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この物語は USO氏 きのとはじめ氏 T.C様 の作品と世界観及び登場人物の一部を共有しています
 

 
 
玄星軍団本拠地 涼月庵
 
 
涼月庵は玄星屋敷の裏手に位置する庭園である。
幾つかの池と築山に、松類を中心とした林を組み合わせた構成になっている。
 
 
ぴよ ぴよ ぴよ ぴよ
 
庭の芝生を歩く幼児‥可愛らしい男の子の一歩ごとに、雛の泣き声のような音が立つ。
彼が履いているサンダルは、一歩ごとに ぴよ と鳴るように仕掛けられているのだ。
 
幼児‥五歳くらいの男の子が、小さな竹笊を抱えて庭をうろうろと歩き回っていた。
彼が持っている竹製の笊には 彼が摘んで集めた、青々とした松葉が山盛りになっている。
 
男の子は庭の隅に据えられた水のみ場で松葉を笊ごと洗い、ゴミや土埃を取り去ってから水を切って、縁側に腰掛けて待っている妙齢の美女のもとに持っていった。
 
「はい。かっか」
 
「うむ。しばし待つがよい」
 
妙齢の美女‥ 玄星は受け取った笊を縁側に置くと 一升瓶に焼酎を少量注ぎ、蓋をして振った。
 
 
瓶の内側を消毒した後、焼酎を捨て松葉を入れる。瓶が松葉でいっぱいになったら砂糖水を入れ、瓶の口に蓋を乗せる。
今日の日付を書き込んだ札を付ければ、松葉ソーダの仕込み完了だ。
 
後は日当たりの良い場所に置いておけば 松葉についている酵母菌が糖を分解し、炭酸ガスを作るのだ。待つだけで炭酸ガスが溶け込んだ水=ソーダ水の出来上がりである。
松葉ソーダは天然酵母を使うため、作るごとに味が違う。今日仕込んだ瓶はどんな出来になるか、今から楽しみだ。
 
 
仕込みの後は 二月ほど前に仕込んだソーダ水を二人で試飲してみるが‥
男の子はソーダ水のグラスを抱えたまま こくりこくりと船を漕ぎ始めた。
 
玄星はグラスを取り、男の子の頭を自分の腿に乗せて寝かせた。程なく寝息を立て始めた子供の頬にそっと触れる。
 
 
この子供‥ 碇シンジを預かって一年余りが過ぎた。
泣くわ 愚図るわ 熱出すわ‥で大変な一年だったが、ようやくのことで『子供がいる生活』にも慣れてきた。
預かった子供‥シンジも 今では母のように慕ってくれている。
 
 
 
 
 
 
今では
 
 
 
今は、今は良い。 だが、運命の時が来たならば‥
 
 
 
 
 
 
熱い雫が玄星の手に落ちた。飛沫がシンジの頬にまで散る。
玄星は 我が子とも思うようになった子供の寝顔を眺めるうちに 堪えきれなくなった涙を袖で拭う。
 
悲しかった。
 
己の無力が‥
 
今、彼女の膝の上で眠る子供が真に望むものを与えてやれぬことが‥
ただひたすらに 悲しかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     新世紀エヴァンゲリオン パワーアップキット 第一部 第六・一章(別伝)
 
               『望まれしもの −命−』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
宇宙空間 L-5ラグランジュポイント
 
 
月と地球の引力がつりあう、宇宙建造物の安全地帯。それがラグランジュポイントである。
 
その安全地帯に、大輪の菊花に似た構造物が浮かんでいる。
鏡面処理を施した三千枚程のアルミ箔製鏡で造られた照射施設、アンブレラ11だ。
 
アンブレラシリーズの建設と配置は、日米海洋連合が主導する宇宙開発の一環である。
その建造目的は地球の温度管理を目的とした反射衛星。
地球上空の衛星軌道には、既に数十基の同類が浮かび ある時は地上を、ある時は海面を暖めて地球の寒冷化を防いでいるのだ。
 
常夏の国になってしまった日本はともかく、セカンドインパクトによる影響は地球全体で見れば明らかに寒冷化に傾いている。
元を正せば、今の時代は氷河期と氷河期の狭間なのだから無理もない。
しかしいきなり氷河期になどなられては困る。
 
故に日米‥を影から操る『G』は宇宙へ反射鏡衛星を打ち上げている。
アンブレラシリーズは、MAGI型コンピュータを連結した地球環境シミュレーターの指示に従って地球を暖めているのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
北大西洋海上  
 
 
かつては極寒の海であったが、現在では反射衛星のお世話になるまでもなく暖かい海‥ を渡る白い巨艦があった。
基準排水量55000トンの雄大な船体を誇る 『彼』 の名はアルカディア(理想郷)号。
エヴァンゲリオンを即時戦闘可能状態のまま運搬する為に造られた特殊輸送艦、アルカディア級のネームシップである。
 
 
 
 
特殊輸送艦アルカディア号 ‥の内部 アスカの船室
 
 
 
 
「じゃ、行ってきま〜す」
 
にこやかに宣言して、惣流アスカは自室の四分の一近くを占領している 巨大なゲル化クッションに身を埋めた。
半透明のゲル化クッションが アスカの身体に合わせて変形し、半ば包み込むような形になる。
外界と隔離された船旅に退屈していたアスカだが、本日から禁も解けたことで
このクッションに埋もれて仮想現実世界へと旅立つのである。
 
クッションに半ばめり込んだ赤毛の美少女を見て 加持は(そう言えば‥ここ暫く葛餅食ってないなぁ)などと思った。
 
 
「アスカ、夕食までには帰ってこいよ」
 
「はぁ〜い」
 
 
返事とほぼ同時に髪飾りに内蔵されたインターフェイスが作動し、アスカは擬似的な眠りについた。
彼女の精神は 仮想現実空間へと接続したのだ。 
 
 
 
「さて‥ 俺も一仕事といくか」
 
加持は自分用のPCに向かい、機材の使用許可申請用書類を作り始めた。
アスカはただ遊びに行ったのではない。SEELEの『筑波作戦』を妨害する為に必要な機材を調達しに行ったのだ。
コネを使えば機材の調達はできるが、頼み込む側の礼儀として手続き用の書類ぐらいは用意しておかねばならない。
 
 
 
 
 
仮想空間
 
 
 
ユグラドシル。世界樹。生命の樹。扶桑。
 
それら伝説の神木もかくや と思わせる光り輝く巨木が視界いっぱいに聳え立っていた。梢の先は遥か彼方に霞んでいる。
 
「おーお、今日も大賑わいねえ」
 
空気そのものがぼんやりと光る仮想空間に浮かぶ 赤毛の少女。
惣流アスカの目の前に聳える光り輝く巨樹は、このヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)空間全体を表す模式図である。
 
巨樹の葉一枚一枚が独立した電脳空間であり、枝がネットワーク、幹や枝葉を流れる無数の光の小粒が自律プログラム。
アスカ自身も 光の小粒のうちひとつなのだ。
 
「さあて どこから片付けようかな〜♪ と」
 
なるべく面白そうな場所を探して、仮想現実の指先が揺れ動く。
 
 
 
 
玄星軍団本拠地(通称玄星屋敷) 東地区『日本農園』
 
 
『日本農園』のほぼ中心に位置する 庄屋造りの古びた日本家屋。
平屋建て萱葺の母屋、二階建て瓦葺の離れ、トタン屋根の納屋、白塗りの土蔵、樹齢百年を越える柿の樹を筆頭とした庭木‥などで構成される 旧き良き日本の田舎屋敷。
こここそが、軍団参謀総長乙ハジメの実家である。
 
その昔は関東地方の某所にあったこの屋敷だが、乙が軍団入りして程なく土地ごと軍団本拠地まで引越しした。
そう、土地の岩盤ごと一夜にして消え失せたNERVドイツ支部と同じ様に。
 
 
 
 
 
この屋敷の主、乙ハジメは母屋の縁側に腰掛け、干し芋を茶受けにしつつ電話帳より分厚い冊子‥とある海辺の地域で年二回催される即売会のカタログ‥を捲っていた。
 
カタログのチェック中にも、念話による報告が入ってくる。
軍団最高幹部ともなると暇な時間は殆どないのだ。
 
 
「これで一息つける かな?」
 
現在、軍団の懐具合は暖かくない。
新規取引先から高価な商品を大量に買い付けたからだ。
年月をかけて蓄えた資産のお陰で破産からは程遠いが、最近の収支は大幅な赤字である。
 
大規模な債券発行で持ち堪えているものの、時間を掛ければ確実に払える‥ とゆう保障がないのが問題だ。
なにしろ、現在の軍団はいつ潰れてもおかしくない。使徒に負ければ終わりなのだ。
いや、全ての使徒を倒したとしても、その次に来る破局を防げるかどうかは判らない。
更に言うなら、軍団を取り囲む超越者たちのパワーバランスが少しでも狂えば、その煽りをくらってしまう。
 
噴火する火山の麓の、今にも溶岩流が迫ってきそうな場所にある茶屋に 誰が投資をしたがるだろうか。
出資者が居るとしたら余程の物好きか、あるいはこの悪条件であるにも関わらず 爆発的な勢いで事業を拡大し続けている とゆう点に注目した者たちだけであろう。
 
 
なんにせよ手早く稼ぐ必要があるわけだが、顧客の信頼を第一とする軍団は、セカンド・インパクト前に存在したとある腐れ工業国のように「国交を保ちたければ我が国の(不良)製品を買え」と脅迫する ‥などとゆうような真似はできない。
 
乙を始め軍団の面々は良く売れる新規商品を開発すべく四苦八苦していたのだが、苦労の甲斐あって新しい商品を思いついた。
 
幾多のエヴァ系平行世界に、必ずと言って良いほど存在するターミナルドグマのEVA墓場。そこに転がっている、控えめに見てもダース単位の廃棄EVAを回収し、再加工を施して商品として売り捌こう とゆう案だ。
 
廃棄EVAはそのままでも武器や呪物や医療品の材料として使えるが、再生加工を施せば新たなEVA用部品として使えるようになる。
無論再生には高度な技術とそれなりの手間が必要なのだが、無いところから作るのに比べれば遥かに安上がりで、早い。
問題は品質だが、発想の転換により製法を大幅に変更した結果、再生部品の品質は新造部品と同等の水準に安定している。
 
「お陰で四号機の完成がまた遅れそうだが、『背に腹は変えられない』か」
 
 
デウス・エキス・マキーナ‥からくり仕掛けの神‥とゆう符牒を与えられた究極の決戦兵器、エヴァンゲリオン四号機。
未だ完成してはいないが、実を言うとパイロットの都合さえつけば今すぐにでも出撃できないこともない。
完璧な仕上がりではないが、戦闘が可能な程度には組みあがっている。
しかし、出陣の機会はまだ先のようだ。
 
 
 
 
 
 
 
乙家の土蔵からけたたましい音‥破壊音と悲鳴が響く。
やがて戸が開いて、中から埃まみれの美少女が転がり出てきた。
 
「あいたたた‥ 着地失敗だわ」
 
「何をしているのかね、アスカ君?」
 
騒ぎを聞きつけて土蔵の前までやってきた この家の主‥ 
乙ハジメは、長い赤毛に綿埃の塊をつけたまま地面に転がっている惣流アスカを助け起こすべく 手を差し伸べた。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
玄星軍団本拠地 ‥の西方20キロ 海上
 
 
『日本農園』の主と客が母屋の縁側に並んで座り、電話帳より厚いカタログを捲っている頃。
軍団本拠地の沖合いでは‥とある実験航海が順調に終わろうとしていた。
 
 
 
 
「第一タンク排水」
「ようそろ」
 
温かい海水を掻き分けて、黒い流線型の巨体が海面へと浮きあがる。
排水量一万トンを超える大型潜水艦が大気と海水の接触面へと姿を現したのだ。
 
しかし、潜水艦浮上時に付き物の気泡は 一切ない。
浮上時の変化は、海面の僅かな盛り上がりと航跡波だけだ。
 
あまりにも静かな浮上。それは海面の擾乱を押さえ込むATフィールドの効果である。
 
 
 
72時間の実験航海を終えた反応動力潜水艦『竜宮(Ryu-guu)』は、管制に従いつつ港内に入った。そのまま整備ドックへと向かう。
 
 
 
整備ドック
 
 
係留された艦内から伸ばされたタラップを渡り、乗組員たちが降りてくる。実験艦の乗組員だけあって、皆経験豊かな海の男または女たちだが‥ 例外が約一名いる。
 
長い黒髪を靡かせて宙を舞うように‥いや、本当に飛んでいる瞬間もある‥降りてきた 15〜6歳と思しき愛らしい少女だ。
シンジの妹分たちのような目立つ特徴はないが、その分万人に訴えかける魅力がある。
 
少女が身に纏うものは 白を基調とした、ウエットスーツを連想させるプロテクターである。
両肩に付けられた大ぶりな肩当てには直径30センチはある光球が埋め込まれている。紅く光る、使徒のコアに酷似した光球だ。
 
紅い光球からは翼長1m程の半透明に光る翼のようなものが生えている。
その翼が生み出す揚力が、彼女の身体を宙に浮かべ跳ねさせているのだ。
 
 
 
 
究極兵器エヴァンゲリオン。その力は今更述べ立てるまでもない。
そしてエヴァのエヴァたる所以、構造上の一大特徴が コア である。
神経中枢にして動力炉であるコアこそが、エヴァの本体なのだ。
 
各部骨格・筋肉組織等、エヴァのボディパーツは比較的簡単に造れる。しばしば問題視されるコストも、量産すれば単位あたりの価格は相当に安く上がる。これはエントリープラグを始めとする機器類も同じだ。
 
しかし、コアだけは別だ。専用の設備と材料が調達できない限り、コアの複製は不可能なのだ。
軍団の財力とコネにも限界はある。それに設備の方はともかく、材料は調達できない。
 
何故なら コアの材料はヒトの魂そのものなのだから。
 
初号機を含め、NERV及びSEELEが所有するEVANGELIONのコアには、セカンド・インパクトで死んだ人々の魂が封じ込められている。その数、一個当たりにつき数千万人分。
 
エヴァの肉体は神の肉体である。神の肉体を動かすもの それは神の心。
ヒトが神(リリス又はアダム)の子であるからこそ ヒトの魂は神の力を引き出す基となり得るのだ。
 
 
さて、『G(軍団)』がコアを造れない。となれば、他所の世界から買うか借りるかすれば良い訳だが‥
他世界からのEVA及びEVAの重要パーツを持込むことは『シナリオ』によって禁じられている。
もっとも持ち込みが禁止されなければ、『G』はEVAの大量投入をやりかねない。とゆうか可能かつ妥当と認めれば確実にやる。戦いにおいて数の優越は絶対的有利だからだ。
 
使徒が戦訓をもとに進化学習し、次の使徒へ引き継ぐ危険性がある為に増員したEVAを使徒戦に直接投入することは難しいが、戦力補充が楽になるのは嬉しい。
また、SEELEのEVAに対しても有効なのだが‥
 
『シナリオ』には逆らえない。
 
 
コアの持込が禁止されている以上、稼動するエヴァンゲリオンを増やしたければコアを自作するしかないわけだが‥ 技術及び倫理的な問題で頓挫した。
 
が、しかし 研究は無駄ではなかった。
副産物としてコアに近い働きをする 擬似コア(Fake-core)が開発されたのだ。
 
擬似コアは 人の心に反応する。エヴァと同じように相性によってシンクロするかどうかが決まるのだ。擬似コアと同調し、ATフィールドを始めとする超常の力を引き出す者。
それがコア使い。
その数は 軍団全体でもまだ数十人しかいない。
 
 
 
光の翼を大きく羽ばたかせ、白いプロテクターを纏った少女は空中へと飛び立った。
ドック内を輪を画いて飛び、『竜宮』の乗組員たちに手を振ってから ドック入り口へと向かう。
 
 
 
造船施設とゆうものは 基本的に轟音に包まれている。
大型の鉄板や鋼材を運んだり積み上げたり組みこんだり打ち付けたり溶接したりしているから、当然ではあるが。
特に大型艦船を造っている最中のドックは、大変に喧しい。
 
 
多次元交易組織として発展した玄星軍団だが、異世界との交易に手を出す前の主力事業は造船・海運・海洋調査などであった。
当然ながら現在でも海と船についてはそれなりに技術的・資本的な蓄積があり、軍団本拠地には巨大な港湾施設が存在している。
 
軍団が次元間交易を主力事業とした現在でも 造船は勿論、船舶の修理改装などでドックは常に満員状態に近い。
と言うのも、せっかく造ったドック群を遊ばせておくのはあまりにも勿体無いからだ。
 
ドックとは 船がなければ役に立たないものであり、ドックを活用したければ船を造るか、あるいはお客としての船舶を招くしかない。
そこで玄星軍団は次元間交易組織である点を活かし、平行世界を巡り歩いて見つけ出した
造船施設が使えなくて困っている人々‥紛争中の海軍国は大抵困っている‥から船を預かり、修理や改装を行う商売を始めた とゆうわけなのだ。
 
現在、ドックに並ぶ7隻の大和型戦艦も とある異世界に投入すべく整えられている戦力である。
 
 
 
ドックに並んで改装作業中の戦艦を飛び越えて、少女は港へと飛び出した。
 
上昇気流を受けて、港の上空をカモメと並んで飛ぶ、光の翼持つ少女。
 
彼女の名は天条ヒナコ。
愛称はヒナ。所持するカードは『太陽』
軍団最初のコア使いにして、シンジの親衛隊メンバーの一人である。
 
 
 
 
 
玄星軍団本拠地 東地区 『碧水』射爆場
 
 
 
さて、ヒナこと天条ヒナコが玄星屋敷上空で、シマ荒らしと思われたのか辺りを縄張りにしているトンビに追いまわされていた頃。
彼女の相棒は射爆場で とある実験に挑んでいた。
 
 
訓練や実験の為に、実際に弾を撃ち目標に当ててみる場所。それが射爆場である。
正式には 射撃・爆撃演習場 と呼ぶ。
広めの屋外駐車場を模した『碧水』射爆場の中央付近には 古びたワゴン車が標的として据えられていた。
 
 
標的の運転席から 迷彩服を着た細身の少女が降りる。
歳は14〜5。
色白な肌や細い頤、後ろで三つ編みに纏められた見事な赤毛も見る者の目を引くだろうが、最も目立つものはやや大ぶりながら形の良い目と、その中で真紅に輝く瞳だろう。
 
厚い布地の野戦服に軍用ベスト、足元は合成皮革の軍靴と無骨ないでたちだが、服の中身は研ぎ澄まされた刀のような鋭い気配を発している。
いささか鋭すぎる嫌いがあるほどだ。
 
この少女の名は紅堂(くどう)サキ。愛称はサキ。
所持するカードは『戦車』。
 
 
 
「いつでもいいぞ」
 
標的の前に立つ細身の少女‥紅堂サキは、試射用ステージに立つメイド服姿のモノに試験の開始を宣言する。
 
青いメイド服姿の、一見すると若い娘さんに見えるモノは‥ 碇シンジの下僕を自称する異形者、『女司祭』のソフィーティアである。外見だけは若く愛らしいメイドさんだが、内面は大いに異なる。
『アヒルのように見え、アヒルのように動き、アヒルのように鳴くものはアヒルである』 とゆう言葉がある。
ならば 姿だけは人のように見えても、言葉と行動が人から離れ過ぎているモノは 人と同列に並べられない。少なくとも当人は余人と並べられることを望んでいない。
 
この両名もシンジの護衛である 通称『シンちゃん親衛隊』 のメンバーなのだ。
護衛されるシンジ本人は、この恥ずかしい通称を非常に嫌がっているのだが‥ 
なぜか親衛隊メンバーは全員が気に入ってしまったらしく、変更しようとしない。
 
 
 
栗色の長髪をなびかせて、メイド服姿のモノは銃を抜いた。白手袋をつけた形の良い手に、大型回転式拳銃(S&W M66)の銃把が握られている。
 
銃とは 銃口が目標へ向いていれば当たる とゆうものではない。
風(空気の流れ)だけではなく、弾薬や銃身の温度、火薬の変質状態、弾頭の形状、空中の微粒子、地球の重力と自転等々‥ 弾道の決定には様々な要素が複雑に絡み合っている。
 
ソフィーティアは本物の射撃家(シューター)ではない。白手袋に覆われた手は常人の約百倍の怪力で銃を完全に固定して反動を吸収してはいるが、弾道を決める細かな特性には詳しくない。
無頓着と言っても良い。所詮、拳銃は至近距離で使うものと割り切っている。
遠距離の敵を撃ちたければ狙撃銃ではなく重機関銃か携行ミサイルの類を使う。性格的に精密射撃に向いていないのだ。
それに、この距離ならば大した問題にならない筈だ。
 
ソフィーティアは正確に一秒間隔で撃つ。全六発のうち二発がワゴンのボディにめり込み、四発はサキの一メートル程手前で見えない壁‥ATフィールドに止められた。サキの眼前で潰れた真鍮披甲弾を中心に、幾つもの色鮮やかな光の波紋が起きる。
 
サキはコア使いではない。外付けのコアと同調するのではなく、生身でATフィールドを使えるのだ。
 
 
 
排莢、再装填。ソフィーティアが手にとった弾丸は通常弾ではなく、灰白色の金属光沢を持つ弾頭だ。
新しい弾薬が六連弾倉に込められる。
ほぼ同時にサキの前‥ 空中の見えない壁にへばり付いていた弾頭が地面に落ちた。
 
これからが実験の本番である。最初の六発(通常弾頭)は比較の為に撃ったのだ。
今弾倉にある弾は ATフィールドを貫く為に作られた特殊弾なのだから。
 
 
対ATF弾。
『絶対の防壁』を突破するこの兵器は、実は既に実戦で使われその威力を証明している。
2015年5月に起きた EVAによる史上最悪の事故 とされる『リューゲン島事件』において、暴走状態にあるエヴァンゲリオンを撃破し、機能停止に追い込んでみせたのだ。
 
だが、『リューゲン島事件』で撃破されたEVAは再生機。
所詮は使い古しのパーツを寄せ集めた素体に不良品として封印されていたコアを載せた、起動したのが不思議な程劣悪なEVAでしかない。
再生機に通用した対ATF弾が、純正機や使徒に通用するかどうかは使ってみないことには分からない。
だから 試す。
 
 
ソフィーティアは、今度は慎重に狙いを付けた。
 
 
発砲
 
 
白手袋に覆われた指が引き金を絞り、落ちた撃鉄の先端が回転弾倉に込められた38口径弾の尻に仕掛けられている発火薬を叩き、発火させる。
 
炎は薬莢のなかに文字通り爆発的な勢いで燃え広がり、発生した燃焼ガスが薬室前方にあるちっぽけな金属の塊に運動エネルギーを与え、小さな金属塊は膨張する燃焼ガスに押され更に前方の細長い通路に押し出される。
 
通路‥銃身に真鍮を張り付けた側面を押し付けながら金属塊は突き進み、銃身に抉られた螺旋の溝は摩擦による損失と引き換えに運動エネルギーの一部を回転力に変換し、弾道の安定を約束する。
遂に銃身から飛び出した金属塊‥弾頭は外気にぶつかり、衝撃波を引起す。これが銃声だ。
発射された弾頭は空気の壁を抉りつつ、標的めがけて突き進む。
 
 
銃声とほぼ同速で飛来した弾頭は 張り巡らせられた『絶対の防壁』を打ち破り、サキの胸元に命中した。
 
 
 
 
 
サキは迷彩服の胸元をはだけて、その下に着込んでいる防弾服の表面で半ば潰れて止まっている対ATF弾を摘み出した。
 
「使徒には効きそうですわね」
 
ATフィールドは破れるわけですし‥ と弾倉から対ATF弾を取り出そうとするソフィーティアの手を、サキは身振りで止めさせる。
 
「ついでだ。対ATF弾対策の実験も済ませてしまおう」
 
撃ってこい と手招きする紅の少女。
 
「‥いくらサキさんでも、当たれば命に関わりますわよ?」
 
サキでも‥とゆうよりはサキだからこそ対ATF弾は危険なのだが‥
ここを狙え、とばかりに紅い瞳の少女は人差し指で自分の額を指した。
 
「むしろ殺す気で来い。殺気のない弾のほうがやり辛い」
 
ソフィーティアは銃を構え、慎重に狙いをつける。
対ATF弾はATフィールドを貫通し使徒に対して大損害を与えるが、要は当たらなければ良いのだ。
直接当たりさえしなければ、使徒に対して必殺の威力を誇る対ATF弾といえど意味はない。
どうやって防ぐのかは分からないが、サキが出来ると言うのなら出来るのだろう。
 
紅堂サキは生まれついての戦士なのだ。
こと戦いにおいて、彼女の言葉を疑う必要はない。
 
 
が しかし
 
「ひにゃぁ〜〜〜〜!」
 
と上方から響く素っ頓狂な悲鳴に、対ATF弾対策の試験は中止されたのであった。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
玄星軍団本拠地 本館 地図の間 ‥の前
 
 
紅堂サキが試験を中止して、射爆場の上空で相棒であるコア使いに執拗な攻撃を仕掛ける猛禽類を追い払っていたころ。
 
 
 
「と、ゆうわけで義体の予約、宜しくね〜」
 
惣流アスカは地図の間‥元々は名前通り地図の保管と展示用の部屋であり、小規模な会議にも使われる玄星首領の私室‥から出て、次の用件を片付けるべく暗い廊下を歩き出していた。
 
 
さて、先刻『日本農園』の土蔵から現れ、今は館の奥を目指して歩いている このアスカは本物のアスカである。ただし本体ではない。
本体‥生身の惣流アスカはアルカディア号に乗ったままなのだ。
今、此処にいるアスカの身体は乙家の納屋にあった余り物義体であり、それに本体の精神が憑依して動かしているのだ。
 
義体とは何かとゆうと‥
失った手の代わりに作られるのが義手。足の代わりに作られるのが義足。目なら義眼。
では身体全体の代用品が有るとしたら‥ この物語のなかで義体と呼ばれる物がそれに当たる。
 
生身の人間そっくりに作られた、作り物の身体。
 
そのなかに生身の脳と神経系を入れればサイボーグ。
AIなりなんなりで自律制御させればロボットとなる。
今のアスカのように遠隔操作している場合はパペットボディとでも呼ぶべきか。
 
 
「やっぱBランクの義体はレスポンス悪いわね〜」
 
アスカは片腕をぐるぐると回した後、グー、チョキ、パーとすばやく手の握り方を変えてみる。‥やはり動作が遅くぎこちない。
 
「ご飯も食べられないしさ〜」
 
こういった義体は何種類かにグレード分けがなされている。本人の体細胞から培養された本物と寸分違わぬボディから、喋ることしかできないマネキンの首程度のボディまで色々だ。
 
現在アスカが使っているボディは、味見程度はできるのだが満腹感や血糖のゆらぎ等は楽しめない構造になっている。飲み物の味は分かっても咽喉の渇きが癒される感覚は味わえず、アルコール等で酩酊することもない。
 
世の多くの女性と同じく、惣流アスカも甘味と皮下脂肪の関係に悩まされている身である。
しかし義体でならいくら食べても夢の中で食べているようなものなので、体重計は怖くない。
アルカディア号は客船並の設備が整えられているが、所詮は船。味わえない美味はいくらでもある。
 
そんなわけで、久方ぶりに軍団本拠地で甘味所めぐりでもしようかと思ったものの、グレードの低い義体しか空いていなかったのだ。
 
 
話が少々ズレたが‥ とにかく高品位な義体は気軽に借り出せない代物である。故にアスカは軍団首領が確保しているであろう予備品を目当てに『地図の間』にまで押しかけた訳だ。
 
今日はともかく本番では‥SEELEの『筑波作戦』を妨害するためには高性能義体が必要なのだから。
 
 
「助っ人と義体は確保したから‥あとは得物よね」
 
赤毛の少女の足取りは至って軽い。彼女は根っからの楽天主義者なのだ。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
中部アトラス山脈 地下 アトラス要塞
 
 
SEELE最高幹部の筆頭にして事実上の独裁者、キール・ローレンツは自室で医療機械を兼ねた車椅子に座ったまま 代理人から報告を受けていた。
 
キールの前に立ち報告を続ける代理人(エージェント)は、地味なスーツを纏う地味な印象の優男‥ニル・ライアーだ。
第三新東京市にいるはずのライアーが何故北アフリカにいるのか とゆう疑念はキールの脳裏にない。
元々ライアーは『G』のGuardianと同等かそれ以上に神出鬼没な男なのだ、何処に現れようと何人いようとキールが気にする必要はない。また、気にしても仕方がない。
 
生涯の殆どを魔術系秘密結社の幹部として過ごしたキールは、悪魔 や 妖精 や人工聖霊 や 肉体を捨てて精神だけの存在になった高位魔術師 や 古代文明を築いた異種族の末裔等、様々なものと付き合ってきた。
今更、使徒や宇宙人や異次元人や異教の神々が何だとゆうのだ。
 
 
 
「ワイヤー使いのベックは命を取り留めました。A因子の定着も良好です」
 
「戦力は‥足りているのだな?」
 
「彼の抜けた穴を埋める為に『蜘蛛』『蠍』『蛇』の三名を加え、計8チームで当たります」
 
「少なすぎはせんか。パウルマンはどうした、龍兄弟はまだ口説き落とせんのか」
 
「パウルマン教室の面々はスケジュール調整が間に合いません。 ‥龍兄弟は潰されました」
 
「潰された だと?」
 
「先程、死体で発見されました。じきに報告書が上がるでしょう」
 
「あの龍兄弟がか‥相手は何者だ?」
 
「分かりません。『G』の戦力であることは確かですが」
 
この数日 キールが挙げた龍兄弟だけではなく、SEELEが声をかけている刺客のうち、まだSEELE側に付いた訳ではないが『G』側には付かないであろうと思われる者達が次々と消されている。
 
おそらくは『筑波作戦』に対抗する為に『G』が潰して回っているのだろうが、SEELEに取っても悪いことばかりではない。日和見を決め込んでいる刺客の一部は『G』に潰されたくない一心でSEELE側に付くだろうからだ。
 
「だが、全体としての戦力は落ちるな」
 
「敵の敵は味方。『彼ら』から戦力の提供を受ければ宜しいでしょう」
 
「タイムパトロールを詐称する輩だぞ。信用に価するのか?」
 
「『彼ら』、『私』、そして『貴方』。目指す所は違えど、進む道は同じ筈」
 
「そう‥だな。 いいのか‥ライアーよ。『彼ら』の力を借りれば『ボルフェルク』の再建も容易いのだぞ」
 
「無用です。 愛しきものが死に、美しきものが滅び、尊きものが貶められ、掛け替えなきものが失われる‥ そうでなくては戦などする価値がありません」
 
 
あれから まだ三月も過ぎていない。
『G』との決戦に敗れ、『ボルフェルク』は壊滅‥ フェンリル フリュム ミドガルドシュランゲ ‥ライアーが長年かけて育てあげた手駒は全て失われた。
 
敗因は分かっている。敵の構成分析を誤っていたからだ。
中村シズカが率いる契約猟兵第一大隊は、一見軍隊に見えるが実は別物の組織である。
少なくとも常識が当てはまる軍事組織ではない。死なない兵隊だけで構成された部隊など、反則にも程がある。
 
別物であるにも関わらず、自軍と同質の戦力と見て戦ったライアーが敗れたのは当然の結果なのだ。
 
「不安ならば、この私が『G』の走狗どもを残らず始末して差し上げましょう」
 
全ての兵、全ての信徒、全ての妻子を失って 不死身の刺客が生まれた。
今のライアーには 守るべき何者もない。
故に 恐れる何ものも ない。
 
 
「‥『レーヴァティン』が完成するまで、無用の刺激は避けたい」
 
使徒との戦闘に直接関わってはいないが、SEELEも寝て過ごしている訳ではない。
エヴァンゲリオンの戦力化以外にも色々と行動を起こしている。 『レーヴァティン』なる暗号名を付けられた ある意味でEVAすら越える究極兵器の建造は、構造の単純さもあって順調に進んでいる。
 
「ならば筑波作戦など行わなければ良いのではありませんか?」
 
「奴は‥Dr赤木は危険過ぎる。『G』などよりあの女の方が遥かに厄介だ。 危険人物を放置し過ぎた。過ちは修正されねばならん」
 
「今更始末しても遅いのではありませんか? それに赤木博士を殺せば『G』だけではなく、中立勢力をも刺激することになりかねません」
 
 
短い沈黙を破り、キールは重苦しげに口を開いた。
 
「‥よかろう。ライアーよ、『筑波作戦』は貴様の好きにするが良い。だが、我々の『K−2作戦』には手出しするな」
 
「『K−2作戦』は投機的に過ぎます。リューゲン島の二番煎じが通じるとも思えません」
 
「通じるとも。驕り昂ぶる者にはどんな策でもな。『G』も無謬ではない。いや、今の彼奴らには明らかに隙がある」
 
「罠かもしれません」
 
「構わぬ。それでも我らが失うものは廃棄処分予定の屑コアと数人の妖術使いに過ぎぬ」
 
「作戦がどう転んだところで、リリス・コアの回収は不可能です」
 
「リリス・コアの所在を確認するだけでも良い」
 
ジオフロント最深部に眠るリリスは、肉の塊に過ぎない。ただし神の肉塊だが。
リリスを構成する三要素、霊・肉・核のうち リリスの霊魂は綾波レイの内に、肉体はネルフ本部の地下に在る。だが最後の一つ、リリス・コアだけは何処にあるのか分らない。
十年前までは確かにリリスの体内にあったのだが‥ある日突然消え失せてしまったのだ。
 
それ以来、現在まで行方不明。SEELEの占術でも探知不可能なのだ。
だがしかし、世界の何処にもない とゆうことは、どこか盲点に隠れている とゆうことになる。
結論から言えば 魔術的な探知からリリス・コアを隠せる場所は、リリス本体 もしくはリリスの肉から造られた存在の体内しかありえない。
すなわち EVA零号機と初号機だ。
現在、リリスのボディ内にコアが無い以上は初号機か零号機か、どちらかのエヴァンゲリオンの内部に隠されている筈である。
 
問題は はたしてどちらに隠されているかだ。
 
 
 
               ・・・・・
 
 
アトラス要塞 地下最深部 333エリア
 
 
世界の始まりは火に包まれていた。
 
これは比喩ではない。数十億年前、誕生したばかりの地球はとほうもなく熱かったのだから。
時間の経過により冷えてきたが、それでも地殻の下は灼熱のマントルがうねっているのだ。
つまり、地の底とは深ければ深いほど熱いのである。
 
だが、深度地下6000メートルに及ぶこの333地区は寒い。極寒と言ってもよい。
平均気温−30℃。冷凍庫並の温度だ。
 
 
総天然ものの黒ミンクのコートを着込んだ少女が、霜で覆われた酷寒のエリアを歩いていた。
少女の名はエリザベータ・ローレンツ。健やかな若駒を思わせる凛々しい容貌を持つ彼女は、SEELEが擁するEVAパイロットの筆頭格に当たる。
 
 
 
SEELE最重要拠点であるアトラス要塞は、ジオフロントと同じく古代文明の遺跡である。
いや、箱根地下の空洞と異なり この要塞にはコア製造プラントなどの古代文明の遺産が稼動状態で存在している。
実はジオフロントの地中にも超文明の産物が色々と埋まっていたのだが、使えそうな物や危険性のある物は全てアトラス要塞へと運び込まれている。
欧州の闇に潜んでいた魔術系秘密結社を母体とするSEELEは、不必要に見える程に強欲な組織なのである。
 
現在のNERV本部に残された人知を超えた代物と言えば、最深部で磔になっているリリスぐらいなものだ。
 
さて‥それら世界各地から集めた超文明の産物の一つが、この333エリアに鎮座する熱電コンバーターである。
熱電コンバーターとは 一言で言ってしまえば熱エネルギーを電力に変換できるとゆうエントロピーを壮絶なまでに無視した装置だ。ある意味無からエネルギーを汲み出すS2機関よりも反則な代物だ。
アトラス要塞が消費する電力のうち、少なくない割合がこの熱電コンバーターにより生み出されているのである。
 
熱電コンバーターは周囲から熱を吸収し電力に変える。発電機であると同時に冷却機なのだ。
当然ながらその周辺は極端なまでに冷却される。
 
 
床に積もった霜を厚い靴底で踏み砕きながら歩く栗毛の‥もっとも光沢が自慢の栗毛は殆ど尻尾付きロシア風毛皮帽子で隠れているが‥凛々しい少女は、白い息を吐きつつ目的の人物へと歩み寄っていく。
 
霜に覆われた、凍り付いている筈の壁面の出っ張りに腰掛けて鼻歌を歌っている 半袖の夏用学生服姿の少年‥ 渚カヲルのもとに。
 
 
 
「相変わらず、寒い所で過ごしておいでですのね」
 
「放っておいておくれ。僕は此処が気に入っているのさ」
 
壁にもたれかかって鼻歌(ユモレスクの一章)を歌う半使徒を見上げるエリザベータの口元から、白い吐息が立ち昇り消えていく。
対するカヲルの吐息は全く曇らない。
 
「此処は人が来ないから でしょう」
 
「悪いかい?」
 
「良くはありませんわね。今更貴方に社交性を身に付けろとは申しませんが、用件のたびに此処まで来るのは正直申し上げて骨が折れます。せめて携帯端末の一つも持ち歩いて頂きたいものです」
 
「嫌だよ。そんなことしたら、君が会いに来てくれなくなるじゃないか」
 
「私はそういった冗談が嫌いです。特に凍えているときは」
 
「これは失敬。 ‥ではご用件を伺おうか、女騎士殿」
 
 
 
第四使徒シャムシエルはサードチャイルドの操るEVA初号機により倒された。
その際に初号機‥いや、サードチャイルド碇シンジが見せた戦闘能力はSEELEの予想を遥かに上回るものだったのだ。
問題はサードだけではなく、『G』には更に優秀なパイロットがいることだ。超音速でEVAを動かしたサードを上回る腕前と噂される、セカンドチャイルド惣流アスカである。
この二人以外にも、『G』は独自に集めたパイロット候補を揃え、そのなかから正規パイロットを選出しつつある、と推定されている。
 
『G』との最終決戦において、SEELEはEVA量産機による数の暴力で『G』を打ち倒すつもりであった。
だが、易々と超音速を超えて駆け、数百メートルの高みまで軽々と跳躍する初号機の姿の前に、単純に数で押す戦術は放棄された。
 
サードチャイルドが搭乗したEVA初号機の戦力は、SEELEが揃えようとしている量産型EVAの3〜4倍に達すると推定されている。NERV本部へ配備されるエヴァンゲリオンが零号機・初号機・弐号機・三号機・四号機の計5機とすると、最大で量産型20機分の戦力となる。
 
攻める側は防衛側の三倍の戦力を必要とする とゆう『攻者三倍の法則』と、確実な勝利を得るためには敵の三倍の戦力を必要とする とゆう『必勝三倍の法則』、更に実際の戦闘力は戦力の自乗に比例するとゆう『ランチェスター法則』を計算に入れると、NERV本部を落とすにはEVA量産機60機分の戦力が必要になる。
従来の計算では双方の一機あたりの戦闘能力が互角とされていたので、SEELEの量産EVAは15機もあれば十分だったのだ。
 
 
SEELEがセカンドインパクトによる死者を利用して作り出した、エヴァンゲリオン用コアの総計が57個。そのうち9個は不良品として廃棄もしくは封印されている。
廃棄を免れたコアのうち、6個は品質が悪く EVAのコアとしては最低限の性能しか発揮できそうにない。実践への投入は不可能と見てよい。
更に既に2個はNERV本部へ送られ、3個は『G』に乗っ取られたドイツ支部及びアメリカ支部へと送られたままだ。
 
つまり残るコアは37個。 SEELEは37機までしかエヴァンゲリオンを造れない。
 
 
 
かくて当然の帰結として ‥数で押せないのなら質の向上を図る‥ とゆう案が出てくる。
早い話 適性や技量の低いパイロット候補生を容赦なく落とし、人種・国籍・性別・容姿・縁故の有無等に関係なく優秀な人材をパイロットとして採用すべし とゆう動きが出てくるわけだ。
 
そして 新たな動きがあれば、それに抗う者達も当然出てくる。
何時の世も、パイロットとは腕前が全ての世界に住む生き物。年季も階級も二の次である。
パイロットにとって揉め事とは腕で解決すべきものなのだ。
 
 
 
「そうゆう訳で、貴方に審判をお願いしたいのです」
 
「何時如何なるときも相争わねば気が済まぬ‥ それがリリンか。悲しいなぁ」
 
「競う と言っていただきたいものですわね。審判の件、受けてくださるのか否か、はっきりして頂けませんこと?」
 
「良いよ。精々公正に裁かさせて貰うさ」
 
最後の使者、渚カヲル。裁く為に生まれた者。
真の出番には程遠いものの、裁断そのものは嫌いではない。
 
 
 
「ああそうだ‥」
 
人型の使徒、渚カヲルは用件を済ませ立ち去ろうとする正規パイロットをひき止めた。
 
「君の御爺様に伝えておいてくれないかな。危ないからね」
 
「何をですの?」
 
「渚カヲルは『レーヴァティン』の存在を知っている ってことをさ」
 
「『レーヴァティン』? 北欧神話に出てくる、破壊の魔剣のことですか?」
 
「言えば通じるよ‥ 知りたければ教えて貰えばいい。『御爺様』にね」
 
 
 
               ・・・・・
 
 
 
 
望まれた命‥ 造られし子供は箱庭で遊び
 
望まれた滅び‥ 終末の魔剣は冥府で磨かれる
 
 
 
 
多なるものも寡なるものも、全ての命は望まれて生れる。
 
全ての命は、望まれて其処に在る。
 
 
望まれたからこそ 今此処に生きているのだ。
 
 
 
 
 
 
続く
 

 
あとがき のようなもの
 
 
PK別伝『JA編・その一』をお届けいたします。
なお今回の話は全て7月29日の出来事です。‥つくづく話進んでませんね。
 
‥‥え〜名前が恥ずかしいと一部で評判の『シンちゃん親衛隊』ですが、今回から登場のヒナとサキを加えまして、計五名で動く予定であります。
五人だけでは親衛隊として機能しませんので、彼女(じゃないのもいるけど)達以外にも親衛隊メンバーは存在しますが、劇中での出番はありません。
 
登場人物増えすぎまして描写しづらくなってきましたので、物語上『絶対に必要』でないと判断した数人のキャラクターに降りてもらうことになりました。
残った面子が本当に物語において必要か否かは、第一部が終わる頃には判明しているものと思われます。
 
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
 
この物語を書くにあたり USO氏 きのとはじめ氏 T.C様 【ラグナロック】様 1トン様 難でも家様 戦艦大和様 の皆様にご支援ご協力を頂きました。感謝いたします。

読んだ後は是非感想を!! 貴方の一言が作者を育て、また奮起させます

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