警告!
 
 
        この物語には読まれた方を不快にさせる要素が含まれています!
 
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        我慢がならない方もご遠慮ください
 
 
 
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        この物語は 特定のキャラクターを誹謗中傷する為に書かれたものではありません
        が、そのように受けとめられても仕方が無い部分があります
        ファンフィクションを読んで不快になりたくない方は 絶対に読まないで下さい
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 第三新東京市 地下。
 ジオフロント内部には 原生林が存在する。
 
 何故また地下に原生林が存在するかとゆうと‥説明すると長くなる上に、この話とは関係ないので、ここでは語らないことにする。
 とにかく、ネルフ本部のすぐ傍の地続きの場所に 森と泉に囲まれた『豊かな自然』が在るのだ。  と、納得して頂きたい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 シンジの目の前で 簡易テントが見る見るうちに膨らんでいく。
 軍用品売り場で売られている夜営用の簡単テントだが、嵐も吹雪も起こらないジオフロント内では充分快適に過ごせる宿泊アイテムだ。
 
 
 「さーて、俺は穴掘ってくるから、葛城はカマド作ってくれ」
 
 テントを張り終えた青年‥加持リョウジは、荷物から折りたたみ式のスコップを手に取り、伸ばして肩に担いだ。
 
 
 「加持さんアタシは〜?」
 
 アスカは しゅたっ と挙手して加持に質問する。
 
 「アスカ達は手分けして、水と薪を調達してくれないか」
 
 「‥‥任務了解」
 
 「んじゃ アタシとファーストが燃えそうなモノ集めてくるから‥ シンジ、アンタは水汲んできてね」
 
 「ええっ? 僕だけ「汲・ん・で・き・て・ね」」
 
 一人だけ重労働はあんまりだ と抗議しようとしたシンジだが
 アスカの『ガン付け』に恐れをなして‥ビビったともゆう‥続く言葉を飲みこんだ。
 (は、ははは‥ アスカ‥凄い顔だよ‥)
 なまじ美少女な分、アスカは怒ると夜叉そのものだ。この表情が出たら、決して逆らってはいけない。同居生活のなかで少年が得た真理である。
 シンジは黙って布バケツを受け取った。
 
 
 「シンちゃ〜ん 生水は飲んじゃ駄目よ〜」
 
 えびちゅ片手に、早くも酔っ払った感じなミサトの声を背に受けつつ、シンジは泉の方角へと歩いて行く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                   新世紀エヴァンゲリオン 〜ネルフ奇談〜
 
                    『ジオフロントの虹』
 
        
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 突然だが
 
 エヴァチルドレンの任務は過酷である
 
 
 厳しい訓練に耐え
 いつ襲来するかわからぬ敵に備え
 常識の通用せぬ恐るべき怪物を相手に戦わねばならない。
 
 しかも、負けることが許されない戦いを である。
 
 
 さらにチルドレンによっては、献体として頻繁に技術部の実験に付き合わされたり
 主夫として、生活無能力者である同居人たちの世話をしていたりする。
 
 
 上司の無理解に苦しみ
 既得権益に執着する役人の妨害や類似業者の中傷を受け
 出資者のごり押しの余波に翻弄されながら
 それでも子供たちは戦う。
 
 これが、まだ13〜14歳の少年少女達にとっていかに重荷であることか。
 
 
 
 
 
 繰り返して言おう エヴァチルドレンの任務は過酷である。
 
 
 機械化・高機動化した現代の戦場では、本職の兵隊にも完全休暇が存在する。いや、本職の兵員であるからこそ休息が必要なのだ。
 
 期間はたいして長くもなく、また度々取り消されてしまうのだが、それでも 兵隊には完全な休暇とゆうものが存在する。
 敵襲にも 突如として飛来する銃弾にも 悪魔的な巧みさで仕掛けられた対人用の罠にも怯えずにすむ 安全な休暇が。
 
 休暇中は、後方の基地で好きなだけ安眠できる。
 飲みに行くも良し 博打をうちに行くも良し 一夜の恋を買うも良し。
 なんなら故郷へ、我が家へと‥一時的にせよ‥帰って、家族と過ごすことすら可能だ。 
 
 
 だが、エヴァチルドレンには 纏まった休暇など与えられない。起きていようが寝ていようが、使徒出現の報を受けたなら即座に出動せねばならない。
 
 旅行などもっての他である。
 沖縄への修学旅行どころか、日帰りの海水浴ですらままならない。何時、使徒が出現するか判らぬ以上、対使徒決戦兵器であるエヴァンゲリオンのパイロットが、第三新東京市を離れる訳にはいかないのだ。
 
   
 かくのごとくエヴァチルドレンの任務は過酷なのである。
 そのあまりの過酷さに、当のチルドレンが待遇に不満を抱いたとして 誰が責められようか。
 
 しかし 『じゃあ、いっちょ長期休暇を‥』 とはいかない。
 エヴァとシンクロできる人間の絶対数が足りない以上、無理なものは無理なのだ。
 
 だが、放置して良い問題ではない。
 そこで 子供達の精神的疲労を緩和すべく 代替案が提示されたのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そもそも 事の発端は葛城家の食卓における、保護者と被保護者の口論に有る。
 
 
 
 
 
 
 
 「えぇ〜〜〜!! 林間学校行っちゃ駄目ぇ〜〜!!」
 
 「当〜然でしょ。 使徒は何時攻めて来るかわからないんだから」
 
 アスカの絶叫による抗議を ミサトはビール片手にあっさり受け流した。
 
 「それならそうと早く言いなさいよ! 折角ヒカリと約束したのにぃ〜」
 
 「言われなくても解かるでしょ。 林間学校がOKなら修学旅行にも行けた筈よ」
 
 「行きたい行きたい行きたぁ〜〜〜いっ!!」
 
 
 駄々をこねるアスカの姿に、流しで食器洗い中のシンジは 内心大いに同意している。一緒に駄々をこねようとはしないだけだ。
 
 (もし‥行けたら、楽しかったかもしれないな)
 
 林間学校では6人一組でグループを作り、行動することになっていた。学校行事に良い思い出のないシンジだが‥ トウジとケンスケ、それにヒカリとなら、これまでとは違う展開があったかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 何度も繰り返すようだが エヴァチルドレンには休暇が無い。休日に遠出することも 難しい。林間学校への参加など もっての外である。
 
 ‥‥が、しかし 逆に言えば近場の、緊急時の出動に支障がない場所ならば、まったくもって問題ないわけだ。
 
 以上のような理由により、軽井沢方面の林間学校へ参加できなかった三人のエヴァパイロットたちは ジオフロント内部の森へとキャンプに来たのである。  
 
 
 
 
 いや、更に直接的に考えれば‥ネルフ本部裏に存在する、土地無断使用の密造スイカ畑で 自棄気味のエヴァパイロットたちが無差別スイカ割り大会を企画したことが原因なのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
 「そう言えばさ〜 アタシら沖縄へも行けなかったのよねー」
 
 と、アスカはスイカ畑の中で スイカの蔓をぷちぷち千切りながら言った。
 
 
 「‥‥貴女はまだいいわ。 私は‥温泉にも行けなかった‥ 碇君と一緒に入って手を握ることも‥できなかったの」
 
 レイは足もとのスイカをペタペタ撫で回している。
 
 
 「変なこと言うんじゃないわよっ  一緒に入ったのはマグマよ、マ・グ・マ!」
 
 「‥‥羨ましい」
 
 レイはアスカを上目つかいに見つつスイカを グリグリゴロゴロ と転がす。
 
 「あ、アンタねえ‥」
 
 第八使徒戦において 弐号機ごと火口に沈みかけた所を飛びこんだシンジに掴み上げられて助かったのは事実なのだが‥
 本気で羨ましがられて アスカは絶句してしまった。
 
 
 「あ〜もう、こうなったら身体動かしてストレス解消するしかないわっ ファースト!勝負よっ!!」
 
 「‥‥何を競うの?」
 
 「スイカ割りで勝負よっ! この違法スイカ畑のスイカとゆうスイカを標的に、お互いに目隠しして時間内により多く割った方が勝ち! いいわねっ」
 
 「‥‥そのルールだと審判が必要。碇君を呼びましょう‥」
 
 
 
 「お嬢さんがた、それは脅迫と言わないか?」
 
 人は皆 守るべきモノを持っている。
物騒で不毛な競技のルールについて相談するエヴァパイロットたちの横で、ジョウロを握っている加持リョウジにとって、彼が丹精こめて育てたスイカ畑もまた、そんな存在なのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、場面をリアルタイムへと戻そう。
 
 
 
 「‥‥食用果実発見」
 
 森のなかで枯れ枝を拾っていたレイは 木苺の茂みを見つけた。試しに一つ食べてみると‥ほど良く熟している。
 
 レイは 何事か呟きながらフキの葉を丸めて円錐形のカップを作り、それに木苺を集め始めた。無論のこと 彼女の脳裏にあるのはシンジの笑顔である。
 
 「‥‥碇君に、食べてもらうの‥」
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ふっ ファーストは付いてきてないようね‥」
 
 一方、アスカは薪集めのふりをしながら 森の中を歩いていた。
 レイの姿が視界内に無いことを確かめてから、薪を置いて足を速める。目指すのはシンジがいる筈の泉。
 
 森の小道を歩き‥程なく目標の泉へと到着する。
 
 
 泉は池に近い大きさである。水は澄んでおり、底はかなり深い。僅かだが、泉と小道の接点に水がこぼれている。
 シンジが水汲みの際にこぼしたのだろう‥この泉で間違いなさそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 「あれ‥ アスカ何故ここにいるの?」
 
 泉へ、布バケツを片手に四回目の水汲みにやって来たシンジは 泉の傍に立つ朱金の髪の少女へ声をかけた。
 
 「ふふん。シンジが大変だろうから、手伝いにきてあげたのよ♪」
 
 同居人の少女は腰に両手を当てた、独特のポーズをとって答える。  
 
 「そ、そう‥」
 
 「何よ、このアタシが折角来てあげたのに嬉しくなさそうね」
 
 「え、いや そんな事は無いよ‥うん。 ‥‥だったら最初から三人で水汲みに行けばいいことじゃないか‥
 
 小声の愚痴に ピクリ とアスカは反応した。  うわっ聞こえちゃった?  と本気で怯えるシンジに 
 
 
 「‥‥だって、シンジと二人っきりになりたかったから‥」
   
 と 言って、アスカはそっぽを向いてしまった。
 
 
 「えっ?」
 
 シンジは 己が耳を疑う。
  (‥え? ええっ?  ‥‥何が?   あ そうかアスカは僕をからかってるんだ‥ そうだよね、アスカが本気でそんなこと言う訳ないよね)
  そして自虐的な結論に達した。
 
 言いたいことを言い過ぎてしまったアスカは、耳まで真っ赤になっているのだが‥ 
 自虐モードへ入っているシンジは気が付かない、とゆうかそもそもアスカの顔を見てもいない。
 
 
 
 しばらく固まっていた二人だが、間の緊張に耐えきれなくなったシンジは水汲み作業を開始した。
 と、言っても布バケツを沈めて水を入れ引き上げるだけだが。
 
 
 
 「ほら、半分持ってあげるからさ」
 
 アスカはシンジの持つ布バケツへ手を伸ばす。
 
 「‥い、良いよ別に」
 
 シンジは辞退しようとするが アスカは構わず取っ手を掴む。
 二人はバケツを引っ張り合うような態勢になった。
 
 「アンタねぇ 人の好意ぐらい素直に受け取りなさいよっ」
 
 「う、うん」
 
 
 その瞬間、不幸が三つ重なった。
 
 シンジが手の力を緩めた。いや、緩めすぎたこと
 丁度アスカが引っ張っていたこと
 そのアスカが ラブコメモードに突入していた為に普段の運動神経を発揮できなかったこと。
 
 つまり、惣流アスカ・ラングレーは‥
 
 「!!」 どっぽーーん
 
 
 バランスを崩して転倒。 そのまま泉に落ちてしまったのだ。
 
 
 「あ‥アスカぁっ!」
 
 シンジは泉を覗き込むが‥
 水面が激しく泡立っていて、落ちた筈のアスカの姿が見えない。
 異常なまでの泡である。まるで、階段で落して下の階まで転がしてしまった炭酸水の缶を開栓したような泡だ。
 
 
 そしてその泡の中から 泉の精霊が現われた!
 
 
 
 ‥‥‥‥いや 正確に言うならば出現したのは  『泉の精霊のように見える全身水色で半透明な女の人』 であるが。
 
 
 
 
 「あ、綾‥波‥?」
 
 泉の精?は、何処となく綾波レイに似ていた。(10年後の綾波が髪を伸ばしていれば、こんな感じかもしれないな‥) と、シンジは思う。
 
 
 そして 泉の精‥のようなものはシンジを見据えて
 
 「貴方が落したのは この謙虚お淑やか金のアスカですか?  
 それとも、この知的冷静銀のアスカですか?」
 
 と 言った。
 
 いつのまにやら 泉の精っぽいもの‥の右脇に金髪のアスカが立っている。
 同じく左脇には、銀髪のアスカが立っている。二人とも、髪の色以外は本物と区別が‥少なくともシンジには‥つけられない。
 
 
 答えを待っている泉の精(不確定名)にシンジは
 
 「‥‥え え〜と 落したと言うか‥ 落ちたのは我侭乱暴者家事を全部僕に押し付けてるけど‥ 意地っ張り寂しがりや優しいところも有る、普通のアスカです」
 
 と、答えた。
 
 
 泉の精(面倒なので以下泉の精に統一)は シンジの返答を聞いてにっこりと微笑み
 
 「貴方は正直者ですね。アスカを三人ともあげましょう」
 
と 言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「シンちゃんは水汲みに行ったわよ〜 アスカ‥は見てないわねえ」
 
 「‥‥そう」
 
 キャンプまで戻った綾波レイは テント横で折りたたみ寝椅子に寝そべって日光浴しながら傍らにえびちゅビールの空き缶の山を作りつつある、半裸三十路寸止め女の言葉を聞いて 惣流アスカへの疑いを確信へと変えた。
 
 レイは薪を捨て置き 小走りに泉へと向かう。
 
 
 (‥‥セカンド‥ 抜け駆けは重罪なの)
 
 シンジを巡って交わされた幾度の紛争とその狭間の冷戦を経て締結された、淑女協定を無視するかのようなアスカの暴挙に、レイは怒っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「だぁ〜れが我侭で乱暴者だってのよ?!」
 
 「ぎ、ぎぶあっぷ‥‥」   ぱんぱんぱん
 
 泉の精は三人のアスカを残して去っていった。
 残されたアスカ(赤)にフェイスロック(顔面絞め)を掛けられたシンジは、地面を平手で叩いて降参するが‥
 締め上げるアスカ(赤)は、シンジの降伏を受け入れない。
 
 「アスカさん暴力はいけません」
 
 金のアスカがアスカ(赤)を止めようとしているが、効果はない。
 
 「まあ、アタシら全員アスカなんだけどね」
 
 銀のアスカは 我関せず といった風情だ。
 
 
 
 
 
 そんな痴話喧嘩の真っ只中に 蒼銀の髪の少女が乱入する。
 
 レイと三人のアスカの視線が 交叉した。
 三人に増えたアスカを目撃したレイは一瞬硬直したが、素早く立ち直り思考を巡らせる。
 
 (セカンドが増えている‥本部への潜入を図る工作員?  ‥違う、本部付近まで侵入した工作員がここまで容易に存在を表すのは不自然。  使徒の浸透攻撃? 違う、‥使徒では無い‥使徒の感触ではない。  分裂による自己増殖?  ‥判断を保留‥)
 
 「‥‥ゾウリムシ?」
 
 「誰が単細胞かっ!」
 
セカンドは単純、俗に言う単細胞 → 分裂して増えた →セカンドは単細胞生物?
 
 ‥‥とゆう レイの脳内論理三段跳びを、何故かアスカは完璧に理解していた。人は善意よりも悪意の方が察知しやすいのかもしれない。
 
 
 
 アスカ(赤)は、シンジから技を解いて立ちあがる。
 レイは スカートのポケットから携帯端末を取り出した。
 
 「ちょっとファースト‥」
 
 「‥‥赤木博士に連絡するの‥状況報告はパイロットの義務」
 
 「やめてぇぇぇぇっ こんなのリツコに知られたら、絶対に解剖されちゃうわよ!!」
 
 「‥‥三人いるから一人くらい「そんな理由でバラされたくないっ」」
 
 
 
 
 「シンジさん何とかしてください」
 
 涙目状態のアスカ(金)に頼まれて シンジは無印アスカとレイを仲裁しようとする。
 
 「ね、ねえ‥ アスカ その‥ やっぱり、リツコさんに報告しようよ、綾波の言ってる事にも一理あるしさ」
 
 しかし
 
 「何よっ シンジはアタシが解剖されても良いって言うの!?」
 
 『一理ある』 発言に逆上したアスカは、シンジに掴みかかり首を絞め上げ始めてしまった。
 
 「チョ、チョーク‥‥  いくらリツコさんでも解剖なんかしやしないよ
 
 「甘い!!  アンタはあの女の正体を知らないからそんな事が言えるのよっ  アレは本物の○○○いよっ 興味が有れば親でも解剖するわっ リツコに知られたら‥ 絶対に一人、最悪全員が解剖されちゃう‥ アタシは死にたくない 死にたくないのっ  ホルマリン漬けの標本になるのは嫌ぁぁぁぁっ!!」
 
 「解かった、解かったからアスカもう勘弁して‥‥
 
 トラウマを刺激されたのかパニックを起こしたアスカは、細い首をぐいぐいと絞めつけていく。
 シンジは されるがままであり、アスカに逆らおうともしない。
 アスカの激発の原因は自分にある と感じたシンジはアスカの想いの全てを受けきるつもりなのだ。
 
 だが およそ人体には限界とゆうものが有り‥ シンジの顔はみるみるうちに紫色になっていく。
 
 
 「‥‥駄目」
 
 レイが割って入った。アスカの手をシンジの首から引き剥がそうとする。
 
 
 
 ぎゅうぎゅうと絞め上げている少年が痙攣し始めるのを見て、流石にアスカの理性が警報を発した。
 (コノママデハコイツヲシメコロシテシマウ)
 慌てて首から離そうとするアスカの手を、レイが横から掴み 乱暴に振りほどく。
 
 
 そして、レイはシンジの首に両手を回して絞め始めた。
 
 三人の様子を固唾を飲んで見守っていた金と銀のアスカが ぶっこける。
 
 「碇君は私が絞めるの‥」
 
 彼女の脳内では
 
セカンドが碇君を虐めている → にも関わらず碇君はセカンドを心配している → 碇君は虐められるのが好き? つまりマゾ? → 碇君を上手に虐めてあげれるのは私だけ
 とゆう 論理の四段飛びが行なわれているのだ。
 
 
 
 予想外の展開に一瞬呆気にとられたアスカだが、気を取り直してレイの手を掴み、捻じり上げた。
 アスカとレイは そのまま掴み合いに移行する。シンジは今度こそ開放されて、泉のそばにへたりこんだ。
 
 
 
 
 またもや悲劇は起きた。
 
 簡単に言えば レイとアスカの掴み合いが殴り合いへと発展して、アスカの踵落しがレイに決まる寸前、シンジは咄嗟にレイを突き飛ばしたのだが‥
 その方向が たまたま泉だったのだ。
 
 
 どっぽーーーん  
 
 
 「あーあ やっちゃった‥」
 
 アスカ(銀)の呟き声。
 
 
 
 
 
 当のアスカは シンジがうずくまり激しく咳き込んでいる姿を見てシンジの傍らへと跪いた。
 
 「シンジ‥」
 
 アスカは げほげほと咳き込み続けるシンジの背中を撫でさする。
 
 (御免ねシンジ ‥って何故言えないんだろう)
 
 いや 本当はアスカ自身が解かっている。
 怖いのだ。怖いから、素直になれないのだ。自分の心に正直になれば‥ シンジへの想いを抑えつけることができなくなる。
 アスカの心は雪崩をうって シンジへと押し付けられるだろう。
 
 そして 依存してしまうのだ。
 シンジに いや、相手の男に。彼女の母と同じように。
 
 ‥‥そうなれば シンジはアスカの全てを受けとめようとするだろう。
 なにしろ、シンジは馬鹿なのだ。
 火口に落ちたアスカを救う為に、耐熱装備なしで灼熱の溶岩に飛びこむ馬鹿なのだ。殺されかねないほどに首を絞められて 逃げようともしない大馬鹿者なのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 泉は沸騰し続けていたが‥ シンジの呼吸が落ちついた頃に 再び泉の精は現われた。
 
 「「やっぱり出たか‥」」
 
 と シンジとアスカはため息をつく。
 そんな二人に構わず泉の精は 
 
 「貴方が落したのは この明るく活発金のレイですか?
 それともこの清楚繊細銀のレイですか?」
 
 と 爽やかに言った。
 
 
 
 「いえ、あの‥落ちた綾波は‥」
 
 「暗く無口偏食が酷い唐変木鉄面皮よ」
 
 「えっと‥その‥ なんて言うか生活環境に無頓着だけど‥」
 
 「只の家事全滅女でしょ」
 
 「‥無垢って言うか純粋って言うか‥」
 
 「つまり無知な子供ってことよ」
 
 「‥‥で、その‥えっと‥ 笑うと、とっても可愛いんです」
 
 「シンジ、アンタ妙にファーストの肩持ってない?」
 
 「アスカが酷いことばっかり言うからだよ!」
 
 
 泉の精は 黙ってシンジとアスカのやり取りを眺めている。
 
 
 「とにかく! 落ちたのは金でも銀でもない、普通のファーストなのっ  解かったのならとっとと返しなさいよっ!!」
 
 
 アスカの返答を聞いた泉の精はにっこりと微笑んで
 
 「貴方は正直者ですね。レイを三人ともあげましょう」
 
と 言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「‥‥どうしよう これから‥」
 
 と、 シンジは頭を抱え
 
 
 「あんまり物事を気にし過ぎると禿げちゃうぞ〜♪ はい笑って笑って〜」
 
 そんなシンジを励ますつもりなのか、明るく活発なレイ(金)はシンジの両頬を ぐにぃ〜 とつまんで持ち上げてみせる。
 
 「‥私たちの時と違う答えをしていたら 泉の精はレイを返さなかったかもしれないわ。シンジ君たちは 間違ってはいないわね」
 
 一方 知的で冷静なアスカ(銀)は違う方向性でシンジを慰めている。
 
 
 
 シンジたちからやや離れた位置では
 
 「皆さん同じ名前だと 混乱してしまいますわね」
 
 謙虚でお淑やかなアスカ(金)と
 
 「‥‥新しい名前を決めないと、いけないわ」
 
 普通のレイと
 
 「シンジさんに決めて貰いましょう‥‥」
 
 清楚で繊細なレイ(銀)は 額を寄せ合って相談中だ。
 
 
 
 「ちょっとアンタら このアタシを無視する気?」
 
 自分の名がでなかった約一名の人物は 少しばかり不満げだ。
 
 
 「だって‥セカンドは‥‥」
 
 「アスカさんは その‥何といいますか‥」
 
 「‥‥名付け親としての能力に欠けているの」
 
 「アタシの何処がネーミングセンスに欠けてるって?」
 
 「「‥‥「シロ・クロ・ミケ・ブチ‥‥」」」
 
 「そりゃ猫の名前でしょうがっ」
 
 
 下校中に拾ったダンボール詰め子猫たちに安直極まりない名前を付けた過去を指摘されてしまったアスカは吼える ‥が三人は気にしない。 
 
 「‥‥『金澪』『銀澪』だと中華になってしまうわ。 ‥‥魔法の瓢箪がないから天竺取経の旅を妨害できないの」
 
 最近、無印レイは西遊記を読んだようだ。残る二人にも
 
 「いくら何でもそこまで安直にはしないと思うけど‥‥」
 
 「シンジさんの方が安心できますから」
 
 と、まあ 酷い言われようである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて そのころ少年少女達の保護者である筈の、三十路寸止めビヤ樽女はどうしていたか‥と言うと
 
 「まぁーもるもっせぇーめるっもくぅーろぉがぁーねぇっのぉーーっ!」
 
 と 歌いながら森の小道を歩いていた。子供たちの帰りが遅いので、様子を見に行かされているのだ。
 
 右手にえびちゅのリッター缶。左手には道端から折り取ったイタドリ(食用野草)の茎。ミサトは 完全に酔っ払いモードに入っていた。
 
 それゆえに 彼女は泉の前で繰り広げられる光景を見ても、驚きはしなかった。
 酔っ払いにとって、同じ人間が何人もいる事は珍しくもない。更に付け加えてサングラスを着用しているので、金銀と無印の区別もついてない。
 
 
 「ん〜〜 何なのアスカ? 三角関係の縺れ?」
 
 「今取りこみ中なのっ ミサトは関係ないでしょ!」
 
 「無関係ってほどでもないけどぉ〜〜  ‥あれぇ? なんでシンちゃんだけ一人なのぅ〜?」
 
 駄目だこりゃ  と シンジはうなだれてしまう。
 溺れる者は藁にもすがる と言うが‥アルコール漬けの藁では試みるだけ無駄である。 いや、そもそも藁にすがって助かる訳もない。ゴムボートか、せめて浮き輪ぐらいに頼りがいのあるモノにすがらなくては‥
 
 
 「そうだ! 加持さんがいた!!」
 
 「‥そうよ!! 加持さんなら何とかしてくれるわっ」
 
 叫ぶシンジ そしてアスカ。
 
 いくら加持でも『七人のチルドレン』状態はどうにもならないかもしれないが、善後策を立ててくれるだろう。
 浮き輪とまではいかなくても、ビート板ぐらいには頼れる。
 
 「加持加持うるさいわね〜 何か悩みが有るならお姉さんに‥」
 
 などとくだ巻いているミサトを置いといて、シンジと無印アスカは手を取り合って喜んでいる。
 
 
 無印レイはそんなシンジに近付いて 言った。
 
 「‥‥行きましょう 碇君」
 
 「う、うん」
 
 無印レイの冷ややかな声‥の原因が、自分がいまだに無印アスカの手を握ったままであることに気付かないあたりがシンジのシンジたる所以である。
 
 
 「アスカばっかりズルイ〜 せめて半分よこせ〜」
 
 金のレイがシンジの右腕をとって、腕を絡める、ついでに手も握る。
 
 「あ、あの‥シンジさん 私もご一緒して宜しいでしょうか?」 
 
 と 言いつつ金のアスカがシンジの左側についた。その様子に、無印アスカと無印レイの機嫌が更に悪くなる。
 
 
 
 なにやら沸き起こる修羅場の予感に、シンジは焦るのだが‥
 
 
どっぽーーーーん  
 
 派手な水音に振り向いたシンジは 泉に盛大な水柱が立つのを目撃した。 
 
 「ミ、ミサトさ〜ん‥‥」
 
 嘆くシンジ。
 
 「つくづく御約束を外さない女っ」
 
アスカは吐き捨てるように言った。
 
 
 
 
 
 
 
 そして 三度泉の精は現われた。
 
 「貴方が落したのは この優秀勤勉な軍人である金のミサトですか?   
それとも この家事万能包容力のある優しいお姉さん銀のミサトですか?」
 
 
 「銀ですっ!」「金よっ!!」
 
 シンジとアスカは ほぼ同時に、叫ぶように答えて‥顔を見合わせた。
 
 「シンジ、アンタ正気?! 金のミサトが手に入ればアタシらはミサトの『へっぽこぷー』な作戦指揮から開放されるのよ?」
 
 「使徒相手に常識なんて通用しないよっ 誰が指揮してもどうせ『へっぽこ』になるんだよ! なら、しっかりした人のほうが良いじゃないか」 
 
 
 泉の精は 言い争うアスカとシンジを冷やかな目で見つめ
 
 「‥‥貴方たちは嘘を言いましたね。 普通のミサトで我慢しなさい」
 
と、言った。
 
 
 「「ええ〜〜そんなぁっ!!」」
 
泉の精は 無印ミサトをその場へ残して、金銀のミサトと共に泉のなかへ消えてしまった。 
 
   
 
 「「‥‥ああ‥」」
 
 シンジとアスカは完全にシンクロした動作で 崩れるように膝をついた。
 うつむいているので表情は良く見えないが、この世の終わりが来たような顔になっていることは間違いないだろう。
 
 
 
 
 
 「ふふふふふ‥ しっかり聞こえたわよ二人とも」
 
 へっぽこ指揮官呼ばわりされたことが、余程くやしかったのか‥
 泉に落ちて酔いが醒めたらしいミサトは泉から岸に這い上がり、まだ突っ伏したままのシンジとアスカに引きつった笑顔を浮かべつつ近寄ろうとする。
 
 が、無印レイと金のレイとに両腕を取られた。そのまま腕関節を決められて泉に投げこまれる。
 いくらか醒めたとはいえ、酔った状態で不意打ちを受ければ ミサトでも抗うすべは無い。
 
どっぽーーーーん
 
 またもや上がる水柱。
 
 
 
 しばらくの時間が過ぎて‥
 
 「泉の精が出てきませんね」
 
 「一度落とした者には二度と反応しない‥ 民間伝承に共通するパターンね」
 
 泉を眺めつつ 金のアスカと銀のアスカが他人事のように言う。
 
 
 
 「‥‥碇君は 正直に答えることができなかった‥‥反射的に答えてしまったのね」
 
 「ま〜 ビヤ樽が三つに増えても鬱陶しいだけだけどね♪」
 
 無理もない、人間は弱い生物なのだ ‥と達観したりはしない無印レイと金のレイが出した結論は
 
 「‥‥「増えた分は減らせば良いのに」」
 
であった。
 
 
 
 
 さらにしばらく時間が過ぎてから、銀のレイはおずおずと発言した。
 
 「あの〜 ひょっとして  葛城さん溺れていませんか‥‥?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 男はニ種類に分類できる。料理のできる男 と できない男だ。
 
 加持リョウジは前者であった。しかも、かなり上手い部類に入る。
 とゆうわけで 彼の目の前ではキャンプの定番であるカレーが 鍋一杯に煮えている。飯盒の方もそろそろ炊きあがるのだが‥ 誰も帰ってこない。
 
 「やけに待たせてくれるじゃないか‥ 葛城」
 
 と、言ってみたところで うらぶれた酒場の隅ならともかく、陽光照りつけるキャンプで焚火の番をしながらでは空しいだけである。
 
 
 
 それから更に10分ほど過ぎて、子供たちとその保護者‥である筈の 三十路寸止めビヤ樽女 が帰ってきた。
 何故かミサトだけはずぶ濡れで、おまけにレイとアスカは三人ずついるが。
 
 「あ〜葛城‥ お嬢さん方が三人ずついるように見えるんだが、これは俺の目の錯覚なのか?」
 
 「あんたの目は確かよ。私の頭が正常ならね‥」
 
 「‥‥‥‥そうか」
 
 加持は一旦言葉を切り、いい具合に吹きあがってきた飯盒を見て 言った。
 
 「飯、足りるかな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「「「「「「‥‥「いっただきまーす!」‥‥」」」」」」
 
 七人の少年少女が唱和する喜びの声。
 
 
 ここは ネルフ本部内の職員用宿舎である。
 金と銀の『新参者』全員へのシンクロテストが行なわれて、全員がエヴァを起動するに足る数値を出したことにより‥金銀のアスカたちとレイたち計四人はパイロットとしてネルフへ受け入れられた。
 
 
 
 無論、事ここに至るまでは色々とあった。
 
 加持は当初赤木博士に相談しようとしたが、一部チルドレンの強硬な反発により、結局は冬月副司令に相談することになったりとか
 取次ぎの保安要員が『緊急事態です』と副司令に言ったとか言わなかったとか
 三人に増えたアスカを見て、冬月副司令が硬直(フリーズ)したり 赤木博士が顎を外しかけたりとか‥‥ 色々だ。
 
 
 ちなみに碇司令は出張中であるため未だ被害に遭っていない。
 いや、時刻からして そろそろ出張から帰って来る筈なのだが。ゲンドウもまた、犠牲者となることは必定である。
 
 ついでに言うと、部下兼同居人達に散々非難された 三十路寸止めビヤ樽女 はネルフ本部裏のスイカ畑で畑の主相手にグチをこぼしていたりするのだが‥  まあ、自業自得とゆうものであろう。
 
 
 
 
 
 さて‥現在、計七人になったチルドレンを地上へ出すのは防諜上拙い とゆうことで シンジたちは未だジオフロント内に留められている。
 実際、葛城家やレイのアパートには 新たな二人の居住者を住まわせる余裕はないので、早急に新しい家屋を用意せねばなるまい。
 それまでは、ネルフ本部内に寝泊りすることになるだろう。
 
 
 
 当然ながら 今晩の食事担当はシンジである。まかなう相手が二人+一羽から六人に増えたのは問題だが、その反面で手伝う手も増えた。
 
 殊勝にも手伝おうとした金のアスカが包丁で指を切ったり、同じく金のレイが皿を割ったり と騒動には事欠かなかったが‥ なんとか今晩の料理は出来あがったのだった。
 
 
 昼御飯のカレーが少なめであったことも有り、七人のチルドレンは皆 空腹だった。
 故に餓鬼と化していた。貪るように食べている。
 あ、いや 謙虚でお淑やかな金のアスカ と 清楚で繊細な銀のレイ の二人だけは餓鬼と化してはいないが。
 
 
 
 
 
 「ぷはー 食った食った(ぽんぽん)」
 
 「アンタねえ、恥じらいとゆうものを持ちなさい」
 
 「だってシンジ君の御飯、美味しいんだも〜ん」
 
 「でも、お腹を叩くのはどうかと思うの‥‥」
 
 賑やかな夕食も終わり、賄い役が板に付きつつある少年は とりあえずの同居人である少女たちの掛け合いを聞きつつ台所で食器を洗っていた。
(今日は色々あったなぁ‥)
 一日に三度も泉の精を見るわ、同僚が三倍に増えるわ 信じられないような事ばかりだったが‥決して嫌な一日ではなかった。
 
 
 感慨に浸りつつ、皿を洗っているシンジは 居間から聞える声が二人分足りないことに気付かなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「‥‥何の用なの」
 
 「ちょっとね、アンタに話したいことが有るのよ」
 
 とっぷりと暮れたジオフロント地上部へと 無印レイを連れ出した無印アスカは
腹ごなしを兼ねて、本部周辺を歩くことにした。
 
 
 「なんか、とんでもない一日だったわねー」
 
 「‥‥そうなの?」
 
 「アンタに常識求めたアタシが馬鹿だったわ」
 
 そのまま、二人はぶらぶらと歩く。
 
 
 
散歩の最中、回転翼機独特の飛行音に空を見上げた二人の目に 本部横の発着場へ見覚えの有る大型ヘリコプターが降下していく姿が見えた。
 
 「CH−64だわ」
 
 「‥碇司令が、帰ってきたのね」
 
 
 
 
 
 
 「‥‥用が無いのなら帰るわ」
 
 と、本部周辺を一回りしたあたりで レイは言った。
 
 「有るわよ。 言い出す切っ掛けが掴めなかっただけよ」
 
 「‥‥なら、言えば?」
 
 
 一呼吸の間をおいて アスカは言った。
 
 「ん〜〜 今更言うのも何だけどさぁ‥  アタシ、シンジのこと好きみたい」
 
 
 「‥‥そう。 良かったわね」
 
 「アンタ‥アタシの言ってる事、分かってる? アンタとアタシは恋敵なのよ」
 
 「‥‥そうなるの?」
 
 「あったりまえでしょうがっ!  女二人に男は一人、勝つのは一人だけなのよっ」
 
 「貴方は‥ 碇君が欲しいのね」
 
 レイのあまりにも率直な言葉に、アスカは うぐっ と喉をつまらせるが
 
 「そうよ、悪い? っていうかアンタもそうでしょ!」
 
 吹っ切れたのか アスカは声を荒げて言いきった。
 レイは目を伏せて応じる。
 
 「違うわ‥碇君は決して私のモノにはならない‥  でもいいの、私はもう碇君のモノだから‥」
 
 「も、モノって アンタねぇ‥」
 
 アスカは眩暈を覚えた。
 一瞬、(よもや自分の知らぬうちに、この二人の間になにか有ったの!?) と思いはしたが、シンジに隠し事など出来る訳が無い。『なにか』が有れば即座に判明したであろう。
 
 
 レイはアスカを上目遣いに見ながら、囁くような小さな声で言った。
 
 「‥‥セカンド、貴方は重大な要素を見逃している」
 
 「何を見逃しているってのよ?」
 
 「私と貴方‥ あとの四人はどうするの‥?」
 
 「ふっ 何を言い出すかと思えば‥ このアタシがその程度のことに気付いてないとでも思ってんの?」
 
 アスカはレイに近寄り ぼそぼそと耳打ちした。
 
 
 
 
 
 
 
 10分後。碇シンジは洗い物を終えて食器を片付け、手を拭いて居間に向かおうとした所を‥計六人の少女達に襲撃された。
 
 「え? ちょ、ちょっと何を」
 
 ロープを手にした六人の少女に一斉に飛びかかられ、少年は瞬く間に縛り上げられる。
 
 
 「シンジぃ〜 アンタにも泉に落ちてもらうわよ」
 
 「そ、そんなっ 酷いよっ」
 
 シンジは激しく抗議するが‥ 競争率が最大三分の一まで下がるのだ。六人のアスカとレイが聞き入れる筈もない。
 
 
 「諦めてくださいシンジさん もう決まったことですから‥‥」
 
 「私達三人はチームですから、三人仲良く分裂する事こそがあるべき姿なのです」
 
 「大丈夫だよっ シンジ君だって自分が増えれば楽になるよ!」
 
 「はたしてどんなシンジ君が出てくるのか‥興味深いわ」
   
 六人の少女は口々に好き勝手な事を言いながら、簀巻きにされた薄幸の男子中学生を抱えて運んでいく。
 そのまま 一気にジオフロント地表部まで出る。途中、何人かのネルフ職員とすれ違ったが 誰もシンジたちを止めようとはしなかった。
 まあ、職員の立場からすればアスカ&レイたちに協力することは有っても、シンジに味方することは有り得ない。 
 
 なにせ、エヴァチルドレンが増えて困るネルフ職員はいないのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして 問題の泉に辿り着いた七人のチルドレンの見たものは
 冬月、リツコ、ミサト、加持の四人の手で 今まさに泉に投げこまれんとする
 
 簀巻きにされた碇ゲンドウの姿であった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その後、ネルフ本部は見事なる団結心をもって使徒戦役を乗り切り
 人類には明るい未来がもたらされたそうである。
 
 
 
 
おわり
 
 

 
 
 この物語は USO氏 きのとはじめ氏 HIDE様 【ラグナロック】様
 T.C様 戦艦大和様 のご協力を得て完成しました。感謝致します。