警告!
 
              この物語には読者を不快にさせる要素が含まれています!
 
 
 
 
     現実と虚構の区別がつかない方
     パロディを許容できない方
     オリキャラの存在及び活躍に耐えられない方
     LAS展開を受け入れられない方
     猫と猫耳が嫌いな方
     真面目な物語が読みたい方 
     電波に耐性の無い方
 
     以上に当てはまる方は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい
 
 
     この物語は きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 
     戦艦大和様 JD‐NOVA様 のご支援ご協力を受けて完成致しました
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 時は 過ぎ行くのではない。
 
 過去も未来も 時はただ其処にとどまり、我々だけが移ろいゆくのだ。
 
 実のところを言えば 人間は過去しか記憶できないが為に
 時の方が動いていると錯覚しているに過ぎない。
 
 
 
 
 
 
 航空自衛隊 三沢基地。その地下にある秘密施設の一郭に、その機体はあった。
 金属製洗面器を引っくり返したような丸っこい外見の航空機械だ。
 これこそが 自衛隊の総力を結集して作られた究極の戦闘機。‥の試作品である。
 
 
 格納庫に鎮座する試作機の傍で、派手な色使いのパイロットスーツを着込んだ初老の男がつや消しメタルの装甲を頼もしそうに見上げている。
 
 「長官、これを」
 
 その後から近寄った若い自衛官が男にヘルメットを手渡した。
 
 「うむ。有り難う」
 
 オレンジ色を基調としたパイロットスーツを着込んだ若いクルーに渡されたヘルメットを、同じ装備に固めた初老の民間人は嬉しそうに受け取る。
 
 長官と呼ばれているが、正確に言うなら彼は 元長官だ。
 その名は石田ナリユキ。
 数年前に公職を離れ、今は千葉の山中で晴耕雨読の日々を過ごしている彼が 機密の固まりであるこの場に居ること自体、犯罪行為なのだが‥この場にいる者たちは誰も問題としていない。
 
 彼の功績はあまりにも大きく、そのような些事は問題とならないのだ。
 
 
 日本が領土からの外国軍の撤兵を始めとする大改革に成功したのも‥ いや、下手をすれば亡国の危険すらあったセカンドインパクト直後の混乱を乗り越えれたのも 彼‥石田元長官の手腕があればこそ だ。
 それを考えれば 試作戦闘機の試験飛行に同乗させるぐらいの我侭は何でもない。守秘義務さえ守ってくれれば文句はない。
 
 「‥‥いよいよだ。 『怪獣』め、15年前の借りを返してくれる」
 
 「はい。この機体なら出来ます」
 
 自衛官の声と口調は自信に溢れていた。
 この試作超重装甲戦闘機は、既存の航空機とはモノが違う。レシプロ機に対するジェット機よりも その技術的優位は大きい。
 
 全てはあの『怪獣』に‥
 15年前のあの混乱の最中に現れ、沿岸部を破壊して廻った黒い悪魔に一矢報いるために作り上げられたのだ。
 
 このクルーは憶えている。石田も憶えている。島一佐‥三沢基地司令も憶えている。
 
 あの『怪獣』が 津波に襲われた街を踏み潰し、発電所を食い尽くした夜の恐怖を。
 混乱のなか、避難民の誘導すらままならなかった無念を。
 『怪獣』の脅威を取り除くことができなかった悔しさを。
 
 そして 本土近海に潜む恐るべき敵の存在を、国民の恐慌を怖れるあまり 情報操作により隠蔽してしまったことを‥憶えている。
 
 
 人の意識は 記憶から成り立っている。
 認識も感情も行動も 人の全ては、記憶によって支配されている。
           
 
 
 
 程なく格納庫の屋根が開放され、元長官を含む計七名が乗り込んだ試作超重装甲戦闘機はローターの駆動音を響かせつつ上昇する。
 
 
 「こちらX−1。発進します」
 
 「了解。発進を許可する」
 
 
 人の意識は 記憶によって成り立っている。
 人は記憶によって 状況を把握し 判断して 決断し 行動する。
 
 それゆえに
 ローター音を響かせ垂直に離陸する試作機‥ スーパーXと呼称されるその機体は、元長官を乗せた飛行試験中に『偶然』にも敵と遭遇し、『やむをえず』交戦する予定である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                 新世紀エヴァンゲリオン
           返品不可!! 〜猫印郵便小包〜
 
              第四話 『三大怪獣地上最大の激突』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 海
 
 それは生命の故郷
 
 地球上の全ての生命は この優しき子宮で育まれたのだ
 
 
 
 
 だが、故郷の記憶が 良き思い出のみ有る訳ではないように‥
 
 陽光届くことなき深海には 人間が忘れているものが‥
 
 忘れたいと願う余り 人々が記憶の底に沈めている存在が‥
 
 今もなお 眠っている。
 
 
 
 いや 眠ってなどいない。
 忘れているのは 人間だけだ。
 
 海の底の 復仇戦を望むものたちは
 爪を研ぎ 牙を磨き 立ちあがる時を待っている
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さて、海の底の住人たちについては ひとまず置いておく。
 今は 地上の住人たちについて語るべき時だ。
 
 
 この物語の主な舞台となる筈の場所、第三新東京市。 
 その真下に位置する穴倉 ネルフ本部。
 
 その更に奥の地下にある医療部エリア、特別病室に入院している患者のもとに‥ 
 この物語のメインヒロイン候補が見舞いに訪れていたりする。
 
 
 
 「‥‥ゴジラ?」
 
 ベッドに横たわる入院患者‥中学生くらいの女の子だ‥は身体中包帯まみれではあるが、痛み止めが良く効いているらしく 表情は落ちついていて静かである。
 
 「うん。大戸島とか、北西太平洋の辺りにはそうゆう伝説があるらしいわよ、海で死んだ人々の魂が魔物になって浜を襲いに来るとか来ないとか」
 
 その傍に座り、饒舌に喋る見舞い客‥こちらも中学生くらいの女の子だ‥は 金の縁取りをつけた白いガウンを羽織っている。
 ガウンの胸元からは、その下に着た赤いものの一部が覗いていた。
 
 
 「‥‥それが あの『敵』なの?」
 
 「違うんじゃない? 伝説に出てくる御而羅は精々恐竜くらいのサイズみたいだし。 セカンドインパクトの時に目撃した人が、勝手に伝説と結び付けたんでしょ」
 
 座っている方は朱みをおびた金の髪、そして青い瞳。
 寝ている方は蒼みをおびた銀の髪、そして紅い瞳。
 どちらも掛け値なしの美少女だが 見舞いにきた娘と見舞われている娘の容姿は、見事なまでに対称的だ。
 
 「‥‥では、あれは何」
 
 「う〜ん、そのへん良く解からないのよ。リツコの話だと使徒じゃないのは確かだけど。
小父様が言うには、使徒やEVAを造った文明が残した『放射能除去装置』じゃないかってことなんだけど、証拠はないみたい」
 
 「‥‥そう」
 
 
 さて、連載五回目にしてようやく初登場した この二人。
 見舞い客の名前は 惣流アスカ・ラングレー。
 入院患者の名前は 綾波レイ。
 彼女たちは 二人ともがエヴァンゲリオンの操縦者なのである。
 
 
 「ま、使徒よりは弱いらしいから。行ってさくっと始末してくるわ。アンタは落ちついて寝てなさい」
 
 「‥‥私も「黙れ怪我人」」
 
 「‥‥‥‥」
 
 「大丈夫よ。アタシは負けない。それにもうすぐシンジも来るわ」
 
 「‥‥サードは行方不明」
 
 「ちょっとレイ、それは誰から聞いたの!?」
 
 予備パイロットとして召集された第三のエヴァパイロット(の候補生) 碇シンジ。
 そのサードチルドレンがロストしたとゆう、機密の筈の情報を何故か知っている包帯まみれの少女に アスカは漏洩先を問い詰める。
 
 レイの視線は病室の入り口に向けられた。アスカの視線もその後を追う。
 美少女二名の注目を浴びた 病室入り口のドア付近に立っていた黒服の保安要員は、ばつの悪そうな表情を浮かべて廊下へとフェードアウトしていく。
 
 (情報がだだ漏れじゃないの‥ 日本ってどうしてこうも緊張感に欠けるのよ)
 
 アスカは ゲンドウ小父様も、弛みきった部下を抱えて苦労しているんだろうな ‥と頭をふった。
 
 
 「心配要らない。加持さんが迎えに行ったから、すぐ見つかるわよ」
 
 「‥加持一尉が?」
 
 「そうよ。こと誘拐とか拉致とか監禁とかに関しては、世界一頼りになる人なんだから!」
 
 
 「‥‥そう。 ‥でも」
 
 「でも?」
 
 こつこつと 先ほど廊下へ消えていった黒服が病室のドアを叩いた。
 
 「セカンド、時間だ」
 
 EVA弐号機の起動時間が迫っているのだ。
 
 
 「直ぐ行くわ。‥じゃあね、レイ」
 
 横たわったままのレイの手に軽く触れて、席を立ったアスカは長い髪とガウンの裾を翻して病室を出る。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さて、誇り高きエヴァ乗りが紅い鬼神を目覚めさせている頃。
 本編の主人公である薄幸の少年、碇シンジは‥第三新東京を目指しひた走っていた。
 いや、猫耳さんにお姫様だっこでひた運ばれていた とゆうべきか。
 
 
 
 「お〜〜 見て見てシンジ君、あれが芦ノ湖だニャ〜」
 
 少年を抱き抱えたまま、公道上をローラーブレードで走りつづける猫耳さんは前方左手に広がる湖面を目にして歓声をあげる。
 
 「トラミちゃ〜ん ‥すっごく恥ずかしいよ〜」
 
 シンジは泣きそうな声で抗議するが‥
 
 「我慢するニャ〜 ボクらは駅で目撃されているから、『何処にでもドア』で一気に移動するとタイムラグで偽物だと思われるかもしれないニャ〜」
 
 トラミは妙に細かい理由を挙げて 抗議を受け入れない。
 
 「だったらもっとマシな運び方してくれ〜!!」
 
 ある意味羞恥プレイな移動手段に耐え切れず、少年の泣き言は山間にこだまとなって響くのであった。
 
 
 
 「もぉ〜 シンジ君は我侭だなあ」
 
 トラミは車道の脇に止まり、シンジを降ろした。
 お腹のポケットをごそごそと探り、何やら怪しげな物体を取り出す。
 
 「原動機付ローラーダッシュブレードぉ〜♪」
 
 トランペット風の効果音と共に新たなアイテムが現れた。靴底に車輪が縦一列に並んだブーツ状の靴である。
 いわゆるローラーブレードではあるが‥ そのローラー部分は履きもしないうちから激しく回転し、物騒な唸り声を上げている。
 時折、車輪と車輪の間に小さな稲妻が飛び交っていたりするのが更に物騒だ。
 
 
 「さぁ〜シンジ君もコレを履いて楽しく走るニャ〜」
 
 猫耳さんは 少年の足に物騒なアイテムを装着させようと前屈みの姿勢でにじり寄るが‥
 
 「んな靴履いて楽しめるかぁー!!」
 
 少年は防衛本能の囁きに従い、拒絶しつつ後退する。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さてさて 希薄なんだか濃厚なんだかよく判らない人生を歩む薄幸の少年と
 存在そのものが冗談じみている 猫耳少女型ロボットが地上でコントを繰り広げている頃。
 
 
 新筑波の荒野に建てられた()日本重工業の施設では、日重が作り上げたロボット兵器が出撃を控え最終調整に入っていた。
 
 
 「ふふん いちぢく葉っぱの手先は帰ったか」
 
 何時の間にやら空になっているヘリポートを見て、眼鏡と白衣に身を固めた中年男は傲慢な笑みを浮かべた。
 この中年男は、施設の責任者である時田シロウ主任。
 某組織の技術部長に通じる怪しげな気配‥マッドの空気とでも言うべきものを漂わせている人物である。
 
 「はい。‥ですが、宜しいのですか?」
 
 ヘリポートには、つい先ほどまでネルフが寄越した大型ヘリコプターが停めてあったのだ。
 彼ら救援隊は『ゴジラ』の接近により、日重職員の説得を諦め退避したのである。
 
 「構わんよ。まったく、この期に及んで妨害工作とは髭魔王も笑わせてくれる」
 
 ネルフ憎しの念に燃え狂い、あらゆる事例を悪意で解釈している時田と違い、助手は(一応は避難勧告にやってきた相手にそこまで言わなくても‥)などと思いはしたが、ネルフが寄越したヘリコプターの乗員に罵詈雑言を浴びせ強引に追い払ってしまったことは事実だ。
 今更救助を望んだとしても、向こうは受け入れてくれまい。
 
 となれば 自力で危難を乗り越える他はない。
 
 「唐沢君、火器の調整はどうかね」
 
 「‥概ね問題なし。カタログスペック上の性能は出せるでしょう」
 
 JA‥ 彼らが作り上げたロボットの蛇腹構造の腕が動き、クレーンで吊り下げられた調整済みの火器のグリップを掴む。
 JAことジェットアローンは 簡単に言えば巨大な戦車の車体上に、砲塔の代わりにロボットの上半身を乗せたような構造の機械だ。
 ライフル状のものやロケットランチャーらしきものなど、様々な武器をハリネズミのように装備している。
 ちなみにパイロットはいない。
 機体は無線による直接操作 もしくは搭載されたAIによって自律制御される。
 
 
 「くっくっくっく ネルフの髭魔王と魔女めが‥今日こそ積年の恨み晴らしてくれん」
 
 「なにか有りましたっけ? 恨み」
 
 「唐沢君‥ 君は忘れたのか? 我らのJA計画が何度となくネルフの電動玩具に邪魔されたことを!」
 
 「妨害されましたっけ? 記憶に有りませんが」
 
 「あいつらの電動玩具が予算を馬鹿食いしたお陰で、JAの建造資金を集めるのにどれだけ苦労したことか!」
 
 「まあ、『巨大ロボット』を建造すると言われて素直に協力する人は少ないでしょう。向こうと違って国連の後押しもありませんし」
 
 「うむ。結局、万田さんに頼り切ってしまったな」
 
 「元々万田さんたちが全面的に建造資金出すべきだと思うんですが。発注元なんだし」
 
 「唐沢君、君は孫子を知らないのかね」
 
 「読んだことありません」
 
 「孫子曰く『知将は努めて敵に食む、敵の粟一升食べることは自軍の二十升に値し、敵の豆がら一石を奪うことは自軍の二十石に価する』のだよ!」
 
 「敵の予算で軍備を整えようっ ‥てあたりが根性太いですよね」
 
 「とにかく! 髭魔王とその一党は、私を学会から追放した馬鹿どもと一緒に捻り潰してくれるわっ」
 
 「ネルフはともかく‥博士が学会から除籍されたのは会費を滞納したからでは?」
 
 「払い忘れただけだ!! 」
 
 「結局払ってないんですね」
 
 「たった一ヶ月分だ! それを警告もなしに除名処分にしおって!!」
 
 「博士は元々トンデモ扱いでしたからねえ。嫌われるって辛いですね」
 
 「唐沢君。君は私に喧嘩を売っているのかね」
 
 「今ごろ気付いたんですか?」
 
 
 
 
 
 「ジェットアローン、出撃準備完了」
 
 「時田主任、時田主任、至急管制室までお戻りください」
 
 
 アナウンスに呼ばれた時田は足四の字固めを解き、口から泡ふいて失神している助手をその場に残したまま管制室に向かう。
 
 「何事かね」
 
 「不測の事態です」
 
 時田の見たものは、管制室のモニタに映るリアルタイム映像だった。
 
 赤 青 金色 色取り取りの光線と実体弾が黒い怪物に叩きつけられている。
 絶え間なく続く着弾の閃光と爆炎に覆われ、黒い巨体が殆ど見えない。
 自衛隊の超重装甲戦闘機が、『ゴジラ』に対し雨霰と砲撃を浴びせているのだ。
 
 
 
 
 
 
 戦闘機とは名ばかりの空中要塞‥ 超兵器スーパーXの猛攻は箱根地下の施設でも大いに注目を集めていた。
 
 「凄い火力ね。ウチにも一機欲しいわ〜」
 
 無意識のうちに組んだ腕により、そのモデル並の体型が更に強調されている作戦部長はモニタを物欲しげに眺めていた。
 
 105mmリニヤカノン一門、収束レーザー砲一門、荷電粒子砲一門、203ミリロケットランチャー二門、23ミリ機銃一門の大火力。しかも命中率は100%近い。
 これだけの代物が時速1000キロ以上の速度で飛行できるのだ。ネルフにあればエヴァンゲリオンの直接支援兵器として重宝するであろう。
 
 「でも、効いてないわね」
 
 「そうね‥ やはりATフィールドか」
 
 雨霰の攻撃も、『ゴジラ』に損害を与えている様子はない。
 使徒が持つとされる絶対の防壁‥ATフィールドを、黒い怪物も持っているからだ。
 
 弾幕を押しのけて、黒い巨体が我武者羅に突進する。
 だが、つや消しメタルの重装甲に覆われた機体はローター推力を上げて、悠々と上空へ逃れた。
 怪物の牙も爪も、空しく空を切る。
 
 
 
 「双方決め手なし か。‥時間稼ぎにはなっているけど」
 
 黒髪の作戦部長は、司令塔頂上をちらりと見上げた。
 
 「それはどうかしら。弾切れが先か熱死が先か ‥難しい所ね」
 
 白衣の技術部長は 手もとの画面に目を向けたまま微動だにしない。
 
 「熱?」
 
 「重力分布から推定される『ゴジラ』の自重は約2万トン。それだけの質量を動かせばそれに応じた熱が発生するわ」
 
 「なるほど‥ 熱中症ね」
 
 『ゴジラ』の比重は、エヴァンゲリオンを含めた常識的(と言って良いものかどうか?)生物の10倍以上に及ぶ。
 つまり、黒い魔獣はエヴァの10倍は熱が溜まりやすいことになる。
 コップの湯は三十分もすれば冷めてしまうが風呂桶の湯は何時間も温かい。生物‥に限らずどんな物体も体積が大きくなればなるほど熱が内部に溜まりやすくなる。
 待機状態のエヴァンゲリオンが冷却液の中に浸かっているように、巨大生物体には効果的な排熱が欠かせない。
 
 加えて目標(ゴジラ)は水中から陸上へと上がったことが、熱排出の大きな問題だ。空冷は水冷より冷却効率が悪い。
 人間と違い、『ゴジラ』に汗腺は無いのだ。
 
 
 
 黒い怪物は 不意に足を止めた。
 雨霰の敵弾を浴びつつ 仁王立ちに構える。その背中の三列並んだヒレが帯電して、青白く光り始める。
 
 
 試作戦闘機スーパーXの搭乗員は 『ゴジラ』の次の行動が読めていた。
 当然ではある。スーパーXは元々この怪物を倒す為に設計された兵器なのだ。
 対使徒戦闘を念頭において‥ とは予算獲得の為の方便でしかない。
 
 「砲撃中止」
 
 近代火器の驟雨が、ぴたりと止まる。
 
 「『ゴジラ』、放射態勢に入りました」
 
 「回避できるか?」
 
 機長の問いかけに、正操縦士は平静そのものな声で答える。
 
 「86%以上の確率で回避できます」
 
 「宜しい。ならば、最初の熱線は敢えて受けよう」
 
 
 黒い怪物の口から 青白い閃光が迸る。
 体内に蓄えられた数万度に達する超高温の炎が、数千気圧の圧力で放射されたのだ。
 
 スーパーXに正面から直撃した火炎は、丸みをおびた装甲に逸らされ、放射の勢いに機体は炎で隠れてしまう。
 
 そして 放射が終ったとき
 
 つや消しメタルの装甲を僅かにくすませて、試作戦闘機は悠然と滞空していた。
 
 
 
 
 「機体表面処理、剥離なし」
 「航法、火器管制コンピュータ共に異常なし」
 「ベクター炉、異常なし。限界まで最大出力で約14分」
 「システム回復、93%」
 
 冷却に電力を優先した為に暗くなっていた機内灯が、元の明るさに戻る。
 流石に超重装甲戦闘機でも無傷とはいかない。機体のダメージは見た目より大きい。
 だが、戦闘続行に支障はない。
 
 機長は おもむろに口を開いた。
 
 「我々の直接防御技術‥空間電磁皮膜と耐熱複合装甲は敵火力に勝利した。これより本機は攻撃に移る」
 
 「「「了解!」」」
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さて‥ 南関東の平原で『ゴジラ』対スーパーXの闘いが更なる次元へとヒートアップしようとしている頃。
 箱根の穴倉とその付近では‥
 
 
 「エヴァ弐号機、リフトオフ!」
 
 「リフトオフ!」 
 
 丁度、ネルフが誇る決戦兵器 エヴァ弐号機が第三新東京市の地上部に出されたところだった。
 
 「進路クリアー」
 
 市街には 弐号機の邪魔になるものは何もない。
 可動ビル等、第三新市街の引っ込めれるものは全て収納済みだ。
 
 「付近に障害物なし、大型生物なし」
 
 念の為に、至るところに仕掛けられた監視装置が市街に猫の子一匹残っていないことを確認する。
 
 「エヴァ弐号機、位置につきます」
 
 大通りの端まで歩いた弐号機は 踵を返して屈みこみ、両手を地面につけた。
陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢だ。
 ご丁寧なことに、弐号機が足をつけれるように路面の一部が斜めに持ちあがっていたりする。
 
 「ウイングキャリアー、侵入コースに入りました!」
 
 松代からやって来た巨大輸送機が、外輪山を越えて第三新東京上空へと迫る。
 
 
 「3‥2‥1‥スタート!」
 
 発令所からの誘導に従い、弐号機は大地を蹴って走りだした。
 背中に繋げられた電源ケーブルが負荷となる前に切り離し、速度を上げる。
 
 市街の大通りを疾走する赤い巨人の影に巨大な翼の影が追いつき、重なった。
 翼‥超大型輸送機のコクピットのモニタに、二重円が重なるOKマークが出る。
 
 「とぅ!」
 
 大通りに据えつけられた踏みきり板を蹴り、跳躍する弐号機。
 エヴァンゲリオンの筋力による跳躍は 助走つきだったこともあり、弐号機の巨体を900メートル上空まで易々と跳ね上げる。
 
 跳躍の頂点 上昇と下降の境目、自由落下による無重力が始まるその瞬間に、弐号機の両手は巨大輸送機の腹から吊るされた横棒を掴み、そのまま ぴん と機体を伸ばして飛行姿勢を取る。
 そう。それはサイズの差さえ無視すれば、ハングライダーによる飛行に酷似していた。
 
 
 『ゴジラ』出現の混乱に乗じて指揮権を奪い取ったネルフだが、それ故に『ゴジラ』を討つ責任が生じている。
 その為のネルフです と大見得切ってみせただけに、『ゴジラ』の乱暴狼藉を見過ごすわけにはいかないのだ。
 
 故に、作戦が組まれた。
 エヴァンゲリオン弐号機を超巨大輸送機により新筑波まで空輸、現地の発電所から給電を受けつつ『ゴジラ』を迎撃、殲滅する。
 これが作戦の骨子である。
 
 
 ちなみにMAGIが算出した勝利の可能性は 12.73%。
 これが高いのか低いのか、その評価は人によって異なる。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さて、エヴァンゲリオン弐号機が強羅上空あたりで電源プラグを接続し、輸送機から給電を受け始めた その頃。
 
 弐号機パイロットである、この物語のヒロイン(候補)から世界で二番目か三番目くらいの信頼を受けている青年は
 シンジを巡る銃撃戦の末に廃墟と化した駅舎から1キロ程離れた住宅地の路地で、十余りの銃口に囲まれていた。
 
 
 「あ〜〜なんだ、上海でのことは正直済まなかった」
 
 スパイにあるまじき長髪を後で括った2枚目半風の男‥加持リョウジは借り物の青いスポーツカーの横腹にもたれかけて座っていた。
 もう逃げ場はない。完全に囲まれている。
 
 
 「どうせ裏切られるのならば、最初から信じぬほうがまし。それがこの世界の掟です。気にすることはありませんよ、Mr.kaji」
 
 「そりゃどうも」
 
 言葉とは裏腹に、加持に向けられた銃口は小揺るぎもしない。
 
 
 加持と借り物のアルピーヌを囲んでいる男たちは、某国情報部の精鋭である。全員、ネルフ保安部の黒服とそっくりな姿に儀装している。
 会話からも分かるとおりリーダー格の男‥額に前髪を一筋垂らしたなかなかの色男だ‥と加持は顔見知りだ。
 
 シンジの拉致が彼らの目的だったのだろうが、まんまと逃げられてしまったのだ。
 どうやら彼らはこの失態を、加持の妨害によるものだと考えているらしい。
 事の真相は ただ単に標的の‥標的の傍にいる猫耳ロボットの非常識な力によるものなのだが‥猫耳さんと直接交戦していない彼らにそれが理解できるわけもない。
 
 肉眼で確認し、シンジたちの逃走を助ける形で駅前の大騒ぎに参戦した加持ですら、謎の猫耳少女の大立ち回りを見たときは‥昼食の鯵フライ定食に遅効性の幻覚剤を盛られた可能性を疑ったものだ。
 
 
 「貴方も獲物として悪くはないのですがね。生憎と今度の狩りは大物狙いなのですよ、Mr.kaji」
 
 情報源としての価値が加持にはあるが、シンジを攫うとゆう目的からすれば加持の存在は邪魔でしかない とゆうことだ。
 
 「ならどうする。殺すのか?」
 
 「まさか。エージェント同士で命のやり取りはしない、それがこの世界の掟です」
 
 色男は小さく頭を振る。
 
 「ですが、貴方を自由にさせておくと碌なことになりませんからね。せめて、脚を奪っておきましょうか」
 
 色男‥某国の諜報員は青いフランス車の運転席から鍵を抜き取り、ハンドルを取り外した。
 ついでにギアチェンジバーとサイドブレーキも壊しておく。
 その間に彼の部下たちは、防弾タイヤから空気を抜き、ブレーキ等にも細工している。
 
 
 「では、我々は先を急ぎますので」
 
 部下たちが彼らの車に乗りこむ。色男は車内から89式小銃を取りだし、仕上げとばかりに乱射した。
 
 ドドドドドドドドド
 
 横っ飛びに銃撃を逃れる加持だが、右腿に一発かすめる。
 アルピーヌの方はとゆうと、いかに防弾仕様とはいえ至近距離から高速徹甲弾の連打を浴びては堪らない。
 フランス製の青いスポーツ車は全損状態だ。
 
 
 「ごきげんよう、Mr.kaji」
 
 1弾倉分の弾丸を撃ち尽くした色男は最後の車に乗りこみ‥
 三台の乗用車に分乗した偽黒服どもは、加持を置き去りにして第三新東京へと走っていった。
 
 
 
 「‥しっかり根に持ってるじゃないか。あ〜あ、こりゃ葛城に生皮剥がされるな‥」
 
 物陰から這い出た加持は、傷の応急手当をしつつぼやく。
 最初から撃つならともかく 派手に壊されずに済むかも と期待させておいてから駄目出しするあたりが某国人ならではの根性の悪さだ。
 
 
 
 「まあ、コレまで壊されなかったのは不幸中の幸い‥だな」
 
 傷を塞ぎ、痛み止めと戦意高揚剤を注射した加持はアルピーヌの後部トランクを開けた。
トランクの容積をほぼ占領している機械を取り出す。
 
 「そっちがその気なら‥存分に歓待してやるさ」
 
 加持は手早く機械を組み立てる。
 程なく組みあがった機械。それはエンジンとローターと多銃身機銃を固めて布張り座席を取りつけたような、なんとも武骨な飛行機械である。
 自重僅か60キログラムのミニヘリコプターだが、最高速度190キロを叩き出す小さな怪物だ。武装は5.56ミリチェーンガン×1。
 
 
 
 
 5分後。某国情報部のエージェントたちは空からの逆襲を受けた。
 
 第1撃は奇襲だった。
 湖畔のカーブにさしかかった先頭車両は突如として現れた豆ヘリから銃撃を浴び、左後輪を破壊される。
 制御を失い、ガードレールにぶつかり、中央分離帯まで跳ねかえった先頭車に2台目が接触し、こちらも制御を失い急停車しようとして横転する。
 
 3台目は巧みな運転技術で2台の事故車を避けてみせた。
 
 
 最後の車輌の窓から銃が突き出され空中の敵へと火線が伸びるが、当たる訳がない。
 対空射撃を易々と避けた加持の超小型ヘリコプターは、報復に威嚇射撃を浴びせる。
 その余波(破片等)を浴びて、対空火力はたちまちのうちに無力化した。
 車体にも何発か実弾が命中して、後部の防弾ガラスは真っ白に濁る。
 
 敵わないなら逃げるまで、とばかりに最後の車輛は速度を上げる。
 悪くない判断だ。この手の超小型ヘリコプターは燃料タンクが小さい為に飛行距離は長くない。
 
 
 圧倒的優位に立った加持だが、これからが少々面倒だ。
 迂闊に攻撃して、諜報員を殺すわけにはいかないからだ。
 
 騙すも良し、脅すもよし、嵌めるもよし、攫うもよし。
 だが、諜報員(エージェント)を『殺すために殺す』ことは、諜報の世界ではご法度だ。
 
 馬鹿馬鹿しいようだが‥ 戦場にもハーグやらジュネーブやらの条約が有るように、情報戦の世界にも最低限のルールが有る。
 戦場とは忌まわしく恐ろしいものである。最低限のルールが通用しなくなった戦場は、更に酷くなる。
 
 それに、彼らは加持の命までは取ろうとしなかった。
 だから、加持も彼らを殺さない。
 
 
 加持はミニヘリコプターの座席下から信号銃を取り出し、口に咥えた。片手でヘリを操りつつ器用に弾頭を取りかえて撃ち込む。
 
 
 狙いすました1弾は、見事助手席の窓から車内に飛びこむ。
 信号弾は搭乗者の足元に転がりこみ、濃い黄色の煙を上げながら燃え続けた。
 最後の1台はスピンしつつ急停車。
 車内の全員が外に転がり出て、目鼻口を押さえてのた打ち回っている。
 
 加持が取り替えた信号弾は、スカンク等の鼬類が分泌する臭い成分を科学的に合成した 暴徒鎮圧用弾なのだ。
 無論のこと威力は本物に遠く及ばない。が、ガスマスクを着けていない者の戦闘力を奪うには充分だ。
 
 
 「ネルフ‥とゆうよりリッちゃんを舐めたのが敗因だよ。まだまだ甘いな、ロレンス君」
 
 小さな戦いに勝利した男‥ 加持リョウジは、リーダー格の色男が路上で悶絶していることを確認してから、湖畔沿いの幹線道路上空で第三新へと機首を向けた。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さてその頃、筑波の工場では‥
 
 「正面ゲート開け」
 
 「そこの牽引車どけろ!」
 
 出撃準備に、日本重工業の格納倉庫は混雑していた。
 
 
 「予定より些か早いが‥やむを得まい」
 
 時田主任は徹夜続きで脂の浮いた顔に薄笑いを浮かべていた。
 ネルフの切り札である超兵器、人造人間エヴァンゲリオンがこの筑波へと向かっている‥との情報を受け、日重は予定を繰り上げて彼らの切り札を繰り出そうとしていた。
 
 
 時田はマイクを手に取り、出撃命令を下した。
 
 「ジェットアローン、発進せよ」
 
 「ジェットアローン、発進!」
 
 キャタピラが地面を噛む轟音を響かせ、人の造りし巨人がその産屋を出ようと歩みだす。
 
 
 
 人類科学の叡智か、古代文明の遺産か。
 運命に導かれるかのように 
 真の勝者を決めるべく、闘士たちは決戦の地に集まろうとしていた。
 
 
 
 
 
 続く
 

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