警告!
 
              この物語には読者を不快にさせる要素が含まれています!
 
 
 
 
     現実と虚構の区別がつかない方
     パロディを許容できない方
     オリキャラの存在及び活躍に耐えられない方
     LAS展開を受け入れられない方
     猫と猫耳が嫌いな方
     真面目な物語が読みたい方 
     電波に耐性の無い方
 
     以上に当てはまる方は、以下の文を読まずに直ちに撤退して下さい
 
 
     この物語は きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 
     戦艦大和様 JD‐NOVA様 のご支援ご協力を受けて完成致しました
 

 
 
 
 
 
 
    オープニングテーマ
       『ボク、トラミだよ♪』
 
                           替作詞:きのと はじめ
 
 
 
     1、毛並みツヤツヤ  尻尾ピンピン
       魅力いっぱい  ボク、トラミだよ
       未来の世界の  ネコミミロボット
       どんなもんだい  ボク、トラミだよ
       赤木博士に造られた  ボクの体は無敵だよ
       ボクがシンジを守ってみせる
       トラミだよ トラミだよ
       にゃん にゃか にゃん にゃん
       にゃん にゃか にゃん にゃん
       トラミだよ
 
 
 
 
 
 
                         新世紀エヴァンゲリオン
                     返品不可!!〜猫印郵便小包〜
 
                       第壱話 『配達された一通の手紙』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 無限に広がる大宇宙
 
 その深淵には 我々人類の想像など及びもつかぬ存在が ひしめいている。
  
 
 ‥しかし、逆に言えば
 人類の想像しうる存在もまた、広大無辺なる宇宙には幾らでも存在するわけで
 
 
 ‥‥そして、そんな諸々の存在のなかには
 想像し易すぎるがゆえに、漫画にも滅多に登場しなくなった存在も有る訳で
 
 
 ‥‥‥そして、そんな存在の一例が
 この物語が始まった丁度その頃、木星軌道辺りに差し掛かっていたりするのだった。
 
 
 
 巨大戦艦×1(旗艦)
 戦艦×8
 高速戦艦×8
 重巡洋艦×12
 軽巡洋艦×16
 
 計45隻から成る 宇宙艦隊  が
 
 
 
 
 それは宇宙をさ迷う 殺戮機械。
 闘うことのみに特殊化した 生命群。
 
 それは 個にして全、全にして個。
 一隻一隻が一つの生物であり、艦隊‥群れ自体がまた 一つの生物だった。
 
 いや、同種の生物より構成される群れの全てが
 銀河系全宙域に散らばった艦隊全てが、一つの生物と言えるだろう
 彼らの出自も目的も 全て皆、同じなのだから。
 
 
 
 かつて惑星規模シリコン生命体の守護者として、自動生体兵器として、蟻の巣における兵隊蟻のような  人体における白血球のような働きを務めていた彼らは‥
 あるとき行動シミュレーションプログラムとリアルタイムの混同を起こして、本来の目的から離れた行動をとり始めた。
 
 
 『宇宙は悪意に満ちている』
 『自分以外の存在は 皆、敵となる可能性が有る』
 『生き残らなければ‥』
 『生き残るために 敵を殺さねば』
 『敵を殺さねば‥』
 『殺される』
 『その前に 敵を殺す』
 『殺す』
 『殺す さもなければ殺されてしまう』
 『殺す』
 『殺す 何もかも』
 『殺す!』
 
 
 要は 発狂したのだ
 
 
 
 
 母なる星を離れて
 母なる星を脅かす(可能性を持つ)全ての存在を滅ぼす為に
 彼らは 永い永い旅を続けていた。
 
 
 
 
 彼らの行動原理は単純そのもの
 
 
 全ての敵に死を!
 
全ての敵となり得るモノに死を!
全ての敵を生み出す可能性を持つモノに死を!
 
全ての生命に死を!
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして今、彼らは今回の目標‥現住生物の一部から地球と呼ばれている惑星に、接近しつつあった。
 
 艦隊は、彼らが闘いの旅で編み出した技術によってほぼ完璧に隠密化されていた。
 これまで数度送った偵察隊により集められた情報では、現住生物の技術水準はようやく衛星軌道へ達した程度。現住勢力による迎撃は考えられない。
 地殻破壊弾の一撃で、作戦は完了する筈だ。
 
 
 地球を目指す 破壊者の群れ
 この物語において、彼らを仮にバーサーカーと呼ぶことにする。
 
 
 
 
               ・・・・・ 
 
 
 
 さて、その数時間後。
 当の地球では、この物語の主人公 碇シンジが
 爽やかな朝の空気のなか、目覚めた頃だった。
 
 
 「うひゃあああーーーーーーっ」
 
 朝の空気に響き渡る 少年の絶叫
 ‥‥あまり爽やかでは ないかもしれない。
 
 
 
 
 
 「むにゃむにゃ ‥もう食べれない‥」
 
 シンジの布団の片隅で丸まって寝ている猫耳娘は、お約束な寝言を漏らした。
 寝たまま むにゅむにゅ とむずがり、猫耳がぱたぱた動く。
 
 
 驚きのあまり飛びすざり壁に貼りついていたシンジは、しばらく口をパクパクとさせていたが、なんとか呼吸することを思い出した。
 深呼吸を繰り返して 動悸を抑える。
 
 「‥夢じゃ なかったの‥かな‥?」
 
 
 昨夜の夢の中で トラミと名乗る猫耳少女ロボットの自己紹介を受けたシンジは 『ああ、コレは夢なんだね』 と納得して、そのまま夢の中で寝てしまったのだ。
 
 せっかくの夢なのだから、楽しんでしまえば良いようなものだが‥ シンジには、夢と解かっていながら夢を楽しむことはできない。
 楽しい夢を、愉快な夢を、自分に都合の良い夢を見て
 安らかな気持ちで目覚めて、それが夢だとわかったときの 落差
 その落差を望んで得る程には、シンジの幸福に余裕は無いのだ。
 
 
 
 「‥アント○・リブはもう‥いらないよう‥‥」
 
 夢のなかで苦手な食べ物を薦められているのか、猫娘はうなされ気味だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 人間の自分が蝶になった夢をみているのか それとも、蝶の自分が人間になった夢をみているのか
 それは 誰にもわからない
 
 ‥そんなことを言った思想家も居たそうだが、哲学的な問題はさて置くとして実際に夢をみているときに、夢と現実とを見分ける方法は無いでもない。
 
 およそ見た事も聞いたこともない代物は、夢には登場しないからだ。
 夢を見ている者の記憶が、夢を作る材料なのだから 当然ではある。
 
 
 
 その論理でいくと、シンジが体験しているコレは‥
 昨夜机の引出しから出てきた猫耳さんの存在は‥‥現実であるらしい。
 
 碇シンジ(14歳)は
 猫耳 猫毛皮スーツ 猫尻尾 鈴付き首輪‥姿の美少女が気持ち良さげに猫伸びする光景など、見た憶えがない。
 
 目覚めたその猫耳娘‥同年代の女の子に 「おはよう シンジ君♪」 などと微笑まれたことも ない。
 
 この『勉強小屋』で、ちゃぶ台に誰かと差し向かいで御飯を食べたことも ない。
 
 その御飯‥朝食も、想像もつかなかったほどに美味い。こんな味噌汁を飲んだ記憶は無い。
 
 止めが、このちゃぶ台も おひつも 味噌汁の鍋も 卵焼きと焼きメザシの乗った皿も 大根の漬物の皿も 湯のみと急須も‥
 
 全て猫耳娘のお腹のポケットから出てきたのだ。
 
 
 何処に入っていたのか‥とゆう以前の問題として、どう見てもポケットの幅より大きな物体が
にゅるり ぽん
 
 とゆう 妙な擬音と共に出てきた辺りでシンジはまたもや一時停止してしまったのだが‥ まあ、それは置いておく。
 
 
 
 
 
 
 「ボクの御飯 美味しかった?」
 
 食後のほうじ茶をすするシンジに 猫耳娘が聞く。猫耳娘が出した御飯を薦められるままに平らげてしまった少年‥碇シンジは
 
 「‥‥うん。 とても美味しかったよ」
 
 と 応えた。
 デフォルトでハラペコな男子中学生、しかも家庭料理に餓えている身としては他に答え様がない。たとえ作った者の得体が知れなくとも、美味い飯に罪はない。
 
 「えへへ〜 良かった♪」
 
 喜色満面。
 料理を誉められて、猫耳さんは素直に喜んでいる。
 
 (‥あ‥‥何か 可愛いかも)
 
 頬を染める猫耳娘にシンジは どきん と胸を騒がせてしまう。
 猫耳娘‥トラミと名乗る少女は首から上だけを見るならば 茶虎模様の髪や、同じ模様でもっときめ細かい体毛に被われた猫耳や、鈴付きの首輪などを無視すれば 立派な別嬪さんである。
 無視する箇所が多すぎるのでは? とゆう意見は却下する。
 少なくとも少年の価値観からすれば、人間は中身が一番大事なのだ。ロボットでも何でも同じ事だ。
 
 
 
 
 
 「で‥ お腹が落ちついたところで確認したいんだけど」
 
 シンジは またもやお腹のポケット‥お腹の毛皮にジッパーが付いている‥から出した食器洗い機に二人分の食器を放り込んで洗い始めた猫耳さんに、おもむろに尋ねた。
 
 「君は「トラミちゃん って呼んで欲しいニャー」‥トラミちゃんは未来から、僕を守るためにやって来た、猫型ロボットだ って言うんだね?」
 
 「う〜ん、チョット違うよ。ボクは24世紀の世界から、シンジ君の未来を守るために来た、猫耳ロボットなんだ。
 どこが違うかって言うと、ボクはこの世界の直接未来から来たわけじゃないから、タイムパラドックスの心配要らないし、ボクの使命はシンジ君が生きてる この世界全体を守ることなんだ。
 ‥まさか、シンジ君は世界の破滅なんて望んでないよね?
 
 でね、ボクは見ての通り、猫そのものじゃなくって猫耳なんだニャー。
 猫であり、女の子であり、ロボットである存在!
 ちゃんと三層構造の自我持ってるし、24世紀では人格権だって認められてんだよ♪」
 
 
 猫耳娘のお喋りを聞きつつ、玄米茶をもう一杯。
 シンジはもう、この事態が夢だとは思っていない。
 目の前に居る茶虎毛皮の猫耳さん‥トラミの存在は 現実だ。
 トラミの猫耳も猫尻尾も、安っぽい玩具などではない。
 誰かの悪戯にしては、手が込みすぎている。
 
 しかし 納得はしていない。
 
 (納得しちゃったら‥次は未来から暗殺用のロボットが僕を殺しにやって来るかもしれない)
 
 とゆう 根拠はないが否定しきれない不安を感じたからだ。
 セカンド・インパクト前の映画に、そんなシチェーションが有ったような気がする。
 
 
 
 
 
 ふと、気がつくと トラミのお喋りが止まっていた。
 
 トラミは 勉強部屋の壁を、その一点を凝視している。
 猫が時折みせる、人間には見えないなにかが見えているのでは? と思わせる、あの視線だ。
 
 虫でもいるのかな? とシンジもトラミの視線を追ってみるが、壁にはシミ一つない。
 
 
 「もうこんな所まで‥。御免、ちょっと用事できちゃった」
 
 トラミはシンジに告げると立ちあがり、ドアを開けて外へ‥六分儀家の庭へ出た。シンジも後をついて庭に出る。
 
 
 そのまま ぺたぺたと歩いて、猫耳娘は庭の片隅に有る大きな石‥岩に触れる
 
 一瞬の後
 
 ズボッッ
 
 と、凄まじい音がした。
 
 
 片手で 上から 軽々と
 トラミが、シンジよりも小さな体格の猫娘が
 直径1メートルはある岩石を、七割がた地面に埋まっていた岩を引き抜いたのだ。
 
 
 「ていっ」
 
 トラミは持ち上げた岩を 上空へ投げる。
 
 ゴッッ
 
 数本の木の枝をとび散らかせて、岩が飛んでいく。
 その岩目掛けて一条の青い光が伸びる。トラミの右人差し指‥毛皮手袋の先から伸びた青い光線が岩に当たっているのだ。
 そして その光が岩を押していく!
 
 猫耳さんが投げた岩は、青い光線に押されて 斜め70度の角度で加速を続け‥
 ちょうど上昇コースに浮いていた雲に大穴を開けて、そのまま空の彼方へと消えてしまった。
 
 
 
 
 
 「‥今の 何?」
 
 しばらく呆然としていたシンジだが‥ 光線の照射を止めた後も庭石を投げた方向を小手をかざして見つめているトラミに、取りあえず聞いてみた。
 
 「トラクタービームだよ」
 
 「とらくたあびいむ?」
 
 聞き返すシンジに トラミは
 
 「ほら、アレだよ  空飛ぶ円盤から みょ〜〜 って変な光線が出て牛が引っ張り上げられて盗まれちゃうでしょ?  あの光線の応用して、岩を押してみたんだ」
 
 と 説明したが、かえって解からなくなったようだ。
 
 無理もあるまい。
2 0年前なら通用した説明だが、グレイやMIB(マン・イン・ブラック)の暗躍する都市伝説は2015年の現代では 忘れ去られたネタなのだ。
 ○FOキャッ○ャーは、クレーンゲームの代名詞として生き残っているが。
 
 
 
 
 
 
 
 「‥どうかしたの? シンジ君」
 
 シンジの耳に 中年女性の声が届いた。
 がさがさペキパキ と 木々を掻き分け小枝を踏んで接近する 人影。
 誰か‥ いや、シンジの叔母に当たる人物。六分儀夫人が庭を歩いて此方へと近づいているのだ。
 
 
 「ト、トラミちゃん 隠れてよっ」
 
 慌てるシンジに、猫耳さんは
 
 「何で隠れなきゃいけないニャ?」
 
 と首を傾げる。当然ながらシンジの答えは
 
 「だって、君のコトを どう説明するのさ!?」
 
 とゆうことになる。
 
 叔母 「あらあら 見ない子だけど、シンジ君のお友達なの?」
 シンジ 「はい。昨夜、机の引出しから出てきたトラミちゃんです」
 
 ‥などと説明して、納得して貰える訳が無い。
 
 
 
 そうこうしているうちに 六分儀夫人は目の前まで来てしまった。
 
 (ど、どうしよう‥)
 
 生徒に体罰を加えるのが楽しみで高校教師(体育・生活指導)をやっている『先生』こと叔父程ではないが、この叔母もシンジは苦手‥と言うより 嫌いだ。
 
 なにしろ 以前シンジが自転車泥棒の疑いで補導された折に、派出所から家まで、夜の雨のなか傘も差させずに歩かせたオバハンである。
 結局ずぶ濡れになったシンジは、風邪をひいて一週間寝込んだのだ。
 
 
 
 「おはよう 二人とも」
 
 「おはようですニャー」
 
 
 挨拶した。
 猫耳娘と 六分儀夫人は なにごともなげに 朝の挨拶を交わした。シンジは予想外の出来事に呆気にとられてしまう。 
 六分儀夫人はシンジになにか話し掛けようとして 庭に開いた穴‥庭石がなくなった跡を見た。 
 
 そして
 
 「‥‥シンジ君にはまだ言ってなかったわね、庭石どけたのよ。今度ここに小さな池を造ることにしたの」
 
 六分儀夫人は そうのたまった。
 
 「はいぃ!?」
 
 シンジの顎が カコン と 今にも外れんばかりに 開かれる。
 なぜそうなるのだ?
 庭石はついさっき、猫耳さんが地面から引っこ抜いて
 
 引っこ抜いて‥
 
 引っこ抜いて‥‥
 
 引っこ抜いて‥‥‥
 
 
 ‥‥やはり 夢なのだろうか
 
 
 シンジは思わず頬を抓ってしまうが、あまり意味の無い行動である。リアルな夢だとちゃんと痛覚も有るからだ。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 「おかしな事を言うのねぇ トラミちゃんはずっと前からココにいるじゃない」
 
 にこにこと、(表面上は)機嫌良く話す 六分儀夫人。
 
 「‥‥何時から? 何処から?」
 
 先ほどから シンジは六分儀夫人と押し問答を続けているのだが‥
 暖簾に腕押し、糠に釘。前から人の話を聞かないオバハンではあったが ここまで酷いとは思わなかった。
 
 察しが悪い とか言うレベルの問題ではない。
 相手の、シンジの知性や悟性をを軽んじきっている‥‥早い話 舐めまくっているが故の態度だ。
 シンジにとって、普段なら最低限の会話しか交わしたくない相手ではあるが、この際やむおえない。
 
 いや、それにしても今朝のこの対応は 酷すぎる。
 シンジが夢を見ているのでなければ、オバハンが夢遊病状態なのだとでも考えるしかないのだが‥
  
 
 一方、トラミはとゆうと小手をかざして、岩を投げた方向を眺めている。
 
 「‥すっとらぁ〜いく♪」
 
 なにか良い光景でも見えたのか、満足げに微笑む猫耳さん。
 
 
 シンジたちの方に向き直ったトラミは
 「そう言えば‥‥いつからだったかしら‥‥」などと 頭をおさえてぶつぶつ呟きだし た六分儀夫人を見て
 「むむっ? 再処理しないと駄目かな?」 と 呟いた。
 
 トラミはシンジたちに近寄り、お腹のポケットを探って、なにか取りだした。
 取り出した物体を悩んでいるオバハン‥もとい六分儀夫人に向ける。
 
 
 それは、縦 横 奥行き それぞれ10センチ程の箱だった。
 箱の面の一つには 細い棒が突き出ていて、蚊取り線香のような金属製の渦巻きが箱の面と平行に取り付けられている。
 渦巻きの面と直角の面からは、回転式の取っ手が付いていた。
 
 トラミは 金属箱を六分儀夫人に向けて、箱の横に付いている取っ手を回し始めた。取っ手と連動しているらしく、箱正面の渦巻きが回転する。
 
 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
 
 回転に合わせて機械音が、静かな庭に響く。トラミは10秒ほど取っ手を回して 止めた。
 
 回転する渦巻きを見ていた六分儀夫人が黙りこみ、彼女の視線がふらふらとさ迷う。
 しばらく 沈黙が続く
 六分儀夫人の瞳は 次第に焦点が合ってゆき‥
 
 「‥‥私、シンジ君に 何か用があって来た筈だけど‥」
 
 と 言った。
 
 
 ええと 何だったのかしら   と思いふける六分儀夫人
 
 「ああ、思い出したわ。さっきシンジ君の学校から電話があったのよ‥今日は学校お休みですって。じゃあね、シンジ君」
 
 
 そうして 六分儀夫人は来た道を逆戻りして 母屋へと帰って行った。
 がさがさがさぺキバキポキ と賑やかに。何事も無かったかのように 平然と。
 
 
 
 
 
 
 「‥‥今のは 催眠術か何かなの?」
 
 ぎりぎりと 少年はブリキのロボットじみた動きで首を回して、猫耳さんに尋ねる。
 
 「ううん。コレの威力だよ。‥辻褄合わせ機ぃ〜〜♪」
 
 トラミは胸を張って誇らしげに、渦巻き付きの箱をシンジの目の高さに差し出した。
 
 それと同時に
 ぷっぷくぷっぷーーー
 と 妙な、トランペットじみた効果音が鳴る。
 
 
 「‥‥つじつまあわせき?」
 
 「うん。 これは不確定理論を利用した機械で、人間や人工知能の記憶を都合の良い様に変えちゃうんだ。
 ゲシュタルト崩壊って言ってね、人間は激しいストレス感じると 記憶や認識を自分の都合の良いモノに差し替えちゃうんだけど‥
 辻褄合わせ機はボクの都合の良いように、目標の脳に合理化を起こさせる機械なんだよ。
 昨夜、シンジ君が寝ているうちに この地域の人間、ほぼ全員にこの機械で処置しておいたんだ。
 だから、誰もボクの事を怪しまないんだよ。
 特に監視の人達には 念入りに処置しておいたニャ。
 ボクが何時、どうゆう風にココにやって来て、普段何をどうやって暮らしているか‥
 どんな記憶になってるかを‥今度、暇があったら叔母さんに聞いてみると 面白いと思うよ」
 
 
 
 説明を聞いていくうちに、シンジの顔はどんどん蒼ざめていく。 
 まさか 先ほどのオバハン(あくまでも叔母とは呼びたくない)の奇妙な言動は、コレが原因なのか? 
 それでは、記憶を好きにでるのなら‥
 これまでの‥トラミが引き出しから出てきてから今までの出来事は‥どこまでが現実なのだ?
 
 いや、それ以前に‥ シンジの、僅か14年の人生の記憶は、何処までが本当なのだ?
 
 
 
 少年の怯えを感じ取った猫耳娘は
 
 「心配しなくても シンジ君の記憶は弄ってないニャー。その証拠に シンジ君はボクのことを納得してないでしょ? 
 この機械は辻褄を合わせる‥‥人に納得させる為の機械なんだ。もし、シンジ君が辻褄合わせ機に記憶を弄られているなら
 ボクはシンジ君の妹で 一緒に暮らしている。で、ボクには猫になりたいって欲求があって、普段から猫服着てて、この髪は染めてて、この耳は良く出来た玩具(おもちゃ)だ  とか‥
 ボクはシンジ君の飼っていたトラ猫が変化(へんげ)した化け猫で、シンジ君以外の人には普通の女の子に見えてる とか‥
 ボクはシンジ君の恋人で、仮装(コスプレ)趣味があって、昨夜はシンジ君の部屋で一泊した とか‥  
 とにかく、ちゃんと辻褄が合うんだニャ♪ ‥‥その本人にだけは、ね」
 
 と 言った。
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 さて、トラミの投げた岩はどうなったのか‥時を巻き戻し、視点を移動してみよう。
 
 
 
 謎の光線により加速された岩石は、あっさりと音速を突破した。
 しかし、なぜか音速の壁を破る際の轟音は起きない。当然、衝撃波も発生しない。
 
 岩石はそのまま地球の大気圏を、そして引力圏を離脱して更に加速を続ける。 
 やがて光線の照射は終わったが、岩石は既に与えられた推力により慣性飛行する。目標までの到達時間は 約10分。
 
 
 
 暗黒の世界を征く 計45体の生体兵器群。バーサーカー艦隊に向けて、トラミの投げた岩は飛んでいく。
 
 艦隊の小型艦‥偵察艦としての役割を持つ軽巡洋艦は、当然の如く接近する岩石を察知した。
 高出力のレーザービームを照射して、障害物を排除せんとする。
 ごく短時間の照射で充分だ。飛来する障害物を完全破壊する必要などない。
 ビームは命中箇所に高熱を生じさせ、熱は物体を蒸発させる。その結果、蒸発・拡散が急速に発生した場合 命中箇所で小爆発が起こる。
 つまり 爆発による反作用で障害物の軌道は変更されるのである。
 
 が しかし
 
 レーザービームは ことごとく弾き返された。
 狼狽したバーサーカー艦は、中性粒子ビームに切り替えて接近する岩石を迎撃するが‥
これもはね返される。
 
 警戒担当艦は コレハ自然現象ニアラズ と判断。艦隊全てに警報。バーサーカー艦隊は迎撃態勢に入る。
 
 
 そして‥
 
 艦隊の全センサーを持ってしても、如何なるエネルギーも検出されないその岩石は
 電磁バリアーも 偏光フィールドも スカラー波シールドも 何ひとつ防壁を持たない筈の岩石は
 加えられる攻撃をことごとく無視して 接近する。
 
 もはや回避不可能。艦隊は懸命に軌道を変えようとするが、間に合わない。追尾能力を持っているとしか思えない動きで、岩石は艦隊中央に迫る。
 
 
 最終迎撃兵器‥ レールカノンの固体弾もプラズマカッターの斬撃もものともせず、その岩石はバーサーカー艦隊旗艦に直撃した。
 
 只の一撃で 旗艦の竜骨がへし折られる。 
 そして 艦隊旗艦の中心‥機関部に到達した岩石は 機関部の中枢、正→反物質転換炉及び反物質タンクを破壊した。強磁場の檻に蓄えられた 10トン近いの反物質が開放されて‥役目を終えたATフィールドは、その直後に消滅する。 
 磁場による制御を失った反物質は 周囲の正物質と反応して爆発した。
 
 
 宇宙の片隅で 煌く閃光
 推定爆発力 18×10の18乗J 
 対消滅の輝きのなか 破壊者たちの旅は終わった 
 永遠に。
 
 
 
 
 その後 火星軌道付近で発生した謎の爆発について、その真相を巡って天文ファンの間で喧喧諤諤の論議が繰り広げられるのだが‥
 
 この物語には 直接関係しない。
 
 
 また、旗艦の爆発に巻き込まれ消滅したバーサーカー艦のうち、一隻が放った超空間通信の断末魔は 彼らの同族に受信されており‥
 それが21世紀末の人類統合体と地球外知性体群との戦い 『人類存続戦争』 をもたらす原因となるのだが‥‥ 
 
 やはり、この物語には 直接関係しない。
 
 
 
 視点を元に戻すことにする。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 
 「‥‥とにかく 君が只者じゃないってのは解かったよ」
 
 『勉強小屋』に戻ったシンジは 茶葉を代えて入れられた茶を啜りつつ、ちゃぶ台の向こうに座り、羊羹を切り分けているトラミに そう言った。
 
 
 「ボクがシンジ君の未来を守るためにやって来たの、信じるよね?」
 
 「未来を守る‥か。つまり、僕の未来はすっごく悲惨なんだね」
 
 そうでもなければ わざわざ守りには来ないだろう。
 
 
 「‥うん。このままだと死ぬか、死んだほうがマシだった って思うようになるよ‥ 多分」
 
 
 耳を伏せ、沈痛な表情を見せるトラミに シンジは質問を続ける。
 
 「で、具体的には どんな危険が有るの?」
 
 「色々あるけど‥ とどのつまりは、サード・インパクトが起きて人類は滅亡しちゃうんだ」
 
 
 どて と、胡座をかいたまま、シンジは後方へ転倒する。
 そんな少年に、猫耳さんは更なる追撃を放つ。
 
 「シンジ君は サード・インパクトの時に死んでしまうか、或いは 廃墟になった世界たった一人で死ぬこともできず未来永劫に存在し続ける ことになるよ」
 
 
 
 
 「それ‥ 本当?」
 
 「残念ながら」
 
 「‥‥‥‥‥い、嫌すぎる」
 
 今更トラミを疑いはしないが‥ あんまりな未来の予告に、シンジとしては転がったままうめくしかない。
 そんな少年に向けて
 
 「大丈夫だよ。ボクの楽しみと シンジ君の安全と ボクらの輝ける未来の為になら、ボクは全性能を発揮できるんだ。なんなら世界征服でもしてみようかニャ?」
 
 猫耳の少女型ロボット‥赤木トラミは頼もしげに断言した。
 
 
 
 
 シンジは 身体のバネを使って達磨のように起きあがり、元の態勢に復帰する。
 
 「贅沢言うようだけど‥ 助けてくれるなら、もっと早く来て欲しかったなあ」
 
 「うーん ボクももう少し早めの時点に出たかったんだけど‥ まあ、サード・インパクトの前に来れたんだから勘弁してよ。なんて言えばいいかなあ‥喩えて言えば、ボクは手紙なんだよ」
 
 「手紙?」
 
 「あくまでも配達されるモノであって、自分じゃあ時間軸を動けないんだ。弓と矢で言えば矢。確かに飛んで行くものではあるけど、ロケットみたいな自己推進力は無いんだよ」
 
 「‥‥なるほど」
 
 そこまで話して、会話は一旦途切れた。
 
 
 
 
 
 
 
 「ねぇ ボクのこと‥  怖い?」
 
 しばらくして 恐る恐る尋ねる猫耳娘に
 
 「‥‥少しはね。 でも‥」
 
 と シンジは言いかけて 途中で言葉を切る
 
 
 「でも?」
 
 再び尋ねる猫耳さんに 少年は 
 
 「‥‥これでも、人を見る目は、有るつもりなんだ。君は‥トラミちゃんは、僕を、笑ってない。嘲ってない、馬鹿にしてない、蔑んでない。僕を、虐めて、喜んでる奴らの、仲間なんかじゃ ない 。 それだけは、解かるよ」
 
 一言一言区切るようにして 言った。
 
 
 
 人間誰しもが持つ 心の闇
 その闇のなかに棲む 怪物が
 少年の瞳の奥から 猫耳娘を睨みつけている
 
 
 
 トラミは背筋に ぞくり とするものを感じた。
 それはあるいは 歓喜と呼べるものなのかもしれない。
 
 
 今まさにこの瞬間。碇シンジは赤木トラミにとって  
 被保護者から、相棒候補へと昇格したのだ。
 
 
 
 
 
 
続く
 

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