を通して道理を引っ込ませるだけの圧倒的な実力が要る。
正直言って俺は頭脳の方は平凡以下なので、どうすればそんな『力』が手に入るのか分からない。
つまり国家建設の具体的な方策は未だもって無い訳だが、朧げなイメージだけは掴めている。
戦国時代、天下を望めた大名たちには共通点がある。
財源と情報網だ。ただ単に領地が広いだけではなく、金山とか貿易港とかの恒常的にしかも自由に使える金が入る財源を持った大名でないと天下は狙えなかった。
 
結局は金だ。金さえあれば世間の揉め事の半分は片付くのじゃよ。
ただ、どうすれば儲かるかが解らないから困るんだよな。
はて? 昔話の類では悪魔と契約した者はあっとゆう間に大金持ちになっていたのだが‥
あの連中はどうやって儲けたのかのう? それともアレは悪魔の誇大広告なのだろーか。
 
「人聞きの悪いことを言ってくれるな。支配者よ」
 
おう。来たかへっぽこ悪魔。
 
 
こいつ‥風呂敷包み背負って教室の窓ガラスをすり抜けて入ってきた全身黒タイツの怪人がサタえもん。
額の角や尻から生えた刺つき尻尾を見れば分かると思うが、サタえもんは人間ではない。魔界からやってきた悪魔なのだ。
 
 
で、学校まで何しに来たんだ?
 
「薬の調合が一段落ついたのでな、貴様に新しいアイテムを渡しに来た」
 
ああ、そういや魔界から色々とアイテム持ち込んだんだよな。まだ『幸せ回路』しか使ってないけど。
期待はしていないが一応見せて貰おうか。
 
「まずはコレだ」
 
そう言って出してきたのは天眼鏡(大き目の虫眼鏡みたいなもの)だった。察するに占い系アイテムか? 手相とか。
 
「近いが違う。これは『測定レンズ』、魔力を測る道具だ」
 
相変わらずそのまんまなネーミングだな、オイ。
 
「子供向け商品だしな。解り易さ優先だ」
 
で サタえもんによるとこの『測定レンズ』なるアイテムは魔界の子供が使うペット繁殖セットの一部なのだとか。対象となる生物の魔力を計測して表示できるのだそうだ。
 
どれどれ、試しに使ってみるか。
この『測定レンズ』の良いところは隠蔽魔法が既に掛けられていることだな。
隠蔽魔法が掛けられたアイテムは俺とサタえもん、そしてかなり腕の良い魔術師や霊能者以外の者には見えないのだ。
サタえもんは何気なく語っているが、これは凄いアドバンテージじゃないのかな? 隠蔽された武器は大概の人間には見えないことになる訳だし。
ううむ、やはり魔界アイテムは侮れんのう。
 
教壇で蒸気機関車について授業から脱線気味の熱弁を振るう中年教師にピントを合わせる。ふむ、目標の選別は思念コントロールか。
 
 
なにやら凸レンズの下側三箇所に数字が出てきた。 07/08/02 か。これって高いのかそれとも低いのか?
 
「普通だな。並みの人間は二桁いけば御の字だ」
 
ふーん。なるほど、確かにクラスメイトは皆して低いなあ。
お、一人だけかなり強い魔力の持ち主が居るぞ? 39/35/28 俺の席からはもさもさな後頭部しか見えないが‥って虎美かよ。
 
クラスの全員を測ってみたが、三つとも二桁なのは虎美だけだった。
ところでサタえもん、この数字はそれぞれ何を表しているんだ?
 
「大雑把に言えば霊的な意味での 攻撃力/防御力/感知力 だな」
 
へえ。魔法の素質みたいなものか。てことは虎美の魔力は常人の4〜5倍ぐらいかな?
 
「そう考えても間違いではないな。あくまでも一般論だが、強い魔力を持つ母体の方がより強い魔力を持つ子孫を残し易い。あの娘は狙うに値する獲物だぞ。支配者よ」
 
言われんでも分かっとるわい、そんなこと。虎美は日本一の眼鏡っ娘女子校生だからな。
 
 
「‥何か質問かね?」 
 
いえ、ただ単に右手を顔の前に翳しているだけです。気にしないでください先生。
 
「紛らわしい位置に手をもってくるんじゃない」 
 
了解です。もうしませんよ先生。
 
 
神経質なのか、中年教師は授業に戻ってからもちらちらと俺の方を見ていた。一々うっとうしい奴だ。
 
 
 
 
 
まあそんなわけで今は三時間目。体育の時間だ。
グラウンドの男女や授業中の教室を『測定レンズ』で覗いて回っているが、虎美級に高い魔力の持ち主はそうそう居ないなあ。
 
実はこのレンズ、ズーム機能も付いてるのだ。
透視機能もあるらしいが、今の俺では使いこなせない。ブロック塀ならともかく、服一枚だけ透かして見るなんて器用な真似は無理だ。何ヶ月か練習すれば出来るようになるかもしれんが。
 
 
そんな訳でもう100人は見たのだが、虎美並に強い魔力の持ち主は虎美本人も入れて3人しか居なかった。しかもそのうち一人は百合恵だし、もう一人は男だ。
ま、悪魔に気に入られる程の魔力の持ち主がそうそう居るわけもないか。
 
 
サタえもんはと言うと、俺に幾つかアイテムを渡したあとはどこかに行ってしまった。
 
「ふー 終わったぞ」
 
あ、帰ってきやがった。何処に行ってたんだよ。
 
「うむ。校内と隣の中学校の更衣室や部室に覗き用アイテムを仕掛けて回って来たのだ。支配者よ。その『測定レンズ』で覗けるように調整しておいたぞ」
 
暑苦しい笑顔を浮かべて親指を立てる腐れ悪魔の顔面に、俺の左ストレートが炸裂する。勿論『怪力腕輪』を使って、だ。
 
 
 
 
あー 痛え。これは手首痛めたな。‥何してる、さっさと治療しろ。
 
「支配者よ‥ 殴りつけた相手に、そいつを殴って出来た怪我の治療をさせるか、普通?」
 
殴られながらも海老ぞり状態で踏ん張って転倒を堪えた悪魔は、鼻血が滲んだ顔面を抑えて不平を洩らす。
 
五月蝿い黙れ。俺が普通の高校生じゃなくなったのはお前の責任だろうが。
 
 
サタえもんが呪文を唱えると、捻挫していた左手首の痛みが消えていく。
良し、怪我が治った。呪文一発で完全回復とは大したものだ。さあ、次はとっとと覗きカメラを回収して来い。急げよ。
 
「貴様はまるで天使のようだな、支配者よ」
 
誉め言葉と受け取っておくよ。ヘボ悪魔。
 
 
 
黒タイツ悪魔はぶちぶち文句を言いながら歩いていった。もう一度同じコースを逆に回って覗き道具を回収する気なのだろう。
やれやれだ。サタえもんの奴、まだ自分の立場ってものが分かっていないらしい。
 
そりゃあ、俺だって健康な男子高校生だ。女の子の着替え風景には大いに興味がある。
だが、覗き用具なんぞ仕掛けて沙希ねぇに気付かれない訳がない。
魔力とか関係ない。
この世に女の勘より鋭いものなんて有りはしないのだ。有るとゆうのなら是非見せて欲しい。
沙希ねぇに問い詰められたら、小1時間どころか二分も持たんわい、畜生。
 
 
どんなに隠しても、俺が悪魔を従えていることはいずれ明らかになる。
バレるのは良い。いや良くはないが仕方が無い。
問題はバレる時期だ。
今バレたら、俺は確実に種馬として与渡一族の繁栄の為だけに使われてしまう。サタえもんにとっては楽して魂繁殖の実績が得られるから万々歳なのかもしれんが‥
 
小さい 小さ過ぎる。
 
前々から思っていたが、サタえもんには商才ってものが無い! 皆無どころかマイナスだ。
 
与渡一族の血統‥いや、俺の遺伝子の価値は『魂繁殖家(ソウルブリーダー)』としての栄達なんぞじゃ吊り合わない。
サタえもんは、無尽蔵の鉱脈をガラス玉と交換しようとしている馬鹿野郎だ。
断言できる。
何故かって? 俺の魔力はサタえもんより強いからじゃよ。
 
 
 
 
『測定レンズ』で測った結果、俺の魔力は 61/57/59 サタえもんは 53/46/54 だ。
測定レンズは、持っている本人に対しても使えるのじゃよ。体のどこかに焦点が合えば測定できる。鏡とか写真に映った姿は測定できないけどな。生身に対してのみ効果がある。
 
サタえもんは最下級の悪魔だが、最下級悪魔としては平均的な魔力を持っている。とゆうかこの測定レンズは最下級悪魔の平均値を50として表示する設定になっているのだそうだ。
 
つまり、俺は何の修行もしていない素の状態で、そこらの魔術師どころか下っ端悪魔より強い魔力を持っている訳だ。
道理でな。へっぽことはいえ悪魔を言葉だけで完全支配できた筈だよ。
これが、これこそが与渡一族の血の価値なんだ。
 
俺の魔力は常人の10倍近い水準にある。由香も俺とほぼ互角の魔力を持つ。サタえもんの話では、母さんの魔力は俺たちと比べればやや劣るらしい。
そして、由香と俺の子供は俺たちより更に強い魔力を持つ可能性が高い。
これだけの可能性を、たかが一地方都市の名士や新参ブリーダーとしての評価で使い潰せだと?!
 
冗談じゃない。
俺と俺の子供達の魔力に魔界アイテム、そして沙希ねぇの知略が合わされば天下無敵だ。
爺さんが無一文の戦災孤児からここまで成り上がったんだ。その何倍いや何十倍ものマンパワーを使える俺たちなら、現代の覇者も夢ではない。
世界征服なんぞに興味は無いが、最悪でもビル・○イツ並ぐらいには稼げるじゃろうて。
そうなれば俺の夢、独立国家建設も容易いわい。
 
うむ。何やら盛大にやる気が湧いてきたぞ。
 
 
だからこそ、今は慎重に行動すべき時なのだ。厄介かもしれない敵や、厄介に決まっている身内の興味を引かないように隠れ潜みながら動かないとな。
サタえもんの奴はそれが分かって無い。思慮ってものが浅すぎるんだ。まったく。
 
 
良し。これからの方針が決まった。
まずは手持ちのアイテム能力の把握して、応用方法を練らないとな。それと魔法の練習だ。
サタえもんがあれだけ使えるんだ。俺だってある程度は使えるだろう。魔力自体は上なんだし。
 
短時間の付け焼刃でも、それなりに効果があるもんだ。
嘘だと思うなら、ボクシングのジムで殴る技術の講習を受けてみてくれ。たった半日でもパンチングマシンの数字が10キロは違うからのー。
 
 
 
 
 
さて、と。四時間目は比較的暇なので‥サタえもんが覗きアイテム回収の旅から帰ってくるまで、手持ちアイテムの整理でもしてみるか。
 
 
しかし、本当にろくな代物がないな。
 
例えばコレだ。『大リンガ偽装ギプス』 ‥どうでも良いが、この低予算アダルトビデオのよーな命名センスはなんとかならんのか? 商品開発者の顔が見てみたいぞ。
 
このふざけた名前のアイテムは、外見は「生きてるバ○ブ」なんだが、○イブとして単体で使うのではなく生身の人間が装着して使うらしい。
生身の人間に装着すると 男ならペニ○、女ならクリトリ○と融合して一体化するアイテムなのだ。
しかも継ぎ目も違和感も無し、外見も装着者の持ち物に似せて偽装するから怪しまれる心配無し、目盛り調製で形や感度を自由に変えれる。
つまりこれを付ければ短小君も巨根に成れるし、女の子はふたなりモドキに成れるわけだ。
 
俺が付けても全く意味がないけどな。俺の逸物はそれほど立派な代物ではないが、小柄な母さんには少々オーバーサイズ気味なのだ。
由香については言うまでもなかろう。これ以上大きくなっても実用性が無くなるだけじゃよ。
 
 
後は 叩くと痛みは感じるが傷は付かない『安全鞭』とか、指定した位置に囁き声を送れる『誘惑メガホン』とか、自動で亀甲縛りや後ろ高手小手縛りができる『緊縛縄』とか‥
 
これでどうやってハーレム作れとゆうのだろうか、へっぽこ悪魔め。
 
 
使えそうなアイテムと言えば、どこでも人目を気にせずにえっちできるようになる『結界鈴』と『携帯ベッド』、塗った部位の感度を数倍に上げる『敏感軟膏』ぐらいなものか。
あと、俺の腕力を2倍強に上げてくれる『怪力腕輪』も使えるな。
 
付けた相手を数日かけて洗脳する『奴隷首輪』と『ペット首輪』は、状況によっては使えるかもしれん。後でサタえもんに聞いておこう。
 
「何が聞きたいのだ? 支配者よ」
 
帰ってきたか。ご苦労さん。
で、質問だが‥ この首輪って、寝てるときも効果があるのか?
つまり寝てる娘さんにこっそり『ペット首輪』付けて、朝になって目が覚める前にこっそり外した場合でもペット化するのかな?
 
「起きている時に比べると何割か効率落ちるが、効果はある。付けられた者は奴隷なりペットなりになる夢を見るだろうな」
 
なるほど。とすると何日か泊り込んで貰って、寝るときは必ず首輪を付ければ本人の知らないうちに段々と‥ やっぱ止めとこう。この案(プラン)は却下だ。
 
「何故だ。成功率はかなり高そうだが」
 
なんとゆうか、俺の趣味じゃない。
 
「成る程、『何時の間にか奴隷になっている』のは嫌か。女の方から貴様に『奴隷にしてくれ』と懇願される方が良いのだな、支配者よ」
 
別にそうゆう訳では‥ いや、そうなのかもしれん。
四年前に妹が奴隷誓約書を読み上げてくれた時の感動を、また味わいたいのかもな。
一昨日の夜、母さんに俺の愛奴になって貰ったように。
 
 
では次の質問だ。俺は魔法を使えるように成るのかな? お前から見て素質はありそうか?
 
「その質問は、何をもって『魔法』と定義するかによって違うな」
 
どうゆう意味だそりゃ? 質問の仕方が悪いと言いたいのは解るが。
 
「うむ。もっと具体的に言って貰わないと答えようがない。いいか支配者よ。貴様は今、完全支配した悪魔から情報を引き出しているのだぞ? これが魔法でなくて何だと言うのだ」
 
あー つまり俺は既に魔法を使っている と?
 
「そうだ。もし貴様の質問が この魔法書を使えるようになるかとゆう意味なら、何年か或いは何ヶ月か訓練すれば使えるようになるかも としか言えん」
 
と言いつつサタえもんは革装丁の大きな呪文書を取り出した。例の人どころか馬くらいまでなら殴り殺せそうな分厚い代物だ。
 
むう。そんなに時間が掛かるのか。
 
「なにせこの本は魔界英語で書かれているからな。魔術の前に魔界英語をマスターしない限り使える代物ではないぞ」
 
サタえもんが見せてくれた本には 筆記体らしきミミズ文字が色違いでびっしりと書き込まれていた。
うはぁ 確かにこれは時間かかりそうだ。俺、英語苦手なんだよなあ。
ん。解った。じゃあ、何か他に手っ取り早く魔法を身につける方法はないのか?
 
「与渡一族の誰かに教えて貰うのが一番だが」
 
却下。まだお前の存在を親戚連中に知られるわけにはいかん。
 
「となると‥ 貴様なら下手な者の弟子になるより独学で学んだ方が早いかもしれんな。今度魔界に帰ったら日本語版の手引書を探しておこう」
 
うむ。良さげなのを選んでくれ。
 
 
良し、大まかではあるがこれで今後の展望が決まった。俺は悪魔の指導を受けて建国目指して力を蓄えるのだ。
で、その為には沙希ねぇを墜さなきゃならんのだが‥どうすりゃ良いんだろう?
 
 
 
 
その後もあれこれ考えてはみたが、結局良いアイデアは出てこなかった。
とゆうか 魔界アイテムで洗脳しちゃった母さんを除けば、俺のハーレムメンバーって、俺が墜したんじゃないもんなぁ
 
由香とは物心つく前からラブラブだし、市子さんだって似たようなものだ。
つまり俺の男性的魅力で短時間の内にKOした訳ではなく、育った環境に合わせて自然と愛情とゆうか執着とゆうか因縁とゆうか‥ 何言ってるのか自分でも分からなくなってきたが、とにかくそうゆうことだ。
由香も市子さんも俺の手腕とか魅力で墜したのではなく、お互い引き合うようにくっ付くように育ったから、自然と俺の所に来てくれたのだ。
 
俺には 女を口説く才も無ければ能も無い。
伊達に17年もの間彼女がいなかった訳ではないのじゃよ。畜生。
 
 
諦めん。諦めんぞ俺は。なんとしてでも沙希ねぇを手に入れるのだ。
沙希ねぇは俺のものなんだ。他の男に渡す気は無い。誰が渡してやるものか。
 
などと決意を改めつつ学食に向かう。今は昼休みだからな。
 
サタえもんは四時間目の途中で家に帰った。薬を調合中なので、錬金鍋の火加減を定期的に見ないといけないのじゃよ。
暇になったらまた涌いて出てくるだろう。
 
 
 
 
お、沙希ねぇ発見。
相変わらず目立つお人じゃのう。なんとゆうか、凡人とは存在感が違う。
 
そういえば、沙希ねぇの魔力ってどれくらいなんだろう? 測ってみるか。
ええと‥ 99/99/99 カンストですかそうですか。
最低でも俺の倍近く、恐らくはそれ以上の魔力か‥ なんとゆうか、50や60の数字で舞い上がってたのが空しくなってきた。
 
何を考えていたのだ俺は。魔力なら沙希ねぇに見劣りしないと、一瞬でも思ったのか?
思ってたよ。畜生。
 
 
 
 
 
「どないしたん?」
 
ふと気がつくと商人(あきんど)少女、名城綾子が目の前に立っていました。
何時の間にか、俺は校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下に出ていた。
長くても一分足らずの時間だと思うが、意識が飛んでいたらしい。
 
 
よう名城。今から登校か?
 
「せや。午後だけでも出とこうと思てな」
 
パタパタパタ と軽い足音と共に後ろから人がやって来る気配がする。
 
「綾ちゃん、おはよう」
「おはようさん」
 
やって来たのはマイベストオブ眼鏡っ娘こと九条虎美だった。
綾子と虎美は結構仲が良いのだ。演劇部の同期で、入った理由も似ている‥好きで入部したわけではないが、その後に演劇の楽しさに目覚めたあたり一緒だからな。
しかし、真昼間にその挨拶は如何なものか。
 
「うちにとっては朝や」
 
あくびを噛み殺しながら綾子は俺の腕を取って、渡り廊下から校舎に入った。
 
お、おい 名城、何処に連れて行く気だ?
 
「今は飯時。することは一つやで。‥それとも何か、アンタうちとは一緒に飯食えん言うんか」
 
そんなことはないが‥ 実は食う飯が無い。今日は弁当持ってきてないんだ。
 
「学食行ってないっちゅうことは、財布忘れたんか?」
 
ええと‥
 
「何や落したんか。心配せんでもそのうち返ってくるて。この学校にあんたの物ネコババする根性の有る奴はおらへんし」
 
 
 
などとケラケラ笑いながら言う名城に連れられて教室に戻って来た俺ですが‥
結局そのまま昼飯食うことになりました。
 
俺の飯はどうなったかと言えば
 
「た、卵焼き、甘くしてみたんだけど どう?」
 
「さっきからおかずばっかり食うとるやん。ほれ、おかんの朧巻き。好物やろ」
 
虎美と名城が弁当分けて下さりました。しかも予備の箸がないので一々取って貰ってる有様です。
傍目から見ればバカップルそのもの、しかも両手に花ときたもんだ。
 
綾子は隣のクラスなのだが、なぜか俺の机の上に腰掛けている。そして虎美は俺の後ろの机に腰掛けていて、俺は本来の席に着いている。
つまり俺は二人の間に挟まれて谷底に居る状態な訳で‥ 身長差の関係で丁度俺の顔が二人の胸のあたりに挟まれる格好になってます。  
 
ううっ これは新手の拷問か? お預けプレイか?
 
いや、そんな訳はないが とにかく刺激が強すぎる。 
落ち着け俺。
こんなことなら以前に何度も‥ ってこの凄い状況を今まで何度も体験して、俺の理性がよく持ち堪えてたもんだ。
 
違うな。理性の問題じゃない。 
俺は 何故かは分からないがほんの数日前まで虎美を、いや虎美だけじゃなくて名城のことも女として見てなかった。
少なくとも性欲の対象ではなかった。でも今は違う。
だから今は 鼻先10数センチの位置にある、二人の胸を意識してしまうんだ。
 
 
それにしても無防備に過ぎるよなあ。男は皆オオカミだってこと、忘れてやしませんかお二人さん。 
 
「‥何か言った?」 
 
いえなんでもありません。
 
 
 
 
美味い飯でありました。ご馳走様。
背中に感じる殺気も視界の隅に見え隠れする三白眼も、程よいスパイスに感じるわい。
 
たとえ砂糖入れすぎだろうと、たとえ玉子の殻が入っていようと、美味いものは美味い。
嘘ではない。
料理は技巧ではない、心だ。信じられないのなら、ここに来てこのちょっと焦げ気味のアスパラベーコン巻を食ってみるがいい。
もっとも既に俺が全部食ってしまったがな!
 
 
考えてみると、俺って結構モテモテさん状態なのではあるまいか。
少なくとも周りからはそう見える ってことだよな。
虎美も名城も水準を遥かに越える可愛さだし、性格だって悪くない‥どころかハナマルものだもんな。 ‥まあ、その、なんだ ちょっぴし変ではあるけど。
 
何故俺に弁当分けてくれたのかが不明ではあるが‥いや、虎美とはしょっちゅう一緒に飯食ってるから別段不思議でもないが、どちらかと言えば小食で倹約家の名城が今日の弁当に限って妙に大きくて豪勢だったのが気に掛かる。
機嫌も良さそうだし、なんか祝い事でも有ったのかのう? 
 
ふむ。まあ良い、名城の様子を見る限り心配は要らなさそうだしな。
俺に悪態の一つもつかないのが変と言えば変だが、健康食品の行商が上手く行ってるから機嫌が良いのだろう。多分。
 
 
さてと。念願のモテモテさん気分を味わせてくれた二人には、近いうちにお返しせねば。
 
あ、そういや由香に好きなものなんでも奢ると約束してたよな。
由香と名城と虎美の三人纏めて駅前のケーキ屋にでも‥  拙いかなぁ、やっぱり。
止めておこう。由香にやきもち妬いて貰うのは嬉しいが、修羅場は御免だ。
 
 
 
しかし、腹が膨れると気分が良くなるもんだな。
沙希ねぇのスペックが抜きん出ているのは前々から分かっていた事だ。今更悩む理由にも怖気付く理由にもならん。
最終的には無理を通して道理を引っ込めなくてはならんのだ。落せる要素のない女でも落さないことには話が進まないからな。
 
‥いや、沙希ねぇを落すほうが小国一つでっち上げるより難しそうな気もするがのー。
 
 
 
 
 
さて、昼食済ませたあとは交換した駄菓子や茶を飲み食いしつつ駄弁っていた俺たちではあるが‥ 五時間目は選択授業なので教室を移らないといけないのだ。
虎美と話して、早めに動いておくことにする。
 
夏服の襟元から覗く虎美の鎖骨周辺のラインなどこっそり鑑賞しつつ、美術教室目指して渡り廊下を歩いていると‥畜生、聞こえちゃったよ。
 
「どうしたの? 与渡くん」
 
んー いや、急用が出来た。九条さん、悪いが俺の道具教室に持って行ってくれないか。
 
 
 
 
 
虎美が美術室に向かったことを確認してから、早足で声の方向へと歩く。
あいつには聞こえなかったようだな。ま、俺にはそのほうが有り難いが。
 
ふむ。温室の裏か。
俺だって好き好んで授業前に寄り道したい訳じゃないが、聞こえちまったもんは仕方がない。ここで素通りして万一のことがあったら目覚めが悪いからな。
 
とゆうわけで 温室の裏側、温室のボイラーと学校を囲む塀の間の隙間では‥ 俺の予想通りの光景が展開されておりました。
 
人相が悪くて獣臭そうなオーラを漂わせた三人の男子生徒が、華奢とゆうか貧弱な男子生徒一名を取り囲んで小突き回している。
もとい 小突くで済む段階じゃないな。囲まれてる奴鼻血出てるし。
おまけに下半身丸裸だ。脱がされたと思しき黒ズボンが、塀の上の鉄条網に引っ掛かっている。
 
俺の耳に入ってしまったのだ。こいつの押し殺した悲鳴が。
 
 
 
囲んでいる連中が、俺の足音を聞いて振り向いた。やれやれ、見張りを立ててりゃ逃げられただろうに。今更気付いても遅いんだよ。
 
「よ、与渡先輩!」
 
加害者のうち二人がその場で飛び上がって直立不動の姿勢を取る。
ふん。生憎だがホモの強姦魔を後輩に持った憶えはないな。反論は認めん。男の服脱がして喜ぶ野郎は同性愛者かサディストしかいない。
 
 
加害者、被害者共に一年生か。
加害者側は柔道部の新人が二人、知らない顔‥凄い醜男が一人。
被害者は‥どこかで見た顔だが思い出せん。細くて色白で、まるで女の子のよう‥とゆうかそこらの女子より綺麗だよ。
股間の意外に立派なものが見えてなきゃ、男装した美少女だと思ったかもしれん。
これは確かに狙われる。
俺に男色の趣味はないが、あれば放ってはおかんな、きっと。
 
 
「ヒトの財布になんか用ッスか セ・ン・パ・イ?」
 
直立不動の柔道部員二名を押しのけて、知らない顔の一年生が前に出て来た。ゴリラのような、と喩えたら全世界のゴリラ好きから抗議されそうな醜男だ。
もしも類人猿の世界に路上強盗がいたら、こんな顔をしているだろう。
 
こいつ本当に高校一年生か?
む。よく見ると夏服のデザインが微妙に違う。
俺や後ろの二人が着ている制服は右胸にもポケットが付いてるが、不細工くんが着ているシャツには左しか付いてないし、襟のラインも入ってない。普通のカッターシャツだな、これは。
 
どこの生徒だ? お前。
 
 
「転校生ッスよ〜 テ・ン・コ・ウ・セ・イ、見て分からないンすか」
 
いや見れば見るほど、人類なのかどうか分からなくなってくるんじゃがのー。 
お前、生まれは何処の研究所だ? 何と何を掛け合わせて作られた生き物なんだ?
 
醜男の顔が赤く、とゆうかドス黒くなっていく。
やっぱりな。この顔で苦労してるんだろーなー 同情する気は全く無いが。
不細工な顔に生まれたのは本人の責任じゃないが、妬みは校内暴力の理由になるまい。
 
 
さて、転校生。ひとつ力比べでもしてみるか?
どうした、でかい図体して握手も出来んのか? 一人が怖いのなら、後ろのお友達と一緒でも構わないぞ?
 
 
醜男が 差し出した俺の右手を掴んだ。互いにじわじわと力を込めていく。
 
 
45キロ‥ 50キロ‥ 55キロ‥ そろそろ柔らかいリンゴなら割れる握力だ。
 
解る。解るぞ。名も知らぬ転校生よ。
男の価値は顔でも舌先でもなく、腕力だと信じてきたのだろう? お前も。
 
 
65キロ‥ 70キロ‥ 75キロ‥ 固めのリンゴが割れる頃合だ。
 
ぎりぎりと 筋骨の軋む音が握り合わせた手と手から響く。
 
 
85キロ‥ 90キロ‥  ここらが俺の限界だ。
 
俺のMAXパワーに匹敵、いや俺よりも余裕がありそうだ。大した奴だ。
これなら全校でも10位ぐらいには入れるかもな。
 
で ここで『怪力腕輪』発動だ。インチキ万歳。
 
100キロ‥  110キロ‥  120キロ‥  さあ、どんどん上がるぞ〜 
 
醜男の目に、弱気の色が浮んできた。心が折れかけているんだ。
お手手握り潰される覚悟は良いかい? 坊や。
 
 
 
 
 
 
勿論、俺に他人の手を握り潰す趣味はない。こっちの手にも負担が掛かるからな。
潰す前に泡吹いて失神しちゃったし。
おまけに洩らしやがった。汚ねえな。臭いからして大のほうも出たようだ。
 
他二名は、俺と醜男の転校生が歯を食いしばって力比べしているうちに消えてしまった。仲間見捨てて逃げるとは、見下げ果てた奴らだ。そこらの珍走団以下だな。
まあ良い、顔は憶えている。
柔道部の一年で確か阿蘇だか桜島だか、そんな名前だった。
後で柔道部の主将‥俺とは街の柔道教室に通っていた頃からの付き合いだ‥に告げ口しといてやろう。
 
鉄条網に引っ掛かっているズボンを取って‥ 下着のほうは見当たらない。
なんだこりゃ? ポケットに何か固くて細長いものが入っているぞ?
座り込んだままの美少年の顔が強張る。
おお、どこかで見た顔だと思ったら、こいつ体育の時間に測定した奴じゃないか。全ての魔力が36〜7とゆう、なかなかの魔力の持ち主だ。
 
ポケットの中身を確認せずに、美少年にズボンを投げてやる。ほれ、見ないでやるからさっさと穿いとけ。
転校生か‥ 察するに、中学あたりの同級生か?
ヒトを『財布』呼ばわりとは、嫌なものが追っかけてきたもんだな。
 
後からベルトの金具を弄る音と、ジッパーを上げる音が聞こえる。もう振り向いても大丈夫だな。
 
おい。もうそんな物騒なもの学校に持って来るなよ。
こんな屑どもに、お前が人生台無しにする価値なんかあるもんか。今度誰かに絡まれたら俺の名前を出せ。
小遣い銭や憂さ晴らしの弱い者虐めの為にこの俺、与渡大輔に喧嘩売る奴はこの学校にいないからな。
 
「先輩‥」  
 
む、むう。見上げる顔がまた可愛い‥本当に男なのかと思ってしまうくらいだ。 
まて、落ち着け俺。
しかし、どこかで見た顔だよなあ。今日じゃなくて、何日か前にも至近距離で見たような‥
あー お前 歳の近いお姉さんか妹、居るか? 
 
「い、居ません! ボクは一人っ子です!」 
 
そうか居るのか。
いや、そこまで露骨だと馬鹿でも解るわい。嘘の下手な奴だ。
こいつの女版‥ うむ、是非一度会ってみたいもんだ。会えばどこで見たのか思い出すかもしれんし。
 
おいおい、そう警戒するなよ。別に紹介しろとは言ってないぞ。 
じゃあな。くれぐれも早まった真似はしないでくれよ。
俺は気楽なスクールライフを送りたいんだ。警察沙汰も新聞沙汰も御免じゃからのう。
 
 
 
さてと。美少年の一年生‥名前は和邇(わに)とゆうらしい‥は自分の足で帰れたから良いが、この泡吹いてる汚物はどうすれば良いものやら。
面倒くさいし本当に臭いから、放置しておこうかのう。
 
「傷害は拙くないか、支配者よ」
 
おう。来たかサタえもん。 で、傷害って何だ?
 
「こいつの右手は貴様が壊したのだろう? 手形で分かる。このまま放置しておけば、こいつの手に一生ものの後遺症が残るぞ」
 
むう、確かに俺の手形がついた不細工君の右手は青黒く変色し膨れ上がっている。手の骨にヒビが入ったらしい。
やれやれ、最近の若い者はカルシュウムが足りんのう。いや俺も若者ではあるのじゃが。
 
「靭帯も損傷している。栄養学の問題ではないと思うぞ」
 
分かった、適当に治療しといてくれ。訴えられると面倒だ。
 
「なら、実験台として使ってみるか? 支配者よ」
 
実験台?
 
「そうだ。魔法を使いたいのだろう? まずは基礎中の基礎、治癒術(ヒーリング)を教えてやろう」
 
ぬう。回復魔法か。憶えがいがありそうだな。
 
「良し。まずはマナの把握から始めるか」
 
 
 
と ゆうわけでサタえもんの指導の元、魔術初挑戦となった訳だが‥
 
「力み過ぎだ。肩の力を抜け」
「考えるな。感じろ」
「支配者よ。『治れ』と念じるな。『治す』のだ」
 
だあぁぁぁぁ五月蝿え! お前は教習所の教官か!!
背後でやいのやいの言うだけなら、もそっと役に立つアドバイスをしやがれ。このヘボ悪魔め!
 
「それだけのパワーとセンスを持ちながら、何故に此処まで呑み込みが悪いんだ貴様は?」
 
知らん。教官と相性悪い所為じゃねぇか?
 
 
 
 
 
と まあそんな感じで悪戦苦闘の末に醜男の手が全治2週間程度にまで回復した頃には、俺の息はすっかり上がってしまっていた。
当然ながら時間もそれなりにかかったので、五時間目に20分遅刻してしまいました。畜生。
 
 
「で、与渡君。遅刻の理由は?」
 
昼休みの終わりにゴミを見つけましたので、掃除をしておりました。
 
「それは感心。だが免罪はできんよ」
 
構いません。出席簿は遅刻にして頂いて結構です。先生。
 
 
 
 
虎美から預けていた道具を返して貰い、席に着く。
やれやれ。暢気な学園生活を維持するのも楽ではないのう。
 
ちなみに不細工な転校生の傷はサタえもんが出した怪しい薬缶で治した。薬缶から出る水をかけると腫れがどんどん引いていったのだ。
 
これも魔界アイテムの一つで、『救急治缶(きゅうきゅうちかん)』とゆうらしい。
薬缶から注ぐ水には怪我をある程度まで回復させる効果があり、骨折を軽い打身に、縫う必要のある傷をバンドエイドで済むぐらいにまで治せるそうだ。
水は飲める程度にきれいな水なら何でも良いらしい。
ただし効くのは外傷のみ。毒や病気には無効どころか有害だ。
 
欠点は水を被った者の体力をそれなりに消耗させる事と、無傷の人間に使うと無駄に体力を消耗させてしまう事。
体力を消耗しきっている重傷者に使うと、傷は治るが命を落とす危険性すらある。
逆に言うと 怪我人の体力を使って回復させるとゆうことは、この魔法の薬缶の使用者は何人治療しても疲れない訳だ。
 
 
で 醜男はそのまま温室裏に放置しといた。これ以上あいつに労力使いたくない。
本当に疲れた。
虎美や綾子の為なら魔力が底つくまで頑張れるが、あんな屑野郎の為にはもう指一本だって動かしたくない。
 
今度から嫌いな奴の怪我は全部サタえもんに押し付けよう。うん。そうしよう。
経験値が減ったって構うもんか。
 
 
 
 
 
その後は何事も無く時が進んで、今は放課後だ。
 
校内暴力については HRに件の美少年のクラスに行って、虐めたら只では済まさんと一年坊主どもを脅しておいたから大丈夫だろう。
まあ、被害者も加害者も本人は居なかったからもう一つ締まらなかったけどな。双方共に午後の授業受けずに早退してしまったらしい。
 
聞けば和邇少年‥ちなみに下の名は茂(しげる)だそうだ‥は典型的な虐められっ子で、中学時代はそれはもう酷い状況だったそうだ。
ま、これからは多少マシになるだろう。孤立するかもしれんが虐待されはせん。
 
普段はここまで徹底した処理はしないのだが、今回は特別だ。
いや 美人に違いない和邇少年のお姉さんか妹の好感度を上げておこう とかゆうようなさもしい下心は無論ある。それだけが理由では無いけどな。
 
ついでに柔道部へ行き、部員の悪行を告げ口しておくか。どう裁くかは柔道部の主な部員達が決める事だが。
 
 
 
良し。野暮用は済んだ。これで心置きなく演劇部の手伝いに行ける。
この時間帯なら部室にはもう誰も居ないな。直接体育館に向かった方が良かろう。
 
 
 
 
 
 
で 道場から出て体育館へ向かっていた俺ですが‥ 途中で松葉杖つきながらよろよろと歩く、のっぽさんの女子生徒を発見しました。
三歩歩いては足を止め、二歩歩いては杖を持ち直している。
 
左足にギプスはめてるが、足の痛みだけではあんな歩き方にはならない。肋骨かどこか痛めているな。しかも相当に痛そうだ。
制服の襟に入ったラインの色からすると二年生だが、見たことのない後姿だ。ひょっとして転校生か? 
 
むう。あんなに辛そうなのに誰も手助けどころか近寄りもしない。むしろ避けて通っているではないか。
ああ、情けない。我が校の人情がここまで薄くなっていたとは。
これはいかんな。怪我人、しかも転校したてで右も左も解らぬ生徒が困っているのを放っておけはしない。助けにいくことにしよう。
 
いや 別に下心あってのことではないぞ? 老若男女の区別無く困っている人を助けることが人の道だ。
ま、相手が助ける価値もない腐れ外道なら話は別じゃがのー。
 
 
あー 君、助けは要るか? 
 
お、頷きましたよ。  ん? 肩を貸して欲しい ですと?  
なにやらいきなりフレンドリーですね。‥‥て、よく見りゃなんだか見覚えのある顔かたちじゃのう。
 
違う。
どこかで見たんじゃなくて、お前朔夜(さくや)じゃねえか! いつ髪切りやがりましたか!? 
 
 
「久しぶりだね、ハニー。あいたかったよ」
 
そう言って 痛みからくる冷汗まみれの青白い顔を無理にほころばせる女生徒‥町村朔夜(まちむらさくや)の馴れ馴れしいもの言いに、俺は思わず眩暈を起こしてしまった。
 
なんてこったい。見ない振りしとけば良かったかな。
 
 
 
 
こいつは町村朔夜といって、町村医院の末娘だ。幼馴染とまでは言わないが、小学生の頃からの長めな付き合がある。
好きで付き合ってる訳じゃないがな。
 
朔夜は嫌われ者、とまではいかないが好かれてはいない。生徒及び教師の殆どに避けられている。
 
外見はそう悪くない。
並みの男子より背が高いのも、肌が病的に白いのも見様によっては美点のうちだ。
長く黒々とした髪も、髪質だけを言えば校内屈指の見事さだ。
顔も、美人とまでは言わないが整っているほうだろう。
 
だが、こいつ‥朔夜が愛用の白衣を翻して歩く姿は、はっきりいって頂けない。
なんとゆうかもう、TV画面から這い出してくる悪霊女のような怖さだ。夜の学校では絶対に出くわしたくない。
つまり朔夜は壮絶なまでに趣味が悪いのだ。せめて、顔半分が隠れる髪型だけでも止めて欲しいのじゃが‥
 
 
性格はとゆうと ごく僅かな例外を除いて人と口を利かず、放課後は部室か理科室に篭りっきり。
週に一度は解剖を行い、月に一個は標本を作り、理科準備室のホルマリン浸けを少しづつ増やし続けている不気味女。
ちなみに標本にしない献体は鍋の具や妖しげな小物の材料になっている。ウサギの足とか猿の手とか、そうゆうやつだ。
これで成績は学年トップ、運動能力は陸上・水泳・新体操などの運動部エースに匹敵するのだから好かれる訳がない。
 
まあ、本人も万人に好かれたいとは思ってないらしいが。
朔夜はごく一握りの人間以外に価値を認めていないのだ。と言っても馬鹿にして見下しているのではない。
犬や猫を見下す人間がいないように、朔夜は誰も見下していない。比べる気など最初から無いだけだ。
 
 
 
誤解のないように言っておくが、朔夜は変人ではあるが危険性はない。狂暴性など欠片もないし、悪事や犯罪とは無縁な奴だ。
俺や俺の家族にとってはむしろ恩人だったりする。由香がおたふく風邪に罹ったときも真っ先に気付いてくれたしな。
 
そういや由香が作った『口説いてもいい娘さんリスト』のなかで 朔夜は割と上位に居たな。口説く気はないけど。
 
 
知らぬ仲でもないのに忘れていたとは酷い奴だ と思うかもしれないが、俺だって別に忘れていたわけではない。
ただ 入院前より痩せてるのと、病院生活のせいかホルマリン臭さが抜けてるのと、松葉杖ついてたから歩き方が変わっていたのと、髪切ったせいで後姿が大きく違っていたので至近距離に行くまで朔夜だと分からなかっただけだ。
 
「ごめんハニー。髪は手術の前に切られてしまったよ」
 
あー 長いと邪魔っけだからなあ。
 
「取って置いてくれと頼んだのに、切った髪も捨てられてしまったんだ。ハニーの為に伸ばしたのに‥」
 
いや待った伸ばしてくれと頼んだ憶えはありませんよ? 
俺はロングヘア好きだがフェチではない。ショートもセミロングも良いものだ。
 
「でもマフラーにはある程度長くないと」
 
マフラー? 夏どころかまだ梅雨も来てないこの時期に編物の心配なんぞせずとも良‥ おい、なぜ編物とお前の髪が関係あるんだ? 
 
まさか、織り込む気か!? 
 
頬を染めて俯くんじゃねえ! やっぱりか! 去年貰ったひざ掛けにも織り込んでいたのか! だからあのひざ掛けは真っ黒だったのか!?
 
そこでまた頷くなよ!
 
 
 
 
‥‥ああもう、どっと疲れた。
分かってくれただろうか。朔夜はとことん悪趣味なのだ。しかもこの俺が世界一の美男子に見えているらしい。ちっとも嬉しくないが。
 
だって、こいつは俺のことをハニー(honey-蜂蜜)とか呼んでいるが、その意味は「食べてしまいたい」だぞ?
それどころか「僕が死んだら剥製にしてハニーの家に飾って欲しい」とまで言い出す奴なのだ。さらに 退きまくった俺を見て「‥剥製よりランプシェードとかの方が好き?」と訊いてきやがった。
 
冗談だったんじゃないかって?  うん、冗談だと良いね。俺も冗談だと思いたいのだが、朔夜が冗談を言った事って無いんだよな。一度も。
 
 
一時期 虎美や大山先輩の周り蠢いていたストーカー供と違い、実害は全くないのだが‥ こいつに好かれていてもあまり嬉しくない。嫌いではないが、苦手だ。
2月14日にイモリの黒焼きを寄越す女相手に、どうやってときめけとゆうのだ。いやまあ、それを食ってしまった俺も俺だが。
 
 
 
 
で 松葉杖ついて何しに学校に来たんだ? 
 
「演劇部のことが気になってね」 
 
言ってなかったかもしれんが、実は朔夜も演劇部の一員なのだ。悪役とゆうか切られ役とスタント担当だけどな。
虎美がせっせと縫い上げる着ぐるみを楽しそうに着こなし、沙希ねぇやくぬぎさん相手に立ち回りを演じている。
朔夜はごく僅かな例外‥つまり演劇部の皆さんとは口を利くのだ。あと、俺と俺の家族も。
 
見ての通り、事故で入院したから夏公演に朔夜の出番は無いのだが、それだけに自分の居ない部の様子が気になって気になって堪らなくなったのだろう。
 
 
 
いつまでも裏門前に突っ立っているわけにもいかんな。 
良し、舞台の裏まで連れて行ってやるから、皆と会ったら直ぐに帰るんだぞ。怪我人が病院抜け出して歩き回るなよ、まったく。
 
「一目見るだけでいいんだ。皆の邪魔をしたくない」 
 
そうか。では体育館の横から覗いてみるか?
 
前にも言ったと思うが 演劇部の皆さんは体育館の舞台を使って夏季公演の準備をしている。劇の練習だけではない。衣装合わせや大道具小道具の製作、音響装置や照明の配備をしているのだ。
 
 
「‥!」 
 
肩を貸そうと右手を取ると、朔夜は声にならない悲鳴を上げた。
慌てて離したが、俺の掌には嫌な感触の汗がべっとりとこびり付いている。 お、おい‥右腕、ひょっとして折れてないか?
 
「‥手首は回せる。ヒビが入っただけだよ」 
 
ついさっき、そこで転んでしまってね  と無理に微笑もうとする馬鹿を抱きかかえ、俺は保健室に急いだ。
ええい手前ら道を開けろ! じろじろ見てるんじゃねえ!
 
 
 
 
 
体内を巡っていたアドレナリンが切れたのだろう。朔夜は運んでいるうちにどんどん顔色が悪くなってきた。
別に珍しくもない事だ。俺も経験があるが、怪我した瞬間はあまり痛みを感じないのだ。痛みを和らげる物質が脳から出てるからな。
打撲の痛みがなかなか消えないと思っていたら、実は骨折していた。なんてこともある。
 
 
朔夜を抱えた俺が保健室に入ると、誰もいませんでした。
またかよ。
いや、我が校の保険医は職場放棄の常習犯なのだ。授業サボって保健室で寝るときは有り難いが、こうゆう時は困るな やはり。
 
とにかく 怪我人をベッドに寝かせて‥と。 
畜生、これなら救急車かタクシーで町村医院に直行した方が良かったな。ここには医者なんて居ない。医学の心得がある奴は居るがその当人が怪我人だ。
こんなことなら五時間目前にサタえもんからヤカン巻きあげとくんだった。
あれさえ有ればこんな怪我‥
 
怪我 か。
今の俺なら、なんとかなるかもしれん。
 
 
 
 
俺は「女を口説く方法」はさっぱり解らないが、代わりに「女を気持ち良くさせる方法」は解る。とゆうか分かるようになった。
前々から素質はあったらしいが、ここ数日で確実に身に付いて来た能力だ。
 
より詳しく言えば 俺の手は触れている相手の苦痛と快楽を把握できるのだ。
どこをどう触れば気持ち良くなるのか、その場で正確なデータとして知ることができる。
無論、何時でも何処でも誰とでも‥ とまで便利ではないがな。
互いの相性によって差も有るし、極端に緊張していたり俺の意欲とゆうか肉欲が下がっている状態だと使えない。
 
つまり、今の俺は朔夜が何処をどうゆう具合に怪我しているかが解るのだ。
そしてそれらの傷を治すことだって出来る。  
 
 
良し。朔夜、痛いだろうがしばらく我慢してくれ。
 
 
とりあえず一番重傷っぽい右脇腹の骨折からいくか。仰向けに寝ている朔夜の脇腹に手を当ててみる‥ 服が邪魔だな。素手で触らないと傷の具合がよく解らん。
夏用ベストの前を開けて、シャツの上から触ってみる。  前よりはマシだがもう一つだな。ええい面倒くさい。直接触れよう。
シャツのボタンを下から三つほど外して、その隙間から手を入れることにする。 これでやっと触診開始だ。  
 
朔夜の息が荒い。診察と治療を急がねば。
ふむ。幸いにも単純骨折だな。折れた部分も大してズレていない。これなら俺でも治療出来そうだ。
 
朔夜の右脇腹に当てた左の掌から魔力を放出して、折れた骨をぴったり合わせてくっ付ける。
『治れと念じる』のではなく『治す』。
今ならサタえもんの言いたかったことが解る。
単車の運転と同じだ。曲がり道は『曲がれ』と念じるのではなく、車体を傾けて曲がる。停車するときは『止まれ』と念じるのではなく、ブレーキを掛けて止まる。当たり前のことなんだ。
 
朔夜の怪我を、一つ一つ治していく。
骨折打撲に擦り傷突き指‥傷は多いが少しも疲れない。いや魔力は確実に消耗しているが辛くないのだ。
動機も違えば対象も違う。昼の醜男と比べれば朔夜のほうが天文学的単位の差で治し甲斐がある。いや比べること自体が間違いだ。失礼だ。
 
良し。終わった。全身の骨折を全治10日程度、その他の怪我は3〜4日程度にまで回復させたぞ。
 
もう痛まないよな? うむ。ギプスを外しても大丈夫そうだ。
呆然としている朔夜の左足を取り、包帯を解いてキーホルダー代わりのスイスアーミーナイフ(17機能付きのナイスな代物だ)で樹脂整ギプスに切れ目を入れて、割って外してやる。
 
「‥ハニー、これは一体どうゆう事なんだい?」  
 
気にするな。 
 
「気にするよ! これって、ハニーが僕の怪我を治したってことだよね!?」 
 
むう。後先考えずに勢いで治してしまったのは拙かったかな? 
 
どう言えば納得して貰えるかなあ‥ 
朔夜は悪趣味ではあるが、それなりに常識とゆうものを持ち合わせている。
なんだか知らんが怪我が治って良かった で済まして貰える程おめでたい脳味噌はしていない。
 
ええい こうなれば自棄だ!
 
 
朔夜、実は俺は超能力者なんだ!  
 
「‥超能力者?」  
 
そうだ。つい最近俺は超能力に目覚めたんだ。手翳し治療とかヒューマンヒーリングとかゆう能力だ。効果は見ての通り本物だぞ。
 
「馬鹿な。こんな能力が有る筈がない」 
 
現にここに有るじゃないか。これが夢だとで言うのか? それとも俺がおかしな手品を使ってお前を騙しているように見えるのか?
 
「そ、そんな事言ってないよ‥」 
 
それに大した能力じゃないぞ? 怪我の治りが速くなるだけだし。
 
「それだけでも凄いことなんだよ! こんなことが出来る人間が一家に一人、いや集落に一人居るだけでも‥」 
 
でも?
 
「医学‥いや世界が変わる。 ハニー! 僕にハニーの超能力とやらを研究させておくれっ 僕はこれを生涯の研究にしたい!」 
 
まあ、それは構わんが‥。そんなに凄い能力かなあ。 
 
「もちろんだよ! 外科棟にハニーがいれば、それだけで看護婦たちに有給全消化させてやれるよ!」 
 
 
あー 解り易い喩え有難う。でも多分それ無理。出来ません。 
 
「え?」
 
 
やれやれ。普段のダウナーっぽさからすると信じられんはしゃぎようだ。
 
あのな朔夜、この力は使えば使うほど疲れるんだ。
特に嫌な奴とか治したくない奴とか‥いやぶっちゃけた話、治したい奴しか治せないと言って良いくらい好悪の念が効率に出てくるんだよ。
俺は医者じゃない。患者なら誰でも治療したくなったりはしないんだ。
 
 
酷い言い草かもしれんが、これが俺の本心だ。生憎と俺は医聖ヒポクラテスに誓いを立てた身ではない。
朔夜は俺の言葉に青くなったり赤くなったりしてうろたえていたが、やがて俯いて「解った」とだけ呟いた。
 
ふむ。しかし朔夜の魔力によっては教えてやれるかもしれんな。
‥測ってみるか。  ええと 51/38/17 か。バランスは悪いがかなり高い。これなら使えるだろう。
 
とゆうわけで、町村医院で手伝いはできないが その代わりに後でヒーリングの仕方を教えることにした。俺が合計1時間足らずの時間で憶えたんだ。朔夜に出来ないこともあるまい。
 
 
 
 
 
ポットの湯を洗面器に空け、水と混ぜてぬるま湯にして‥と。ポットには水を入れて沸騰モードに設定しておく。使ったら補充するのが常識だ。
 
朔夜、石鹸は薬用で構わないよな?
 
「うん‥」
 
何をしているのかって? これから朔夜の足を洗ってやる所なのだ。
 
「その、やっぱり自分で洗うよ」
 
黙らっしゃい。怪我人が医者‥ではないが施療者に逆らうんじゃありません。
 
 
朔夜の左足を洗面器のぬるま湯に浸けてから、まずは湯だけで洗って皮膚‥とゆうかその表面の垢を湿らせる。
適当なスポンジが見当たらないので、代わりにハンドタオルを使うことにする。濡らして薬用石鹸をつけて揉み、泡立たせて‥と。
朔夜はまだ何か言いたそうだが、有無を言わさず洗うとしよう。
 
長時間ギプスをはめて生活した経験のある人なら解ってくれると思うが、ギプスってのは痒い。とゆうか猛烈に痒くなる。何日も何十日も身体(の一部)を洗えなくなるのだから痒くなるのも当たり前じゃがの。
空調の効いた病院で安静にしているのならまだしも、ギプス付けたまま炎天下を歩いたりしたら大変なことになってしまうのじゃよ。
 
つまり、ギプスを外した朔夜の足は汗疹が悪化してカブれまくっていたのだ。
で、「垢まみれで恥ずかしいから」と訳の解らない理由で辞退しようとする朔夜を「これも治療の一環」と説き伏せて、洗っている訳だ。
 
おうおう 垢がポロポロ落ちるわい。
洗うのと平行して、さっきの治療で見逃していた小さな傷や歪みを直していく。ふむ。割れた爪も治せるのか。凄いぞ治療魔術。
 
考えてみればヒーリングは初歩の初歩とはいえ歴とした魔術。「キュア」の呪文一発で治してしまうサタえもんと比べれば地味だが、それでもバチカンから奇跡判定の神父が俺の家までやって来てもおかしくない。
 
 
 
きれいに洗って、沸きかけのポットの湯でもう一度ぬるま湯を作って石鹸を落す。タオルで水分を拭き取り、ベビーパウダーをまぶして仕上げ。保健室は色々揃っていて便利じゃのう。
 
それにしても筋肉落ちたなあ、お前。触り心地は別の意味で良いけど。
垢を落しカブレが無くなった朔夜の足は、つるつるのすべすべで良い感じだ。
‥しかしコイツの足、無駄毛が一本も無いな。エステで脱毛でもしたのかな?
 
 
「あ、ありがとう。ハニー」
 
ん? 気にするな。怪我を治すのは当然だし、ちょうど何かを洗いたい気分だったんだ。
 
そういや最近生き物洗ってないな。今夜あたり妹を洗ってやろう。
犬とか猫とか、生き物洗うと楽しくないか? 俺は楽しい。
 
 
右足には大した怪我はないな。かなり疲労しているが。
ついでにマッサージもしといてやるか。そのくらいの余裕は充分にある。保健室には結界が張ってあるからな。
 
戸締り確認要注意。えっちに限らず覗かれたくないなら気を配らないとな。
そんなわけで、誰も保健室に入って来れないように、魔界アイテムの一つ『結界鈴』を吊るしてあるのだ。
このアイテムは吊るしておくだけで人が寄って来なくなるとゆう優れものなのだ。更に加えて内側からの光や音をほぼ完全に遮断できる。『結界鈴』を吊るした部屋でカラオケしようが麻雀しようが音は漏れないのだ。
欠点は物理的防御力が一切ないこと。野外で使うと風雨も雷雪も防げないし、建物の中に居る場合でも野球部が飛ばした流れ球一個すら防ぐ力はない。
あと、結界の内側から外に出ることは自由だ。『結界鈴』の結界は隠れ潜むには向いているが檻としての機能は持っていないのだ。
 
 
 
五分ほどかけて朔夜の脚を揉み解し、指圧でツボを刺激する。
なんとなくだが、今の俺は何処にツボが有り押せばどんな効果があるのかが解るのだ。
どうやら魔力を感覚として使えるようになったらしい。『霊視』ならぬ『霊触』とでも言うのかな? 触っている相手の情報が手に取るように解る。
由香の‥妹の身体に触っているときに感じていたものを、深化及び拡大したような能力だ。
 
由香も俺と同じ様な感覚を持っているのだが、俺との違いは 由香は俺が絶頂を迎えたとき‥早い話が射精したとき‥に、俺がいかに由香を想っているかが解るらしい。
故に我が愛しの妹にとっては、手だろうが顔だろうが口だろうが何処であろうと俺の精を受け止めること事態が喜びであり、文字通り『愛を注がれる』ことを実感できる最高の愛撫なのだそうだ。
 
『霊触』能力に目覚めて、俺にも由香の言葉の意味が解るようになった。今の俺は、ある程度だが触れている相手の気持ちが解るのだ。当然朔夜の気持ちも解る。
前々から分かってはいたけど、朔夜って本当に俺のことが好きなんだなあ‥ 触れている手から朔夜の感じている喜びが、恥じらいと入り混じった幸福感が伝わってくる。
 
こいつの髪を梳いてやったら楽しいだろーなー。今度やってみよう。
今は櫛が手元にないので出来ないが。きっと、懐いている犬の毛を梳いてやったときのように喜んでくれるだろう。
 
 
「ハ、ハニー‥ それ以上はちょっと」
 
ん?   ‥はっ!? いつの間にやら足じゃなくてその上をマッサージしてましたよ。
俺の両手は無意識のうちに朔夜の太腿を揉み解してました。 
 
す、すまん 触り心地良かったものでつい‥
 
朔夜は顔を赤らめながらも腿の付け根近くまでまくれあがったスカートを両手で抑えて、それ以上の侵攻を阻んでいる。可愛いじゃないかこん畜生。
 
触れたままの、朔夜の腿から俺の掌に伝わる脈拍と温かさ。喜び‥嬉しさと期待、マッサージによる二重(性的なものとそうでないものと)の快感、そしてそれらを凌ぐ程の羞恥心。
 
強烈な恥じらいとそれに匹敵する怖れを感じる。
ガードが固い、とゆうより‥ 俺に触って欲しいと思っているのだが、それ以上に恥ずかしがっているな。
その一方で俺に嫌われたくないとも考えているようだ。拒否したら嫌われるかも、とゆう懸念があるのか? ‥いやちょっと違うな。嫌われるとまでは思ってないようだ。
 
 
しかし、なにをそんなに恥ずかしがっているんだ? 朔夜、これは治療行為なんだから恥ずかしくなんかないだろう?
 
「だって‥」 
 
もじもじしている朔夜の左横に座り、肩を抱いてやる。
 
‥こんなことをするのは何年ぶりだろう? 昔は泣き虫だった朔夜をよく慰めてやったものだが。 
小学校高学年くらいかな? あの頃の朔夜は可愛かったなあ。まだ不気味さん化していなかったし。
あの頃の朔夜はよく泣いていた。当時から背が高くて勉強も運動もできて、そのくせ人付き合いが苦手なものだから虐められていたのじゃよ。 
 
ああ、俺が虐めに過剰反応してしまう理由はこれなのかもしれん。
嘘も世辞も冗談も言わない‥とゆうか言えない‥とゆう理由で朔夜を虐めるくせに、富豪の孫とゆうだけの理由で愚鈍の俺にへいこらする連中を見て、俺は『虐めをする奴は屑』とゆう信念を持つようになったのじゃよ。
 
 
 
さてと。突破の難しそうなスカート下方面は迂回するとして、肩から胸方面に行ってみるか。
 
肩や背中を揉み、マッサージしてやる。‥結構疲れが溜まっているな。
むふふふふ。次は胸の腫れを治療してあげるからね、朔夜。
 
「‥ハニー?」
 
シャツのボタンを全部外して、ブラジャーの留め金を外す。
 
朔夜は目を閉じて、俺のなすがままになっている。
震えているが、恐怖や不安の震えではない。いや、俺を満足させられないのではないかとゆう意味での不安なら含まれているが。
うん。良いねえ。
恥ずかしがりながらも全てを受け入れようとしてくれる、この表情が堪らん。
こんなに可愛くなりやがって‥髪を切った看護婦さん、グッドジョブ。
 
とゆうか、元々朔夜は可愛かったんだよな。中学に上がる前くらいから段々不気味さん化してたけど、それ以前は少々変わり者ではあっても‥ 
て、あれ? 何か妙に心に引っ掛かるものがあるな。
 
 
ひょっとして、逆なんじゃないか?
朔夜が不気味女になったから疎遠になったのではなく、俺と朔夜が疎遠になってから不気味化が始まったのではなかろうか?
確か俺の記憶では‥   
 
はて、そう言えばいつから朔夜は俺のことを『ハニー』と呼ぶようになったのだろう?
ああ、頭が痛い。
 
 
 
 
 
なんでも言うことを聞いてくれる(半)裸の女の子。可愛い上にスタイルも良く、一途に俺を思ってくれている。
そんな青少年の妄想が具体化したような存在が目の前で「さあ、ハニー。僕を好きにしておくれっ」と待っているのに、何も出来ない。
 
妹の‥由香の嫉妬が怖い訳ではない。いや、由香もハリセンボンも充分怖いが、朔夜は由香と母さんに認められた『口説いても良い娘さん』なのだ。
口説いても押し倒しても咎められる心配は無い 筈だ。多分。
 
 
では、何が問題なのだ?
俺の知らない許妾だった市子さんは、ハーレムに入れたが抱いてはいない。キスどころか指一本触れてない。
俺は 好きな女以外は抱きたくないからだ。
 
由香が好きだから、抱いた。母さん‥美香もだ。
市子さんは好きになれるかもしれないから、保留した。
 
朔夜はどうだろう? 
 
好きなのだろう。とゆうか好きになる自信がある。元々嫌いではないし。
 
 
何かが引っ掛かっている。ハリセンボンへの恐怖でも恋愛観への拘りでもない、何かが俺の行動を縛っている。
一体何が‥ い、いかん眩暈がしてきた。
 
 
 
10
 
 
気分が悪い。
朔夜の見立てだと、俺は貧血を起こしているらしい。
 
そうか、これが貧血なのか。
健康が取り得の俺には縁がなかった症状だ。痛みで視界が暗くなったことは有るんだが、それとはまた違う感覚。ある意味新鮮ではあるな。
いや、さっきまで朔夜が寝ていたベッドに寝転がって唸っている身で新鮮な感覚も何もあったものではないがのー。
 
 
「ふむ。魔力の使いすぎだな」
 
保健室のベッドに寝転がっている俺の枕元に、いつの間にやらへっぽこ悪魔が立っていました。
来るのが遅いぞこの野郎。とっとと治療しろ。
 
「悪魔使いの荒い奴だ。まあいい、丁度出来たてのがある」
 
サタえもんが手渡す茶色いガラスの小瓶‥って栄養ドリンクの瓶をそのまま使うなよ‥を開け、飲み干す。 うーむ、不味いっもう一杯っ。
 
「ほらよ」
 
元ネタを知らないらしい黒タイツ悪魔が律儀に差し出す同じ霊薬(エリクサー)を受け取り、今度はゆっくりと飲む。
それにしても不味い。なんとゆうか、濃い目の豆茶にとろみを付けて養命酒で割ったような味だな。
だが効果はある。二本目を飲み終える頃には頭痛も治まり、気分が良くなった。
 
「魔力回復用の霊薬だ。これからは常に何本か携帯しておくことだな」
 
それが良いだろうな。
ドラ○エとかだとMP切れになっても魔法が使えなくなるだけだが、現世では魔力の使い過ぎは健康に悪そうだ。以後気をつけることにしよう。
 
 
 
さて、と。貧血も収まったところで問題点を再検討してみる。
 
 
その一 俺の意思
 
問題なし。朔夜は充分に魅力的だ。少々常軌を逸している嫌いはあるが、俺だって人の事をとやかく言える身ではない。
ここまで好いて貰えると、悪い気はしないもんだ。
昨日までなら、いやつい一時間前の俺なら‥朔夜の心に触れることが出来なかった俺なら、朔夜の強烈な慕情に辟易していたかもしれんが。
 
 
その二 由香と母さんの意向
 
多分問題なし。だが事前に許可とゆうか承諾を取っておくべきだろう。つまりこの場で朔夜を押し倒すのは宜しくない。
 
 
その三 朔夜の意思
 
これは‥どうだろう? 
朔夜は俺のことが好きだし、抱かれたがっている。何故かは解らないが、俺と一緒に居たいとゆう脅迫観念にも近い渇望が有るのだ。
今の俺は、かつての朔夜が言いたかったことが解る。
剥製やその他の革製品になりたい とゆう、俺を退かせまくった朔夜の発言は「死が二人を分かつまで」では嫌だとゆう想いの表れなんだ。
 
俺と由香が来世での再会を誓ったのと同じだ。魂に拘るか物質に拘るか、違いはそれだけだ。
 
朔夜は、俺の恋人になら喜んでなってくれるだろう。
だが ハーレムの一員として では流石に嫌だろうなあ。
いくら朔夜が普通じゃないと言っても、喜ぶとは思えん。
 
はてさて、どうしたものやら。
 
 
「悩むことも無かろう。思うが侭に振舞え、支配者よ。それがこの娘の望みでもある」
 
何の話だ? 俺は常に心の求めるままに行動しているぞ?
 
 
俺は朔夜が欲しい。
不気味さん要素が薄れた朔夜は、俺の好みにストライクなのだ。
とゆうかこのところの俺は周りの女の子が魅力的に見えて仕様がない。沙希ねぇやくぬぎさんは無論のこと虎美に名城に百合恵と目も眩まんばかりだ。
当然、朔夜のことも可愛くて堪らない。
 
何を躊躇うのだ。悪行に悪行を重ねてでも、愚行の上に愚行を積み上げてでも『自分の国』を造り、護ると決めたのではないのか。俺よ。
そうだ、どんな手を使ってでも‥
 
駄目だ。
 
そんな目で俺を見ないでくれ。朔夜。
仔犬じゃあるまいし、なんでそんな目付きが出来るんだよお前は。そんな信じきった瞳で見つめられたら何も出来ねえよ畜生。
 
 
「なにが出来ないんだい?」
 
う 声に出てましたか。
 
朔夜は俺の頭を優しく抱きしめてくれた。裸の胸に俺の顔が埋まる。
あー 柔らかい‥ 
母さんの胸とは柔らかさの質が違うな。母さんの成熟した胸はとろけるように柔らかいけど、朔夜の胸は張り詰めた若さが弾力として感じられる。
思った以上に触り心地の良い身体だ。大柄な分抱きしめ甲斐がある。
どんな抱き枕よりも気持ちが良い。
 
いかんな。抱き合って朔夜の胸の音を聞いてると、眠たくなってきた。
 
「疲れているんだね、ハニー」
 
そうかもしれん。回復薬は飲んだが倒れる寸前まで魔力使ったしな。
 
「しばらく眠るかい? 僕で良ければ添い寝してあげるよ」
 
眠くて堪らない俺に朔夜の誘惑を断る気力がある訳もなく‥とゆうか断ること自体思いつかなかった。眠くて堪らない。
保健室のベッドに一緒に寝そべって抱き枕になってくれた朔夜の胸に顔を埋めつつ、俺は意識を手放した。
 
 
 

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